あうしぃ@カワイイマンガ
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2020/11/06
香川男子×長野女子の同棲、割と幸せ進行
前作『トナリはなにを食う人ぞ』で、見事恋を成就した元ズボラ女子・稲葉さん。社会人になり、料理男子の瀬戸君と同棲を始める本作、なかなか甘々です。 前作と比べ、お酒をがっつり飲んだり、エッチな攻防が繰り広げられたりと、オトナな内容多め。レシピも酒のつまみが増えつつ、作り置き・弁当・副菜等豊か。 何がいいって、稲葉さん一人頑張るわけじゃないところ。瀬戸君も自分の細かい性格を自覚して直し、お互いに生活をすり合わせ、感謝しあったりして、共に楽しく生活する。そんな二人を、素直に見習いたくなります。 一番盛り上がるイベントは、お互いの実家への帰省。食を含め互いの基盤を知ったり、親に認めてもらおうと頑張ったり。特に瀬戸君の実家・香川回は、地域の食、実家の家業や家族構成など、瀬戸君の背景が見えて人物像に深みが。私も長男だから、分かるよ〜。 安定している二人だけれど、実は物凄い偶然のご縁だと知っているから、こちらがこの二人にどえらく感情移入してしまう。おはようからおやすみまで生活を覗きながら、二人の奇跡の続きをいつまでも眺めていたい、そんな作品です。
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2020/10/28
現代っ子と神様、宇部の歪んだ時空冒険
小学生達が撤去された古いお社を復活させると、スマホの中に神様が!冒険大好きな子供達だが、それから次第に不思議な現象に巻き込まれる……というお話。 妙に女子のパンチラが多くてちょっと辟易するものの、元気な子供達の冒険と民話・伝承の世界とがリンクする、スリルと知的トキメキが楽しい。 ……物語だけ読んでいると、ここ迄の感想になるのだが、この場所が(参考文献等から)山口県宇部市が舞台かも、と考えだすと、急に奇妙な世界観が立ち現れる。 既に埋め立てられている筈の「鍋島」が、古い姿のまま存在するという「時空の歪み」の中で、不思議な者との出会いが描かれる。また、保存された古い石畳や、地図に見当たらない?神社で、やはり時空の歪む現象が起こる。時折現れるブリキの看板のある街並や古民家など、時代が混在しているらしき世界観が見て取れ、郷土資料を調べてみたくなる。 スマホと古い神様の同居という「歪み」に始まり、様々に今と昔が混在し、古い「時層」が剥き出しになる町で、民謡を歌ったり巫女になったりと、色々な形で古い時と触れる小学生の冒険は、知的好奇心に訴えるものがある。
あうしぃ@カワイイマンガ
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2020/10/28
富山・逃避の果・仮初の安息
不倫にしろ逃亡犯にしろ、逃避行と〈北〉はよく似合う。後ろめたさを抱える身には、人目のない北の冬はうってつけ、という事だろうか。 『さらば、佳き日』の兄妹は、二人で共に在る事を選び、住み慣れた故郷を捨て、親と友を捨て、雪の降る北陸へと向かう。 故郷が湘南地域であることは、6巻ではっきりする(江ノ島タワーが描かれている等)。きらきら明るい海沿いの道の描写は1巻から印象的だが、同じ様に美しい海が、北陸に来てからの描写にも出てくる。 5巻に出てくる「天晴」は絵から恐らく、雨晴(あまはらし)海岸。富山県高岡市にある、岩の景観が印象的な海岸。他にも古い日本家屋や庄川の花火大会などから、ここは富山県だと分かる。 意外と穏やかで明るい雨晴海岸にて、妹の晃は、自分と不可分な海を想う。まるで隣の兄・桂一の事を想うように。 ここでは冬の厳しい富山を、暗く扱うことはない。光ある穏やかな地で、優しい人々に受け入れられる「夫婦」は幸せそうだ……受け入れられる筈もない二人の秘密を、どこまでも抱えたまま。 (6巻の書誌情報で「富山」とはっきり書かれているので、間違い無いと思います。4巻で桂一が「福井……だったかな」と言うのは、彼のいい加減さのエピソードになっていますね)
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2020/10/24
秋田・群馬/一風変わった歴史物二点
岩明均先生の戦国〜江戸期の中編二点。いずれもある程度史実に即し、誰もが知っている物の誕生秘話を描いて、読み応えのある物語になっている。 【雪の峠】 関ヶ原で西軍につき、今の秋田に領地替えとなった佐竹藩。藩主の判断を巡り、古参と若い近習の間でわだかまる中、新しい城の候補地を巡り対立が起こる。 切れ物の若い近習と、上杉謙信をよく知る古参は、頭脳で戦いながらも賢い者同士、理解し合っている。その複雑さ、合理性と矜恃とのせめぎ合い、世代交代の切なさ……様々な感慨の中で生まれる都市に、驚かされる。ああ、成る程! 【剣の舞】 上州(今の群馬県)で新陰流の当主・上泉信綱(かみいずみ・のぶつな)が「撓(しない、今の竹刀の元祖)」を考案する所から始まる物語。信綱の高弟は、ズブの素人の女性に撓で稽古をつけることに。 家族を殺し、自分を凌辱した武士に復讐するため、剣を教わる女性。その中で少し心を通わす二人だったが、戦は近く、仇討ちも目の前に。真剣勝負とは?剣は何のために?命を遣り取りする虚しさへの、柔らかな回答としての撓。静かな虚無感が、心に焼き付く。
あうしぃ@カワイイマンガ
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2020/10/22
女性クライマーに「惚れる」視点
1巻では少し奇妙なクライマーの生態と、挫折した女子の新たな一歩を描いた本作。2巻ではより本格的にボルダリングを描き始めますが、女子の楽しげなやり取りの中に、クライマーのカッコ良さがふんだんに描かれています。 これを読んで、クライマーに惚れない人はいないでしょう! 分かりやすいのは、鍛えられたボディ。全体的に大きなギャオ&細マッチョなむゆ先輩の彫刻の様な身体は、初心者のうーちゃん&たまちゃんと並ぶとより際立つ。そしてその身体がウォールで躍動する迫力!私の中の乙女心がトゥンク…します。 または精神性。ギャオの望みは「どんな壁でも登れるようにありたい」というもの。その高い志は、ただ自分を高める事に向けられます。強さと、誰かを追い落とさない優しさの同居。その在り方に憧れてしまいます。 そんな強く優しいギャオに、主人公・うーちゃんはかなり惚れて?しまっている様子。同じ道具使いたいだなんて……。そして、ギャオの言った「サイコーになる」を知りたくて、うーちゃんは今後も登り続ける様子です。 ギャオとボルダリングに救われたうーちゃんが、どんなクライマーになるのか……じっくり進む本作、少なくともあと10巻は読みたい!
あうしぃ@カワイイマンガ
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2020/10/21
クライムを、人生を貴女と共に #完結応援
スポーツ物で、頂点目指して体を酷使し争う熱い物語が面白い、という事に、私も異論はありません。 しかし、ユース世代の競技者がオーバーワークの結果、怪我で競技を続けられなくなったり、心折れて競技自体を嫌ってしまったり……という話を聞く度に、もっと他の道はないの?と問いたくなるのもまた事実です。 クライミング競技の良い所は、トップを目指して凌ぎを削る世界がある一方、みんながそこを目指さずに、それぞれの達成度で「昨日の自分を乗り越える」喜びがある所だと思います。 その上で、『ぽちゃクライム』の主人公つぐみは、初心者ながらコンペに挑み、楽しさと緊張感、そして悔しさを抱き、ボルダリングにのめり込んで行く。 クライミングは個人の力でするけれど、その力は周囲の関係性から貰える力である……としゅう先輩の姉から語られる時、クライミングは単に勝敗を争う「競技」から、様々な関係性の中で歩んで行く「道」へと開かれて行きます。『ぽちゃクライム』では、つぐみとあいらが共に歩む道として、またはしゅう先輩となのこの過去と未来として。 スポーツ競技者の間に「関係性の物語」を丁寧に組み込んだ、きらめきに溢れる物語。クライミングも人生も、二人寄り添い励まし合い、進む喜び……こういう穏やかで明るいスポーツのあり方もいいなぁ、と思いました。
あうしぃ@カワイイマンガ
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2020/10/18
片恋/独白/不器用な距離感
まず、妙に硬いモノローグが、何か面白いなぁと思ったのである。 それは、まるで外国映画の字幕の様にぎこちない文体で、女の子達が共にいて・少し会話し・表情を変えるコマを繋ぐ様に流れ、作品の心地良いリズムになっている。そしてそれは、不器用な女の子達の物語と、妙にマッチしている。 人間関係が酷く苦手な安達と、そこまでではないけれどそれなりに人付き合いが面倒なしまむら。体育館の二階のスペースで授業を共にサボる二人は、緩く一緒にいられる関係だった。 けれども安達は、しまむらに恋をする。 不器用すぎる安達の片恋。よく分からない安達の言動を、戸惑いつつやんわりと受け止めるしまむら。息苦しさと優しさの同居。多少の奇妙な話はありながら、それよりも細かく生真面目に語られる心情に、しっかり心を掴まれてしまう。 私が読みたいのは、変わった話や恋の駆け引きではない。私は難しい人の心、それがどうしようもなく動く瞬間が読みたいのだ……だから言葉を尽くした心情描写の後に、安達がふと漏らす「しまむら……」の一言、これだけで頭でっかちなモノローグが吹き飛ぶ程の衝撃に、思わずあぁ……と声が漏れてしまうのだった。
あうしぃ@カワイイマンガ
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2020/10/17
美少女ゲーム、三つの視点 #1巻応援
ゲームメーカーでグラフィッカーとなる女性の視点から、1990年代以降の所謂「美少女ゲーム」の隆興を追うこの作品……と聞くと、「美少女ゲーム詳しくないしな……」と後ずさりする方もいるかもしれません。でも大丈夫!私も詳しくないけど、凄く楽しめました。 視点としては三つ。 ①1990年代の時代背景と美少女ゲーム大流行のリンク ②実在の会社名が出たり出せなかったりの可笑しさ ③美少女絵の進化と描き続ける心得 ■□□□ ①パソコンの普及と共に成長する「エロゲー」から始まるこのジャンル。地下鉄サリン等暗い事件、エロの規制を経て「エロゲー」はエロを抜いた「美少女ゲーム」へ変貌。そこで求められた物は、二人の女性グラフィッカーを駆り立てる。 基本OSのヒットにより、拡大する市場で膨らむ物語に、目が離せない! □■□□ ②この作品、実在のゲームタイトルやメーカー、その他名前がバンバン出てきます。しかしそれらを知らなくても面白いのが「名前を出せない」者の存在。伏字すらNGの某基本OSは苦笑いしかないのですが、場合によっては空白の横に「権利者不明により削除」と書いてあったり……背景の複雑さが垣間見えて楽しい。 □□■□ ③ 美少女ゲームに求められた美少女絵とは何だったのか……それは現在の漫画・イラストレーションにも波及する大きな潮流となります。 そしてこの作品、インタビューまで面白い!アリスソフトで初期から製作に携わってこられたイラストレーターのMIN-NARAKENさんのお話は、美少女絵に命を吹き込むこと、それを20年、30年続けていく為の心得を教えてくれます。 イラストレーターだけでなく漫画家も必見! □□□■ 歴史の波長が噛み合って、大きなうねりが生まれる。そのうねりの本質を知り、世界の末端からメインストリームへ飛び込んで行く物語は、ドキドキしますよね?そんな面白さが、今後紡がれそうな予感。今はまだ、貧乏臭いけど……期待!
あうしぃ@カワイイマンガ
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2020/10/16
パーリィピーポーも納得のリアリティ! #完結応援
ANAGUMAさんが未経験の立場から本作の魅力を語られていて、ついつられて全部読んでしまったので、こちらからは経験者から見た本作の魅力を書いてみたいと思います。 ……フェスの入場口でリストバンド付けて、ステージに進んでいくと、向こうの方からズンズンって、低音が響いてくる訳ですよ。うわぁって小走りになって……1巻の初フェスのワクワクする描写、これ私知ってる。 かつてフジロックに6回行っている私が保証します。この作品、めっちゃリアルです! 例えばテント泊の朝が蒸し暑い!みたいな細かなあるあるが沢山あります。フェス前にフェス用プレイリスト作るよね。また渋谷のライブハウス側のコンビニの山盛りのゴミ箱とか、そんな細かな事が物凄く懐かしくて……よく知っている人ほど嬉しくなる描写がそこに。 新しい音楽との出会いと、何でも受け入れたくなる開放感。あんまりバンドを知らなくても、ダンスが下手でも、若くても歳取ってても、大体の人が何かしら楽しめる。空は広いし飯も旨いし、みんなフレンドリーだし、本当にミュージシャンにも会えるし……トイレとか虫とかは確かに問題だけれど、それさえ気にしなければ、極上の祝祭空間がそこに!……というのも全部描いてある。 大きいフェスに関してはメトロックやROCK IN JAPAN FESTIVALなど、日本人バンドメインのとっつきやすいフェスをモデルにされている一方、小さなフェスに拗らせ男子が好きそうなマニアックさがあったり。日本のフェス、数も種類も豊かになったのだなぁと、しみじみさせられます。 登場するバンドの、ジャンルや音色はほぼ描かれません。「音楽」ではなく、ジャンルや好みを超えた祝祭空間……あらゆるパーリィピーポー(party people)に開かれた「フェス」を描く事が主目的なのだと思います。 初心者・玄人それぞれの楽しみ方、ライブアクトで盛り上がった後ひとり余韻を楽しむ感じ、そして特にアウトドア趣味の方がフェスに行きたくなるような内容、ファッションや細かな持ち物まで、フェスのリアルと楽しさをこれでもかと描いた作品。 そしてフェスの無い日常を、フェスを目指して生きるパーリィピーポー達の物語を描き、厚みのある内容の全5巻!