どこか海外の香りがするなーと思っていたらロンドンで美術学んでらしたんですね、衿沢世衣子さん。

いろんな雑誌に載っていた短編をギュッと集めた短編集。
表紙の素敵さがヤバい。
ポスターにして飾りたい。
タイトルは掲載された短編のタイトル3つを合わせたもの。

衿沢世衣子さんを初めて知って読んだのが、『うちのクラスの女子がヤバい』だった。
思春期の性だったり関係性など彼女らにそっと寄り添ったような悩みを淡々としているようですごくいいバランス感覚で描くなーと思っていたんだけど、それももしかしたら海外にいたことで培えたものもあるのかもしれない。
すごく勝手な話だけど、こういう価値観をもって描けるような大人が親戚の叔母あたりのポジションで自分と仲良かったらいいのになと思ってしまう。
いや、違うか、こういう人と結婚したい。

短編はどれも素敵で健やかで愛しい。
8本ある短編だけど、ちょうどタイトルの
・ラ・フランス
・難攻不落商店街
・ベランダ
が好きだった。

その中でも特に「ベランダ」。
たわいない会話にグッとくる。
そして見た目から推測できることはあくまで推測でしかなく、心配することは大人の自分勝手な善意の押しつけのようなもののしんどさや重さと表裏一体だ。
何かから逃げてきた子供の「別の国じゃなくなっちゃった」のセリフを描けるのは本当にすごい。
自在に特定の年代の人間と同じ目線になれるんだろうか。
よっぽど深く潜れないとその言葉は引き出せないと思う。
しかし、ここで見せたいのは少女の方ではなく、あくまでそれを聞いた大人の女性の表情だ。
僕たち読者は一緒にハッとさせられる。
それまで呼んでいた「テキサス」というおちゃらけたあだ名が耳の奥で響き宙に浮く。
このあと、結局最後までストーリーには一切関わってこなかった主人公の杖が気になるようになった。
彼女も過去に何かあったのかも、とは深読みのし過ぎか。
誰にだって何かの事情はあるものだ、ということかもしれない。

梅雨が明けた頃、この短編をもう一度読もうと思った。
画像は僕が一番好きな、なにげない会話のシーン。

どこか海外の香りがするなーと思っていたらロンドンで美術学んでらしたんですね、衿沢世衣子さん。
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