マウナケア2019/10/16俺たちのフィールド主人公・和也が成長して、高校選手権を制し、Jリーグ昇格を目指し、日本代表に入り、そしてW杯最終予選へ。そこに至るまでのドラマチックな展開と並行して、私は仕事でどっぷりサッカーに浸ってました。読んで学んで見て聞いて探して選んで行って試して頼んで待って集めて賭けて書いて書いて書いて…。今回より次の試合、今日より明日、今より一秒後。日本代表が確実に強くなっていくことを信じていた時代。高揚感がダブるんですよ。全然違うのに、31巻の伊武が見た光景は、私が真っ白になった後に見た光景そのままに思えてくるんですから。私でもこうだから、あの熱狂をリアルタイムで体感した人にとって、感極まるシーンは必ずあるはずです。1巻と最終巻の表紙を同じ構図にするとか、成長物語としての演出も粋で、もう感涙モノの一作です。俺たちのフィールド村枝賢一2わかる
マウナケア2019/10/16古き良きバイオレンスアクションの痛快作一般的に「現代版仕置き人」という認識の本作。第一部にあたるパートはまさにそうで、ヤクザにチンピラ、汚職刑事に悪徳政治家、金持ちのバカ息子に結婚サギ野郎と、わかりやすい悪党を黒き天使たちが打ち倒す、という日本人が大好きな勧善懲悪ストーリー。法で裁けぬ悪に天誅をくらわす、しかもその手段が暗殺、という昨今の少年漫画ではまず見られない内容です。またこの悪党が、まるで改心のかけらも見せない”ド外道”なんですよね。なので死んで当然と割り切ってしまえる痛快さがこのころにはあります。この第一部の印象が強くて以降のストーリーは忘れられがちですが、この後、革命をもくろむ竜牙会との死闘を経て大震災後の日本へと舞台は移り内容は一変。少年ジャンプの王道パターンともいえる力のインフレ化を起こし、やがては超能力バトルにまで発展してしまいます。ここまで無茶苦茶しなくてもとも思いますが、やはり漫画の本質はよくできたウソですものね。延々と暗殺を繰り返す内容でも、ちゃんと虚構とわかって読まれていた、良い時代に存在した奇跡的な名作だと思っています。ブラック・エンジェルズ平松伸二1わかる
マウナケア2019/10/15殺人ゲーム私が読んだときは、解説に「殺人ゲーム」なんて言葉があっても、ちょっと萌えっぽい絵柄に、ほわんとしたタイトルだから…、と常識的な見当をつけていたのです。でもそれは大間違いでした。この作品、私が今まで読んだ漫画の中で5本の指に入る凶悪な漫画といってもいい。主人公・雪輝の仮想世界に居るはずだった神=デウスが仕掛けた、未来を予知する日記を巡る12人によるサバイバルゲーム。勝ち残れるのはたったひとり。味方も信じられない闘い、というのはよくある設定ですが、特筆すべきは雪輝の絶対的な味方である由乃という女性。彼女がこの作品のキーパーソンであり、めっちゃクセモノなのです。こんなヒロインみたことない。イッちゃってるどころではない。具体的なことはばらさずにおきますが、首が飛んだり串刺しになる描写よりよっぽど怖い。心して読むべし。未来日記えすのサカエ4わかる
マウナケア2019/10/15海外でも通用する横山光輝の代表的なSF作品である「バビル2世」や「鉄人28号」と比べ、この作品は海外でも通用するようなそんなクールな印象。「風の谷のナウシカ」の宮崎駿的な、少し人類を突き放した視点で物語を描いている、といえばいいでしょうか。設定も子供向けSFではありません。主人公のマーズは過去に地球を訪れた異星人が地球を爆破するためにセットしたキー。彼がロボットに命令するか、もしくは死ぬことによって爆弾が作動し、世界は破滅することになります。ただ彼は火山活動の影響で予定より100年ほど早く目覚めてしまい、地球人が危険な存在になった場合に地球を爆破させるという使命を忘れてしまっている。目覚めたマーズは人類をどうみるのか。地球を滅ぼさない選択をしたマーズと、彼の監視者である同胞との戦いの果てに待つものは…。多分に警告的なラスト。描かれた当時は米ソ冷戦時代でそれから30年以上経ちました。まだ半世紀以上余裕はありますが、現在ならマーズはまずどんな選択をするかな、と思わずにはいられない内容です。マーズ横山光輝
マウナケア2019/10/15原作・雁屋哲、作画・島本和彦さすが原作・雁屋哲。これでもか、といわんばかりに魅力的なエピソードを詰め込んでいいて、その引き出しの多さに脱帽します。終末兵器をめぐる超忍組織・恐車と神魔の壮絶な闘い。そこには敵味方にわかれてしまった者の悲哀があり、鉄の掟に従わなければならない不条理が。ほか、政府の陰謀という政治的な匂いも漂わせつつ、必殺技のグレードアップというエンタメ性も強調し、四天王や巡回処刑人といった言葉のセンスの良さも持ち合わせる。作画が島本和彦じゃなかったら、相当ハードな作品に仕上がっていたかもしれません。ですが、逆にいえば普遍的なテーマなので、シリアス系の作画だとベタな忍者アクションになっていたかも。だからこそ熱血ギャグ仕立てのこの作品は、異彩を放っているんでしょう。当時の島本は新人。片や雁屋は「男組」で名を挙げた一流原作者。その原作をここまで自分流に解釈してしまうとはなんたる度胸か。しかも一時『炎の転校生』と連載時期が重なっていたなんて。その心と体の強さを知ってしまうと、やはり島本和彦にもスゴイと言わざるおえません。風の戦士ダン雁屋哲 島本和彦
マウナケア2019/10/15赤塚不二夫の愛猫「菊千代」我が家には猫が三匹おります。で、彼女たち(すべてメス)を見ていると、こいつら何考えてるんだろう、と思うときがあります。しゃべれたら何を言うかな、などと。ということでこの作品。愛猫家としても知られる作者の作品には、けっこう猫が出てきますね。最も知られている猫キャラはニャロメでしょう。ただしニャロメは脇役。堂々主役を張っているのが、作者が愛してやまなかった愛猫が活躍するこの作品です。オチのコマに本物の菊千代の写真を使ったりして猫バカまるだし?なのがいいんだなあ。お金持ちの猫という設定だけど、ニャロメほど嫌味もなく、ずるくてとぼけたキャラなのも猫らしくて好感。そういえば本物の菊千代も死んだまねが得意でしたしね。作者も菊千代がこんな風にしゃべれて遊べたらいいのに、なんて思いながら描いていたのに違いありません。きっと天国でも仲良くやっていることでしょう。花の菊千代赤塚不二夫1わかる
マウナケア2019/10/13エロイムエッサイム 我は求め訴えたり鬼太郎シリーズに次ぐ、水木しげるの代表作といえばこれですね。ほかに貸本時代の作品集「水木しげる貸本傑作選 悪魔くん」というのもありまして、こちらはその後年に執筆されたもの。実はストーリーやテーマの部分では、前者の暗い雰囲気のほうに惹かれる部分が多いのです。しかし、やや一般的にアレンジされた後者のこちらを選んだのは、圧倒的な描写力、特に絵画的に描かれるようになった背景にシビれたから。貸本時代に比べて月日がたっているので、描写力が上がるのは当然なのかもしれませんが、この質感のある背景のド迫力は何なんでしょう。スクリーントーンを使わず(この時代にはなかった?)、描き込みだけで表現された濃淡。真骨頂である点描の美しさ。巨大な妖怪や異様にうねる蔓、異世界の風景などは匠の技の賜物です。それでいて、あのペーソス感のあるメインキャラと平行して存在しているからすごいよなあ。悪魔くんは千年にひとりの天才という設定ですけど、それは作者にもあてはまるというのは言い過ぎでしょうか。悪魔くん水木しげる
マウナケア2019/10/13子供のころに読んでトラウマになったブタと呼ばれることに反発しダイエットを試み、痩せたものの逆に骨と皮ばかりになってしまった少女。やがて髪が抜け、肉がこそげ落ち、少女は文字どおり骨だけになって死亡。少女をいじめていた級友たちは祟りを恐れ、恐怖の日々をおくり…。子供のころに読んでトラウマになったなー、ってことしか思い浮かばない著者の、比較的最近の短編集がこれです。表題作の絵柄は以前と比べやや丸くなったような印象を受けますが、あいかわらず視覚的にグイグイとくる描写は健在。少女が骨だけになってからがその真骨頂で、おどろおどろした胸が苦しくなるような描写で、読む者の心にストレートな恐怖を植え付けてくれます。それにしても、単調で柔らか味たっぷりのキャラが崩れていくさまが、なぜこれほどまでに気持ち悪く思えるのか不思議。本短編集にはかなり昔の絵柄の作品も収められていて、わりとシャープなそれと比べてもはるかに凄惨な印象。現在の画風に至るまでにはどんな紆余曲折があったのか…。この恐怖表現方法の確立って、意外にもの凄いことなのかもしれません。骨少女日野日出志1わかる
マウナケア2019/10/12この発想はなかったいや~、この発想はないです。主人公は手ですよ、手。解説にはおばけなんて書いてありますが、そんなオバQ的なかわいらしさはまるでなくて、ひたすら不気味。これで酒は飲むはおねしょはするはでシュールという次元も突き抜けてしまっています。元ネタはおそらく「アダムス・ファミリー」か、とは思いますが、後の漫画につながっているかというと…、まさか『寄生獣』!?なんてことはないですよね。日本漫画界において唯一無二の存在なのではないでしょうか。お話はいたってほのぼのしたホームコメディ。なぜか浜辺に埋まっていたところを、潮干狩りにきていたキヨシに掘り出されて、そのまま居候することになった手っちゃん。一見するとペットのようですが、いたずらはする、恋もする、歯も抜け変わるし、エリートサラリーマンにもなって、最後は子供まで…。書いていてもよくわからないんですが、やんちゃな少年の成長記という印象で心が温まります。それにしても手っちゃんに目がある、というくだりは絶句もの。あ、これなら『寄生獣』につながるか?手っちゃん古谷三敏4わかる
マウナケア2019/10/11読んでみたナルホド、こんな話でしたか。この作品は、アニメがオリジナル。私が過去に雑誌の仕事をしていたころ、宣伝マンの方に熱心に勧められたことで、記憶に残っているタイトルでした。それを今なぜ引っ張り出してきたか。それは、パチスロで出てるからなのです。ご存知の方も多いとは思いますが、パチスロ版は現在大人気の機種。ただし『あしたのジョー』や『リングにかけろ1』、『エヴァンゲリオン』などならばわかりますが、こちらは一般ウケしなかったアニメということもあり、内容がまったくわからない。打っていていまひとつ演出の意味が不明で気になっていたんです。コーラリアンって何?とか、キャラクター設定とか。英雄を父に持ちながらも、平凡な日常から連れ出してくれる”波”を待つ少年・レントンと、軍を脱走しゲリラ組織ゲッコーステイトを率いるホランド、そして謎の美少女エウレカ。演出から類推はできるものの、セリフの重要度など深い内容がわかって、ずいぶんパチスロも楽しめるようになったかな、と思います。無論、勝てばの話ですが。交響詩篇エウレカセブン片岡人生 BONES
マウナケア2019/10/11ビバ!農業!!大学は農学部、田舎育ちで母方の実家は牛を飼っていたり、近所には東京農大もある…と、私にとって懐かしくなじみ深い話題がたっぷり。この漫画、ネタっぽく受け取られるかもしれません。ですがこれ本当(たぶん)。ウチのほうじゃ、鳥のつついたみかんは甘いってんで農作業の合間に食っていましたし、冷凍庫開けたらつぶした子豚がこっち向いて入ってたこともありました。豚の去勢シーンも、やったことあるからこそ自主規制に納得。私はすでに農業と離れているのでクスッと笑えるという感覚でしたが、身近に農業を感じている人は、半端なく共感してしまうはずです。そして農業に縁のない人には、農家がいかに大切かがわかり…って話ではないのですが、小豆がなくなると郷土銘菓・赤福が食べられなくなると知り、無条件で農業を応援したくなりました。ビバ農業と言っておこう。百姓貴族荒川弘3わかる
マウナケア2019/10/11見た目は大人だけど中身は小学五年生非常に違和感のある表紙…。この涼しげな目元のイケメンは、なにゆえランドセルをしょっているのか…。などど思って読んだら何のことはない、このコ、あつしクンは見た目は大人だけど小学五年生。そんな彼が姉・あつみと巻き起こすドタバタの毎日を描く、というのがこの4コマ漫画なのです。あつみは高校生だけど小学生サイズというのもミソで、この対比がうまく効いていて、大人と子供に見えるのを利用し利用され、見方によっては弟萌えであったり、姉萌えでもあるようだし、ツンデレっぽくもある、といろいろと楽しめてしまうのですね。まあ、やっていることはけっこうワンパターンで、エロ本を買いに行かせられたり、抱きついた巨乳の先生をクラクラさせてしまったり、同級生と歩いていても変質者呼ばわりされたりと、あつしクンはいつもさんざんな目にあってます。ですが、大人に見えてもそこは純真な小学生、泣きわめいたりするのがちょっとほほえましく思えてしまうかも? 4コマ漫画のテンポにこの設定が良くあっているなあ、と読むほどに思えてきます。リコーダーとランドセル東屋めめ
マウナケア2019/10/11利権を賭けてイタリアのマフィアと日本のヤクザがサッカーで対決するお話サッカーW杯を観ていて、今さらながら刺青を入れてる選手が増えてることに気付きました。プロレスならまだしも、接触の多い競技だし、免疫のないお国柄の選手だと威圧されないのか? だったら本物でもいいじゃん、と紹介するのが本作。横浜の利権を賭けてイタリアのマフィアと日本のヤクザがサッカーで対決するというお話です。サッカー通で知られる著者だけに、こんなタイトルでも実は正統派サッカー漫画では、と思ったらとんでもない。ヤクザ側のエースこそ元本職ですが、他はチンピラの寄せ集めチーム。レッドカードをエロ写真にすり替えるなんて序の口、ビー玉で目つぶし、ラインズマンの肩を脱臼させ旗をあげさせなくする、などまともなプレーはほとんどなし。無邪気でえげつなくてハードボイルド、というごった煮感がたまりません。勝つためには何でもする、この強い精神力、まさか日本代表への提言…ではないですよね。ちなみに同著者の作品で『騒世紀』という女子サッカー漫画もありますが、こちらもなでしこにはマネしてほしくないです。極道イレブン望月三起也
マウナケア2019/10/10『弁護士のくず』作者・井浦秀夫のホラー・コメディ『弁護士のくず』で小学館漫画賞を受賞した井浦秀夫のホラー・コメディ。『弁護士~』が異色弁護士の活躍する、ためになる系ドラマであるのに対し、こちらはタイトル通り、なんとも気の抜けた感のある作品です。妻を亡くして5年がたち、新しい恋人との結婚を考えはじめた漫画編集者。そこに死んだ妻・美保が幽霊になって現れて起こるひと騒動。古典怪談をなぞっているかのようなストーリー、昭和チックな絵柄と、『弁護士のくず』よりはるか以前に描かれたことがうかがえてその差に驚いてしまいました。ですが、読み進めてやっぱり同じ作者なのだなあと思うところも。人間の描き方なんですよね。主人公優作は美保の幽霊と恋人の間でふらふらして 、それはダメだろうと思わせる描写でコミカルを演出しながらも、妙に説得力のある正論をかましてどっちがいいのかわからない問題を納得させる。基本構造はよく似てるじゃないかなあ。『弁護士~』には思い入れがあるので、作者の基本姿勢ぽいところが垣間見れたのがうれしかった。まあ、そんな見方をする人は少数派でしょうが…。うらめピー井浦秀夫
マウナケア2019/10/09『監察医朝顔』のコンビによる一風変わった構成のホラー『監察医朝顔』のコンビによる一風変わった構成のホラー。何が変わっているかというと、アンサーソングならぬアンサー怪談とでも言いますか、謎の美少女・月夜が、聞き出した怖い話のお返しに、少しだけ違った内容の怖い話を語る、という筋立てなんですね。月夜が聞く立場の怖い話は、キャラが柔らかいタッチで描かれ、逆に月夜が語る場合はよりリアルでシャープになっているという、驚異の人物描き分け技術をもつ著者ならではの凝った構成なのです。しかも同じストーリーをなぞる部分でも、単にコマ割りを変えました、というのではなく、構図ごとごっそり変更。より悲惨な話になるように工夫もされてます。また主人公の月夜も、語り始めるときはおちょぼ口がワニのようにぐっと広がるように描かれて、恐怖の案内人に適した風貌になるという芸の細かさもあり。この作品はずいぶん前に首都圏の駅前で配られていた無料マガジンに連載されていて、実は私、これ目当てで入手していたのですよ。単行本になっていない話もあるのでそれも電子化できるといいのですが。朧 OBORO木村直巳 香川まさひと1わかる
マウナケア2019/10/09電気を作る人々『包丁人味平』など知られるビッグ錠が電気を作る人々に取材を重ねて描いた力作です。この作品で取り上げているのは水力発電の現場で、そこにはダム工事のために働き完成を見ずに去る発破師がいれば、安定して貯水するために各取水口を確認して回る求水師がいる。彼らのような人たちがいなければ文明の火は灯りません。現代は食品や工業製品など、最終生成物は知っていてもその過程はブラックボックスになっていることが多くて、何が原料で加工の現場で何が起こっているかに注意を払うことがない時代。ですがそこには確実に人の手が入っているわけで、その存在の大きさをこの作品はリアルに感じさせてくれます。年末の選挙ではエネルギー問題に対する姿勢がクローズアップされることでしょう。ですが、震災から今日まで、この作品で描かれているような、「電気を各家庭に届ける」人たちのことについて、あまり見聞きしたことがなかった気がします。この時期に読んだのも何かの縁。なので、こういう人たちに触れた演説をする人がいたら、選挙では一票入れようかな。発電ドクター走る!ビッグ錠1わかる
マウナケア2019/10/09スーパーウーマンを派遣します聞いた話ですが、たまに派遣社員でもホントにスーパーマン(ウーマン)っているみたいですね。何でもできちゃう、資格もスゴイの持ってる、でも短期でしか仕事をしない。で、この漫画はそれを地で行くスーパーウーマンが活躍するお話。SEにCADオペレーター、看護助手に選挙プランナーと、異業種を渡り歩き、毎度事件に巻き込まれる。あぁデキる女はツラい、ってなストーリーです。ただ、この主役の蜂矢銀子、切れ者で妙にエロっちいのですけど、オトコに弱くコミカルすぎ。なんかもう台無しって感じですが、なまじ各業種の生々しい部分を題材にしているだけに、これが良い狂言回しになる。息苦しくなくて脱力するのがいいです。主役で息抜きというのもアレですが…。またこの作品、巻末にあとがきがついているのですが、これがまた作画家の人柄がにじみ出てて良い。全6話の取材裏話やちょっとしたネタばらしのほか、キャラへの思い入れについてのくだりもあり、あとがきのおしまいまでいい味出してます。派遣社員 お銀神尾龍 落合尚之
マウナケア2019/10/07実在の人物・平賀源内を題材にした物語松本零士作品の中では珍しい部類である、実在の人物・平賀源内を題材にした物語。微妙にSFテイストも入っており、ある意味、とてもロマンチックな作品になっています。というのも、この作品は源内の親友である赤松の精蔵の視点で描かれていて、その目線というのが、著者の思い入れまるだしなんですね。著者の特徴であるモノローグのせりふもいつもより気持ちが入っていて、どんだけ詩人なんだよっ、て突っ込みたくなります。ストーリーも、冒頭こそ新しい技術に胸を躍らせる青年時代の源内と、彼といっしょに伊予から出てきた少々抜けてる精蔵と、わかりやすい主人公と脇役という設定なのですが、やがてこの関係も思い入れが強すぎて微妙に変化。2人が歳を取ってからはなんとなく関係が逆転してしまうことに。読めば精蔵は著者の分身であることは明らかで、まるで「俺が友を語るんだ」といわんばかり。この辺、あとがきにネタばらしがありますが、たとえ書いてなくても「昔からの知り合いのような気がしてきた」なんて気持ちだだ漏れですよ。GENNAI 平賀源内~明日から来た影~松本零士
マウナケア2019/10/07一直線に突っ走る勢いのある漫画ああ、足首を首にひっかけてクルって回るプロレス技の…というボケが、タイトルの意図として近いのか遠いのか。解説には史上最大の親子ゲンカ勃発!とありまして、おやおや『グラップラ―刃牙』ですか、とまたしてもボケを入れてしまいますが、これ正確には親娘ゲンカ。不良娘・美矢と政治家の父との凄絶なバトルなのであります。といっても暴れているのは美矢だけなのですが。あらすじをかいつまむと、ちょっとしたコミュニケーション不足で一方的に父を憎むようになった娘の反抗…、と、普遍的テーマの話。悪く言えばありきたり。けれど、こんな一直線に突っ走る漫画って結構好きなんですよね。「ドカッ」とか「ゴゴゴゴ」とか擬音もたっぷり、絵も動きがあってしなやかで展開も早い。また、そんなハデハデしい中、場面に応じて美矢の瞳に演出を入れている細やかさもいいなあ、とも思ったり。つまらないオヤジギャグをかましてしまう、そんなオッサンでも気分が高揚したり感心したりする勢いのある漫画。若さがあって気持ちがいいです。フランケンシュタイナー稲光伸二1わかる
マウナケア2019/10/07缶コーヒーを共通の小道具にしたオムニバス作品缶コーヒーを共通の小道具にしたオムニバス作品。グラビアアイドルを引退して田舎に帰る女性や、母親に複雑な感情をもつ少女、夫の浮気を勘ぐる妻、友人の葬式で再会した同級生などなど、11編のショートストーリーが展開されています。私、この手のくくりのある短編集ってわりと好きなんですよね。学生のころに短編の自主映画を作っていたことがありまして、そのせいで映像にした場合を思い浮かべてしまうので、妄想を膨らませて読むのが楽しくて。漫画だとロケ地がいろいろ選べていいなとか、映像の尺にすると10分ぐらいかな?とか、もうすっかり監督気分です。まあ客観的に見てもこの作品は写実的なので映像化向けだし、主人公の設定や年齢に幅があり、なおかつオチの付け方も笑いあり涙ありで、万人受けする内容だとも思いますし。飲料メーカーのスポンサーでもつけて、テレビの深夜帯で誰か映像化してくれないかなあ。最後のルポ風の作品は震災関連ですが、それも含めてそれぞれの話がコンパクトに高い完成度でまとめられているので、値段分の価値はある内容です。旅する缶コーヒーマキヒロチ2わかる
マウナケア2019/10/07読み手を選んでしまうナンセンスギャグ漫画ギャグ漫画にもいろいろあります。本作はそのジャンルの中でも好き嫌いが激しいというか、読み手を選んでしまうナンセンスギャグ漫画。どう思うかは感性に委ねられる部分が大きくて、人に薦めるときに面白さを説明しずらいんですよね。なので読むきっかけを見つけてみました。まず、この絵柄って見たことないですか? 著者はイラストでも有名で、かつて「COMIC QUE」の表紙も手掛けた方。本作は少々昔の作品で絵柄は古いですが、本編の巻末にカラー描き下ろしがあるので、こちらを見ればサブカル好きな人は「ああ、あの絵か」と思うはず。また「小学館新人コミック大賞」入賞作という箔も付いてます。さらに上下巻をセットで買うと付録本がついて、なんと古屋兎丸やしりあがり寿、押切蓮介のイラストを掲載! これで興味を持ってくれたなら、あとは主人公・森繁アユコの大暴走に付き合うのみです。赤塚不二夫もびっくり、吉田戦車も真っ青。なんて言うと大げさですが、この不条理感は数あるナンセンスギャグ漫画の中でナンバーワンだと断言します。森繁ダイナミック桃吐マキル 福耳ノアル1わかる
マウナケア2019/10/06旭山動物園のドキュメント風漫画走るキリンって生で見たことあります? 私、ここで見てビックリしたんですよね。ってことでこの作品、テレビ番組や書物で有名になりました、”北の奇跡”旭山動物園のドキュメント風漫画です。この作品、全3巻まるまる使って、廃園の危機から復興するまでを描くのかと思ってましたが、そのあたりは第1巻に集約。第2、3巻は人間と動物の関わり合いを中心にしており、フィクションを織り交ぜた展開。なので2、3巻は目新しい話ばかりで、動物の生態を解説したガイドブック的な内容も数多く含まれています。地元の人以外にとって簡単に行けるところではないですが、これを読むと行ってみたくなりますね。しかしながら私、第1巻は社会人、特にサービス業に携わる人によく読んでもらいたいとも思っています。ただ工夫しました、だけでなく、それをいかにして知ってもらうか、味方を増やすにはどうすればいいのか。現在の人気を勝ち得た努力もしっかり描かれていて、このお話に、そういう側面もあることを感じてもらえると思うのですがいかがでしょう。ASAHIYAMA-旭山動物園物語-本庄敬 森由民
マウナケア2019/10/06一味違う切り口の時代劇私が山田芳裕作品を知ったのは、わりと早くて「大正野郎」の単行本が出たころでした。弟の部屋に本が転がっていて、最初は「なんてレトロな絵なんだろう」と思って、あまりそそられなかったんですが、ページをめくっていくうちに、ついつい読み込んでしまっていました。なぜなら、どうしてこんな地味なところを突けるんだろう、という着眼点の凄さと、それを作品にまで仕上げるパワーに心ひかれたから。「大正野郎」はタイトル通り大正時代にこだわっています。そしてその後もスタイルには大きな変化がなく、今作ではこだわる部分が“哲学”に。侍が刺客に対して仏陀を引き合いに出してダメ出しし、林羅山を説いても、作品中では何の違和感も無い。葛飾北斎に意見したり、松尾芭蕉を船頭と語ったり、さらにはソクラテス、ナポレオンなどなんでもござれ。タイトルもパスカルのもじりですし。これがうまく武士道や粋、そして生き方といった、目に見えない観念とマッチしているんですね。まさに一味違う切り口の時代劇、です。考える侍山田芳裕
マウナケア2019/10/05驚愕の特殊メイク原型と別人の顔に仕上がる顔面マスク。呪われた企画の再映画化。その監督の過去に関わる悲恋…。ホラー映画になりそうな話だな、と思ったら、もうされていたんですね。で、あとがきを読んで知りましたが、作者本人も特殊メイクの仕事をかつてしていたとか。どうりで出てくる小道具の種類や監督のしぐさなどが本物っぽいわけです。私は学生時代に自主映画を撮っていたこともあり、勝手に映画にした場合の配役やらロケ地を考えつつ読んで、ずいぶん妄想をかきたてられてしまいました。絵も達者なだけに最後には漫画が絵コンテに見えてしまう始末。顔模型が手前に奥に主人公がいて、構図そのままで手前にピントが移動したときに口元がニイィとなる、なんて、”そうそう”とうなずいてしまいましたもん。そんな部分で感情移入ができ、登場人物も動いて見える映画的な作品だと思います。映画版も見られたら見てみようと思うのですが、配役のイメージが違うので別の意味でコワイなあ…。レディ・プラスティック深谷陽