病棟夫婦

重く苦い、でもそれだけでもない人生 #1巻応援

病棟夫婦 宮川サトシ
兎来栄寿
兎来栄寿
『宇宙戦艦ティラミス』 『SUPERMAN vs飯 スーパーマンのひとり飯』 『僕!!男塾』 『ワンオペJOKER』 『LV41才の勇者』 『落合博満のオレ流転生』 など、さまざまな作品で楽しませてくれる宮川サトシさん。 送り出される作品はコメディが多いですが、こちらは原点である『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』を彷彿とさせるようなテイストの作品です。 互いにガンで同じ病院の隣室に入院している老夫婦。 仕事を辞めて10年引きこもっている息子。 誰にでも訪れるかもしれない、ある家族のままならない状態が描かれます。 夫の方は亭主関白であり、息子が仕事のかたわらでマンガを描いて芽が出たときも、辛くなって仕事を辞めたときにも理解は示さず強く当たっていた昔気質の男性です。ただ、そんな性格も病を経て少しずつ変わっていく様子を見せます。 結婚して子供も産まれて一見順風満帆に見える娘にも、少し陰が見え隠れします。10年引きこもっている兄がいて、両親も近い将来どうなるか解らないという状況も併せて考えればその心境が穏やかでいられないのも当然なのですが。身内が少しずつ衰えていくのを見守る時間の辛さはよく解ります。 歳を重ねて、変わったことにより初めて交わせる言葉があり、それでも変えられないものもあり。ささやかなものに幸せを見出し、拭えない後悔を抱く。重く苦く、されどそれだけでもない人生の味がとつとつと物語られていきます。 夜の消灯後に、ふたりで言葉は交わさずとも壁を叩き合って互いの存在と意志を確かめ合うシーンが何とも胸に迫ります。 いつかは必ず訪れる、身近な人との別れ。 あるいは、自分自身のこの世のすべてとの別れ。 そうした瞬間が訪れる前に、やりたいことやできることをなるべく悔いの残らないようにやっておきたいと思わせてくれる作品です。
いきものがすきだから

犬を飼っているし愛しているからこそ

いきものがすきだから カレー沢薫
さいろく
さいろく
私は老犬を飼っていて、もう永くないというのを聞かされて早2年ぐらい。まだまだ長生きしてほしい。 でも現実を見つめると結構色々ネガティブというか暗い思考に囚われて、無償の愛を提供し続けてくれる愛犬を抱きしめながら枯れるまで涙が出る時がある。 そんな愛犬家だからこそ、というと語弊があるかもしれないけど 保護団体ってどういうシステムなんだろう、とか 世の中は実際どういう実態なんだろう、とか そういうのはぶっちゃけとても気になる。 でもニュースでペットショップ問題とか暗い話題が出るとシャットアウトしてしまう。わかってるつもりだからこれ以上知りたくないと考えてしまう。 本作はそういうシステムというか、どちらかというと「なんでやってるのか」とかそういう人間のエゴみたいなところにも焦点が当てられていて、カレー沢薫先生はきっと生き物が超好きなんだろう、葛藤があってなんとかしたいんだろう、でも解決できないというのも理解しているんだな、というのを感じられる気がする。 とても深いツラい話もあり、人間のエゴというか業というかもあり。 でも犬猫かわいいよねっていうそこに帰って来る。 こんな絵でギャグテイストなのに泣かされるとは思わなかったなぁ。 2巻読むの怖いけど買ったので今から読む。
44歳の彼女

44歳同士のラブコメ #1巻応援

44歳の彼女 ホリユウスケ
兎来栄寿
兎来栄寿
『シャッフル学園』、『デリバリーオブザデッド』のホリユウスケさんが送る、現代アラフォーラブコメ。 動物フィギュアの原型師である主人公・王寺竜丸(おうじたつまる)が、ある日同じ未婚独身44歳の隣人の隣人である料理人・大庭希厘(おおばきり)と出逢いラブがコメり始める物語です。 何も起こらないと思っていた人生でも、ある日突然予想外の展開が起きることもあるんですよね。そこには年齢も関係ありません。 最初こそ王寺の方が一方的に好意を抱いているように感じられながらも、意外と希厘の方も満更でもない感じを言外に出してくるシーンには口元が緩んでしまいます。 しかし、そこに介入してくるのが32歳の黒髪ロングストレート美人の和白葵(わじろあおい)。彼女も含めた三角関係の様相を呈していきます。 普通に考えれば葵がお邪魔虫ポジションなのですが、 「私は男運のないメンヘラです  メンヘラ歴32年のプロと言ってもいい」 と語る葵をどうして嫌いになれましょうか。30歳を超えた瞬間に友人や家族や社会から受ける≪圧≫の描写も、共感を生むところでしょう。読んでいて、3人ともどうにか幸せになって欲しいと思うことしきりでした。 未婚率もますます高くなりつつある現代社会、独身アラフォーのこうした作品の需要もますます高まって行くことは間違いないでしょう。 全体的な会話のテンポなども小気味よく、1冊で気持ちよく読み終えられる作品です。