リアル感とドリーミイ感を共存させている格闘漫画

最強の男は誰か、最強の格闘技は何か、を追求するなら 個々人の資質やセンスや体格や体力や修練度を 最高レベルで均一化したうえで、 打・投・極の全てをいかんなく発揮できるルールを作り、 身分や立場や金銭的なメリットデメリットなどのしがらみを 無くして平均化して、 多数が同時に心身ともにベストコンディションで 戦える場に選手一同を終結さけなければならない。 そんなことは現実には不可能だ。 だからこそ古今東西、漫画・小説・TV・映画という 夢を現実化できる世界で、数え切れないほどに テーマにされて作品化されている。 だがそれでいて、いまだに これが最高、これが究極、これこそがリアルだと 万人を納得させる作品は出現していない。 リアルとドリーミイのバランス取りが難しすぎるのだろう。 ある意味で作品化、描写が不可能レベルな難題で 「最強論漫画」は永遠の夢なのかもしれない。 その最強論漫画への挑戦・証明のための手法として、 リアリティとドリーミイをいい感じにミックスして 凄くいい感じに魅せてくれているのが 原作・夢枕獏、作画・板垣恵介の「餓狼伝」だと思う。 矛盾した言い方になるがリアリティとドリーミイが それぞれに充分に共存した漫画になっている。 空手・柔術・プロレス・ボクシングなどの 各種格闘技の(前記した条件を満たした)精鋭が 一同に会して闘うという 「現実にはありえんだろ」という世界を 小説(原作)や漫画だからドリーミイをある程度まで 魅せてくれている作品は他にも少なからずある。 「餓狼伝」もそういった、漫画だからこそ成立している ドリーミイな面はあるし、その面での描き方も凄く面白いのだが、 それだけではない板垣先生ならではの上手い描き方が 「餓狼伝」では、なされていると思う。 添付画像は第三巻からの抜粋だが、 夜の公園で闘っている二人の攻防のポイントを 的確に判りやすくコマ割りして絵にしている。 そしてそれだけでなく、 「電灯が揺れる」 シーンを間に挿入している。 たった一つのコマではあるが、 普通に格闘場面を描き、そこにリアリティを強調しようと だけ考えたら、なかなか揺れる電灯のコマなんて この流れの中に挿入出来ない、描かない。 だがこの一見、たいした意味のなさそうな一コマで 単純に技に入り決める動作を連続写真的に 絵にするだけの漫画よりも、 投げ、電灯、絶息、手のクラッチという流れにすることで リアルとドリーミイが判りやすく漫画として成立している。 こんな感じの、ただリアルを追求するだけの 絵やコマ割りだけではない、漫画手法としての ドリーミイがあちこちに描かれている。 それはもともとの夢枕獏先生の原作にそれだけの 要素が詰まっていたのだろうけれど それをまた板垣先生が上手く漫画化したんだな、 と感じている。

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