マウナケア2019/10/04骨とう品や美術品などの過去に潜る仕事舞台は世界各地。好きなんですよね、こんな展開。ただ、これだけだと、”わりと好き”レベルなんですが、この作品は時間も遡ってしまう。時代背景の描写など、描き手の力量が問われますが、期待以上の仕上がりで、”わりと”ではなく、とても好きになってしまいました。内容、の前にまずクリオについて解説しますと、これは表紙に書いてある通り。クリオダイバー=骨とう品や美術品などの物の中に蓄えられている過去の情報世界に潜る人、ということです。そのクリオの男が、世界各地のワケあり物品に込められた過去の因縁を暴き、現代に害をなさないようにする、というストーリー。展開は非常にダイナミック。そして立体的な描写が物語にさらに奥行きを加えています。戦闘機の翼の上、屋上から落ちるさま、素潜りの海中などのシーンが目白押しで、映画っぽいなあ、と思っていたら、著者はそっち方面を目指していたこともあるんだとか。映像的視点もいいですね。これも加えるとまたレベルが上がるなあ。結局、大好きなお話になってしまいました。クリオの男木葉功一2わかる
マウナケア2019/10/04哲学的な世紀末しりあがり寿、と言えばシュールなギャグが持ち味。しかしこの作品はシュールはシュールですが、意図したギャグは一切なし。水の中に全てのもやもやしたことをぶち込んで世界は終わるのだ、といわんばかりの哲学的な終末を淡々と描き切っています。発端はやまない雨。歯みがき会社の方舟による世界一周キャンペーンが大ヒットする中、人々の生活は少しずつ壊れ始めます。この雨、というファクターは、物語を語る上で非常に重要なパーツ。群集心理によって起こる暴動の喧騒は雨音にかき消され、死体は雨に流され、たまった水に世の中の雑多な物は沈んでいく。そして残るは島影ひとつ見えない大海原。作品に”静かな”というイメージを与えるのにこれほど効果的な使い方はないと思います。この作品が描かれたのは西暦2000年。いわゆる世紀末。あとがきには著者による「輝ける未来」が創造できなくなった趣旨のコメントがあります。それから10年経ちましたが、この世界よりも、もっと閉塞感のある氷の時代になってしまったように感じるのは気のせいでしょうか。方舟しりあがり寿
マウナケア2019/10/03派手な演出は無いが、心理描写は丹念「呪い」…人を殺したり傷つけたりすることに限定された超能力。そして精神力にその力は比例する。こんな特殊な能力だからこそ、この作品はドラマ性が色濃く出る結果になったのでしょう。呪力合戦に派手な演出は無し。一方、作品の核である命を奪う能力をもつ人々の心理描写はこれでもかというほど丹念。2つの話を交互に描き、補完し合ってじわじわとドラマを盛り上げているのも効果的です。この作品における呪力とは、思春期から20代にかけて発症する能力。この能力をもつ者は呪街に行かなければならない。12歳で発症してしまった優愛菜は能力を中和することのできる火詠とともに呪街に向かう、というのがひとつめの話。そしてもうひとつは呪街四天王・笠音と、彼女に預けられた真魚が、権力争いに巻き込まれるという話。能力に疑問をもつ者と、強力な能力をもつが故に安らぎを求める者。この2人のストーリーが最終的にどう交わるのかがまさに焦点です。ようやく最終巻がリリースされましたので、その衝撃のラストを心して読んでください。呪街惣本蒼1わかる
マウナケア2019/10/03両親と姉妹の4人家族全員が漫画家!タイトル通り、世にも珍しい両親&姉妹の4人全員が漫画家という大島家の、内幕暴露本的なエッセイ漫画。長女・大島永遠の視線で父・大島やすいちや母・川島れいこが描かれていてなかなか新鮮でした。なぜなら私、この両親ふたりともKATANAで取材しており(09年11月3日号から4号連続)、登場するエピソードは聞いていたのですが、頭の中に浮かんだ絵がこの漫画と全く違っていたんですね。おふたりのなれそめ話に出てくる詩人?なんて、こんな優男ふうじゃなくてもろ変質者でしたから。ドラマチックな展開になっていて、漫画にするってこういうことだよな、とちょっと感心しました。ちなみに取材したときはこの漫画で描かれている写真についてのくだりはいっさいなかったですけどね(笑)。まあ、同業の親をもつ娘の気持ち、なんてのをお話にするというのは、少しひねくれた感情論から入るのが常で、この漫画もそう。ですが、いやいや仲良いでしょこの家族は、と思える温かさがそこかしこにある。ちょっとこそばゆいけど、そんな雰囲気のある漫画です。まんがかぞく大島永遠1わかる
マウナケア2019/10/03オトナのストレス解消漫画オトナのストレス解消漫画といっていいのかなあ、これ。主人公・南部十四郎は、世を乱す不埒な輩をばったばったと斬り殺すというバリバリの愛国主義者。タイトルから連想される通り、その正体は第二次世界大戦時に東京憲兵隊に所属していた旧帝国陸軍の大尉で、時の首相と政界の実力者によって降霊された、世直しの使者なのであります。そりゃあ軍人さんの眼から見たら、20世紀末の日本人は万死に値する存在なのでしょう。この作品は、ケンペーくんの正義の鉄槌を襟を正してしかと見届ける漫画…などと思ったら実は大間違いなんですけどね。だって制裁を加える相手が巨悪じゃなくて小物ばかりなんですもの。うるさい暴走族や、軽薄なサーファー、後先を考えずに行動する若者に、日本語もろくに使えない適当な大学生。はてはパンクロックカーや嫌煙活動家、六本木ギャルまでもが制裁の対象になる。つまりは疲れたオジサンがイラっとくる相手ばかりなんですよね。で、これが意外とツボにハマって爽快に感じてしまうという。あ~あ、こんなんじゃ私もすっかりオジサンですなあ。ケンペーくんならやたかし
マウナケア2019/10/02グレイ正直、いまさらSFとしての新しさはあまりないです。殺し合いを生む階級システム、謎に満ちた平和都市、意志をもつコンピュータなどなど、すでに現在のエンタメ産業においてしゃぶりつくされた設定のストーリー。うーん、B級ハリウッド映画みたい。でもね、私は好きなんです。なぜかといえば、俺の描く漫画が一番カッコいいんだ!という主張があるから、なのかなあ…。やたら描き込まれた効果線であったり、メカの細かなフォルムであったり、超人的な主人公の描き方であったりと、言葉にするとたいしたことのないですが、ストーリーや絵柄の上手下手でないところで心に響く何かがあるのは確か。巻末のあとがきで著者本人が語っているように、この作品は著者がもっとも脂の乗り切った時期に描かれた作品、ということなので、その時期の作品は得てしてこうなるのでしょう。どこが良いのかイマイチわかりにくくなってしまいましたが、そこはタイトルと同じグレイのまま…、でご勘弁ください。GREYたがみよしひさ
マウナケア2019/10/02美味しくもあり、微妙でもある名古屋メシの数々出身地に近いひいき目かもしれませんが、名古屋は日本で最も食品系名産品が多い都市だと思ってます。古いところだと、ういろ(う)に味噌カツ、きしめん。新しいところだとコメダ珈琲のシロノワールとか。そんな美味しくもあり、微妙でもある名古屋メシの数々を紹介するのがこの作品です。私にとっては懐かしいものばかり。有名な手羽先やひつまぶしは日本全国で食べられますけど、最初に紹介している「スガキヤ」のラーメンなんかは全国的には無名なので、ぜひ現地で食べてほしいと思う逸品です。描いてある通り安いし、ショッピングセンター内に多いので見つけやすいし、「ヘビでダシをとっている」という都市伝説も話のタネになるし。高校生のころ学校を抜け出してよく食べていた、鉄板スバゲティの「イタリアン」なんてのも青春の味ですね。などなど、紹介されている名古屋メシは地元に住む著者が選んでいるようなので、名古屋圏出身者の体験ともピタリと重なるよくできたラインナップです。地元を離れてしまった人に読んでもらいたいなあ。美味しい名古屋を食べに行こまい榊こつぶ1わかる
マウナケア2019/10/01できるかなルポしてきたことを、面白おかしく書く(描く)ということは非常に難しいです。私も昔は取材記者をしていましたからわかりますが、まずそうそう良いネタには出くわさない。そこをうまく書くのが至難の業。…なのに、このルポ漫画は、一話あたりたった数ページでどうしてここまで面白く描けるかな。おそらく、もんじゅに行っても、事故で怒られ過ぎた係員が訳のわからないことを呪文のように繰り返したり、大学の人がセシウムを素手でさわらせる、なんてことはないはず。この場の雰囲気でこれをやったらヤバイだとか、この人がとんでもない行動にでるととてつもなくヘン、といったことを違和感なく漫画にしていて、そんな訳ねーだろと思っても勢いでついつい読んでしまう。この著者はやっぱり踏んで来た修羅場の数と持って生まれた感性が我ら凡人とは違いますよ。こんな表現力が昔の私にあったらな。エンターテインメントというのはこういうことなんだな、と今さらながら感心してしまいます。ってギャグ漫画を読んで思うことでもないかな。できるかな西原理恵子
マウナケア2019/10/01人生のストッパーサラリーマン漫画と言えば、圧倒的なカリスマ性をもつ主人公がライバルを蹴落としていく、明日の活力となる出世物語や、平凡な主人公が地道に頑張る姿を描く癒し系ドラマが王道でしょう。しかしながら、これらの漫画は人の善なる部分を理想化したもの。他人の不幸を喜び笑って、自分には関係ないと安心する、という真逆の面も人間にはあって、それをうまく漫画にしたのがこの作品。著者は1巻のあとがきで、「喪黒福造によって虚構のガードをとりさることができた人たちはかえってホッとしているかも」と書いてますが、一理あるとしてもそれは自分じゃないからそう思えるのであって。大体の被害者は喪黒がつくったきっかけにのり、「二度と会ったらいけませんよ」とか「人に自慢したらダメですよ」という忠告を聞かずに破滅してしまうので、捉え方はさまざまでしょうが、私などはむしろヤバイことは一回でやめよう、というストッパーになります。そしてこいつらダメだなあと、ハハハと笑って上から目線の自信を得る。まあ、漫画を読んでこんな形でストレスを発散するのなら罪はないでしょう。笑ゥせぇるすまん藤子不二雄(A)
マウナケア2019/10/01月明らかに星稀なり男子は一生に一度は幕末に憧れる、なんてよく聞きます。私もこの時代は大好きで、このコーナーでも坂本竜馬、小栗上野介、桂小五郎を主人公にした漫画を紹介してきました。今回はそんな幕末英雄譚の中でも最も好きな新選組、鬼の副長・土方歳三を取り上げてみようと思います。新選組といっても実はこの作品、多くのページを割いているのはそれ以前の歳三の多摩時代。このパートで描かれるのは彼の武士道を追求するゆるぎない信念がどのように培われたか、近藤勇や竜馬との出会いで何を身に刻んだかということです。そこがタイトルの「月明星稀」―月明らかに星稀なり―にかかってくる。このテーマが見えてくるくだりはこれぞ武士道、という感じでシビれます。そして本来ならこの後が「さよなら新選組」という副題にもかかるはずですが、残念ながら伊東甲子太郎が登場したところで雑誌連載は打ち切り。新見錦や斎藤一の独創的な設定や、芹沢鴨暗殺までのくだりなど目を見張るものがあっただけに箱館まで見たかったというのが正直な本音ですが、男の魅力的な生きざまは存分に堪能できると思います。月明星稀―さよなら新選組盛田賢司
マウナケア2019/10/01情念渦巻く吉原の人間模様お高くとまりながらも陰のある花魁が主人公で、彼女を中心に情念渦巻く吉原の人間模様を描く…。そんな内容だと想像していましたが、本作はその先入観とはかなり違う、ずっと小気味の良い作品で、たっぷり堪能させて頂きました。主人公は地獄太夫と呼ばれる橋立花魁。どんな鬼のような花魁かと思うでしょうが、これはその技からついた異名。施虐の芸使い、そう、今でいうSMの女王様なんです(2巻の表紙でろうそく持ってます)。よく言えば客がどうして欲しいかを読み取る才能に長けている、悪く言えば変態専門の橋立花魁は人気も上々。で、この橋立が馴染み客と息の合った攻防?や、成り上がり者と意地の張り合い、はたまたとある武士と真剣勝負を繰り広げる。そのさまは上等な小話や落語を見ているようで、まさに”粋”のひと言。また著者はこの時代の吉原をずいぶん調べたようで、「えっ、これで避妊してたの」なんて薀蓄ネタも拾えます。3巻以降は単行本が存在せず、雑誌からの電子化で少々アラのある造りにはなってますが、野暮なことはいわずに楽しんでもらいたいですね。おいらん姐さん鈴木あつむ
マウナケア2019/09/30『じゃりン子チエ』を思い出す父親がダメ人間で母親が失踪、小学生の子供がお店を守って…私の世代なら『じゃりン子チエ』を思い出す設定のお話。ただ、こちらは現代風で父親はPC三昧の引きこもり、主人公はチエちゃんならぬサッちゃん。誰が仕入れたのか感性を疑う商品だらけの文具店を、帰ってくると信じている母親の居場所を残すために、またこんなお店でも必要としてくれるお客さんのために、健気に切りもりしています。大人の世界にさらされ傷つきながらも、漫画家のお兄さんへほのかな恋心を抱き、少し背伸びしてひとりで頑張るという、肩の凝らない良作。ですが、読んでいてちょっとムズムズしてしまいました。私、変な趣味があるのではないかと。いえ、ロリ…ではなくこの舞台の小道具である文具に萌えてしまっていたのです。ロケットペンシル、持ってました(作者の勘違いは巻末で修正)。人頭鉛筆削りや10徳ノート、欲しいです。家には変わった色の色鉛筆や奇妙な匂いの消しゴムがあるし、どうやら私は文具オタクなのか…。これから何が出てくる? そんな意味でも今後に期待します。夕焼けロケットペンシルあさのゆきこ3わかる
マウナケア2019/09/30同人少女JB島本和彦の「アオイホノオ」と同様、自身を投影した主人公が活躍する漫画家漫画。ただし「アオイホノオ」の焔燃がゴリゴリのプロ志向なのに対し、こちらの八吹ジューベエが向かうのは同人誌の世界。高校の漫画研究会の延長のような、素人っぽさの抜けないアマチュアなのです。漫画化を目指す、というよりさらにマイナー、しかも設定は80年代で、今よりもさらにおおっぴらにできない趣味の分野。青春時代にそんな世界と関わった著者ならではのけっこう赤裸々な話が興味深いです。また、著者はコスプレアイドルのはしりでもあり、女性じゃないとわからにエピソードもあって、ここまで描いちゃうのかーと思うくらい。いろんな意味でよくぞ漫画化してくれたというところです。もう時効だと思うのでついでに書いてしまうと、この著者は私の大学の先輩。で、ある日、同じ授業に出席したことがあって、そこである事件が起きて、その日から彼女(著者)の姿を学校で見なくなってしまって…。そのへんもちゃ~んと描いてくれますかね。同人少女JB一本木蛮1わかる
マウナケア2019/09/29座敷女表紙がまるでシュルレアリスムの絵画のよう。単行本は未見だったので、ちょっと得した気分になりつつあらためて読むと、あれ?雑誌連載当時は、怖え~、と思っていたのが、気色悪る~という感想に変わっていました。90年代後半に髪の長い女のホラーや、ストーカーを題材にしたテレビドラマなどが流行りましたからそのせいもあるのかも。もはやありえる話になってしまったというか。だから、この作品における描写の気色悪さが、以前より際立ってみえてきたんでしょう。ぺろんとした顔や手入れされてない長い髪はともかく、なぜか持っている紙袋やバッグ、伝線したストッキング、汚れた靴、髪が絡みついたブラシなどの少しずれた座敷女の風貌。そして雷や蛾といった心理的に不安になるイメージの挿入。「ドラゴンヘッド」の時も感じましたが、この著者は日常を少しだけありえる範囲で外すことで、気味の悪さを演出するのが非常にうまい。うん、これに気付いたことも、いまさらながら得した気分です。座敷女望月峯太郎3わかる
マウナケア2019/09/28七女『進撃の巨人』の超巨人や『ハカイジュウ』の怪生物など、漫画界は最近やたらクリ―チャ―流行り。人気になる理由のひとつになっています。けれど、そんな存在感ある怪物ではなくて、この作品に出てくる何をするわけでもない名もなき怪物のほうが、私は「おおっ」と思ってしまうから困ったもんだ。この作品、怪物目当てで読む人は少数派だとは思いますけど…。舞台は金やんと高木さんという漫才コンビのような女子高生が暮らす近未来。とはいっても私たちの住む世界とは微妙に違っている世界のよう。便利な道具もあれば、かなり強引な食べ物、一風変わった建造物など、まるで「不思議の国のアリス」の未来版といったふうです。で、なぜか時々この世界には怪物が現れるのですが、これが内容と相まって非常にツボにはまる。第2話に出てくる怪物なんかデザインの秀逸さといい、目的意識の希薄さといい素敵すぎます。本作の内容はゆるゆるのファンタジー。ハードなSFに疲れた人はちょいとつまんでみてはいかがですか。第七女子会彷徨つばな1わかる
マウナケア2019/09/27専門用語の意味がちゃんと頭に入ってくるアニメ放送を観たんですけどね。正直、う~ん…、って感じました。だからそのフィルムコミックであるこの作品にも、大きな期待はしてなかったんです。ところが読んでびっくり、同じ素材なのにこれほど受け取り方がかわるものなのか、と。評価は180度変わりました。アニメ版で特に気になったのは声の質や動きの硬さ。それがなくなっているのは当然として、確実に感じたのは専門用語の意味がちゃんと頭に入ってくるということです。やっぱりイノベーションやトップマネジメントなど専門用語の意味は、朗読されるより自分のペースで文字を追った方がはるかに理解しやすいのだな、と痛感しました。で、こっちが理解できると、高校野球というたとえがしっくりくることがよりわかるんですよね。アニメでは説教臭く感じましたが、集団活動であり劇的な展開もあるというところが経済活動にうまく重なりますし、またドラッカーの言葉が見事にはまっている。原作は未読なのですが、人気になった理由がこの一冊でわかった気がします。アニメコミック・もしドラ~「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」岩崎夏海 プロダクションI.G2わかる
マウナケア2019/09/27傑作中の傑作噂には聞いてましたがここまで凄まじいとは…。この作品、いきなりクライマックスという感じで、しょっぱなから第1巻のほとんど最後まで、ひたすらハードなアクションが続いているんです。マッド・ドッグの異名をとる傭兵・岩鬼将造は暴力団組長の息子。父の暗殺を知り帰国、落とし前をつけに黒幕の元へ――。ということで殴り込みになるのですが、そこは極道ならぬ極道兵器。ドスやチャカ程度の戦闘では収まらない。戦場土産のバズーカやミサイル、果ては核兵器まで飛び交うのですからもはや戦争。著者の真骨頂である狂気の演出と相まって、ハリウッド映画も真っ青のバイオレンス作品に仕上がっています。最初は極道物と思わせておいて、SF的な改造をされて名実ともに極道兵器になる、という設定なのですが、それはこの際どこかに置いといてほしい。許嫁の姐さんや、さらに凶悪な兄貴分もでてきますがそれもどうでもいい。とにかく主人公・将造の暴れっぷりを見て欲しいですね。ついでに、またしても広げた風呂敷を畳まない展開も忘れてほしい…。極道兵器石川賢
マウナケア2019/09/27ピコピコ少年作者のゲーム体験を通して描かれた青春記で、作者の暗くて毒のある絵柄が、黎明期当時まだまだ反社会的イメージのあったゲームにマッチしていて、明日のことをまるで考えていなかったバカな自分の少年時代を思い出してしまいました。ゲームの内容を深く掘り下げず、体験談をもとにしているのがいいんですよね。私はおそらく著者と5~6年は年が離れているかな? でもゲームのブームという現象ならば、不良の巣窟インベーダーハウスがゲームセンターであっても、携帯ゲーム機ゲーム&ウオッチがゲームボーイであっても、似たような体験をしているので、すんなり”ああそうだ”と思ってしまう。革命的なことばかりだった80年代。あの時代の空気を体験した人にとってゲーム用語は共通言語。酒場のネタにはもってこいの漫画です。30~40代、50歳未満まではイケる作品じゃないかな?ピコピコ少年押切蓮介
マウナケア2019/09/26ネタバレ70億の針とはまさかの展開に驚き。最初は『寄生獣』か『鉄腕バーディー』、はたまたウルトラマンか、と思ったわけです。飛来した謎の発行体により、死亡した女子高生のヒカル。やがてその発行体=宇宙生命体のテンガイと同化し復活したヒカルは、テンガイが追っていた邪悪な存在であるメイルシュトロームを、寄生している人類の中から探し出し倒すことになる。『20億の針』というSF小説の下敷きもあり、オーソドックスなSFという印象でした。他人との関わりを排除している引きこもりふうイマドキ女子高生が、いかに人と交わり、人類を救うために成長していくのか、という点のみ興味あるかな、という程度。ところが! 全4巻のこの作品、なんと1巻で宿願を果たしてしまうのです。さらにはその後、漫才のような展開が! そこからやや駆け足になった感はありますが、心の成長物語をぎっしり詰め込んだ上で、よくもこの設定を盛り込んだもんだ、と感心。光るものがありますね。次回作『エスニシティ ゼロワン』が面白いのも納得。加工前のダイヤの原石を見たような、そんな気がする作品です。70億の針多田乃伸明2わかる
マウナケア2019/09/26はっぴいマン~爆裂怒濤の桂小五郎~つかこうへい氏(2010年7月永眠)に影響を受けた人はさぞやたくさんいることでしょう。この漫画の原案であるマキノノゾミもその一人。私、この漫画以前に舞台の「HAPPY MAN」を観劇したことがありまして、そのぶっ飛びっぷりに、「ああ、つかだな」と思ったものです。役者が男闘組の「DAYBREAK」を歌いながら客席からでてくるんだもんなあ(前田耕陽主役だし)。それはともかく、その舞台を下地にして石渡治が生みだしたのがこの漫画。幕末の英雄・桂小五郎を主人公に、激しくかつコミカルに動乱期を描いていくのですが、まあ史実否定派の私でもここまで脚色していいものかと言えるほどの改変っぷり。吉田松陰は女性、それに恋する土方歳三、髭の生えた竜馬にドエロな千葉さな子。極めつけは京都守護職・松平容保で裏の顔は劇作家のつかこうべいときたもんだ。明らかなでたらめで、大好きですこれ。でも決しておちゃらけではなく、そんな彼らが、誰もがハッピーに生きられる世を作るために奔走する異説幕末譚。最後が切ないですが、こんなアナザー・ストーリーもあっていいんじゃないでしょうか。HAPPY MAN石渡治 マキノノゾミ
マウナケア2019/09/26読む人を選ぶ作品同著者の『闇金ウシジマくん』よりもさらに息苦しく感じますね。何もかもに意味を見いだせず、イラついてばかりの青年が主人公のSF。暴力表現は『闇金』の現実的描写に対して、SF作品であるためにより過激。心理面でもそれに比例して深い部分までえぐらざるおえない。では、重く過ぎてつまらないのかというとそうではないのですね。ストーリーはむしろ好きな部類であるロードムービーふう。無為な日々をすごすシロウ。空から降ってくる少女。ルーシーと名乗る少女との生活と突然の終焉。謎の敵とシロウの消された過去。そしてかつての仲間を探す旅…、と矢継ぎ早でテンポ良い。キャラも個性的でぶっ飛んでいる。じゃあなんで息苦しいんだろう?と考えて見つけた答えは、過激描写のせいではなくて、短いページでシロウの救いのない閉塞感を感じてしまった、これじゃないかと。この辺のシロウの心中を素直に受け止められると、エピローグの全員寝そべるシーンが心に染みてくる思うんですが、どうでしょうか。う~ん、この作品もやっぱり『闇金』同様、読む人を選んでしまうかな。THE END真鍋昌平
マウナケア2019/09/26神戸在住海と山の間のわずかばかりの平地で18年間育った私にとって、神戸は好きな街、というよりは憧れに近い街。神戸初体験は受験のときで、海はあるわ、丘はあるわ、繁華街に異人街に大学に、そして食べ物もおいしいと、ほんの少しの滞在経験で街にひと目ぼれしたような感覚になり、住んでみたいと思いました。この作品を読むと、その時の気持ちがよみがえります。神戸の大学に通う主人公の女性のモノローグで話が進むエッセイ風漫画。神戸の紹介的な部分だけがクローズアップされてるわけではなく、そこに暮らす人々のようすや友達のこと、お祭りなどのイベント、出会いと別れ、そして震災と、街のさまざまな側面を描いていて、タイトル通りの在住疑似体験ができます。コマの間に入る手書き文字や、トーンを使わない画風などもあって、全体としてほんわかとした雰囲気。ですがドキッとするセリフも出てきて、作者の土地に対する誇りやこだわりがいいアクセントにもなっているよう。う~ん、やっぱりいつかは住んでみたいと思ってしまいますね。けれどもうしばらくはこの作品で我慢します。神戸在住木村紺5わかる
マウナケア2019/09/26「私、プロレスの味方です」「私、プロレスの味方です」という、直木賞作家の著書を知っている世代なら、この作品にも絶対ハマれるはず。舞台は昭和、格闘技ブームが到来する前のプロレスがおおらかだった時代。海外武者修行から帰国するも所属団体はすでに潰れており、成り行きでライバル団体のマスクマンとしてデビューすることになった男のアクションコメディです。とはいえ決してプロレスを茶化しているのではありません。血が滴り、肉が裂け、骨が軋むハードな試合場面や、興行の裏側にある大人の事情、アウトローの切なさなどを描くのが本筋。それに行き当たりばったり、意味不明なハッタリ、過剰すぎる演出などが挟み込まれる構成。娯楽要素が満載ってわけです。ドタバタもシリアスもひっくるめてこれがプロレスの醍醐味、と料理して出してくれるところが、私のような昭和からのファンにはたまりませんよ、ホント。しかしアグネスの名前の由来にはあきれましたね。ブラジルからの刺客だから…、ってそこで間違えるか! しかも実は何で間違えたかというとトホホな理由が。ま、それもプロレスですな。アグネス仮面ヒラマツ・ミノル
マウナケア2019/09/25成田闘争の話頭ごなしにやっても、いい結果にはならないですね。普天間にしても八ツ場ダムにしても周りは振り回されるだけで、結局残ったのは自然の破壊とやりきれない気持ち。日本人は過去から学ぶことができないのでしょうか。本作では成田空港開港に伴う顛末、いわゆる「成田闘争」が描かれていますけど、これなんかは私が生まれたころの話ですから、ほんの40〜50年ほど前の出来事。空港が建設されることが決まり、長い年月をかけて開墾してきた土地を奪われることになった農民たちの必死の闘争が、限りなく実話に近い形で描かれていて、現代に生きる私でも身につまされます。どこかで聞いたような「決めたから従え」という暴挙の果て…。土地とは何か。国との対立や利権がらみの大人の葛藤など、複雑な環境で育つ子供はどんな夢を見るのか。時代背景も違うしスケールや立場も違うけれど、投げかけられるテーマは今でこそ考えるに値する意味を持っていると思います。ぼくの村の話尾瀬あきら