じゃあ、あんたが作ってみろよ

アップデートというよりも根本のお話

じゃあ、あんたが作ってみろよ 谷口菜津子
野愛
野愛

見た目も収入も申し分ないけどモラハラ気質で古い男が、恋人にフラれたことをきっかけに自らをアップデートしていくストーリー。 恋人が仕事終わりに作ってくれたご飯に、色味がどうだ出汁がどうだバランスがどうだとケチ(アドバイス)をつけ、そりゃプロポーズしてもフラれるわ!ざまあみろ! と思うものの、ちゃんと傷つきちゃんと学ぼうとする姿を見るとだんだん応援したくなってくる。 そして変わろうとするのは何も男ばかりじゃない。勝男をフった鮎美も、自分が本当に好きなものを見つけ人生を変化させていく。 読んでいくと2人はお似合いのカップルだったんだなあ、と皮肉じゃなくて本当に思う。 理屈じゃなく惹かれあった男女が、結婚という目的や男と女という役割に縛られてお互いが見えなくなっていく、なんて悲しい話。 そうさせているのは世間の空気や常識や今まで歩んできた人生など要因は様々だけど、「わたし」と「あなた」だけをしっかり見ていれば起こらないはずなのになあ……。でもそれが難しいんだよね。 勝男と鮎美の人生が再び交わるかどうかはさておき、2人もわたしもみなさんも、自分と相手の好きを大切にして人間関係を築いていけたらいいなと思った。

じゃあ、あんたが作ってみろよ

モラハラ男は変われるのか

じゃあ、あんたが作ってみろよ 谷口菜津子
ゆゆゆ
ゆゆゆ

息をするように、全方位に向けて「THE 昭和の男」を放っていた主人公。 行動を振り返ってみても、Aに気づいても気をつけてもBに気づかず、Bに気づいて気をつけてもCがあり。 とどまることを知らないモラハラは続く。 素敵な料理を求めるなら、自分で作るべきだ。時代は平成でもなく令和だ。 一方、彼女のほうもハイスペックな男と素敵な結婚生活を送るため、幼き頃から鍛えに鍛えた家事や運動能力、そして交友関係。 ハイスペックを隠したハイスペック彼女。 どうしてそいつとそんな相手と付き合った?と思うも、ハイスペックを狩るために生きてきたから、立ち止まることに気付けなかったのかもしれない。 考えれば我々の日常生活でも、相当なことをしできた人に対して「ゴメンネ、モウシナイヨ」の言葉ひとつで受け入れられるかというと、なかなか難しい。過去は焼印のようについて回ってくる。 それでも、読んでいる我々は彼及び彼女の変化を認め、受け入れることができるんだろうか。 そして、ぷぷ昭和wwwと思いながら読んでいる自分も、周りからそう思われてはいなかろうか。 煽りタイトルなのに、深い。

私の描くセカイは壊れている。

統合失調症と創作 #1巻応援

私の描くセカイは壊れている。 宮古蜂 岩波明
兎来栄寿
兎来栄寿

幼いころから絵を描くことが大好きで、それによって周りを幸せにしてきた妹の維音。美大を目指す彼女ですが、どうも様子がどうもおかしく、実はいじめや親からのプレッシャーなど強いストレスに曝され続けて統合失調症を発症していたことが判明します。 まともな生活を送ることができない維音、そしてそれを支える兄の自分はどうなってしまうのか。現実でも大きな事件を引き起こすこともある切実なテーマに取り組んでいる作品です。 自分を罵倒する幻聴が聞こえてくる様子や、もうひとりの自分が視える様子など統合失調症の症状が上手く可視化され表現されておりその辛さがよく伝わってきます。 統合失調症を揶揄するモブの若者たちも登場しますが、後天的な要因で誰しもが陥ってしまう可能性があるもので決して他人事ではありません。自分や身の回りの人が突然そうなるかもしれないのです。そうなったときに、どんな苦しみがあってどうやって接するべきでどうやって乗り越えて前に進んでいけば良いのかという心構えがあるのとないのでは大きく差が生まれてくるでしょう。 元々は優しく真面目であった維音が豹変してしまう姿は、私が接してきた統合失調症の人とも通ずるものです。ましてや、唯一無二の妹がそうなってしまった時の主人公の苦しみを考えると居た堪れません。 しかし、救いなのはカットバックで冒頭に希望溢れる未来が示されていることです。 作中で担当の医師が ″苦しみの中で生み出されたものは 人の心を打つ力があると信じています″ という言葉を伝えてくれて、それが希望の縁になっていくシーンは沁みます。 苦難に満ちて傷つき汚れに塗れても、その先にある光への祈りを絶やしたくないと思う物語です。

じゃあ、あんたが作ってみろよ

自炊からはじまる再生の物語

じゃあ、あんたが作ってみろよ 谷口菜津子
六文銭
六文銭

長年連れ添った料理上手の彼女。 その料理に対して、褒めつつも、余計な一言をいつも言う主人公。 全体的に茶色いとか、顆粒だしはありえないとか。 そんなこだわる割には、自分では料理なんてしたことすらないという体たらく。 この時点で昭和なオヤジでモラハラ感が満載なんですが、記念日に狙ったかのようにプロポーズをするも、彼女から 「んー無理」 とフラれる。(当然) そこから、自分の何が悪かったのか? を同僚のアドバイスを通して、変わっていこうとする話。 手始めに自身の好物である筑前煮をつくってみると、その難しさに発狂。 いつも彩り豊かに手際よくつくっていた彼女の偉大さに気づく。 そこから思い出を頼りに少しずつ自分でも料理をはじめていく流れ。 今まで自分の価値観で空気の読めない発言ばかりしていた主人公が、他者の価値観に触れて自分を見つめ直し改めていく姿が純粋に尊敬した。 年食うと、変わるのってホント大変だから。 また彼女がフッた理由も、主人公のモラハラだけではなく、意外と深い。 自分らしく生きたいと思いながらも、他人と折り合いをつけるのって難しいだけに、そこで誰もが悩むんだと思う。 読んでて自分自身も考え直すきっかけになった。 タイトルから最初読んだときは、ただのモラハラ男の別れ話かと思ったが、大事なもののために自ら変わろうとする人間の葛藤を描いていて、素晴らしかったです。

スイーツ・ヤクザの甘杉さん

静岡県民に特薦のグルメ×ギャグ #1巻応援

スイーツ・ヤクザの甘杉さん 並庭マチコ
兎来栄寿
兎来栄寿

『プリンセスお母さん』でお馴染みの並庭マチコさんによる主にスイーツを題材にしたギャグマンガ。 人目のないところでひっそりとおやつタイムを楽しむのが大好きな16歳の桃栗ちよ子の平穏が、甘いもの大好きヤクザの甘杉との出会いによって脅かされていく物語です。 ヤクザなのでたまに物騒なところもありますが、基本的に「明日もおシノギがんばろ!」くらいの緩いテンションでかわいく楽しく読めます。 古来のグルメマンガから存在する食べた瞬間のオーバーリアクションのマンガ的表現が、並庭さんらしいテンションで爆裂していてとても楽しいです。特に月餅を食べた時の凄まじいコマがお気に入りです。 また先日発売した『このマンガがすごい! comics 翔んで埼玉 アンソロジー 埼玉解放戦線調査報告書』でも、「幻影の飯能市」という短編を寄稿していた並庭さんですが、ただでさえギャグが面白いのにローカルネタが加わると鬼に金棒。 本作でも 第2話 うなぎパイvs.こっこ 第7話 「さわやか」のハンバーグ と、静岡に縁のある方ならタイトルだけで笑える2篇が最高です。 私自身もそれなりに静岡に縁があり、特に家族は生粋の静岡県民で「静岡最高!」という郷土愛溢れる民であり、こっこのCMソングを突然歌い出すタイプの人間なので人一倍楽しめました。 アンドロメダ銀河の星々に包まれながらうなぎパイの十字架に磔になっているシーンは最高です。 グルメマンガ誌らしく毎回スイーツの作画に気合が入っていてとてもお腹が空くので、読むタイミングにはお気をつけてください。 あと、御殿場アウトレットのさわやかは本当に8時間待ちとかになるので、基本的に入れないものと思って空いている店舗に行った方が良いです。