おーなり由子作品集

りぼんのヘンテコ三人衆あるいは、坂口尚の兄妹として

おーなり由子作品集 おーなり由子
影絵が趣味
影絵が趣味

なが~い梅雨がようやく明けましたね。 7月の31日になってようやく晴れるなんて、今年の夏は、夏休みの最終日になって慌てて宿題をやり始める小学生なんですか。まったくもう、夏の夏休みはもうこれでお終いですからね、これからはちゃんと毎日登校してもらいますからね。これでようやく私たちの夏休みが始まるってもんですよ。夏さんとはちがって、毎日ちょっとずつ「夏の友」は進めるし、日記だって書きます。私は勤勉なんです。それに私は好きなんです、夏休みの終わりが近づいてくる頃に、夏の友のページのめくられる感触がぱらぱらと心地よくなるのが。 さてさて、梅雨明けといえば、おーなり由子の『六月歯医者』という漫画を思い出します。毎年、梅雨になると、カビの生えた乳歯を抜きに怪しい訪問歯医者さんがやってくるというお話です。これがほんとうに素晴らしくて、毎年のことですが、今年もうるうると涙ぐんでしまいました。 りぼんのヘンテコ三人衆といえば、さくらももこ、岡田あーみん、おーなり由子ですが、笑いの岡田、叙情のおーなり、そして、この二人のあいだを行き来したのがさくらでした。特にさくらのおーなり由子からの影響は計り知れず、さくらの初期の絵柄はかなりおーなり由子に似ています。さくらの『ほのぼの劇場』なんかは、ほとんどおーなり由子への私信なんじゃないかと思うくらいです。じっさい、誌面で出会った二人はのちに大親友になったそうです(ちなみにさくらは岡田とも仲が良かった)。大きな画用紙の上に二人で寝転がって、絵を合作したという微笑ましいエピソードもあったりします。 りぼん出身でありながら、気質的には完全にガロだったさくらももこと同じく、おーなり由子も気質的にはガロの系譜を受け継いでいると思います。『六月歯医者』なんかは、つげ義春の『紅い花』へのオマージュと言ってもおかしくないぐらいです。でも、おーなり由子が漫画界で誰の兄妹にあたるかといえば、それはもう坂口尚と言わざるを得ません。 夭折の天才、坂口尚の詩情が、おーなり由子を経由して、国民的アニメの『ちびまる子ちゃん』にも息づいているとするなら、こんなに喜ばしいことはないと思います。

ブルース

「指が6本ある男」を巡る女達の群像劇

ブルース もんでんあきこ 桜木紫乃
天沢聖司
天沢聖司

色気の魔術師(※勝手に命名)もんでんあきこ先生の新刊ということで購入。町の名士だった影山博人という男が死に、かつて影山に惹かれた女達がひっそりと記憶を分かち合う物語。 この影山がまぁ〜〜〜すごくて。 「暗い過去を背負った陰のあるいい男」なんですよ。 これだけで「そんなの惚れない女いないわ!!」って感じですけど、作中でもまさにその通りで、過去に彼と関係をもった女性たち全員の心の中に、彼の存在が強烈に刻まれ残り続けているんですよね。 https://twitter.com/mondenakiko/status/1283882978381148160?s=20 だんだん明らかになっていく影山の過去も面白かったのですが、女達の間に流れる空気感がすごく素敵でした。 全員にとって影山が特別な男であるということが、不思議な連帯感生み出していて、それがなんかすごくいい…。 若く貧しい6本指の影山と、成功を収めた5本指の影山の両方と寝た有閑夫人。 経済格差が目に見えてわかる閉鎖的な町で出会い、影山が初めての相手だった同級生。 影山が引き取られた店で出会い、母親の葬式に立ち会い指の切断に協力した同僚。 母親の店を存続させるために頼みに行き、「1回分の礼」を受け取った娘。 上巻ではこの4人の女性の口から影山との思い出が語られます。 も〜〜ホントもんでんあきこ先生はナギと嵐とか雪人 YUKITOとか陰のある男書かせたら天下一品だなと実感しました。 影山が死ぬ少し前に「顔に痣がある女」がすぐそばで仕事を手伝っていて、この身体的コンプレックスのある女性がどう影山と関わっていたのか、下巻を読むのがすごく楽しみです。 (上巻1話の15歳の影山。最の高…)

金魚妻

妻が妻じゃなくなるときは存外「単純な理由」

金魚妻 黒澤R
六文銭
六文銭

5年位前だが「ハッピーアワー」という映画が、自分の界隈で話題だった。 http://hh.fictive.jp/ja/ ざっくりいうと、それぞれ性格も価値観も異なる妻(一人はバツイチ)たちが、色んな理由で旦那から離れていく(離れていった)というのを描いた作品。 演技経験がない女性をキャストに使ったことで、逆にリアリティが強く、自分は今でもこの映画がすごい印象に残っている。 本作「金魚妻」を読んで、まずこの映画が思いだされた。 本作も端的にいうと、妻が不倫・浮気する瞬間をオムニバス形式で描いている。 巻数を重ねるごとで関連性も出てくるが、基本的には1話完結で色んな家庭環境の妻を描いている。 作者である黒澤Rは女性であることも存分にあると思うのだが、目線というか、女性的な着眼点、ふとした瞬間に起こる衝動的なところが、男子目線で読んでてハラハラさせてくれる。 特に、心が離れる要因として、物理的なDVなどはわかりやすいのだが、そうでない所の描きが秀逸なのだ。 ちょっとした不満の蓄積(えてして価値観に軽微な影響を与え続けるもの)、旦那が何もフォローもしない無関心な様子だったり、退屈だったり、結局わかりあえない関係性を身近な他人とのセックスで満たそうとする流れが、理解できそうで、理解できない。 この感じが、もどかしく男女間の違いなのだろうと読むたびに痛感させられる。 エロスな面が強調されるが、こうした男女の機微も味わい深い作品です。 特に、上記の映画を知っている人は、ハマるかと思います。