あうしぃ@カワイイマンガ2022/09/08笑顔で闘う少女のモンゴル帝国史 #1巻応援屈辱の中で少女は、溢れる怒りを抑えて笑う。その時彼女は歴史物語の主人公として、闇の魅力を放つ。 虐げられた者の歴史を、強烈に印象付ける。イランで学者家系の家に奴隷として連れてこられた少女は、そこを失いモンゴルに送られ、王子の妻に仕える。いつも大切な基盤を奪われながら、移動先で厚遇されてしまう彼女の尊厳は、複雑に引き裂かれている。 悲しみ、強い怒り、嫉妬。そんな彼女の暗さを押し込めたしたたかな笑顔に、心臓を掴まれる。 彼女を支えるのは学問。それは人生の指針でもあり、出世の道具でもあり、知らない世界への好奇心。数学や科学をモンゴルに持ち込む彼女が何を起こすのか……揺れるモンゴル帝国で彼女の心も、かなり大きく揺れ動きそうな予感がある。天幕のジャードゥーガルトマトスープ6わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/08/31百合と残業と身体接触 #1巻応援舞台は求人情報誌の制作部……いけない、同じような仕事をしているので胃が痛く……しかしそんな場所で、女性二人がお互いをほぐし、癒し合う。気持ちを速攻でオフィスの壁モードに切り替えて二人を見守ります。 先輩はオフィスでストレッチに余念がない人。疲れ切った後輩にも上手なマッサージを施して、癒してあげる。その代わりに持ちかけるのが、冷え性を改善するためのハグ。 長時間のブラック残業に加え身体接触で仲を深める二人。そこに営業さんやWEB担当さんが加わった恋?の駆け引きには、こちらの体温も上がる感覚があります。先輩の気遣いも素敵だけど、後輩の包容力がまた良い! 先輩後輩がお互い(のハグ/マッサージ)を求めるやり取りは、読むだけで心の新陳代謝が活性化されるなぁ……。ほぐして、癒衣さん。ミナミト5わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/08/24キラメキ高齢女子! #1巻応援おばあさんがカワイイ。なんてこった、マンガでこんな体験初めてだ! ほうれい線やまぶたのたるみなどは最低限描きながら、シャンとして涼やかな描写は、ちょっとあり得ないと思われるかもしれない。でも、これは見ていて楽しい! 思えば若い女性の漫画表現だって、現実はあんなに目は大きくないし巨乳じゃないし腰は細くない。「カワイイ」は作者=読者の欲望の果てに作られた、実はあり得ない描写だと思えば、この「カワイイ高齢女性」表現もまた、作者=読者の欲望なのかもしれない。 ではその欲望とは……「年老いても輝いていたい」だろうか。 凛とした化粧品店の女性と、彼女に憧れる夫を亡くした主人公、二人の高齢女性に恋が生まれるかもしれない物語。それはオシャレと吉屋信子『花物語』を挟んで進んでゆく。 時々主人公の心に生じる、楽しく生きることを阻む夫の声。幸せだと思わされてきた自分に、本当は抑圧があったのだと気付かせてくれる女性同士の交流に、胸熱くなる。 そしてどんどん美しく、しなやかになってゆく恋する主人公。老いてからだって変わってゆける、というメッセージは、男性の私の心も明るくしてくれた。はなものがたりschwinn17わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/08/21女子野球のリアルと夢 #1巻応援豪速球を投げるヒョロ長い女子投手が、身体を流線形にしならせる。 野球のために、人の形を捨てて気流のように最適化されてゆく身体。現代アートのような斬新でスタイリッリュな、そして野球人の夢のような投球フォームに魅了される。 そんな彼女を見つめる主人公は、やはり女子で、ぽっちゃり目のスラッガー。冷笑系の彼女は複雑な思いで「女子が野球をやること」に揺れている。 二人は女子野球部のある高校で出会い、迷いの中で切磋琢磨し、ライバルで仲間という関係を築く。野球に恋焦がれ、高みを目指す二人の熱量に引き摺り込まれる。 女子高校野球の全国大会は、実際の会場がそのまま描かれる。女子が野球をやる事の「やりにくい空気」は複雑だが現実的……とてもリアルな描写の一方で、女子たちの野球への想いは夢のように美しいが、それ故に切なくもある。 女子野球のひりつくリアルと、焦がれる夢。そんなものでできているこの作品は、とても強い。オール・ザ・マーブルズ!伊図透4わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/08/17彼女は一人取り残され #1巻応援あれほどスマホを嫌がっていた父が、二ヶ月もすれば自分で適当に操作してニュースや天気予報を見ているくらいに、人は慣れるものである。 『神さまがまちガえる』では、異常な例外事象が"常に"発生する日々が描かれるが、そこにはやはり「慣れ」がある。 起こる例外事象は様々だが、新たな事情が起こっても「またか……」とスレた人々は脱力系で、楽しんでさえいる。楽しみ方を含め、総じて緩い。 そんな中で、どうしても気になるのは、主人公の中学生男子が暮らすシェアハウスの大家。 彼女は皆が体験している不思議事象を体験できない=みんなから取り残されている。その立ち位置は、『やがて君になる』で「皆がしている」恋ができない、燈子や侑と似ている。 悲壮さや辛さの描写は無く、大家さんは平然としているが、燈子だって最初は平然としていたわけで……先行き不透明で捻くれまくった世界に、大家さんが取り残されないカギは……やっぱり主人公?神さまがまちガえる仲谷鳰2わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/08/14『ヤギと羊の王冠(クローネ)』のレビュー#完結応援町を二分していがみ合う、西のローゼンタール醸造所と、東のローゼンベルク醸造所。西の跡取り息子・テオと東の娘・ソーニャは家に秘密の交際中。どうにか両家を取り持って、町を一つにしたいと願う二人は、密かに協力してビール造りを画策する。 二人のビール造りは協力者の元で進むが、絶望的な道のりが続く。ハラハラする展開はシリーズ一番。しかしここでの「協力者のリレー」は胸熱ポイントであり、シリーズ集大成の所以だ。 これまでの王冠(クローネ)シリーズより過激な性・暴力描写が続く。はっきりとした悪役も多く、胸が悪くなるが、人の強い感情をぶつけ合い、落としてから高めてゆくダイナミックな300ページは、気がついたら一気に読み終えているほどの強い牽引力があった。ネコと鴎の王冠(クローネ)中村哲也6わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/08/07パリの女性達を記述する少女 #1巻応援舞台は十九世紀、膨張をはじめたパリ。十四歳の少女が老紳士に請われるがまま、さまざまな職業を体験する物語。 端正で美しい筆致で、笑わない少女と職業夫人たち(時に男性とも)の出会いが描かれる。派手な演出は少なく、冷静に描かれることで、少女の心の僅かな機微、理性的で正直な思考と行動、その目で捉えた正確な人物像が伝わってくる。 少女は女性たちと触れ合い、少し何かを渡し、何かを受け取り、記述してゆく。そこには少女の頬の赤みのような、微かでも強いエンパワメントがある。 少女が何かの道を極める物語ではない。その歩みは彷徨と呼ぶのが相応しい。しかし民俗学者の採集のような地道さと、少女特有の丁寧さと鋭さで記述されたその彷徨が、どんなパリ職業婦人記として完成されるのか、考えるとワクワクしてしまう。河畔の街のセリーヌ日之下あかめ5わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/08/05ご飯からアウトドア入門女子 #1巻応援インドアな人が、面倒なアウトドアに尻込みしてしまう気持ちはとても分かる一方で、一度試せばそんな人でもすっかりハマってしまうのがアウトドア趣味なのも事実。本作はそんな、初心者がアウトドアにハマる過程を描いて、ワクワクさせられます。 新人編集者の女性が、仕事で仕方なく始めたアウトドア。ハマった理由は「ゴハンが美味しいから!」 料理上手の親友や弟に助けられながら、アウトドア飯を楽しむ主人公。簡単かつ美味しそうなメニュー、作ってみたくなります。そしてそれを外で食べるだけで、何倍も美味しくなるアウトドアマジック。 自然は美しく、好奇心膨らむ女性達の煌めきもたっぷりに、美麗な作画でうっとりウッカリすらすら読めてしまう……これは中毒性が高い! (作者は名高い百合作品『さよならローズガーデン』の毒田ペパ子先生で、主人公と親友はとても仲良しですが、1巻ではすごく百合という感じではないです)ひなたのひより毒田ペパ子2わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/08/03とある出版人の戦後台湾史 #1巻応援 本作は台湾で伝説的児童雑誌『王子』を創刊した、蔡焜霖さんの人生を描いたノンフィクション。戦前の日本統治時代から白色テロ時代、そして現代の民主化した台湾までを通して描く作品は、おそらく今までにないのではないか、と『綺譚花物語』翻訳者の黒木夏兒さんはおっしゃっていました。 全四巻のうち1巻と2巻が同時発売。両方を通して読んでみると、この二冊が同時発売された意味が分かる気がします。 1巻は戦前。台湾語を喋りながら日本語を学ばされる時代を、それでも大家族の中でおっとりと優しく育つ焜霖さんの少年時代は、穏やかなタッチで描かれます。 しかし1巻末、世界は暗転します。 2巻では、謂れのない罪を着せられた、政治犯としての過酷な10年が、暗く・痛々しいタッチで描かれます。 登場する人物も皆、焜霖さんが出会った実在の人物。さまざまな出会いも、大切な人も、容易に奪われてゆく。その悲しみ……とりわけ彼らを失ったのは自分のせいかもしれない、という焜霖さんの苦しみは、巻末の一人ひとりの解説を読むと、いっそう強く伝わるのです。 失われた者や時への焜霖さんの思いが、3巻以降、どのような形になるのか……続きを待ちたいと思います。台湾の少年游珮芸 周見信 倉本知明2わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/07/29百合は廃墟への入口まず百合作品としては、男性が一切出てきませんがエロは多めです。ワードとして出てくる男性は一切姿を見せないので、男性を見たくない百合好きには安心の作品です。 主人公のオンナノコ好きな女子が、包帯美少女に誘われて通称「廃墟部」に入るお話。 部室のある半廃屋や活動で訪れる場所等、廃墟だらけの高校生活……なのですが、最初は廃墟よりもどうしても、女の子達のエロに引き摺られます。 廃墟に興味薄な主人公と包帯少女、先輩達や変態先生の強烈な百合にときめきながら、廃墟への思い入れや訪れた場所にまつわるエピソード等をインプットするうちに、主人公と共にふと、その廃墟を愛おしいと思う、そんな瞬間がやって来ます。 廃墟マニアの世界は「考えるな」てはなく「考えろ、感じろ」です(私が今、考えました)。 そこがどういう場所だったか、その場所で誰が暮らしていたか、何故滅びたか……それらを知ってから朽ちてゆくそこを眺めると、儚い滅びの美が何倍にも増幅される。 思い入れを知っていく事で、ある時廃墟の良さに突然気付く。その現場に読者も居合わせる、という体験が本作なんだと思います。 だからどうか、お気軽に読み進めていってください。分かる瞬間が、どこかで来ます。るいるい真楠3わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/07/27廃墟百合はパースタッチが命退行世界や廃墟を描く作品は、美しい光景も楽しみたいですよね。『ゆるさば。』や『終末ツーリング』の様な緻密でリアルな絵も良いですし、『少女終末旅行』のような抽象的な感じも好き。 『グッバイ・ディストピア』の背景絵はちょっと独特。これは建築パース図のタッチ……よく建築の完成予想図に使われる絵柄に近い感じ。 緻密さと余白の並立、直線をフリーハンドで描く有機と無機の中間くらいのテイストは、失われつつある人間の存在感を仄かに表現していて、私はとても好きです。 現代に残る廃墟を訪ねて旅する、大らかな女性とお嬢様風の女性。ゆきずりの二人は共に行動しながらも、決して素性も心の内も素直に明かさない。 しかしそれぞれに問題を抱える二人は、互いのおかげで少しずつ心がほぐれていく。それは廃墟が朽ちてゆくように、ゆっくり進み、世界に馴染む感覚で、読後に安らかな気持ちになりました。グッバイ・ディストピアひそな3わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/07/27廃墟世界を遊ぶJK達、実は…本作の登場人物は、朽ちて植物に覆われた学校で暮らしている女子高生四人組。そんな所で怖くないの……?大丈夫、だってもう死んでいるから!アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』のOP曲でも言っていますが、お化けになっちゃえば病気も怪我も、死ぬことすら怖くないんですよ……(本当?) 幽霊になっている彼女達は、学校を拠点に遊びに興じる。緊張感も悲壮感も無く、ただ楽しそうに、変わってしまった世界を面白がったり戸惑ったり。「もう死んでるし」ネタとか幽霊ネタは結構シュール。 世界も既に滅亡している。その原因や世界観はちょっとグロいが、四人のふわふわしているようで毒のある笑いが中和してくれる。 意外と出会いがある(ほぼ幽霊)ので様々な展開もあり、まったりする余裕のない楽しさがある作品です。成仏するにはまだ早い!飴色みそ1わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/07/18超充実!オタ女二人暮らし女オタク二人のルームシェアを描いた本作。実録エッセイなのですが、こんなにも作り話みたいに、ピッタリな2人が出会う運命ってあり?と驚いてしまいます。 作者はショタコン。同居人はエロゲ好きのロリコン。畑違いの二人ですが、オタク特有の文化、実は多い共通点、そして好奇心の広さで結びつく。生活面での苦労は笑い話にして、それよりも一緒にオタ活する楽しさが勝ってしまう二人。こんな出会い、羨ましい! 生きる力が弱めな作者は、しっかりした同居人に助けられる反面……という関係性も奇跡的。そんな中で唐突に語られる、結婚制度への考え方など、鋭くて唸らされます。 意外な方向へ進んでゆく二人の興味関心。一方で薄れつつあった同居人のエロゲ設定は、とんでもない形で第4巻を彩り、笑わせてくれます。最初から最後まで、笑いも尊さもオタクネタも知識欲も、充実。とても楽しかったです!オタシェア!~エロゲ女子×腐女子×ルームシェア~小針タキ
あうしぃ@カワイイマンガ2022/07/17本当に割り切れてないいつも思うんですけど、もう一人のクチコミ書かれている大トロさん、50文字程度でズバリ言い切るスタイル素敵です。 本当にね、タイトルと全然違って、お前ら全然割り切れとらんやないかい!って言いたくなります。全員が自分の恋心と性欲が見事にチグハグで正直歯痒い。でも分かる。 一番歯痒いのはやはり、長年の恋を忘れられない女性教師。別の高校の女生徒と性交渉して相性良さげなのに、昔の片恋を募らせて苦しんでいる。それは相手を現実的に愛する、というよりは、心の中で勝手に反芻して、浸るという執着。で、いざ本人ご登場の時に却って恨みつらみ投げつけるとか……。 こういう人は手強いですよ。女子高生の陰キャ主人公には、荷が重くない? こんなに痛々しい物語だけど、その熱情に浮かされて読み進めると、きちんと未来が見えてくる。それを信じて読み進めていただきたいです。割り切った関係ですから。FLOWERCHILD5わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/07/08彼女達はこれから闘う #1巻応援様々な国の、10歳の少女達に降りかかる抑圧を描いた本作では、必ず最後に思いを胸に、押し黙る少女達が印象的だ。 サウジアラビア、モロッコ、インド、日本、アフガニスタン。各国の少女達は、女性に対する差別への苦しい思いを抱く。 差別は男性からも、そして女性からも押しつけられる「ように見える」。それは社会構造が差別的であるためだし、人の内面にこびりついて剥がれないものもある。差別を内面化するしかなかった女性も描かれる。 どこまでも苦しい現実。しかし、少女達は押し黙りながら、未来をぼんやり考える。 昨日まで幼かった、しかしあと数年で結婚も視野に入る、10歳という年齢。溌剌さと、挫折を知る前の純粋さで、これから世界と対峙してゆく少女達の、真剣な眼差しは強い。 辛い気持ちも、割り切れなさも、闘う気持ちも、彼女達と共有して、せめて共闘したいと願う。女の子がいる場所はやまじえびね8わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/07/06生々しさは審美眼を拒絶する #1巻応援絵を見ているだけで、体が疼く。皮膚感覚が、視覚が聴覚が嗅覚が味覚が鋭敏になる。この短編集から得られるのは、そういう体験だ。 いつもの心地よいイラスト体験……白く弾む肌、サラサラした触感、大きな目の愛情表現からは遠い。時に辛い。しかし目を惹く。見るのを止められない。 丁寧に生々しさと向き合った者しか得られない感覚が、心の奥底に残る。 物語もリアリズムに貫かれる。誰かの価値判断を挟まない、どうしようもない物語。絵でも物語でも、美しいものを求める心を拒絶して、そうして絶対的な生の実感を与える。 生半可な審美眼では得られない、恐ろしい強度がここにはあった。 ●裸のマオ…貧しい中学生を美術教師がモデルに誘う。ひどく痩せたマオの体、古い家の質感。まともではない話なのに誰をも責めたくない不思議。百合度★★★★★ ●きしむ家…ボロアパートの大家は、住人の母娘の男性事情をただ見てるだけ。ボロさが音で切実に伝わる。百合度★(男注意) ●あつい皮膚…重度のアトピーの女子は、図書委員の女子の家に呼ばれる。ボロボロの肌の質感はこちらにも痒さを充分に伝える。ラストが重すぎて…百合度★★★ ●推しの肌が荒れた…推しのアイドルのイラストがバズった女子。推しへの想いが増すほど推しの肌荒れを描いてしまい…実は描く方もアトピー。様々な点を踏まえて丁寧に読みたい作品。百合度★★★推しの肌が荒れた ~もぐこん作品集~もぐこん7わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/06/27父の善良さが鍵 #マンバ読書会 #泣けるお父さん難民の殺し屋女性が、一般女性との愛を貫けるかを試される物語。さまざまな思惑が錯綜するスリリングな物語ですが、その思惑の中には、殺し屋の恋人の「父親」のものがあります。 そしてこの父親の「善良さ」が、物語を複雑にしてゆきます。 父親は神父さん。彼はどんな内容の告解も……たとえ殺人の告白でも、誰にも漏らさない。そんな善良さを見込まれ、彼は告解の常連から殺害予告をリークされたり、教会上層部に利用されてしまう。 一方父親としては寡黙だが心配性。ついデートを尾行しちゃったり。それでも真摯に思いを告げるため、娘にも信頼されている様子。 彼はついに恋人と対面する事になる。二人は娘の人柄の良さで意気投合する。しかしこの邂逅は、一寸先の読めない大きな争いをもたらす。その火種が、ちっぽけな父(父親・神父)の「善意」である、という皮肉と複雑さ。それは間違いなく「面白い」!殺し屋やめたい!外木寸3わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/06/25愛し私の半分 #1巻応援(百合の日2022記念⑦)母。私の半分を構成するもの。 母。私の半分が愛したもの。 いつからか母親に恋している女子高生。彼女はずっと「半分」に引き裂かれて苦しんでいる。 肉親への親愛と、どうしようもない恋情。甘えたさと性欲。肉親への恋は私には経験が無いが、彼女の苦しみには、理解できる部分がある。それは、自分の愛が相手を苦しめる事への葛藤。 娘の恋心に、母が応えることは出来ない"はず"だから。 好きでいてはいけない人を、好きでいる事の苦しみは、破局と隣り合わせの切なさ。目の前の人が、振り向いてくれる可能性はほぼゼロ。恋を口に出せば、その時が終わりかもしれない。 しかし、私にかろうじて期待を持たせるのは、母親と娘のモノローグが重なる所。 娘を想う気持ちは強い母。娘離れはできていない様子。そして過去に「女性と」何かあった事が示唆されると、母親の百合物語としても、娘の感情の根拠としても(娘曰く「私の母は毎朝性的」らしいので)何が提示されるのだろうと、先にかすかな希望が見える気がする。1×1/2-イチトニブンノイチ-中村たいやき1わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/06/25一緒にワルイことする友達(百合の日2022記念⑥)地味な女子高生が同じクラスのギャルと友達になるお話。明るく開けっぴろげな作風の中に、大切なテーマを秘めている。 二人で、ギャルグループで、新しい世界を知る地味主人公女子。校則違反の寄り道、おしゃれ、お化粧……合コン……お酒……大丈夫か?と心配になるほど、割と色々やらかしている。ちょっとエッチな視点もちらほらと。 知らない世界を教わり、共に楽しむ事で、二人の友情は強くなる。しかし、二人はお互いに恋を覚える。 二人とも、自分の恋が知られたら、この友情は終わると思っている。しかし恋を隠し、友情を大切にする素振りを見せることで、かえって友情は不安定になる。悩む二人の切実さに、自分のかつての恋と友情を重ね合わせて一緒に切なくなる。 相手が大切だから、友情は壊したくない。では恋は捨てなくてはいけないの?……という普遍的な問題に正面から取り組み、大切な人との関わり方について多くの事を教えてくれるこの作品は、確かに『GIRL FRIENDS』と呼ぶのがふさわしい。GIRL FRIENDS森永みるく1わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/06/25ギリシア詩人少女のロマンシス(百合の日2022記念⑤)舞台は古代ギリシア。詩人を目指す少女の物語は、不自由な女性の生き方への抵抗と少女達の友情、両方に勇気づけられる。 実在の伝説的女詩人・サッポーが少女を集めた合唱隊は、女学校的女子教育の場所。そこに来るのは嫁入り修行が大半なのに、主人公のエーリンナは本気で詩人を志望する。 結婚に興味無く、男女の差別に疑問を持ち、がさつだけと前向きなエーリンナはしっかり者の同輩・バウキスを困らせながら次第に仲良くなる。 結婚を宿命づけられるバウキスをエーリンナはどこまでも想い、詩作の動機とする。二人はずっとこのままで……と願うのは、日本における「エス」を見た時の感情に近いだろう。 師匠たるサッポーが様々な考え方を教え、少女達を慈しみ育てるのも良く、古代ギリシアの事がビジュアル込みで伝わる歴史物としても楽しい。男子と対等に喧嘩するエーリンナの姿は、現在(2022年)佐藤二葉先生が連載中の『アンナ・コムネナ』のオスマン皇女アンナとも重なる。長い年月抑圧されてきた女性が戦う物語としても、とても胸躍る一冊だ。うたえ! エーリンナ佐藤二葉2わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/06/25女×女の校内活動百合短編集(百合の日2022記念④)はっとりみつる先生といえば現在『かいじゅう色の島』で重めの百合を、『綺麗にしてもらえますか』では女性同士の様々な友情を描き、また「つぼみ vol.1」への寄稿や『ショコラ (2) 社会人百合アンソロジー』のカバーイラスト等、百合作品を量産しているわけではないのですが百合親和性の高い作家さんです。 そんな先生が『ケンコー全裸系水泳部 ウミショー』から『さんかれあ』の時期までに発表した百合短編集が、この『コンチェルト』です。 「部活動(生徒会含)」縛りのオムニバス。生徒同士から教師×生徒まで。エロ成分高めですが、星やポップな擬音、ミュシャ的枠表現で明るい画面。そして女子同士の恋を肯定する物語は負から正への振れ幅が大きくて、とても気持ちよくドキドキできます。 ●第1話は幼馴染のギター×ピアノのデュオ。演奏が評判の二人は卒業式での演奏を依頼されるが、恋の行き違いで……。 ●第2話は弓道部のエースに恋する後輩。強いはずの先輩の「体格コンプレックス」は後輩にとっては……? ●第3話は調理部女子ハーレムを作る女教師が、好みの生徒をお持ち帰り?……これが1番ヤバい内容。魔法のスパイス、危険過ぎる。 ●第4話は美術部のレアキャラ先輩と遭遇した後輩。才能に惚れた後輩に、先輩は一度限りのモデルを申し込むが……モデルって……。 ●第5話は生徒会の会長と書記の同棲ライフ。とんでもないところを偶然母親に見つかってからの、駆け落ち!コンチェルトはっとりみつる2わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/06/25みさきちの話だし(百合の日2022記念③)『大室家』は『ゆるゆり』のスピンオフ。生徒会の元気(おバカ)担当・大室櫻子と姉の撫子・妹の花子を中心にした作品です。 三姉妹の日常、隣家の古谷向日葵とのエピソード、そして撫子・花子それぞれの級友とのエピソードで構成。ギャグもいい話も短いページ数で描かれて楽しく、さらに細かく百合可能性が散りばめられて想像の余地が大きく、二次創作したくなります。 私がキャラとして一番強いと思うのは、花子の級友・みさきち。 みさきち(本名みさき)は花子の仲良しグループにいるのですが、最初は花子をライバル視して、何かと挑戦してきた子。決してダメな子ではないのですが、みんなから「花子様」と呼ばれるほど出来る花子には敵わない。 花子に常に挑むみさきち。そんな彼女を、花子は素直に賞賛する。 決して「花子様」と呼ばないみさきちを、花子はかなり好ましく思っている気がする……最近はすっかり四人グループに馴染んだみさきちには、もっと「花子様」に挑戦して花子とライバル百合関係を構築してほしい……というのが私の二次創作思考なのでした。大室家なもり1わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/06/25母娘から始まる寮生活(百合の日2022記念②)元不良と箱入り娘が、お嬢様学校の寮生活……とこれだけでもう楽しそう!ですが、この作品はそれをもう一捻りして来る。 お嬢様は、箱入りで世間知らずで奥手で……のレベルが段違いで、表紙絵から想像する、ふわふわ儚げな感じから一段階「ヤバい」レベル。 彼女、何も出来ない! 生活に関するあらゆる事を、自分でやる、という発想すら欠如するお嬢様。そんな彼女と同室になる元不良は、放っておけずに世話を焼くうちほぼ「お母さん」状態に。 しかしお世話をする関係というのは、お互いの好物も弱点も、晒し合う仲になる事。その結果、お互いの事を知り過ぎて、ちょっと距離が近すぎる二人、とても良いです! 人見知りのお嬢様はそれでも次第に人と関わり、文芸部の活動やルームメイトのファンクラブを通じて、本当に少しずつ成長してゆく。一つひとつの小さな達成に、驚くほどの感慨が。そして元不良のルームメイトも少しずつお嬢様学校に馴染み、楽しそうな一年間の物語。 文芸部の仲間、委員長や風紀委員との関わり、そして元不良の後輩達の迷走も面白く、全4巻とは思えない充実感がありました。いちごの入ったソーダ水荒井チェリー2わかる
あうしぃ@カワイイマンガ2022/06/25消滅少女のアイドル道 #1巻応援 (百合の日2022記念①)消えてしまいたい……という恥ずかしさの表現、年を経ても未だにしてしまう。それが身体消失として出てしまう、というのは不思議な設定だが、膝を打つような妙な納得感がある。 告白して来る男子も自分も消滅してしまう美少女は、友人や同じ〈消えかけ〉少女達とアイドル部を結成する、というロマンシス物。 目指すは消滅男子の招魂復活! ……ハードルが高すぎる! 〈消えてしまいたい〉思いも色々描かれる。不安感が人一倍強くて、自分から不安の種を探してしまう後輩の姿は、自分事のように感じてしまった。 そしてなまじ容姿が良いばかりに、制御できない状況が降りかかる主人公のプレッシャーは強すぎる(モテる人って実際、こんな状況なのかもしれない)。ネガティブなときの表情や言動は時に酷いもの。しかしアイドルになると強力なポジティブオーラを放ち、ついときめいてしまう。 物語はまだまだ不穏。自分の体のほかに、消えてしまった男子達の命まで背負った主人公には、本当に男って勝手でごめんねと詫びながら声援を送りたい。誰何Suikaつばな5わかる