hysysk2021/03/12道具としての「役に立つ」とリベラルアーツの重要性実在する美味しい手土産のガイドとして「役に立つ」ところに最初は目がいったのだけど、それだけでなく文学などのリベラルアーツがどのように「役に立つ」かが鮮やかに描かれている。 主人公の寅子は人を尋ねる際に手土産を持っていく。そしてその手土産には作られた背景や愛され方にストーリーがあり、「おもたせ(手土産をもらった側が持ってきた側に出すことらしい)」として一緒に食べながら話していくうちに、相手の心に引っかかっていた悩みが解きほぐされ、少し前向きになる。 リベラルアーツが「役に立つ」と言ってしまったが、これは道具のように「役に立つ」という意味ではない。会話を続けるためのネタではないし、ましてや知識の豊富さを誇示するためでは決してない。「誰と何を食べ、どんな話をするか(あるいはあえてしないか)、という全体」を作り上げるものなのだ。 そういった人格を備えたキャラクターとして寅子は魅力的だし、「コミュニケーショングルメ漫画」とはなるほどそういうことかと思った。おもたせしました。うめ3わかる
hysysk2021/03/08つっこみどころも多いけど、わが身を省みて読みたい幸い今の職場環境においてモンスターはいないので、むしろ自分がモンスター側なのではないかと怖れながら読んだ。 「こういう人にはこう返す」的なマニュアルや、「こんな風になるのはこういうことが原因」という事例が挙げられていて参考になるが、だからといってすぐに解決するのは難しそう。割とナチュラルに思いっきり偏見みたいな言動が差しはさまれているのも気になる。 それでも自分ではなかなか気づけない振る舞いを見つめ直すいいきっかけにはなると思うので、会社に限らず人間関係すべてに役立つと思う。マンガでわかる 心理学的に正しいモンスター社員の取扱説明書早川ナオヤ 杉山崇
hysysk2021/03/07答えらしきものに飛びつかない学校生活で生まれる疑問と、そこからつながる哲学的な話題への接続が自然で、キャラクターも魅力的。主人公には熱血さがなく、かといって冷笑的でもなく、ちょうどいい淡白さで無理やり答えらしきものに飛びつかないのが良い。 それだけに3巻の展開はキャラクターが動いて思索しているというよりは、作者の考えに誘導しているようであまり好きになれない(キャラクターでなくメタな作者と編集者らしき影が話を進めている)。作品が続くためには色んな条件が絡んでくるとは思うが、2巻までのテンションでもっとじっくり読みたかった。ねじの人々若木民喜
hysysk2021/03/03「スペキュレイティブ・フィクション」の方のSF哲学などでなされる思考実験をマンガにしたような短編集。概念を分かりやすく解説している回もあれば、不条理なショートショートのような回もある。こういう作品もっと読みたい。 連載されていたのは15年ほど前で、こんなのがモーニングに載っていたというのが驚きだが、度肝を抜かれた「現象学の理念」とも繋がっている。 扱われているテーマはかなり当時の思想状況を反映していて(というか自分が若かったから興味を持っていた)、2021年現在も全く古びていないどころか、今こそ本気で考えるべき問題も沢山ある。モデル14, 15の『ボーヴォーワールの「性」』(男女カップルがコールドスリープから目覚めたら国が分かれていて「男中心の国」「女中心の国」「男だけの国」「女だけの国」「男女平等の国」のどこに所属するかを決める)、モデル37の『哲学における「女」』(婚活を通して哲学者の女性に対する偏見を明らかにしていく)などは作者が表層的なリベラリズムやフェミニズムに厳しい理由が分かった気がした。新釈 うああ哲学事典須賀原洋行
hysysk2021/03/01流行ってた当時は好きじゃなかった自分の好みはサブカルと呼ばれるものに偏っているとは思うが、あまり露悪的なものは好きではない。作者が神格化されていたこともあり、割と避けていたのだけど、今読むと理解できるというか、認めざるを得ない才能を感じる。 無邪気にこれを楽しめていた時代は幼かったのか、寛容だったのかは判断できないが、一つの時代の空気を閉じ込めた作品として、沢山の発見があった。現代でこんな作品が生まれることはないと思う。ねこぢる大全ねこぢる9わかる
hysysk2021/02/28哲学を漫画で解説するのではなく、漫画を哲学的に考察する相原コージ『漫歌』に収録されている「生きる意味を探す青年・浩(ひろし)と、食われるために生きていると言い切るブタ」の対話を元に、哲学の歴史や考え方を紹介するという変わった構成の本(なので文章が多い)。南部ヤスヒロは高校の教師で、もともとは倫理の教科書の副読本として使うことを想定に書いたそうだ。 哲学を漫画で解説する作品は結構あるが、漫画からスタートして哲学を解説するものは珍しいのではないだろうか。若干こじつけ感もあるが、その気軽さ含めてこんな読み方、楽しみ方もできるんだ、という発見があり、倫理や哲学を学ぶことに前向きになれると思う。4コマ哲学教室相原コージ 南部ヤスヒロ
hysysk2021/02/25こんな風に生きてみた…くはないけど、考えさせられる太宰治、永井荷風、梶井基次郎、坂口安吾をそれぞれ主人公にした短編集。作者の解釈が入った「私説」ではあるが、彼らの人となりが鮮やかに表現されている。今の自分の年齢で太宰が亡くなったと思うと、つきつけられるものがある。 共通するのは皆、女性が好きだなというところ。しかしそれは単なる情欲とも違う、複雑なもの。母親からの愛の渇望、聖なるものへの畏怖、儚さ、あるいは禁忌を犯す背徳感などもあるだろう。 そういった複雑な感情を漫画なりの文学的表現に昇華できるところに作者の力を感じる。私説昭和文学村上もとか
hysysk2021/02/18さすがの情報量と台湾愛に満ちたガイド作者は『北城百畫帖(カフェーヒャッガドウ)』のAKRU先生。絵柄の変わりように驚くが、その丁寧な時代考証などのリサーチ力はそのままに、実用性と愛情を兼ね備えた素晴らしいガイドになっている。グルメ情報だけでなく、台湾人の考え方やライフスタイルが見えてくるあたり、マンガの伝達力ってやっぱりすごいと思った。 台湾へは一度だけ行ったことがあって(これにも載っている金峰魯肉飯は本当にうまかった…!)、その時に一通り調べたつもりだったが、ぜんぜん知らない情報も沢山載っている。自分がもっと若ければこの本を片手に台湾に行って1日5食くらいしたいところ。せめてコロナが収まってくれたらなぁ。台湾ごはん何食べる? 台湾人・阿米と日本人・美菜の食楽記AKRU
hysysk2021/02/1620代でなくても読んだ方がいいタイトルの胡散臭さ、ニュートラルな絵の印象から、よくあるご都合主義的な学習マンガっぽさを感じるかも知れない。しかし内容としてはしっかりした(と思う)ファイナンシャルプランニングの本に書かれている内容と遜色ないうえに、投資と投機の違い、金融価値の下落がそのまま損にはならない仕組みなど、わかりやすく解説されている。他より突っ込んでいるのは40代〜50代は投資が絶対必須だと断言しているところ。 預金の金利ではいつまで経ってもお金は増えないにも関わらず、日本は今でも貯蓄信仰が高い。バブル時代のリスクなし年利5%(15年預けておくだけで約2倍になる)を引きずっているのだろうが、明らかに時代が変わっている。国も投資をして欲しくてNISAなどを整備してるはずだけど、投資信託であってもリスクはやはりあるので積極的には勧められないのだと推測する。その行き着く先が自己責任論になってしまうのは切ないので、何とか投資信託が普通のことになってくれるといいなぁと思った。コミックでわかる 20代から1500万円!積み立て投資でお金をふやす田中唯 西原朗
hysysk2021/02/15楽しそうな人たちと仕事資料館の職員の仕事ぶりが細かく描かれた4コマ漫画。フィクションではあるが実際の作業は忠実に描いているとのこと。 これを読む前は失礼ながら暇そうで楽そうな仕事と思っていたが、展示の構成や導線の設計からキャプション作り、虫害対策やお祓いなど、やることは多いし専門性も高い。使える薬剤も時代と共に変わっていくし、法律の知識も要求される。その割に予算がないので、アイディアと体力が必要。 どうしても興味・関心は新しく作るものに向かいがちだが、こういった保存や継承を丁寧にすることも同じくらい大切で、将来に大きな価値を生む可能性も秘めている。近所の資料館に行って話を聞いてみたくなった。ただいま収蔵品整理中! 学芸員さんの細かすぎる日常鷹取ゆう
hysysk2021/02/02ストーリーはギャグだけどDJの解説は本気学生時代、何人かで集まって遊ぶと、そのうちに絶対1人はDJがいた。本格的にプロを目指していなくても、リテラシーとしてDJができる人は多い(私はできないが、人のDJに口は出す最悪の人種)。親の世代ならギターだったり、いまの若者ならダンスだったりラップだったり動画配信だったりするのだろう。 好きな子をDJに取られた男が、自分もDJになって(ならされて?)彼女を取り戻そう(あるいは他の女性にモテよう)とするストーリーで、彼の成長過程に合わせて色んな知識や技術を解説してくれる。レコードの持ち方からつなぎのテクニック、選曲方法や聴き方も分かるので、DJの良し悪しについても理解できるはず。これを読めば「DJってこんなに複雑なことをやってたんだ〜」てなると思う。『まんが道』リスペクトはもちろん『サルまん』ネタもサンプリングしてるらしい(サルまんは読んでないのでわからない)。 権利の問題なのか作中に出てくる選曲のアーティストや曲名は架空だけど、絶妙に「あれのことだな」と分かるようになっているのもまた楽しいですね。作者自身がDJなればこそ。DJ道ムラマツヒロキ
hysysk2021/01/29デザイン会社経営とマルクス主義『ナニワ金融道』の名前はもちろん知っていたが、基本的にお洒落なマンガしか読まない私は完全にスルーしていた。 ある時誰かのツイートで、青木先生がデザイン会社を営んでいて、書体の指定について話をしているコマを見て、「これ読まなあかんやつやん!」となって読んだのだが、めちゃくちゃ面白く、強烈な思想が反映されていて背筋が伸びる作品だった。 仕事に対する姿勢、資本主義に対する態度、逆境での振る舞いなど、ここまでやれるし(やりたくないけど)泥臭くやり抜こうとする人間を決して人は見放さない。世の中の理不尽なルールに対して、そのルールで戦って勝った上で物申せるのは本当にかっこいい。 私も自分の会社がどうにかなってしまったら資本論を読んでマンガを描こうと思います。青木雄二物語青木雄二プロダクション
hysysk2021/01/25戦争中の国のリアリティ韓国人の友人に話の流れで徴兵制について聞いてみたことがある。 「ああ、韓国人男性が飲み会で絶対盛り上がる話で、韓国人女性が一番聞きたくない話ですね」 宿舎の寝室が寒く、新人は特に寒い入口付近で寝て階級が上がると奥の方で寝られるとか、軍楽隊の楽器で殴られたとか、やはり武勇伝的というか体育会系的な話で、確かに盛り上がる人とうんざりする人に分かれそう。 この漫画はフィクションだけど、北朝鮮の潜水艦が座礁して、特殊工作員が韓国に上陸したというのは実際にあったことだ(漫画よりも凄惨)。日本の戦争漫画は自分が生まれる前に起きたことなので、完全に切り離して読めてしまうけど、アニメを観てゲームで遊んでいる自分と同じようなタイプの人が、一転して生きるか死ぬかの瀬戸際に追い込まれる様子には背筋が凍る。 原作者は日本への留学経験もあり、宮台真司のゼミに所属していたそうだ。宮台が徴兵制の是非について言及するようになったのも彼との出会いがきっかけらしい。電子版には対談が掲載されていないので、読みたい人は紙(1巻しか出てない)を手に入れよう。軍バリ! 韓国兵役実戦部隊イ・ヒョンソク イ・ユジョン
hysysk2021/01/23ネタバレ藝大受験に落ちた私が古傷の痛みに耐えながらブルーピリオドを読む祝アニメ化!ということで藝大受験の倍率も上がっちゃったりするのかなと思い、フラッシュバックしてくる自分の経験談に絡めてブルーピリオドの感想を書いてみます。何を隠そう私は3回藝大を受験し、毎回2次試験まで進みながら落ちたという苦い経験を持っています。藝大受験に人生を振り回される人の話は『北の土竜』にも出てくるので、かつて藝大がどう見られていたか興味がある人はそちらも読んでみてください。 以下思いっきりネタバレを含むので、気にする人はここで読むのを止めた方がいいです。 私は地元が関西で、普通科の進学校に通っていたのですが、特に大学で学びたいこともなく、2年次のコース振り分けで「理系の方が潰しが効くから、やりたいことが決まってないなら理系にしときなさい」といわれて理系コースに進みました。とはいえ理系科目は得意でも好きでもなく、そのまま理系の道に進むことに全く乗り気ではありませんでした。成績もそれほど良くなかったので、いけそうな大学で探してもモチベーションは上がらないし、かといってやりたいこともないのに頑張って難関大学に入るという気力も湧きません。 高校時代はバンドを組んだりギターを習ったりしていたこともあって、漠然と音楽に関わる道ならいいかなと思い、進路指導で先生に教えてもらった芸術工学系の大学をとりあえずの第一志望にして受験勉強をしていたのですが、やはり踏ん張りがきかずセンター試験(いまの大学入学共通テスト)で合格圏内の点数が取れませんでした。 困ったなぁと思いながらセンター試験での得点から合格率順に大学を探せるウェブサイトを見ていると、東京藝術大学の先端芸術表現科というコースが、合格率90%以上と出ているのを見つけました。美術の選択授業すら取らなかった自分でも知っている有名大学しかも国立というところで心が踊ります(ここがまず駄目)。そしてさらに、この先端芸術表現科は新しくできた学科で実技試験がなく(現在はあるようです)、小論文と「個人資料ファイル(=いわゆるポートフォリオで、作品や活動の記録。株の組み合わせではない)」で選考され、既存の美術の形式に囚われないことを目指し理系と文系の区別もない。美術学部だけど音楽も勉強できる。都会に出られる。これは自分のためにある学科だ!となって志望校を東京藝術大学に変更します。 私の高校には美大受験をする人は年に5人もおらず、ゆえに指導する先生もいないという問題がありました。唯一の頼みが美術の先生でしたが、特に受験対策らしい受験対策もなく、ただひたすら小論文に向けて美術史の本や論文などを貸してもらい、議論をしていました(これはこれで役に立ちました)。しかし個人資料ファイルというものが自分も先生も分からず、どうしたものかと思いながら小学校とか中学校で賞を獲った記録などを載せていました。 そう、ブルーピリオドを読んでいれば速攻で予備校に行くべきだと気づけるところです。いやどうだろう、試験日まで1~2ヵ月しかないため断られるか、周りとのレベルの違いに圧倒されて受験自体を諦めていたかもしれません。そもそも藝大狙いで美術予備校に行くなら県外に通う必要もありました。 しかしとにかく八虎と同様、知らない強みで後から考えれば無謀とも思える受験をし、1次試験に合格します。うおおやっぱり自分には芸術の才能がある!東京が俺を呼んでいる(先端芸術表現科は茨城県の取手市にあります)! 2次試験の面接で、この時は川俣正教授がいらっしゃったと思います。当時は全くどんな人かも知らず、何を話したかも覚えていません。「君はどうなっていきたいの?」みたいなことを聞かれたような気もします。藝大の試験日は遅く、合格発表も遅いので、確か卒業式も終わった後に発表を見に行ったと記憶しています。結果は不合格。校門の前で各予備校がパンフレットを配っていましたが、何となく1冊だけ受け取ったところで浪人生活を過ごすことになります。 当時の先端芸術表現科は新しかったので、予備校もそれほど対策ができていなかったこともあり(それこそが大学側の狙いでしょう)、他の大学の近い学科を目指すのが中心のコースに入りました。そこで初めて美大受験で絵を描く時の鉛筆の削り方を知り、インスタレーション(八虎は大学入るまで知らなかった)などを知ります。 講評で上段に上がることは全くありませんでしたが、自分は目指すところが違うし、そもそも初心者なのだから仕方がないと思っていました。学科は常に1位だったし、小論文の授業では絶賛されていたので、このままでいいだろうと。東京は刺激的だし、先生も面白いし、同級生とも趣味が合うので、全く悲壮感はありませんでした。高校時代とは違って理系科目の勉強はほとんどせず3教科に絞り、あとはずっと本や展示で音楽や美術の知識を蓄積していたように思います。「作品を作る」という一番重要なことが抜けたまま。。それ故に8巻で八虎が言われた「『作品』を作ったことがないんだね~」というのは二十年の時を経てグサッとくる台詞でした。今も胸を張って『作品』を作ったかと問われるとかなり怪しい。 美大受験において難しいのはここに尽きて、結局実技ができないといけないということです(学びたいのが美術史やアートマネジメントであっても)。そして実技が「できる」とはどういうことか、高校で美術科にでも通ってない限りは予備校に行かないと誰も教えてくれない。ロボットを作ったことがなくても工学部に入れるし、手術をしたことがなくても医学部には入れます。これは他の学部や学科に比べて美大・芸大が優れているという話ではなく、そもそもの評価基準、体系が違うということです。少し前に藝大建築科を除籍になった方の記事が話題になりましたが、彼も彼を評価する人も一般的な大学や学校の枠組みで考え過ぎです。藝大が持て余したのでもなく、単純に質が低かったのだと思います(例えば先ほど挙げた川俣さんはもっとスケールの大きなことを実現しているので調べてみてください)。頭が良いくらいでは美術界を覆すのは難しいです。 ちなみに9巻で世田介が受かったのは「学科の成績が一番良かったから」という都市伝説が出てきますが、私たちが受験した時もそういう話はありました。特に先端芸術表現科のような領域横断的な学科では、キャラ被りしないように色んな分野から選ばれるという噂でした。つまり自分の場合、2次までいけたのは学科の要素が強く、落ちたのは自分より学科ができた人がいたとか、ポートフォリオや面接が酷過ぎたということで大体納得がいきます。「本当にすごい人は大学に通う意味がないので落とす」というのもありましたが、私ではないですね。 そんな感じで1浪目も2次まで進み、個人資料ファイルの意味も理解し、面接対策もし、若干の奇行に走って2ちゃんねるで言及されたりしましたが、またしても不合格。同じ予備校の現役合格者のセンター試験の得点は3割でしたが、今も立派に作家活動をされています。2浪目は予備校のコースも論文指導だけに変え、あんまり行かなくなってしまったので特に言うことはありません(駄目過ぎ)が、今度も2次で不合格、その前に受かっていた学校に入りました。 それぞれの悩みや台詞やシチュエーションが一度は実際に体験したことがあるようなことで、予備校講師も教授も同級生も先輩も後輩も親も美術を知らない友達も「こういうこと言うよな〜」のリアリティが高く(『君とガッタメラータ!』とか『A子さんの恋人』も再現度高い)、ドキッとして読む手が止まることもしばしばだけど、今更どうしようもない年齢になった(あんな風に怒られることもない)し、ある意味でこれを理解できるのは美大受験を経験したからとも言えるでしょう。ここまで自分は頑張ってなかったなと反省する気持ちもありますが、受験に関しては結果的にどの大学に行くことになっても(行かないという選択をしても)、手を動かして作品を作るのは結局自分なので、ただただ数千年続く美術という世界(美術業界でなく)に向き合うことが大事だなと思いながら読んでいます。ブルーピリオド山口つばさ31わかる
hysysk2021/01/23知性からユーモアが生まれる理系大学の日常を描きながら、合間にしっかり役立つ知識(ねじ山がつぶれたねじを回す方法とか、偉人のエピソードとか)が入ってくるので知らず知らずのうちに勉強になる。 普段使ってしまいがちなゆるふわな言葉に厳密さを求めるところなど、知性や技術力から生み出される飛び抜けたバカさ加減が面白く、しかもこういう人たちが実際にいるのがすごい(東大で作られてた柿ピーの柿とピーナッツを仕分けるロボットとか)。日本版『The Big Ban Theory』みたいな感じかも。NHKでドラマ化もされてたし。 手洗いのエピソードが新型コロナの流行で話題になったけど、巻を追うごとに理系的発想が会話やストーリーに馴染んでいったのでもっともっと続いて欲しかった。『天地創造デザイン部』も最高だけどね! https://twitter.com/nyorozo/status/1243478579402248192?s=20決してマネしないでください。蛇蔵
hysysk2021/01/21時代はガールクラッシュ IN YOUR AREA!ローティーン向けのマンガにもガールクラッシュの波が…。今や若者は原宿でなく新大久保に行ったりするそうですが、「アイドルで世界を目指すなら韓国留学」というめちゃくちゃ「今」な作品。名前や見た目は変えつつも、絶妙に現実世界をモデルにしてるあたりKポップ好きにも楽しめます。自分も生まれ変われるならBLACKPINKとかITZYみたいになりたい(1日14時間練習はしたくない)。ガールクラッシュタヤマ碧4わかる
hysysk2021/01/21こじらせのほとんどは昔の人が既に通過している📷誰しも生きているうちに哲学に興味を持つことはあると思うが、これには危険もあって、周りが何も考えていないバカに思えたり、自分の悩みが哲学者のそれと同レベルだと勘違いしたり、知識量でマウントを取るようになったり、詭弁で論破とかしちゃったりする。そういう典型的に自己愛をこじらせた詭弁くんが、割と全部持ってる哲学さんとの対話によって開かれていく感じがよかった。やはり圧倒的な存在の前で自分の小ささを認めることが大事。 しかし「だーれだ?」の流れで「本質的に我々はなにもーのだ?」なんて言われたら一発で好きになっちゃうね。 哲学さんと詭弁くん里好
hysysk2021/01/20行きたいところがまた増えた美大の授業がきっかけでどんどん仏像にはまっていく様子が、あんまり興味なく読み始めた自分と重なってどんどん引き込まれていく。京都や奈良はよく行ってたが、完全に大事なところを見落としてるな〜。知識だけじゃなく人生と繋がっているのが良かった。絵も上手い。仏像に恋して真船きょうこ
hysysk2021/01/16日本美術史の大まかな流れを知るのに良い📷日本の昔の美術ってなんか地味で暗くてかっこ悪い…長らくそう思っていたが、その理由はやはり冒頭で話している通り、そもそも日本には「美術」という概念がなく、むしろ工芸に近かったからだろう。そしてその地味で暗いものにも歴史があり、ドラマがあり、ある時代の考え方や生き方を知る手掛かりが刻み込まれている。特に高村光雲の『老猿』は実物をみたくなった。美どらま 日本美術史ナナメ読み真船きょうこ
hysysk2021/01/15チョコレートに創造性が詰まっている…!誰もが知ってるチロルチョコがどうやって作られているか、成り立ちの歴史も振り返りつつ紹介しているのだけど、めちゃくちゃ面白そうな仕事ですねこれは。50年の歴史があるだけに景気の上下、インフラの変化(バーコード読み取りできなかったり)、流行の移り変わりに左右されながらも、次々と新しいアイディアで乗り越え続けてきているのが分かる。企画部は30人と少数で、社内での試作の様子などはフードテックのスタートアップみたいな雰囲気もある。 マンガによる製造工程の図解も分かりやすく、パッケージデザインやキャラクターの話、未発売の企画など、何気なく食べているお菓子がいかに工夫されているかが嫌味なく表現されていて、よくぞこのクオリティをあの価格で…という気持ちになること請け合い。大学生ならエントリーシート書いてる。チロルチョコで働いています伊東フミ チロルチョコ株式会社1わかる
hysysk2021/01/14東京都現代美術館の学芸員の仕事!個人的に一番好きで、最も通っている美術館が東京都現代美術館。毎回企画展は面白いし、何より常設展が素晴らしい。 このマンガでは日常的な業務や休みの日の過ごし方、企画展の進め方、常設展の仕組みなど、学芸員がどんなことを考えてどんな仕事をしているかがよく分かる。 美術に関する知識はもちろん、デスクワーク以外の現場作業もあるし、語学やコミュニケーション能力、最近だと技術も分かってないといけないので本当に大変(正直昔はアーティストこそが最高だと思っていたので舐めてた)。そして学芸員以外にも、美術館には沢山の人が関わっていて、表には見えない大変な(でも面白い)仕事のおかげで美術という大きな世界ができているんだなぁと改めて感じた。美術館で働くということオノユウリ1わかる
hysysk2021/01/11恋愛観やジェンダー観もずいぶん変わった子供の頃にアニメの再放送で観るともなく観ていたような記憶はあるが、時代がそうだったのか自分が幼かったのか、恋愛に積極的な女ははしたないと思っていて、エルのことは好きじゃなかった。冷やかされ具合や春助の態度をみても、それほどずれた感覚ではなかったと思う。自分の背が低いことも関係しているかも知れない。 しかし今読むと「周りにどれだけ冷やかされようが全力で仲良くするべき」と即答できるくらいエルは最高だし、これだけ沢山シリーズとして続いた理由も分かる。「男として」「男だから」「男らしく」という言葉が頻繁に出てくることや、森田先輩の描写など引っかかるところも多々あるが、逆にそれだけ当時の支配的な考え方を思い起こさせるし、ある程度そういったものを打ち壊そうとしていたようにも読める。Theかぼちゃワイン三浦みつる2わかる
hysysk2021/01/09東京の有名私大、軽薄なサークルで遊んだ後にしれっと大企業に就職…そんなファンタジーみたいな学生生活を送った人には特に刺さるんではないでしょうか。私にはありませんでしたが。。 最初は単なるラブコメかと思っていたけど、後半の就活のあたりはかなりリアリティのある群像劇で、モラトリアムから大人になっていく過程でのヒリヒリした人間関係が面白くて一気に読んでしまった。物語の舞台は現在にありつつ、なんでこんなことになってしまったのかを思い出しながら進む構造も効いている。 自分の記憶ではこれが描かれた2003年前後に一度80年代のリバイバルがあり、2016年くらいからまた80年代の波が来ている(今度は世界的に広がりつつ、90年代にスライドしてる感もあるが)。しかしいま80年代を振り返ることと、20年前に80年代を振り返るのは、同じように見えて決定的に違うんだな、ということを震災や新型コロナ、働き方改革や#MeToo運動などを経験して思う。東京エイティーズ安童夕馬 大石知征
hysysk2021/01/08時代よりも熱い絵📷似顔絵を描いていた少年が絵を描きながら成長し、やがて父親と対峙する。ひたすら絵を追求しているだけなのに(だけだからこそ?)、行く先々でなぜか「おもしれー女」に好かれるのが羨ましい。作中で描かれる絵がいいのと、絵画バトルが能力バトルみたいになっていくのが面白い。ちょっとメディアアートっぽいかも知れない。 時代もあるとは思うが美術に対する考え方、絵の競い方や評価、物語の構成などは『北の土竜』『蒼き炎』とも近く、改めて『ブルーピリオド』は美術マンガをアップデートしたなという感じがある。 しかしちょっと前にネットで話題になった芸大建築科を懲戒退学になった人とかバンクシーとかに世間がコロッと騙されちゃうのを見てると、この辺あんまり理解されていない気がする。 芸術は大衆に開かれていて欲しいと思っているが、この作品の新サロン派みたいに芸術を大衆から取り上げなければならない…と思ってしまうね(自分も排除される側かも知れないけど、それでも貴族的アカデミズムの方がまし)。マッシュ山田貴敏