コミカライズが綺麗にハマったミステリー作品
一般的にマンガという表現方法はミステリーには不向きだと言われてるけど、登場人物が多くてかつ会話劇がメイン、そして視覚情報自体が状況の理解には一役買うけども事件の伏線を示す上ではそこまで寄与しないということもあって、この作品に関してはコミカライズはかなり合ってたんじゃないかと思う。 登場人物が多いだけに掘り下げる要素も多くて、実は2巻まではかなりスローペースに感じていました。ただ最終3巻、事件の種明かしから幕引きに至るまで一気に転がっていく展開は心地よい。 全3巻読了済。
映画「十二人の怒れる男」を見たのはいつだったっけなと思いを巡らしながら2巻まで読んだ。
映画は、12人の陪審員がある事件の容疑者になっている1人の少年に対して有罪か無罪か議論していくという内容の傑作だ。
タイトルのパロディから、似た構図なのかしらと思って読んでみたらタイトル通り十二人の自殺願望のある十代の男女が集団自殺のために廃病院に集ってきて、なぜか先に謎の13人目の死体があったので、意味が分からないこのままでは気持ちよく死ねないということでみんなで死ぬために議論を重ねる。
映画では少年が本当に悪いかどうか性急に決めずに議論する余地が少しでもあるなら話し合おうじゃないかという始まりで、最初こそ映画と同じく1人対11人の構図になり、そこから波紋が広がっていき勢力図が塗り替わっていく部分も大体同じで見応えがあっていい。
ただこちらは、映画と違って真相が分かればイコールすっきり死ぬことになるという特殊な状況が発生していて面白いことになってきた感が強い。
映画も入口こそ一人が議論をこじ開けたが、全員同列で考え、語られていたので一人称視点ではない。
この漫画では主人公と思われた少年も、話が進むにつれ他の人からの視点へ変わっていき、個人個人の考えが垣間見えていく。
一つの事実が発覚するたびに議論の最初に立ち返り、また違う事実が浮かび上がってきてそこにはそれぞれの事情が絡み、ある一人の価値観では是だが他の一人にとっては非の状況が成り立っていき面白い。
果たして全員が希望を持って死ぬことができるのか、絶望を抱えて生きることになるのか、はたまた希望を持って生きるのか、二分されるのか。
希望を持って生きるのが物語的にはそれらしく思えるが、そうは簡単に問屋が卸さないだろう。
自分の命をどうするか判断できるのが大人なのだすれば、彼らは十分苦しんだ末に自らの意志で選択の淵に立つ大人だ。
逃げの一手ではなく、積極的に死を掴みにいっている。
とても丁寧な議論の上に成り立っているので最後まで読むのが楽しみだ。