漫画の会話ってこれでいいんだ!
どの短編も見れば見るほどに発見がある。とりわけ私は「あぜ道ロードにセクシー姉ちゃん」に衝撃を受けた。 主人公は田舎に暮らす普通の女の子。田舎に対しての「うんざり感」が見て取れ、都会に思いを馳せている。スゴイのはこれを「語らずに」表現しているところだ。 田舎っぽい話題で話しかけてくる母親に、主人公はまともに返事をしない。その聞き流す態度で、その心情を表しているのだ。たしかに会話は、言外の態度で、本心などがバレる。そのリアルさをそのまま漫画に持ってきたのだ。この時代にこの作品に出会った人は面食らっただろうな~
高野文子の初作品集だけど、「ここ」で提示されたイメージが後の漫画家たちにどれだけ影響を与えたかを思うと、ちょっと言葉を失う。
「田辺のつる」「アネサとオジ」「あぜみちロードにセクシーねえちゃん」「玄関」…収録作すべてが、ものすごい切れ味で、(当時の)清新な衝動を描き出す名作揃い。しかも、すべての作品のテイストが違う。テーマも語り口も、本当にバラバラ。
それは、若き高野文子の苦悩の軌跡であり、無限大の可能性だったのだろう。
個人的には、次単行本『おともだち』収録「春ノ波止場デウマレタ鳥ハ」がフェイバリットなのですが、この第一作品集のすさまじい才能の乱反射は、まったく稀有だと思います。
それにしても、どの作品を読んでも思うが、高野文子は「悪意」≓「抑圧してくるもの」の表現がうまい。(『棒がいっぽん』収録「美しき町」の伊出とか)
その「悪意」のやけに的確な描写と、それに怯える繊細な心象があるからこそ、彼女の抒情は輝くのだ。