兎来栄寿
兎来栄寿
10ヶ月前
本格ミステリ『体育館の殺人』の青崎有吾さんが原作を、『リクドウ』の松原利光さんが作画を担当する、19世紀末のロンドンを舞台にした新たなミステリ。 19世紀ロンドンといえば、コナン・ドイルが生んだ世界中に愛好家がいる最も有名な探偵、シャーロック・ホームズですね。本作は、そのホームズを助ける浮浪少年のリューイが主人公の物語です。 巻末に北原尚彦さんの解説がある通り、ホームズ正典における「ベイカー街イレギュラーズ」、ホームズからお駄賃をもらって彼を助ける1ダースの浮浪少年たちという存在からリューイは着想されているものと思われます。 レストレード警部のような原作でもよく見かけた登場人物や名前だけ言及された事件名などが登場して、原作で書かれていたわけではないけれど仄めかされていた事柄を上手く繋ぎ合わせながら補完するような立ち位置の新たなシャーロック・ホームズの物語となっています。ホームズがまた開業したばかりでワトソンと出会う前段階ですね。 とはいえ、ミステリとしてサスペンスとして、また明日もわからぬ浮浪少年が今日を必死に生き抜く物語として純粋に面白いので、ホームズをまったく知らなくても面白く読めることでしょう。本格を得意とする青崎さんらしい、質実剛健な謎解きの楽しみを味わえます。 また、松原さんの高い画力で描かれる19世紀末のベイカー街と息衝くようなキャラクターたちがとても魅力的です。リューイの目力が良いですね。ホームズも癖はありながら、ずば抜けた慧眼を発揮するところはやはり格好いいです。アクションシーンも迫力があります。 今後、原作の他の有名なキャラクターたちは登場するのか、どのように料理されて提供されるのか。非常に楽しみです。
兎来栄寿
兎来栄寿
10ヶ月前
『墜落JKと廃人教師』のsoraさんが、並行して短期連載していた作品です。 舞台は西暦3015年。温暖化と海面上昇により海が地球の90%を占めるようになったころ、人類は建物をどんどん高層化しながら自然と空を飛べるように進化したという世界。そんな世の中で唯一空を飛べない人間、「旧世代(ドロップ)」として差別を受けながら生きるのが本作の主人公・深海ツバサです。 「飛べない人間って人間なの?」 とまで言われてしまう世界。階段が設けられている学校すら希少で、移動のために常にマイハシゴを持ち歩いているヒロイン。まず、この設定が独特で面白いです。独自の理がある世界で必死に生きるツバサは白泉社の良きSF感を覚えさせてくれます。 そんな彼女が出会うのは、何やら謎めいた事情を抱えているイケメン・鷹月レン。彼との関係性も見所です。 ファンタジックな設定ですが、ツバサの抱える疎外感や無力感は現実の私たちと地続きであり共感できるものです。そんな中でも、ツバサだから見ることのできる世界の美しさ・素晴らしさもある。設定を上手く利用しながら実に良いシーンを描いているところもあって、好きです。 soraさんの画力がそれらをより引き立てているのもありますし、1話と最終話の対比構造も綺麗で素敵な物語です。 巻末には短編の「アブダクション」も収録。命の危機にあるときのツッコミたくなるところへのツッコミが好きです。