その辺の芥さん!
表紙からイメージできる物語と、実際の内容との差が激しい漫画はよくあると思いますがこれもそのひとつだと思います。 石黒正数先生の「それでも町は廻っている」という漫画が好きなわたしにおすすめしていただいたのですが、思わず声を出して笑ってしまう日常会話が散りばめられているという意味でとても近いものがあります。 主人公の芥さん、せっかく最強の戦士という肩書きを持っているのに、ほぼそれが生かされないまま物語が進みます。しかし不思議と「もったいない」という気持ちにはならない。第二の人生をこの鳥取で過ごして、捨ててきたいろんなものを取り戻す様子を、見守りたい。 少し不穏な終わり方をした1巻ですが、2巻ではさほど大ごとにはならずに済みそうな気がしてるのはわたしだけ?笑 がんばれ、その辺の芥さん!
この作品を稲井カオル先生の前作『うたかたダイアログ』で例えると、
「片野さんは心が生まれたばかりのロボットみたいなことを言う……その内『これが…ナミダ…?』とか言いそう」
と言う宇多川さんのセリフ。これを全編に渡って繰り広げる感じになる。
地球外生命体の襲来で滅びそうになりながら、何となく滅びなかった世界で、最前線で戦った英雄・芥は次第に煙たがられ、緊張感の無い鳥取部隊に左遷される。
14歳から7年間、戦い以外を切り捨てて戦闘マシーンとして、英雄とした生きた芥は、ゆるい鳥取で気持ちを持て余す。
人間らしい感情や常識の無い芥が、色々教えられて新しい自分の在り方を探していく物語になるのだが、その物語は決して一筋縄には描かれない。
普通、可愛い子供や仲間、美しい光景などとの出会いで、人間らしい情緒や愛情を取り戻していきそうなものだが、芥が出会うのは、生意気なガキンチョに、ちょっとズレた感じの女性副隊長・百福。年長の隊員・古賀がツッコみ切れない程の、百福&芥のボケに継ぐボケ。更には生意気なガキンチョの遊びや語彙を、貪欲に吸収する芥。
結果、彼が獲得する新たな感情は、人間らしいと言うより……?
結構真剣な話や、「深いい」話もしつつ、様々なズレと畳みかける細かなボケに含み笑いが止まらない感じは『うたかたダイアログ』と同様。結果なんだか不思議な読後感のこの作品、是非人類と共にグダグダと続いていって欲しい!