兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
『鋼鉄奇士シュヴァリオン』、『青武高校あおぞら弓道部』と立て続けにすばらな作品を発表してきている嵐田佐和子さんの新作。嵐田佐和子さんが描くという時点で全幅の信頼を置いているのですが、今回はまたかなり変化球寄りでありながらも160キロストレートのようにズバッと心のストライクゾーンに球を放っていただきました。 というわけで、今日は『キラキラとギラギラ 』1巻の範囲で好きな所で打線を組んでみました。 1番センター 少女マンガと劇画のハイブリッド ヒロインのルルは少女マンガの世界の住人のような絵柄ですが、転校先の獄門高校ではヒーローの禅を始め周りの画風が一気に80年代劇画調へと移り変わります。ルルだけが少女マンガの画風のまま話が進行するのはシュールなギャグマンガのようですが、幼馴染との再会から始まるピュアなラブストーリーとしても上質で楽しめます。むしろ、この違和感が背景にあるからこそ主軸の物語が引き立っていると言えるかもしれません。 2番ショート ″絵に描いたような 不良″ ルルが不良を見た時のリアクション。フリー素材になりかねないほど、ルルの率直すぎる言が面白いワンシーン。 最近ではめっきり見ることも少なくなった稲妻フラッシュもこの作品では多用され、ノスタルジックな気分になります。トーンの柄も、懐かしさが溢れるものがありますね。 3番レフト 女番長・愛子の「およし」 女番長と書いて「スケバン」と読む。 取り巻きがルルにちょっかいを出そうとした所を、木の上からアメリカンクラッカーで静止しながらの「およし」。まさか令和に「およし」と言い放つ女番長を見ることになろうとは、と謎の感動すら覚えました。愛子さん自体、好きにならずにはいられない良いキャラです。 4番ライト カンカンカンカンカンカンカンカン 上記の女番長・愛子が愛用し武器にもなるアメリカンクラッカー。令和の時代にアメリカンクラッカーを見ることになろうとは。そして、アメリカンクラッカーの存在を知らないルルが、愛子よりもアメリカンクラッカーの正体に気を取られているのも好きです。執拗なまでのカンカンというオノマトペ、描くのも楽しかったのでは。 5番ファースト プリント届け 学園ものでは定番の、休んだキャラクターにプリントを届けに自宅まで行くイベント。その際に初めて部屋に入るなどのイベントも高確率で併発し親愛度を高めていくシーンとなるのが一般的ですが、本作のプリント届けは少々一線を画しています。必見。 6番セカンド ″豪腕″の東郷、左利きの嶋、俊足の陣 スポーツテストで活躍(?)する脇役たちで、禅の引き立て役とも言いますが、何気に東郷の放った球の地面の破壊痕は凄まじく、計測不能であった禅と比べても殺傷力は上に見えます。他校との抗争の際には、射撃部隊として活躍して欲しい逸材です。 7番サード わざわざ文房具屋に行く不良 禅たちへの嫌がらせのために、学校内にある道具でもまかなえそうな行為を律儀に文房具屋にまで買いに行く不良がかわいいです。 8番キャッチャー メロンパンを買ってきてくれる不良 『男塾』か『北斗の拳』にでもいそうなクラスメイトたちとの賭けに買ったルルが、好きなパンを買ってもらえることになるシーン。3人が1個ずつメロンパンを購買で買っている絵図を想像すると、笑顔になれます。 9番ピッチャー 禅くんが図書室で読んでいる本 『赤毛のアン』 『百年の孤独』 『孤島の鬼』 『沈黙』 『アルジャーノンに花束を』 『ゲーテ全集』 『車輪の下』 本棚を見ればその人のひととなりが解ると言われますが、このラインナップを見れば禅くんのパーソナリティも伝わってこようというもの。理解者がおらず孤独な彼を、ルルとの再会前は物語が救っていたのかと思うとグッと来ます。 願わくば、禅はルルとの幸せな日々を送って欲しいです。
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
やしろ学さんの名前を知っている人は少なくても、「叢鋼-ムラハガネ-」や「夏と神輿と巨大怪獣」といった作品を覚えている方は結構いるかもしれません。 「叢鋼-ムラハガネ-」を読んだ時は圧倒的な画力に驚嘆し、すぐにでも連載が始まるかと思っていました。 その数年後、横田卓馬さんとの共作である「夏と神輿と巨大怪獣」が登場した時も「あのやしろ学さんが!」となりましたが、その後暫く音沙汰がなかったので何をされているんだろう、と思いながら10年近くが経ち、遂に遂に個人連載作品である『戦車椅子-TANK CHAIR-』が登場!  どこへ行っていたンだッ チャンピオンッッ 俺達は君を待っていたッッッ やしろ学の登場だ――――――――ッ と叫びたくなる気分です。 最初はApple Books限定で知る人ぞ知る作品となっていましたが、マガポケでの掲載を経て、本日遂に単行本が発売となりました。 そして、肝心の内容ですがこれがまた最高なんですよ! まず問答無用で絵が良いです。画力はますます磨きが掛かっており、特にアクション描写は疾走感全開。魅せる構図も演出も豊富。ページを捲るたび脳から色々なものがドッパドパに溢れてきて気持ちいい! タイトルにある「戦闘椅子」のデザインもクールで、ロマンの塊。キャラクターについても、カッコいいキャラやかわいいキャラ、味のあるキャラが盛り沢山です。おまけページの騰子かわいい。 そしてまた、ストーリーの根幹となる設定が非常に面白いです。 「殺意を向けられている時だけ意識を取り戻す」兄のため、妹は最高の殺意を向けてくれる相手を探し求め続ける。 バトルマンガにおいて重要な主人公の弱点として斬新さもありながら、面白い駆け引きを生む制約としても秀逸です。 そしてまた敵を倒した後、束の間だけ取れる兄妹のコミュニケーションが良いんですよね。ここにも設定の妙が強く生きています。ダークさもありながら、根底にあるのが兄妹の絆であることで感情移入がしやすい作りになっているのも巧いところ。 バトルアクション好きの方も、そうでない方もまずは1話だけでも読んでみてください。言葉でなく心で「理解」ります。