マウナケア2019/09/04大勝負に臨むヒリヒリ感自堕落な日々、負け続ける人生、非生産的な毎日。人の足をひっぱり、何の積み重ねもなく、ハナからあきらめ、あげく罠にはめられる。こんな泥沼から這い上がれるとしたら…やっぱり賭博で一発逆転しかないでしょう。。アニメや映画にもなっているこの作品ですが、やはりこの漫画のほうが、大勝負に臨むヒリヒリ感がダイレクトに伝わってきますね。一世一代の勝負に挑むは最低の人生を送っている主人公・カイジ。しかし彼は単なるダメ人間ではなかった、というのがこの漫画の真骨頂。小細工から大芝居、ギリギリのところで脳細胞をフル回転させ、人の心理を読み、一度手からこぼれおちた未来を手繰り寄せる。心理ゲームの妙というより、そんなプロセスと、その結果がもたらすカタルシスに心が動かされます。さすがは逆境で輝く男という異名を取るだけのことはある。最後まで逆転のカードを持ち続けるタフさと恐るべき勝負度胸は尋常ではありません。見習いたいもんですな。あ、見習ったら破滅しちゃいますか。賭博黙示録カイジ福本伸行
マウナケア2019/09/04ラストはやはりスポーツ漫画だなとうなずけるドラマ性重視のスポーツ漫画って、クライマックスに向けた流れの作り方が大変だよな、と思います。現実を超えないとどこかで見た話になるし、かといってひねりすぎると現実感がぶっとんで興ざめしてしまうし。少し前ならドーハの悲劇、長野五輪ジャンプ団体。最近だと木村コーチ追悼試合で出た、同級生・谷の逆転満塁弾。これらまさに筋書きのないドラマに対して、生半可な脚色では太刀打ちできないよな、と。で、この作品は何をやったかというと、徹底的に焦らしたわけです。最初はフツーのボクシング漫画進行と思っていたら、主人公とライバルの対決が直前でお流れ。そこからが波乱の展開で地下に潜ったり、戦場に赴いたりとなかなか”宿命の対決”にたどり着かない。他作でもそうですが作者はこの寸止めの手法がうまくて、まんまと乗せられてしまう。焦らされた分の数々のドラマが、決着に向かって終盤にどんどん噛み合っていくのが心地いい。ずいぶん回り道をしたけど、ラストはやはりスポーツ漫画だなとうなずける、カタルシスがたっぷりです。B・B石渡治2わかる
マウナケア2019/09/04この物語は史実である古武術・陸奥圓明流の継承者、陸奥九十九を主人公とした『修羅の門』の外伝で、千年不敗の歴史の中で活躍した各時代の陸奥継承者を描くシリーズ。本編は現代劇ですが、外伝はほぼ時代劇ということもあって、より何でもありの内容。明朗活劇としては断然こっちのほうが楽しめます。何せ相手は宮本武蔵に柳生十兵衛、新撰組に西郷四郎。時代も幕末、鎌倉時代、さらにはアメリカ西部開拓時代と相手も時代も男子なら血沸き肉躍る設定ばかり。著者のストーリーテラーとしての才能がこの中で存分に発揮されています。その極め付けは2、3巻の幕末風雲編。著者の坂本龍馬への思い入れが半端じゃなく、また龍馬と陸奥出海の関係が青春ストーリーのようで、ついのめり込んでしまいます。本編、外伝通じてここまでまっすぐに友情を描いているのは珍しんですよね。結果、陸奥が主人公らしくなくて、まさしく外伝という体裁になっています。幕末ファンの方はひと言いいたくなる内容かもしれません。ですが、あとがきにあるように「この物語は史実である」と思って読んでもらいたいですね。修羅の刻 陸奥圓明流外伝川原正敏2わかる
マウナケア2019/09/03ひたむきに野球に打ちこむ姿プロ野球の人気凋落が叫ばれて久しいですが、あれはエンタメとしての職業野球がダメになってきているだけで、やっぱり野球は日本人の生活に根ざしたスポーツだと思います。高校野球の人気は不動だし、学校の授業や部活でもまだまだ廃れてはいないはず。漫画だってまだまだ少年誌にはいくつも連載されているのですから。で、少年野球漫画がなぜ廃れないかといえば、ひたむきに打ちこむ姿に青春を見るからではないでしょうか。この作品もそうです。のっけから廃部の危機にある稲葉中野球部。試合をすれば1点もとれずにコールド負けがあたりまえのへたっぴ集団が最後の試合に臨む。勝てなくてもいいからせめて笑われない試合をしようと思っても、やはり下手は下手。けれど泥まみれになりながら歯を食いしばってうまくなろうとする彼らの姿がここにはあります。この辺の感覚は自分も幼いころに味わったもの。ひたすらにひとつのことに没頭できる時代、うまくなることだけを考えた少年の日を描ききった良作だと思います。ヒットエンドランあや秀夫1わかる
マウナケア2019/09/03駅弁特急遠出をするときは必ず駅弁を買ってしまう。特急の指定席で絶景を眺めつつ食べる駅弁のうまいことといったらもう…。そんな私の至福の時を漫画でも再現してくれるのがこの作品。特急の解説+駅弁レポート、それに食事ポイント付きという構成がニクイです。各話の終わりには乗った特急のコラムを掲載し、豆知識もフォロー。また、巻頭にカラーで作品内で紹介している駅弁がずらりと並べられていて、情報誌のように紹介されているのも、食いしん坊にはたまりません。各話は短めのページ数ですが、その分、ポンポンと駅弁が出てきてギュッと詰め込まれているのもいいですね。冒頭で遠出と書きましたが、私の場合、東京から西は京阪神、東は仙台あたりまでが電車移動エリアなので、新潟や九州までもカバーしてくれているのがうれしい限りです。さすがにこの著者のように特急に乗り駅弁を食べるためだけに日本全国を飛び回ることはできませんが、この地方にいったら紹介されている駅弁はぜひ食べてみたいなあ。なんて思っていたら腹がすいてきた…。こりゃ、夜には読まないようにしないと。駅弁特急井上いちろう
マウナケア2019/09/03池上遼一画集「漫画を描く場合、自分の世界は抑えて原作者のイメージを膨らませることに腐心している」とのコメントが販売ページにありますが、そう言われると、個人の仕事であるこの画集の世界観は、数ある漫画作品と根本的な部分で違っていることがよくわかります。「人の心の動きを画にしたい」ともあり、描かれているのは快楽主義的で破滅的、欲望と道徳心の間で悶絶する世界。そう、本作に収められているのは、作家・池上遼一の本質はここにある、と言わんばかりの作品の数々なのです。何が素敵かって、エロチシズムを前面に出しているのにまだ何か隠していそう、といったもどかしさ、それと男の目線でしょうか。この画集に登場する美女たちの横に立つのは、漫画の主人公タイプではなく下卑た男のほうが似合う、と思っていたんですが、これってよく考えると願望交じりの男目線で描かれているからで…。まんまと同化させられてしまいました。巻末には短編ストーリーも収録されていますが、もちろんこちらもコンセプトは変わっていませんので、じっくりご堪能ください。阿羅紫~ARASHI~ 池上遼一画集池上遼一
マウナケア2019/09/03この世の中で私が美しいと思うもののひとつ、それがハイキックこの世の中で私が美しいと思うもののひとつ、それがハイキック。滑らかな動きとか、凄まじい破壊力とか、ではなくて、うまく言葉では書けないんですが、積み上げてきたものの浄化、カタルシスあるというか。そんなシーンを見るのがこの上もない幸せ。まあこれは自分でも何百回と練習したあげくに腰をブッ壊し、結局それを実体験として味わえなかった苦い過去があるからかもしれないんですが。それはさておきこの作品、緻密な絵柄に定評のある著者のアクションストーリーで、主人公・シバのライバルがハイキックの使い手という設定。まあすぐわかるのでばらしてしまいますがこの男は能楽師で、なぜかハイキックだけに固執する。その思い入れの強さにのめり込んでしまいました。見開きがうまくつながっていないのはちょっと残念ですが、何度も出てくる至高の蹴りに、ため息状態。どうせなら、主人公との対決に至るまでをもっと長くやってほしかったと思うほどです。お話の方がこれからのシバの歩む道を示唆して終わっているだけにねぇ。ただ私としてはこのハイキックへのこだわりが美しい絵柄で読めただけで満足です。赤×黒上條淳士
マウナケア2019/09/02昔話を読んでいる、という感覚この作品を読み進めていくうちに、あれっ、と気づくことがあった。それは、昔話を読んでいる、という感覚だ。怪異の原因を普通の人には見えない”蟲”のしわざと捉え、主人公である蟲師のギンコがその謎を解き明かしてゆく、というのがこの作品の筋立てである。舞台は山里であったり漁村であったりさまざまで、時代は江戸か明治といった風情。そこで怪異が起こる。そしてその怪異には理由があり、村人の回想でそれは語られる。子供のころ聞いた、「この山には昔々大グモが住んでいて…、だからこの池はいつも水が枯れないんだよ」といった祖母の話に似ている、と思ったのだ。なんともいえない懐かしさ。この作品にはそんなノスタルジーと、謎解きのカタルシスが同居して、素直に心に響く――。と、書いたところでもうひとつ思ったのが、どうも故郷を思い出す風景描写だな、ということ。私の田舎も夜になると、いまだに人以外の何かが徘徊していてもおかしくないようなところ。帰省の時期でもあるし、いい具合に里心がつきました。蟲師漆原友紀
マウナケア2019/09/02上手くハマったコミカライズ本格小説のコミカライズはたいていがっかりさせられます。なので本作を読むにあたっては少々慎重になりました。なにせ京極夏彦の傑作が原作。どうなることやらと思っていましたが…意外とうまくはまりました。事故で重傷を負い治療中の少女が忽然と消えた。事件の背後に絡みつく憑き物を落とすため、京極堂こと中禅寺秋彦が重い腰を上げる…と、端折ればこんな話ですが、本来は相当入り組んだストーリー。これを、ひと目見ればわかる漫画の利点を生かして、うまくまとめています。また描写で感心したのが、探偵・榎木津礼二郎の容姿。原作では超のつく美男子で、いまひとつイメージしにくかったのですが、なるほど少女漫画的なアプローチだとしっくりくるなぁと目からうろこでした。さらに思い切りの良さにびっくりしたのが、全5巻の3巻で犯人をばらしてしまうこと。で、残りの2巻はまるまる憑きもの落とし。読者の興味を冷ますことなく、ちゃんと見せ場へ導いてしかも枚数かけている。単純な推理小説じゃないこと、わかっておりますな。魍魎の匣志水アキ 京極夏彦1わかる
マウナケア2019/09/01時代ごとに変化するヒロイン像もう30年近くになりますか、映画「時をかける少女」が公開されたのは。主演・原田知世の雰囲気が映画の世界観にピタリとはまっていて、これ以外考えられない組み合わせだなあと、しばらくは思っていました。ところが月日は流れて、内田有紀主演のドラマ版を見たところ、あれ?これもいいじゃないの、ヒロイン像って時代ごとに変わっていいんだ、と認識を改めた次第です。だから、数年前に公開された同じ名を継ぐ実写やアニメ映画に、初代のイメージがなくなってしまっても、変に別物と意識せずに楽しめましたね。で、これらを原作にした漫画は本家も含め3作品あります。3作とも現代が舞台、またはアレンジがなされており、それぞれ良い部分がありますが、完成度の高いのはやはりこの作品。評判になったアニメ版のコミカライズであるものの、こちらも負けず劣らずの出来で、明るく伸びやかな主人公が、新しい時代のヒロインを演じてくれてます。また、巻末にはちょっとしたサービスが。これは初代を見ていないと?なエピローグなので、初代ファンはホロっとしてしまうかもしれませんよ。時をかける少女 TOKIKAKE筒井康隆 貞本義行 琴音らんまる3わかる
マウナケア2019/09/01チーズの漫画漫画TIMESってオヤジ漫画誌なのに、こんなキュートな絵柄の作品も連載しているからあなどれません。またテーマがラーメンや寿司じゃなくてチーズですよ。こんなオシャレ感全開でいいの?と思いましたが、なかなかの人情話になっていて、オヤジにもしっかり読ませてくれる王道漫画に仕上がっていました。主人公はフランス生まれの日本人・レミ。20歳でチーズ鑑評騎士(シュバリエ)の称号を受け、意を決して日本へ。その理由とは、日本でチーズの素晴らしさを広めるため、そしてまだ見ぬ祖父母を探すため…。その過程でさまざまな人との出会いがあり、そこにチーズが絡んでくる。うんちく漫画にはありがちな展開かもしれません。ですが、身近でありながら、日本人に知られていないことの多いチーズという素材を、うまく人生に結びつける構成はなかなかなもの。チーズの種類や歴史の説明もさっぱりしていて嫌味もなし。知識もつきますから、BARでのネタにしているオヤジもいるかもしれませんね。チーズの時間山口よしのぶ 花形怜
マウナケア2019/09/01ハードな伝奇アクション!大橋薫の双子の妹・楠桂。姉とは違い「サンデー」系での活躍が印象深く、その中でも代表作といえばこの作品。鬼の屍から生まれた純血の鬼が鬼を斬れば人間になれると信じ、唯一鬼を斬ることのできる刀・鬼切丸を手に人の世にはびこる鬼を斬るまくる、ハードな伝奇アクションです。描かれた当時は小説でも漫画でも伝奇作品が流行っていたころで、骨太な作品が多い中、女性漫画家の少年誌連載作品ということで気に入って読んでいたと記憶しています。鬼に憑かれた人間の救いのない結末、人間になるため鬼が同族の鬼を斬る終わらない矛盾。これらをうまく使って哀しい人間ドラマを作る、女性ならではの目線が当時印象的でした。『八神くんの家庭の事情』をはじめ、コメディーも得意とする著者ですが、私としては伝奇的な作品のほうが好み。漫画家としての本質も絶対こっち側にある、という想いもこめてこの作品を推したいです。鬼切丸楠桂2わかる
マウナケア2019/08/31寺尾玲子がかっこいい私が定期的にこの作品を読み始めてもう10年以上経ちますが、この手のオカルトっぽい作品が長く続くというのは、ほんとに珍しいのではないでしょうか。それは、恐怖報告という副題がついているにもかかわらず、怖がらせることに重点を置いていないからなのではと思います。著者である山本まゆりと友人で霊能力者の寺尾玲子が出会った奇妙な現象や、玲子の元に寄せられる心霊相談を受けての話を漫画化した構成。山本まゆりは他雑誌で霊能力者もののオリジナルを執筆していますが、本作では実録ということもあり、エンタメ要素を極力排除して怪異の核心を突くように描いています。で、読後に感じるのは、世の中不思議なことがあるもんだな、ということと、こういうことをするとこんな良くないことが起こるんだ、ということ。怪談落語や昔話にも通じる訓話めいた味わいがいいのですね。もちろん、魔を祓うという部分でのカタルシスもたっぷり。ひょっとしたら漫画にできないような失敗も…、なんて思わせない玲子のスーパーウーマンぷりがカッコいいです。魔百合の恐怖報告山本まゆり 寺尾玲子
マウナケア2019/08/31死んだ気になれば生きることぐらいはなんとかなるリストラされたサラリーマンの末路を描く、本宮ひろ志作品にしては珍しい内容の作品。職を失くし、家族には捨てられ、生きる希望をもてなくなった岡田憲三。失意のまま首を吊ろうと山に入るが失敗、そこでなにかふっきれてしまいサバイバル生活へ、というやけくそになった男の人生が描かれます。人の世話にならず、ただ食って生きていく、そう決めた男は強いです。明らかに眼つきも変わり、イノシシと格闘し怪我をしても医者の世話にならず、小屋も立て畑まで開墾してしまうってんですから。そんな生活をしながらも、決して文明や人間性否定という方向にいかない、というのも”ただ生きる”という意味で妙にリアル。火をつけるのにはライターを使うし、捕まえたイノシシを殺さなかったり、と単なる破天荒なサバイバルおやじになっていないのがいいです。で、私は思いましたね。人間、開き直ることって大切なんだな、と。死んだ気になれば生きることぐらいはなんとかなると。後ろ向きなタイトルだと思いましたが、年の瀬のアントニオ猪木の言葉と同じぐらい、その内容に勇気づけられました。まだ、生きてる…本宮ひろ志6わかる
マウナケア2019/08/31いまや漫画を読めば賢くなるという時代へ私が小学生のころは「漫画なんか読んでるとバカになる」と親に怒られていました。ところがそれを否定したのが当時の担任の先生。ストーリーを作るという事は、絵を描くという事は、ということを理路整然と語ってくれたものです。それから月日は流れました。そんな技術論について持ち出すまでもなく、いまや漫画を読めば賢くなるという時代になったようです。その最たるものがこの作品。なんたって「東大は簡単だ!!」と表紙に書いてあるもんね。落ちこぼれだらけの高校から、東大合格者100人!ってところはいかにも漫画チックですが、そのテクニックは、なるほど理にかなっている。実は簡単な問題が多い古典や漢文で点を稼げ、だとか、効率的に記憶できるから、記憶問題は寝る前にやれ、とか。高校生の時にこんな漫画があったら、といまさらながら思います。もし受験生がここを見ているなら、ラストスパートをかける前に読んでおくといいですよ。ドラゴン桜三田紀房1わかる
マウナケア2019/08/29子供の”食”に関わる問題と向き合う日本人なら誰でも、給食にさまざまな思い出があることでしょう。学期末のケーキが楽しみだったり、嫌いな食べ物とにらめっこして休み時間をつぶしてしまったり、なぜか腐った夏ミカンが机の中からでてきたり。そんな馴染み深い給食をテーマにとりあげた、少々変わったグルメ作がこれ。奇をてらっているのではなく、子供の”食”に関わる問題に真正面から向き合っていることに好感がもてます。主役は元名ランナーで栄養教論の坂上裕二と元レディースで学校警備員の稲島今日子で、このふたりのコンビが絶妙。栄養学の知識はあるものの料理はからきしの坂上と、粗暴だが料理はプロ級の今日子。坂上が生臭くないレバーの料理法で悩めば今日子がささっと作り、かと思えば坂上の熱血家庭訪問に今日子が無理やり付き合わされるなんてことも。人間ドラマの隠し味も程よく効いていて、バランスが非常にいい。栄養学、調理法、子供の精神面、そして社会問題などを盛り込んで、いろいろと考えさせられる内容になっています。私にとって最も気になったのは「油脂分の取り過ぎ」のくだり。あぁでもこれは手遅れか…。極上! 給食(秘)グルメ西村ミツル 野間ろっく
マウナケア2019/08/29生活少し前までは大ぴらに言えなかったような。でも周りにわりと多いんですよね、この著者の漫画が好きな人。最近、賞も取り人気が出たせいか、男女性別問わず幅広い層の人から「ファンです」という声を聞きます。世の中、消極的思考に寛容になってきたのか、それともダメ人間が増えてきたのか。正直どっちでもいいんですが、自分も今ちょっと心がささくれているので、その勢いで取り上げてしまいます。この作品はフリーターのオレと、正義感溢れる僕、謎の美少女のリーダー、そして妻子持ちのオジさんが、自警団を結成し解散するまでの顛末記。こう書くとカッコいいですが、もちろんそんなことはなく、屈折したニートである僕はワイヤーで悪人を吊るすし、オジさんに至ってはトンカチを手に無礼な若者を殴る通り魔。で、手段があまりに陰湿なため、弱者が強者を倒すという爽快感があんまりない。著者の4コマ作品にあるネガティブさとは別のテロリズム的”毒”が盛られまくっています。ただそれもここまで徹底すれば心地良い…。なんて絶賛すると病んでると言われそうですが、まあいいや。生活福満しげゆき20わかる
マウナケア2019/08/29藤田和日郎のデビュー作を含む短編集今でも理由はわからない。20年ほど昔、私がまだ大学生だったころ。読んだこともない「増刊少年サンデー」を買ってしまった。そしてある漫画わざわざ切り取ってファイリングしたのだ。人に見せたとか、レポートの参考にしたとかの記憶は一切なく、なぜそんなことをしたかは不明。しかしその作品で賞をとったその著者は、今では大人気作家として雑誌を支える存在になっている。その漫画とは『連絡船忌奇譚』であり、藤田和日郎のデビュー作だ。表題の短編集に収録されているこの作品を読むと、何が目にとまったのかはよくわかる。全体的に薄暗いトーンに目に見えない悪魔的な存在、そして魔を断ち切る妖刀。著者もインタビューで語っているが、当時私も傾倒していたスティーブン・キングの影響がありありとでている。それに漫画的な狂言回し役を放り込んで一丁上がりという、デビュー作ならでは荒削りな作品ではあるが、シンパシーを感じるところがあったのだろう。だが結局、短編集としてのコミックスは買わずにいた。なぜならいまだにファイルが手元に残っているから。不思議な話である。藤田和日郎短編集 夜の歌藤田和日郎3わかる
マウナケア2019/08/28黒鷺死体宅配便うわあ、これは読む人をえらんじゃうなあ。タイトル通り、全編に死体がゴロゴロ。バラバラ死体やミイラはまだいいとしても、ウジ付き腐乱死体や臓器を抜かれたツギハギ死体、生首ご一行様に耳人間(?)…。スレスレですね…。しかしながらこれがちゃんと漫画として成立しているのは、登場人物がそんな死体を特別なものだと思ってないから。生きている人や単なる物質と変わらない接し方をしているのです。また、設定も寺の跡継ぎではない仏教大学の学生が特技を生かして起業する、とい今ふうで、湿っぽいところがない。さらにその特技もハッキングやチャネリング、エンバーミングにダウジングと横文字でなんともクール。主人公・唐津だけは日本古来の降霊術・イタコなんですけどね。そんな彼が死者の声を聞き、望む場所へ死体を運ぶことで、さまざまな人間ドラマが生まれるという寸法。唐津に憑く謎の霊など先への伏線あり、ニヤリとするサプライズあり、シャレの効いたオチもありと乗せ方もうまい。なので先入観なしに読んでほしいなあ。黒鷺死体宅配便大塚英志 山崎峰水
マウナケア2019/08/28聖闘士星矢の正当なる続編やっぱり、オールドファンとしては同じようなタイトルが並んでいたら、こっちを取ってしまいますね。あの『聖闘士星矢』の正当なる続編の登場。そう、まさしく続きの作品。『リングにかけろ』が〝2〟として復活しましたが、こちらは世代変わりしていて、徐々に先代の偉大が重荷になり、オリジナルとは違うカタルシスのないラストになってしまいました。でも、こっちは続きなんですから世界観もそのまま、主人公は変わりましたが瞬も一輝もあの時のまま登場。変な気負いも感じることなく、安心して読めます。また、ストーリーの引っ張り方もあの時のままで「次、こうなるだろうな」わかっていても先が気になって読み続けてしまう。昨今、緻密ですばらしくきれいな作画をされる漫画家は多いですが、この読ませてしまう圧倒的な漫画力は漫画黄金期のトップを張っていた漫画家じゃないと出せないものだとつくづく思います。新しい要素としてはこの作品は全編カラーに。できればCGじゃなく、〝ブーメラン・テリオス〟ばりの色塗りを見たいですが、それはぜいたくかな。聖闘士星矢 NEXT DIMENSION 冥王神話車田正美1わかる
マウナケア2019/08/27静から動、動から静への転換が見事表紙を見て何が描いてあるのかさっぱりわかりませんでした。さらにページをめくって数ページ読んでも何が何やらわからない。こりゃとんだ一杯食わせもんか、と思っていたら…、さすがマンガ大賞ノミネート作だけのことはあります。ストーリーが進む中での静から動、動から静への転換があまりにも劇的で息を飲んでしまいましたよ。失業中の佑河樹里と父・貴文と兄・翼、そしてじいさん。序盤はこの家族のちょっといや~な日常でスタート。そこに甥・真が加わり、ある事件が起こります。そして佑河家に代々伝わる術の使い手であるじいさんは、その危機から脱すため力を使うのですが、ここでの間のタメが実に見事。一瞬何が起こったのかよくわからない、とはまさにこのこと。そして表紙に描かれていた異形の存在・管理人の出現。このあたり、人がたくさん出てきてよくわからなくなってきた場面でしたが、そこにピシッと楔を入れられた感じ。止まった時の中が舞台だけに、このメリハリのつけ方は効いたなあ。刻刻堀尾省太2わかる
マウナケア2019/08/27シベリアンハスキーブームを巻き起こした漫画この作品が大ブレイクした当時、モデルになった北海道大学能獣医学科の受験者が激増したそうで。バブルのしっぽの時期でもあって、シベリアンハスキー犬を飼うことがブームにもなってましたね。で、少し落ち着いたころに、ドロップアウトした人が多かったとか、犬が大きくなりすぎて困ったとかというオチがあって…。私も相当ハマっていたので、流行ったころが受験前だったら、下手をすればこの人たちと同じ運命だったかもしれません。チョビみたいな大型犬と遊びたいなあとか、こんな感じの人と研究できたらいいよなあ、とか本気で思ったかも。ただ、そのころ私は同じように生き物を扱う農学部に在籍しており、変に憧れるところがないぶん、けっこう冷静に読んでいた気がします。特に登場人物の個性的な設定については、菱沼さんや漆原教授みたいな人が身近にいたこともあり、実際いたらとんでもなく迷惑、と実感してましたから。むしろ、そんな人たちをコミカルに描けるなんて、漫画恐るべし!と感じた作品です。きっと『銀の匙』でも同じような現象が起こるんだろうなあ…。動物のお医者さん佐々木倫子1わかる
マウナケア2019/08/27こち亀おそらく最初に読んだ少年誌掲載漫画の単行本だと思います。小学生高学年のころかな?友達の家に7巻ぐらいまであって、遊びに行くたびにみんなでむさぼるようにまわし読みしていました。この作品を見て、子供ながら東京の下町に憧れましたっけねえ。その影響は後々まで残っていて、上京したとき、まず最初に浅草見物にいったほどです。そんなこともあり、かなり思い入れのある作品。特にお気に入りは幼少のころ読んだ初期の劇画タッチの時代です。当時、両さんは現在のキャラとは違っていてワイルド、というよりもバイオレンス警官。消えてしまったキャラである、どこから見ても反社会的勢力の人のような戸塚とともに、はちゃめちゃな行動をしていたものです。両さんに憧れるタバコ屋の娘・佐々木洋子なんてのもいて、どこか映画の寅さんチックでした…。とか言いながらも、機会あるごとにちょこちょこと現在まで読み続けてるんですけどね。せっかくこんなにリリースできたのですから、未読のエピソードをつぶすために、少しずつ読んで完全制覇を目指すことにします。こちら葛飾区亀有公園前派出所秋本治1わかる