弱虫ペダル

仮説:精神特化型スポーツ漫画

弱虫ペダル
名無し
名無し

個人的仮説として、この世のスポーツ漫画は大きく4つに分類できるとする。 ①ビジュつよつよ型 ②必殺技「なにィッ!」型 ③精神性特化型 ④設定展開運転型 仮に例をあげると、①:『スラムダンク』『黒子のバスケ』②:『キャプテン翼』『テニスの王子様』④:『ブルーロック』で、弱虫ペダルは③にあたると考えています。(※異論他論認めます。個人的な見解です) ほかの分類は他で述べるとして、何をもって〈精神性特化型〉と言うかですが、基本的に弱虫ペダルの根幹はキャラクターの『気持ち』が非常に重要な鍵となっていると感じます。 日本であまり馴染みがなかったこのサイクルロードレースという分野をここまで認知度をあげ、経済的にも大きく影響を与え、ロードバイクの売上に寄与できたのか。何故ガチ沼した当時、私に20万以上もするデローザのロードバイクを買わせしめたのか。 全てはレース中の精神性、個々のキャラクターの精神状態、心理描写の熱さ、個々の気合、何を持って〈勝ちたい〉のか。それぞれの強い想いの描写が作品パワーを感じさせる重要な一因となっていると感じます。弱虫ペダルファンに聞くと面白いのが、他の漫画よりも最初にビジュ的に好きかも?と思ったキャラから、読んでからガチハマりするキャラが違うこと。 だいたい誰か、何かシンパシーを感じるキャラがいて、入り口とは違う沼に浸ることになることが多いです。 自転車漫画でありながら、レースの終盤や盛り上がり場面はテクニックとかよりも〈どれだけ勝ちたいと、どんな気持ちで思っていて、どういう精神状態で今臨んでいるか〉がかなり強く出ている印象で、やーもうやっぱり最後は気持ちですよ!!という気がします。スポーツ漫画というより気持ち漫画というか、精神漫画というか。 なので、スポーツ漫画や自転車に興味がなくても、人間で心を持っている方にはおすすめできる漫画だと思います。どのキャラが好きになるかでその人のなんとなく性格とか大事なものがわかる気がしますね。それがこの漫画の真骨頂であり、これだけ幅広い層に受け入れられた理由ではないでしょうか。 ちなみに私は手嶋純太の「フトン最高」が大好きですし、御堂筋くんを敬愛して止みません。結晶や。 ペダルの熱さにあてられて長くなりましたが、心を持っている方、熱くしたい方、わたしってこころあったかしら?とこの頃忘れてしまった方にもおすすめです。ぜひ心のありかを確認してください。

アキハバラ無法街

時流に乗って?電子書籍化されたメイドGUNアクションinアキバ

アキハバラ無法街
完兀
完兀

「アキバ冥途戦争」なるアニメが話題になっていたとき、頭の片隅に引っ掛かる漫画の存在があった。 アキバを舞台にしてメイドが銃を手に取り抗争を繰り広げるお話? うーん… あ!「アキハバラ無法街 GUN MAID」だ! そう、最強の軍用サイボーグ女装ショタメイドと詰め込んだ設定の主人公がコギャルや等身大フィギュア等を相手に旧アキバを守る抗争で活躍するあの漫画だ。どんな漫画だ。 いやまあ、どんな漫画だと言っても本当にそんな漫画で、補足が要るとしたら各話の新キャラがだいたい死んで、新キャラ増加とともにどたばたが増す王道パターンを行かなかった、逆に硬派なキャラ退場で魅せることを選択した短い漫画(全4話)ということだ。あとは主人公のパンチラであれがついてるとわかるように毎回描いていてくれていることぐらいか。 新キャラを増やしていかなかったのが惜しく感じるが、まあそこは私と作者の好みの違いなんだろう。仕方がない。     なお、電子書籍化はつい最近されたようで、そのことについて ”今話題の「アキバ冥途戦争」人気に便乗して『アキハバラ無法街』まさかの電子書籍化!メイドGUNアクションの怪作ここに復活!" と作者がツイートしている。 例のアニメも終わって年を越してちょっと遅れてしまった感があるが、それでもいい機会であることには変わりない。 最強の軍用サイボーグ女装ショタメイド主人公がコギャルや等身大フィギュア等を相手に旧アキバを守る抗争で活躍する漫画に興味がある方は、手に取ってみてはどうだろうか。

天

福本先生の魅力と成長が詰まった代表作

完兀
完兀

「初期の作品にはその人の要素が全て詰め込まれている」なんて話を聞いたことがある。 反例がいくらでも出てくる主張だが、比較的合致する例だってある。福本先生の場合、この「天」が合致するだろう。 人情話、ピカレスクロマン、極限勝負下の心理描写、緻密な勝負を構成する理による駆け引き、勝負を制する理の守破離、そして福本先生による人生哲学… 面白いと評される福本先生の要素が、ほぼ全て詰め込まれていると思われる。欠けているのは敗者の悲惨な末路描写と格闘描写ぐらいだろうか(ただしバイオレンスシーンなら天にもある)。 成長も詰め込まれている。絵の成長、演出の成長、話の構成の成長も魅力的なキャラ描写の成長も全てある。初期~中期の福本先生と共にあった漫画なんだからそれは当然なわけだが… そういった点で、天を軸に他の同時期作品と並読するのも面白い。 ただし、葬式編からは並読はできない。読んでいて涙がぼろぼろ出てしまうあの最終章に、横槍は禁物だ。       この漫画には、私がどうしても取り上げたくなる一節がある。 あまり顧みられることのない、ともすればあまり触れないでおこうみたいな風潮もみられる最初期赤木の、印象的なセリフだ。 私はそれを、作者による自己言及も含んだ創作論だと勝手に思い込んでいる。 というわけで、独断と偏見に基づいて私的解釈によるセリフ改変を傲慢にも以下に記す。     『お前この世で一番うまいもの何だか知ってるか? たとえば漫画だ…世の中には頓狂な奴がいてよ こんなラチのあかねえ娯楽に… 自分の分こえた代価 人生さえ賭けちまう奴もいるのさ…… まあそんな奴だから… 頭は悪いんだけど…… 描きたい気持ちはスゲェーもんだ… 後のない…勝負処での大事な一作に バカはバカなりに必死さ… 持てる全知全能をかけて描き上げる 決断して そして躊躇して それでもやっぱりこれしかない……て そりゃもうほとんど 自分の魂を切るように描く漫画があるんだよ その魂の乗った漫画 そういう漫画を読むこと…… それはまるで人の心を喰らうようだ… この世じゃ人の心が一番うまいんだ……』

きみだけがほんとう

女性恐怖症の主人公と幼馴染の双子(♀&♂)による倒錯的ラブコメ #1巻応援

きみだけがほんとう
完兀
完兀

表紙の子、かわいいですよね。最高ですよね。 表紙の子、天使っぽいですよね。最高ですよね。 表紙の子と瓜二つの容姿を持つ双子がいるラブコメです。最高ですよね。 まあその双子は男女の双子なんですが。 主人公・力丸と双子の姉・かがみは付き合ってます。 ピュアな幼馴染同士のプラトニックラブ。応援したいですよね。 しかし力丸は女性恐怖症のトラウマ持ちで、苦しんでます。 距離を縮められないプラトニックラブ。応援したいですよね。 力丸もかがみも、自身の抱える弱みに勝てず、苦しんでます。 人間的に脆くて未熟な二人です。健気な二人です。応援したいですよね。 そんな関係の中、双子の弟・きょうが動き始めます。 主人公に協力してくれる幼馴染の男友達、最高ですよね。 主人公の悩みを聞いてくれる幼馴染の男友達、最高ですよね。 傷心の主人公を受け止めて背中を押してくれる幼馴染の男友達、最高ですよね。 幼馴染の友達ポジから恋人以上の積極性で迫ってくる美少年、最高ですよね。 姉と同じ容姿もこれまでの境遇も利用して迫ってくる美少年、最高ですよね。 人の弱みに優しく漬け込んでくる魔性の美少年、最高ですよね。 絶望の淵にいる主人公を翻弄し、さらなる深みへ堕ちるよう誘惑してくる魔性の美少年、最高ですよね。     脳の性的嗜好領域を破壊してくる禁断の三角関係双子ラブコメ。おすすめです。

手天童子

漫画家に何かが憑りついて描かれた漫画と言えばこれ

手天童子
完兀
完兀

作者に何かが憑りついて生まれる作品、あるいは見えない力に突き動かされて生まれる作品は名作率が高いと思われる。 どの創作物がこのことに当てはまりそうかは各人が知っているものに思いを馳せてくれればいいが、永井豪作品なら、いや漫画ならこの手天童子がその代表だ。 永井先生は本作制作にあたって「鬼が赤ん坊をくわえている映像が見えて、導かれるように描いた」と巻末解説やインタビューで語っている。また鬼の首取材をきっかけに執筆中は「鬼に祟られていた」とも語り、数々の怪現象と悪夢に苦しめられた結果、おはらいを受けることで最後まで描き切れたと振り返っている。 こんな背景を基にして描かれた作品、締まらない終わり方じゃ一生祟られるんじゃないかと不安になるが、そこはご安心。まさに導かれたかのような綺麗なハッピーエンドを迎える。涙涙で描いたというあの最終回をもってお祓いは完了したといえるだろう。     本作は夫婦の前に突如として現れた、恐ろしい鬼同士の取っ組み合いの争いから始まり、鬼の口の中の赤子の存在に気付いた妻・京子の、鬼にも臆さない愛ゆえの行動から物語が動きだす。 ストーリーは第一話で鬼から語られた「15年後に迎えに来る」という約束が果たされるまでの前半、果たされてからの後半に分けて考えられる。 そう、前半の終わりこそが、物語の始まりから続いてきた、子を思う母の愛が鬼によって引き裂かれる悲劇の場面なのだ。この辺を描いてるとき、永井先生は無茶苦茶苦しめられたに違いない。もしここで読むのをやめれば、読者だって悪夢にうなされかねない。 前半はサスペンス・バイオレンスホラー漫画に分類できそうだが、後半では一気にSFスペクタクルにスケールが広がる。主人公は自身の出自の謎を追いながら宇宙と時空を駆け巡るのだが、子と妻を思って孤軍奮闘する父・竜一郎パートが都度挿入され、やがて家族愛で結ばれるべく物語はクライマックスへ収束していく。 あの父がこれまたかっこいいのだ。彼の「鬼とは…」と語って狂気じみた行動に出るシーンに私は痺れた。     本作は鬼の伝承について取り上げ、またその伝説を巧みにストーリーに組み込んでいるのも魅力の一つだが、展開的に取り上げられても不思議ではなかった、ある有名な鬼がいる。しかしその鬼は作中で触れられることはない。 その鬼について触れれば、「鬼とは…」で語られる本筋からやや外れたところに焦点が合うことになりかねないから、あえて避けられたのだろう。それがまた、本作を引き締まったものにしてくれている。

少女入門

局所的鬼才が5年の時を経て再始動させる女体化○○漫画!!!!!!

少女入門
完兀
完兀

あの鬼才・堀出井靖水があっためにあっため続けた題材を引っ提げて帰ってきた!   彼については某成人向け雑誌デビューのときから注目していた。特に2作目のインパクトは強烈だった。あの1作目からどんだけ成長したんだと度肝を抜かされた。成人向けの要素の成長もさることながら、キャラが生き生きとしていて掛け合いも冴えていた。これは"くる"と直感した。そして彼はすぐに某成人向け雑誌の漫画賞を取った。そこに掲載された編集長コメントで再び読者の度肝を抜き、期待と笑いをかっさらった。 その後彼はここで述べるのも憚られるような(というかどこであろうと憚られるような)、ひどく人を選ぶ傑作成人向け単行本を1巻だけ世に残し、FANBOXの闇に消えた。 彼は某成人向け雑誌での成長と共にtwitter漫画芸人化していた気がするが、その活動も沈静化していったと思う。というかtwitter垢がいつの間にか消えていた。彼がUPするtwitter漫画も大好きだっただけに、とても寂しかった。 話が前後するかもしれないが、どうやら彼は一般誌へ行ったようだった。『ブラックバウンズ』という作品を出したと知るが、1話を読んで作風どうしちまったんだと非常に困惑した。結局、私は『ブラックバウンズ』を読まなかった。それがよかったかはわからないが、とりあえず私の中の堀出井靖水の思い出を壊さないことには成功した。   そして今、彼は舞い戻ってきた。それもtwitter・pixivに上げてた漫画の中で、かなり人気の高かった本作と共に帰ってきた。ついでにtwitter垢も復活していた。 続きを望まれ続けて実に5年が経過していたが、ついに描かれる時が来たということだろう。ちなみに、これまで続きを描かなかったことについて彼は「インターネット小ネタ漫画じゃなくてちゃんと物語として描きたかったから」だとpixivで表明している。そんなこと言われては、読むこちらも気合が入るというものだ(なお、本作は肩の力を抜いて読むのが適切だと思います。多分。少なくとも、プロトタイプ版はそうでした)。 1話目を読んだ感触は、かなり丁寧にブラッシュアップされてるなぁとニヨニヨする、そんな感じ。とにもかくにも、今後に期待だ。 最後に、彼のtwitter上での叫びを無断でここにコピペしてこのクチコミを締めようと思う。     王道ラブコメのつもりで描いてるって担当編集に言ったら「認知が歪んでますね」って返されたけどっ……それでも余は……余はちゃんと王道ラブコメ描けたと思うからッ…………!!! これが余が考えた最キャワラブコメじゃからッ………!!!!! 絶対読め!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

総員玉砕せよ!! 他 【水木しげる漫画大全集】

これほど濃厚な味のする、淡々と進行する漫画はない

総員玉砕せよ!! 他 【水木しげる漫画大全集】
完兀
完兀

『総員玉砕せよ!』は巨匠・水木しげる先生が自身の戦争体験を基に描き切った長編戦記漫画だ(※新装完全版を読んでのクチコミです)。 等身大の兵隊さんたちの日常が淡々と描かれる前半から、その淡々さはあまり変わらないまま物語のトルクは増していき、やがて感動的というにはあまりにも悲しく、あまりにも空しい結末を迎えて話は終わる。私はこれを読み返す度に泣いてしまう。 巻末の筆者あとがきで「九十パーセントは事実です」と物語の最後を脚色したことが語られ、寄せられた解説ではそのことについて「(ラストのフィクション化によって)”事実を超える真実”を描くことに成功した」と評される。 とても同意できるのだが、私としてはあのラストは水木先生にこみ上げてくる”わけのわからない怒り”を最も強く紙にぶつける挑戦であり、戦死者の霊たちがさせた仕業ではないかと思う。そしてそのラストが”わけのわからない怒り”をどれだけ昇華させることに成功したかはわからない。確かなことは、強烈な読後感を読者に与えてくれるということだ。     ラストも印象的だったが、天国のようなところだと作中で触れられる舞台の美しい背景、とりわけ数度あらわれる鳥と花、及び天から射す光が印象的だ。 どれも日本人の想像する天国と結び付けられる存在なのだが、そういった観点で、鳥は物語から姿を消すタイミングが、花は背景に現れるタイミングが、天から射す光はコマとして使われるタイミングがなんとも思わせられる。特に花は、水木先生が大胆に意図して配したフィクションではないかと考える。泣けてくる。         それからこの作品と一緒に、ズンゲン支隊に関するNHKの戦争証言アーカイブの視聴も薦めたい。 水木先生の生証言は当然だが、堀亀二さんの証言なんかも必聴ものだろう。印象深いキャラクターである中隊長の下で戦争を過ごしたズンゲン支隊の生存者だ(1965年にズンゲン支隊の本を出版されてもいる。水木先生も資料としてあたったかもしれないが、この本は簡単には手に入らなさそうだ)。 最後に、些末な不満点が一つある。新装完全版『総員玉砕せよ!』はなぜ文庫サイズで発売されてしまったのか。同時期に出た『漫画で知る「戦争と日本」』と同様のA5サイズだったらどれほどうれしかったことか…

沈黙の艦隊

無っ茶苦茶面白い超名作。故に要注意。

沈黙の艦隊
完兀
完兀

漫画家・かわぐちかいじの名声を高めた代表作であり、今読んでも無茶苦茶面白くて熱い名作である。 まだ読んでない人は、すぐ読んだ方がいい。このレビューを読み終わる前に読破する方がいい。海面下の武骨な”てつのくじら”とそれを取り巻く人々が織りなす、全地球スケールに広がる風呂敷のファンタスティックな面白さに痺れること間違いなしだ。 そして、だからこそ、この漫画は要注意なのだ。 この漫画はファンタスティックを通り越すぶっ飛んだファンタジー作品であり、「いやいやそれはおかしい」と逐一ツッコむぐらいの冷静さが最終的には必要な、あぶない漫画である。 これは戦闘描写に限った話ではなく、軍人描写・政治描写でも同様の話だ。 というか、素人目にもわかりやすい戦闘描写の範囲だけでこの漫画のファンタジー成分を看破した気になりかねない点が余計にあぶない。このことに関しては、交渉を優位に進めるための心理的トリックに通じるものを感じる。あるいは(いい譬えではないが)巧妙なプロパガンダと似ている。 要するに、面白さに痺れたまま、作品に感化されたまま、染まり切ったままは危険だということだ。 本作はその面白さと現実世界に即した設定故に、なぜ現実はこの作品のようになれないのかと憤って、現実から離れたところに行ってしまって戻ってこれなくなってしまう恐れがある。これは最高の読書体験でもあるが、現実に生きる私たちはいつまでもそのままではいられないだろう。デビルマンを読んで「地獄へ落ちろ人間ども!」に共感しっぱなしでいてはいられないのと大差ない。 なお、私は本作を読んでしばらくはかなり感化されていた。最高の読書体験の一つであった。こんな気持ちいい体験、味わえるなら味わった方がいいに決まっている。 故に、本作が提供してくれるかもしれない最高の読書体験に水を差すようなものは、あらかじめ見ないよう注意(※読者の冷静さを取り戻す激うまギャグ)するのがよいだろう。 こんな長文駄文レビューを読む前に、最も面白く読めるうちに面白い漫画は面白く読むべきなのだ。

エロイーズ 本当のワタシを探して

物語の始まりのシーンが好き

エロイーズ 本当のワタシを探して
ANAGUMA
ANAGUMA

本作、ベンチに座っていたエロイーズがふと記憶喪失になっていたことに気付くシーンから始まるのですが、その自然さがなんだか巧みで、ピンク色のカラートーンとともに強く印象に残っています。 メインとなるストーリーラインはサブタイトルにもある「本当のワタシ」探し。 少ない手がかりを元に記憶を失う前の自分がどんな人間だったのかを調べていく…と書くと壮大なミステリーやサスペンスのようでもありますが、そうそう大変なことが起こるわけでもないのが人生というものかもしれません。 どこにでも居る女性だった(と思われる)エロイーズ・パンソンの身の回りも、世の人のご多分に漏れずありふれた出来事ばかりだったようで、一生懸命過去の自分の身辺調査を行うほどに些細でちっぽけなことばかりが判明していきます。そのようすは親近感やおかしみと同時に、どこか空虚さというか、切なさも感じさせたり…。 「記憶を失う前の自分ってどんな人間だった?」というのを入り口に「そもそも根本的に自分ってどんな人間なんだろう?」という二重の意味で「本当のワタシ」を探すことになるのが妙味です。 そんな深いテーマもありつつ、バンドデシネとしてはかなり読みやすい部類に入ると思います。エロイーズのちょっとした仕草がどれもかわいかったり、普段縁遠いフランスでの「フツーの」暮らしが垣間見えるだけでも面白いので、読む機会があれば気軽に手に取ってみてほしい一作です。