この作品のストーリー展開は基本的に予想通り進んでいく
読んでいて思わず「ホントにこうなるのかよw」と
ツッコんでしまったほどだ。

例を挙げると、
「休日にお出かけしてたら、気になる男の子の相原くんが
知らない綺麗な女の人と歩いてる!」
「ショック〜!でも、怖がらずに彼女のこと相原くんに聞いてみよう!
もしかしたら私の勘違いかもしれないし!」
「相原くん、昨日一緒に歩いてた女の人って…」
「え??あ〜!なんだお姉ちゃんだったんだ〜!」
「な〜んだよかった!一安心!」
「ん?でもお姉ちゃんって言っても義理って言ってたような…」
「まさか!そんなわけないよね〜」チラッ
「いや、コイツッ!お姉ちゃんのことを話す時だけ
見たことないくらい優しい顔をしてやがるッ!
絶対異性として見てるじゃねぇか!」とこんな感じで

かなりキツめの意訳をしてしまったが
概ねこんな半世紀近く擦り倒されてきた展開を
この漫画は真正面から全力でやっている

ただ、王道というのは長い年月を得ても変わらずに面白い普遍性が
あるから王道と呼ばれるのであって、取り扱い方さえ工夫すれば
現代でも切実感のあるリアルな物語として描くことができる。

この作品はその「取り扱い」が非常に美味かった。
決して先に僕が書いたような80年代的なバグったテンションでは
描いておらず、むしろ正反対な柔らかく、澄んだ空気感で描かれている

セリフを最小限に抑えつつ、
絵でキャラクターの感情のわずかな機微を描いていおり、
読んでいると本当に予想通りのことしか起きないにも関わらず、
どんどんキャラクターの内面に引き込まれていってしまうのだ。

この引き込み方が他の漫画と比べてちょっと度を越していて
本当にセリフが全くないまま感情や状況の変化が起こるので
読んでいると、紙面全体からキャラクターたちの声のない切実な訴えが
表情や演出から聞こえてくるのだ。

もちろん、そのために使われる演出は瞬時にわかるような平易なものが多いが
作者特有の絵柄やコマ割りも含めた作品全体の雰囲気づくりのお陰で
チープなものという印象は受けず、むしろ逆にリッチなものにすら感じる

このあまりにも尖った作劇法でも読者を置いてきぼりにしないために
あえてストーリー展開は擦り倒されたものにしているのだろう。
ただ、このストーリー展開でここまで読者をのめり込ませるというのは
本当にすごいことだと思う。
磨き上げられた独自の画風と漫画的なセンスの賜物だ。

過去の読み切りを見ると叙述トリックを使ったどんでん返し(少女と毒蜘蛛)や
読者の解釈に委ねるようなラスト(さみしがりやな僕ら)なども書いていたので
この作風のまま作者独自のストーリー展開を見せる漫画も見てみたい

読みたい
バオー来訪者

荒木飛呂彦 格闘の歴史②

バオー来訪者
TKD@マンガの虫
TKD@マンガの虫

『ジョジョ』の荒木飛呂彦先生の連載2作目の今作 イタリア旅行で肉体美にこだわった ルネサンス美術に出会い、 そしてリドリー・スコット監督の 『エイリアン』を見て究極生物という 概念に気づき作り上げられた作品です! バオーという寄生虫みたいな生物に寄生され超人的な生物に変身できるようになった育郎を主人公に小さな女の子を助けるために戦う超王道ストーリーです! 『エイリアン』のイメージを少年漫画的な フォーマットに昇華させた見事な作品です。 当時B級と呼ばれながらも画期的なアイデアが詰まったホラー映画のエッセンスを 少年漫画の中に持ち込むという 革新的な荒木流創作術が開花した 荒木先生の歴史の中、そしてマンガの歴史の中でも大きな転換点となる作品だと思います ので、荒木ファンだけでなく全マンガファン必見の作品ではないでしょうか? 主人公の育郎が戦闘中は喋れないので、 代わりにナレーションが心情などを説明してしまうので感情移入がしにくいという問題点があるからか、打ち切りとなってしまった 作品ですが、この打ち切りは後の『ジョジョ』での大爆発に繋がるので、 意義のある打ち切りだったと思います。

東京ヒゴロ

松本大洋ここにきての最高傑作!?

東京ヒゴロ
TKD@マンガの虫
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『鉄コン筋クリート』やスポーツ漫画の大傑作『ピンポン』を送り出した 漫画界の生きるレジェンド松本大洋待望の最新作 物語は主人公塩沢が30年務めた出版社を退職し漫画編集者として引退したところから始まり、彼が辞めたことで起こる周りの担当作家や編集者達の変化を丁寧に描写していきます。 私が個人的に松本大洋作品前作で通底して素晴らしいと思う点は『人間の暗い部分弱い部分を逃げずに描写するところ』で、例えば大傑作『ピンポン』でも類稀な才能を持ちながら高い壁にぶつかり一度は卓球から逃げ出してしまうペコという場面で自尊心が打ち砕かれた人間の脆さをしっかりと描写しています。 もちろん今作でもそう言った要素が見事に描かれており 例えば、一度は大ヒットを生み出しながらも長い漫画家生活の中で情熱が擦り切れてしまったベテラン作家長作が様々な葛藤を抱えながらもう一度奮起して漫画に向き合う姿が情感たっぷりに描写されており、 私個人としては「もしかしたらそう言った描写に関してはこれまでの作品の中でも一番なんじゃ?」と思っています。 というのも、今作は漫画に関わる人々というおそらく松本先生から見て最も身近なところに生きる人々を書いているので、人間描写がこれまで以上に切実感とリアルさを持っているのではないかと思います。 ここからは読んだ人向けですが、長作が爆音で包まれるパチンコ屋の中で涙を流すシーンには思わずこちらも涙を流してしまいました。

バガボンド

不器用な生き方しかできない人に読んでほしい侍漫画

バガボンド
TKD@マンガの虫
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「ジブン不器用ですから」 日本人ならば誰もが一度は聞いたことのあるであろうこの台詞は1980年代放送された日本生命のCMで故・高倉健さんが放ったものだ。 僕はこのCMを一度も見たことがないし、実際に高倉健さんがこのセリフを言っているところを見たこともないが、自分を含めた多くの日本人男性の気質を言い当てた見事なセリフだと感じるのと同時にこの台詞が残り続けてしまうところに日本人男性の生来の生き辛さと悩みが集約されているように思う。 そして、そんな不器用な日本男性の頂上決戦漫画がこの『バガボンド』なのかもしれない。 なにせ、登場する侍達がみな周囲から誤解されながらも実直に己の剣を磨き続けることしか出来ない不器用な男達ばかりなのだから。 おそらく、多くの人はこの漫画を主人公宮本武蔵が『ドラゴンボール』の孫悟空よろしく「強ぇやつ戦いてぇ」と様々なライバル達と死闘を繰り広げるチャンバラ漫画だと思っているであろう。 確かにその認識は全く間違っていないし、大まかに理解するとそう言った作品だと思う。 しかし、今回初めて読んだ僕が最も心震えたのはかっこいい剣劇シーンではなかった。むしろかっこいいとは正反対とさえ言える不器用な生き方しかできない男達の姿に心が震えたのだ。 僕自身もそうであるように多くの日本人男性は陽気ではないし、無口であることが多い、それ故に誤解されやすくそのことを気にしていないふりをしながらもやはり心の奥底では寂しさを抱えている そんな男達の理解されないことの苦しさと その救済を真正面から描いているのがこの作品だと私は思う。 天下無双を目指す主人公宮本武蔵は両親からの愛情を受けることができなかったという生い立ちから自分の感情を表に出すことができないキャラクターだ。 だからこそ彼は相手を打ち負かすための斬り合いという方法でしか自分の内面を表に出すことができない。 自分の経験や考えというものを言葉ではなく剣でしか伝えることができないのだ。 そんな武蔵の剣と相対する敵キャラクター達も彼に負けず劣らず不器用な人たちばかり、そんな剣でしか自分の気持ちを面に出すことができない男達が「斬り合い」というコミュニケーションという言葉からは大きくかけ離れた場所でお互いの気持ちを探り合うのがこの漫画の本質のように不器用なまま20年以上生きてきた僕なんかは感じてしまう。 ネタバレになってしまうから明言はしないが、武蔵のライバルとして有名な佐々木小次郎もそこに本質があるからこそあのアレンジがされているのであろう。 こうして生まれた豊かな交流とつながりも自らが相手を斬ることで断たなければならないという残酷な結末を迎えたとき その言葉を介さない濃密で一瞬の交流に最上級のロマンを感じ僕は震えた 「あぁ!この繋がりをこの豊かで濃密な時間を相手を斬り自ら断ち切らなければならないのか武蔵は!こんな不器用な生き方があるだろうか!?いや!ない!」 とこんな具合に脳内で熱い実況解説をしながら読んでしまい、しばらく『バガボンド』の世界から帰ってこれなくなってしまった。 いい年した男の脳内をこんな風に真っ赤に燃え上がらせるというところに この漫画に込められた熱量を察してもらえれば幸いだが この熱量はどこから生まれているのだろうか? おそらく、それは作者の井上雄彦先生自身の性格からだと私は思う 以前、井上先生のドキュメンタリー見たことがあるが 「なんだか不器用な人だな」というのが全体を通しての感想だった。 おそらく先生自身も武蔵の剣よろしく漫画でしか自身を表現することができない人なのであろう。 その不器用さ故に書かれた漫画は読者を作者と感性をぶつけ合わせる「真剣勝負」の場に誘い、その末に読者は井上先生の実直な漫画に感銘を受けてしまうのであろう。 だからこそ、この作品は20年以上多くの読者を魅了し続けられたのだろう。 不器用もここまで来ればあっぱれとしか言いようがなく、僕自身井上先生や武蔵のように磨き上げた何かで人に衝撃を与えてみたいと一瞬思ってしまった。 まだ、完結はしていない今作だが、井上先生にはどうかこのスタイルのまま本作を描き切ってほしいと勝手ながら願うばかりである。

ジョジョの奇妙な冒険 第1部 カラー版

『ジョジョ』の基本思想が詰まった始まりの部

ジョジョの奇妙な冒険 第1部 カラー版
TKD@マンガの虫
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大ヒット漫画『ジョジョ』の 記念すべき開幕を告げる部 ではありますが、 ファンの人でもわざわざ読み返すことは あまりないのではないでしょうか? 私の周りでも「1部が一番好き!」 という人は1人もいません。 確かにその後の部に比べて バトルも地味なものが多く 現代から見ると時代を感じるキャラクターが多いので若い人たちが見ると 物足りなさを感じてしまうのは 仕方ないことだと思います。 しかし、今回久々に読み返して 私はビックリしました! 第1部にはこの後30年近く貫かれ続ける 「ジョジョの基本思想」が 詰まっていたのですッ! それは3巻で語られる ツェペリさんの3つの教えです! ①相手の立場に身を置く思考。 ②「勇気」とは怖さを知ること  「恐怖」我がものとすること。 ③「成長」には犠牲が付き物  「犠牲」成長につなげられる人間こそ   美しい人間である。 おそらく『ジョジョ』はこの3箇条をもとに 作られているのでしょう。 相手の立場に身を置くことで、 敵キャラの造形を 細かく描写することができる。 そして、「恐怖」を我がものとする。 つまり、克服しようとするからこそ 「ホラー映画」に影響を受けた シーンづくりをする。 そして、ジョジョたちが犠牲を成長に つなげていくからこそこの漫画は 「王道」なのだと思います。 これらの基本思想があり、 そして、ジョナサンの正義漢としての描写も 少し過剰ではありますが、 キチンと入っています。 このジョナサンの過剰なまでの 「いい子」「正義漢」描写があったから 後のジョジョはどんなに不良でも ジョナサンの子孫だからという 土台の安定感から ヒーローとして自然に 読者に迎え入れられる のではないでしょうか? そんな感じで、あの『ジョジョ』の 始まりの部がただの旧時代の 漫画の訳がありません。 一回読んだだけで その後読み返してないという人は 是非一度読み返してみてください! 自分の好きな 『ジョジョ』のエッセンスが 生まれた瞬間を 何個も発見できると思います!

イエスタデイをうたって

全てのキャラが独り言で会話するラブコメディ

イエスタデイをうたって
TKD@マンガの虫
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デッサン風で統一された絵柄や 情感たっぷりのようでどこか乾いた 雰囲気作りは見事としか 言いようがありません。 ここまで自分の世界観を貫いて作品を 描いている漫画家も 珍しいのではないでしょうか? 連載後期になると羽海野チカや浅野にいお などの後輩漫画家の影響をダイレクトに 受けながらも自分の世界に咀嚼してから 出している辺りも素晴らしいと思います。 そして、なんといっても鬱々とした 若者の描写ですね。 ほとんど全てのキャラが若い自分では どうしようもできない問題を抱えていて、 それを消化できないまま他人と接するので、会話が一方通行を通り越してほぼ独り言に なっています。 しかし、そこが素晴らしい! 普通は会話として成立するようにセリフを 整理するのですが、あえてそれをやらない ことで青い時期を過ごすキャラたちを 描写しています。 そこに共感できてしまう人は この作品にとことんハマってしまう と思います。 あと、この作品を批判するコメントで よく見るのが「恋愛模様が進展しない」 というものです。 しかし、そんなことは当たり前です! どのキャラも自分のことで精一杯で 他人に構っている暇なんてないんですから。 それでも、好きな人と付き合いたいという 欲望は抑えられない。 そんな時期の若者を見事に描き切った 傑作だと思います。

なつのしゅうてん
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むー

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初恋

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「あなたの手は、こんなにやさしい音も出せるのよ」――ケンカばかり繰り返す寡黙な中学生・高良。とあるきっかけで、音楽教師の佐々木にピアノを教えてもらう。佐々木との日々の中で、高良の中に変化が生まれ…。

赤と白

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「消しゴムみたいに白い」——。美術部員の皆川さんは赤色が大好き。ある日どこか影が薄く、白い印象のある上井くんと隣の席になる。皆川さんが上井くんに勉強を教えるうちに、2人の距離は縮まっていくが…。

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