さよなら私のクラマー

女子サッカーの過去と未来と今を考える #完結応援

さよなら私のクラマー 新川直司
ANAGUMA
ANAGUMA

東京オリンピックが開幕しました。このクチコミを書いている時点で女子サッカー日本代表「なでしこジャパン」は予選リーグ1分1敗、今夜実施のチリ戦の結果如何でリーグ突破・敗退が決まるという状況です。 『さよなら私のクラマー』の話をする前に少しなでしこジャパンの話をしたいと思います。 2011年にワールドカップを制して以降、翌年のロンドン五輪では銀メダル、2014年はアジアカップ優勝、2015年のワールドカップも準優勝(決勝は大敗でしたが…)と結果を残してきたなでしこ。 ところが2016年リオ五輪の出場権を失うと、2019年ワールドカップではベスト16で敗退(3大会ぶり)と大舞台での近年の成績は10年前を思うと物足りないと言わざるを得ません。男子サッカーの好調とは対照に直近の試合内容についてもかなり批判を浴びています。 『さよなら私のクラマー』は「私達が負けてしまったら 日本女子サッカーが終わってしまう」という能見選手のことばから始まります。 女子サッカーは男子サッカーに比べてまだまだマイナースポーツで、代表の強さがダイレクトに注目度に繋がり、ひいては競技そのものの継続に直結するということが『クラマー』では取り上げられていました。 勝たなければいけない。勝ち続けられる選手にならなければいけない。日本の女子サッカーの未来を背負える選手にならなければいけない。 これが『クラマー』で提示されたひとつのシビアな、そして乗り越えるべきテーマでした。 現実のなでしこジャパンは、10年前の輝きが過去になりつつある状況で今日の予選リーグ最終戦を迎えているわけです。 もしここで敗退となれば、なでしこジャパン、そして今後の女子サッカーを左右するひとつの分水嶺になるのでないか。能見選手のことばが強く心に残っている自分としては、そんな緊張感さえ覚えています。 『クラマー』はまさに女子サッカーのブームの激流の只中にあった作品だと思います。過去の栄光と決して明るくない未来を現実的に見据えながら、本作は爽やかに幕切れをします。いつもどおりの試合の中で。 どれだけ過去に囚われようと、どれだけ未来を憂いても結局は一試合一試合をやっていくしかなくて、それがそのまま女子サッカーの未来になる…というメッセージ。 オリンピックで苦境に立つなでしこを見て、本作を思い、さまざまなことを考えていました。どんな結果であれ女子サッカーの未来が輝いていることを願うばかりです。 長々と書いてしまいましたが今心から何が言いたいかと言うと「勝ってくれなでしこ!!!」ということです。本当頼む!!!

シャトル・プリンセス

美しすぎる日本代表の、重責と苦闘。

シャトル・プリンセス 咲香里
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

【世界と戦うアスリート漫画③〜スポーツコラム風に】 2020年3月17日現在、バドミントン女子ダブルスの世界ランキング十傑には、日本ペアが三組入っている。永く日本のトップであった福島×廣田組を、永原×松本組が猛追。そして2016リオ五輪金の髙橋×松友組は、2020東京五輪代表の二枠から遠ざかりつつある。 (2021.7.29追記あり) 新勢力の後塵を拝している髙橋×松友組も、かつては2012ロンドン五輪銀の藤井×垣岩組を乗り越えてきた。 世界レベルの国内選手と争い、乗り越える事で進化してきた、日本バドの女子ダブルス。その源流には、小椋×潮田組という伝説がいた。ルックスと実力を兼ね備えた二人には、余りにも過剰な期待と注目が集まったものだった。 ★★★★★ 『シャトル・プリンセス』の主人公は、日本トップクラスの女子バドミントン選手達。 インターハイを制して高校を卒業した有沢は、勝ち続ける事の重圧からバドミントン自体を辞めたいと考えるが、気迫で圧倒してくる西条に惹かれ、西条とのダブルスを申し入れる。 二人はすぐに頭角を現し、日本の頂点を獲ると世界への挑戦を始める。 界隈からの期待とやっかみ、ビジュアル面での過剰な人気、それに反して結果を残せないことへの批判、そして世界の壁。……2013年発表のこの作品は、恐らく2008年迄に小椋×潮田組が通ってきたと思われる苦闘の歴史をなぞる。 その上で、勝気で正直な西条がストレートに状況への違和感を表明するのを、若いのに落ち着いた有沢が冷静に受け止める、というやり取りで、過剰な重圧を二人で乗り越える過程が描かれ、この二人なら……という期待感が高まる。 長年『スマッシュ!』で高校生のバドミントン競技を描いてこられた咲香里先生が、この世界を見てこられた知見が詰まっているのだろう。観戦者の私が感じていた「オグシオ・フィーバー」への違和感も、当事者達の「それでも競技が注目されたい」という願いも、選手達の複雑な思いも……様々な思惑の絡んだ「女子ダブルス」が描かれていて、これは相当な問題作となるかも、と期待しながら次巻を待っていた。 ……残念ながら1巻で(中途半端な状態で)打ち切りのようだが、今後も各競技で現れるだろう「美しすぎる○○選手」を考え、日本代表の重責に思いを馳せるために、続刊は無いことを念頭に置いて、読んでみてもいいかもしれない。

かけおちガール

書籍化に感謝したい名作

かけおちガール ばったん
兎来栄寿
兎来栄寿

『姉の友人』で一躍名を馳せたばったんさんの名作『かけおちガール』が、この度めでたく紙の書籍として発売されました。元々は電子雑誌となった『ハツキス』に掲載されていた作品で電子でしか読めなかったのですが、この機会に紙派の方にも読んでみて欲しい逸品です。 この作品に留まりませんが、ばったんさんの作品に登場するキャラクターは現実の人生で出会う人々のようなリアルさ・肉感があり、その営みに胸を刺されます。 本作では女子校時代に付き合っていたももとみどりを主軸に物語が描かれるのですが、自分の想いをあっさりと無碍にしたみどりに対する愛憎、そしてももからは見えなかったみどりが秘める真実など、現実に起こり得る当事者にしか解らない感情の発露や蓄積が極めて巧みに描かれます。 他者から見ると苛立つほど幸せに見えても、実は誰よりも暗い孤独の澱に沈んでいた……そんなことはままあるのが世界の現実です。 女性と女性という関係性といえばそうですし、女性が描く女性ならではのセンシティブなシーンも描かれるのですが、それ以上に人間と人間による深遠で切実なドラマには男女問わず没入してしまうことでしょう。 結局、絶望をもたらすのも希望を与えてくれるのも、人間なんですよね。嗚呼。

空のキャンバス

昭和の懐かしき大味ドラマとギャグが最高 #完結応援

空のキャンバス 今泉伸二
名無し

たんこぶが積み重なったり倒れてきた電灯がキャラの形に凹むようなギャグ世界線で繰り広げられる愛と命を掛けた体操スポーツ漫画。1巻の1ページに昭和が凝縮されすぎてて好きです。 1〜3巻は昨今めっきりお目にかかれないラッキースケベのバーゲンセール。ヒロインの榛名ちゃんがタフで容赦なく太一を殴ってくれるからきっちりギャグになってて嫌な気持ちにならず読める。 とにかく女の子が可愛いくてすごい。 榛名ちゃん、沙織ちゃん、マドンナ麗華さん、エレナ、会長夫人……登場する女の子が全員タイプが違う美人で最高。 体操に詳しくないので作中の技がどれだけ古く難度の低いものになっているのか読みながら気になった。 後半ラブコメギャグ体操漫画がシリアスになってくる過程が面白い。 太一自身が生きてるのが不思議なレベルの怪我人で命を削ってまで真剣に体操に打ち込んでるのに、元はラブコメギャグ世界の住人だから榛名ちゃんに殴られてるのが草 大怪我から復帰した人間にさらに怪我をさせる(歩道橋から落下・ワイヤー衝突)。リハビリ仲間が体操の会場で死ぬ。医者は騒ぐだけでほとんど役に立たない。記憶喪失。いつの間にかフェードアウトするキャラの多さ。 五十嵐はともかく最初いたケンシロウはどこいったんだよマジ。 このライブ感という名の大味さがやはり最高です。 赤いウィンナーはいいものだ……。 太一の死を曖昧に描く最後のお陰でこの漫画は名作になったんじゃないかなと思う。

武士スタント逢坂くん!

夢絶たれた春画絵師が現代で漫画アシに…!!

武士スタント逢坂くん! ヨコヤマノブオ
名無し

最高の新連載がスピリッツで始まってしまった…!! カラー表紙のケバケバしい色使いが格好いい!絵がめちゃくちゃ上手い!!絵柄や線の味が江戸を描くのに合ってるし、描き込みに迫力がある。そして作中の絵も絵図や春画も、すごく見応えがあって面白い…! https://res.cloudinary.com/hstqcxa7w/image/fetch/c_fit,dpr_2.0,f_auto,fl_lossy,h_365,q_80,w_255/https://manba-storage-production.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/uploads/board/thumbnail/112360/5f9844fe-c214-4917-aa52-b491ddab1065.png 主人公の逢坂は江戸の春画絵師。幼い頃に見た「龍と女人」の絵に衝撃を受け、それを超える作品を描きたいと思っているが、なぜか春画(しかも似たような作品)しか描けなくなってしまう。ともかく今の自分にできることを頑張ろうと制作に励むが、お上にバレて死罪となってしまう。まさに首が刎ねられようとしたその時、逢坂の体は現代の漫画家の作業場に居て…というあらすじ。 逢坂がタイムスリップすることでシリアスな笑いになってるのが最高。そもそも江戸時代の逢坂のモノローグがシグルイっぽくてめちゃくちゃ好きwww これから逢坂がどんなふうに現代で活躍するのか楽しみ…!! 【週刊ビッグコミックスピリッツ公式】 https://bigcomicbros.net/comic/bushistunt_aisakakun/

PS-羅生門-

癖しかないはみ出し警察官たちのクライムドラマ

PS-羅生門- 矢島正雄 中山昌亮
名無し

「2年間くらい一緒に昼食ってた同僚の嫁の話が面白くて好きだったんだけど、嫁も彼女もいないって他の人から聞いて仕事が手につかない」というまとめを読んでたら、その中に「PS-羅生門-みたいだな」というコメントがあって気になって1巻を読んでみた。 https://togetter.com/li/1748063 とにかく絵がメチャクチャうまい!!キャラデザもコマ割りも演出もすごく良くてアニメ映画を観てるみたいな格好良さがあって、現代が舞台のはずなのになぜか近未来感がする。 羅生門と呼ばれる署は、警察官としてどころか一般人として社会不適合な人間ばかりで構成されている。 借金がやめられない男、死んだ息子の死に苦しみ続けている男……。 普通だったら集団から排除されてしまうような人間たちが、受容されているところが本当に懐深くて好き。 ハッキリ言って長所と短所を比べると遥かに短所(とそれによって周囲にかける迷惑)は大きいんだけど、それをみんなが全く気にせず飲み込んでいるところがいい。 こういうそれぞれが好き勝手に生きて、それを互いに受け入れあってるのを見るのは気持ちがいいですね。 1話ごとにそれぞれの事件が解決するショートショートスタイルなのも読んでて楽しい。 読んでよかった。なんで今までこの作品のこと知らなかったんだろう。