兎来栄寿
兎来栄寿
9ヶ月前
TRPG、良いですよね。 自分ではないキャラクターになり切って演じる面白さ。 1%のダイスロールを成功させて大逆転を果たす快楽。 非日常が詰まったセッションは格別です。 ただ、たくさんの時間と仲間が必要なので、なかなか社会人になると遊べなくなってしまいます。今はスマホやタブレットで諸々のパラメーター管理からBGMや効果音、映像などまでまかなえてしまうので良い時代になったものだなぁと思います。それでも、ダイスは電子ではなくアナログのものを転がしたいですけどね。 何なら、デジタル的な繋がりが増えた現代においては人と人とが触れ合えるアナログゲームの価値というのはますます増していると思います。どこまで行っても、人はオフラインでの対面の交流に大きな価値を感じ続けるのではないかと。人狼や各種ボードゲームやマーダーミステリーやポーカーやポケカやワンピースカードゲームなどが流行るのもそういう側面もある気がしています。ようやくコロナも落ち着きましたし、TRPGもまた再評価されて盛り上がる日が来るかもしれません。 そうなったときに、盛り上がりを助けることになりそうな作品がこちら。 不幸体質でTRPGをやっても失敗判定続きになる赤井千幸(ちさち)。 冒険ギルド部部長でお金持ちのお嬢様である黒音美歩(くろねみほ)。 父親がTRPGを嗜んでいる千幸のクラスメイト黄ノ瀬りねん。 アウトドア系の部活と勘違いして冒険ギルド部にやってきた黒髪ロングストレートの蒼崎依理(あおざきえり)。 彼女たち4人を中心に、冒険ギルド部の活動であるTRPGを中心とした活動が描かれます。何も知らない千幸が初めて遊ぶところから始まるので、元々TRPGが好きな人はもちろん、これから知って好きになる人にも良いと思います。 TRPGのセッションシーンはもちろんですが、ダイスなどのアイテムを皆で買い物に行くシーンにも楽しさが溢れています。初めてイエローサブマリンのような専門店に行ったときに見る、あのカラフルに輝く普段は触れない8面・10面・20面ダイスは蠱惑的なんですよね。コンポーネントは見ているだけでも楽しいです。マイダイス、良い響きです。 お泊まり会をして夜更かししながら行うTRPGなんて最高に楽しいですからね。それに付き合ってくれる仲間がいるというのは本当に幸せなことだと思いますよ。大切にしてあげてくださいね(鑑定団の中島さんの面持ちで)。
兎来栄寿
兎来栄寿
9ヶ月前
惜しまれながら終わってしまった『ひかるイン・ザ・ライト!』の松田舞さんによる最新作です。 『錦糸町ナイトサバイブ』はローカルかつニッチな面白さがあり、『ひかるイン・ザ・ライト!』はまっすぐな情熱にあてられるのが気持ち良い作品でしたが、本作はそれらともまた違った雰囲気をまとっています。 主人公の佐藤瞬は、中学時代はサッカーの県大会でMVPに輝き将来を期待されていたものの、足のケガにより運動全般ができなくなってしまった少年。そんな瞬が、「直帰ちゃん」と渾名される佐藤直希の「ハイパー帰宅部」に強引に誘われていく物語です。 私も中学までは運動部だったのですが肺を患ってしまい、高校では本気で運動をして上を目指すことができなくなってしまっていたので、運動は諦め文化系活動を極めようと方向転換しました。その結果、今があるので人生万事塞翁が馬です。ともあれ瞬くんの気持ちは多少なりとも解ります。 本当に夢を叶えられる人というのはほんの一握りで、多くの人の人生には挫折や諦念をする瞬間が訪れます。それでも、その先に人生は続いていきます。そこで何を見て、何を為していくのか。その分岐の先でしか見られなかった景色も、案外悪くなかったりします。そういった意味で、この物語が響く人は少なくないでしょう。 学校の帰り道にある何気ないものからもロマンを感じられる直希の影響により、瞬が少しずつ変わっていく様子に心が解れます。明けても暮れてもサッカーに打ち込んでいて夕陽に染まる町並みを見る瞬間もなかなかなかったであろう瞬が、高校生になって初めて味わうゆっくりと過ごす時間に人生の機微や大切なものが詰まっています。 瞬と直希の何とも言えない関係性、ラブのコメり具合もとても良いです。5話や6話を経て8話で見せる瞬の表情など堪りません。3話のエピソードも好きですが、その最後に出てくる直希のセリフから滲み出る感性が本当に良いし、瞬が絆されるのも解ります。 余談ですが、文化祭の出し物が「赤ずきんオブ・ザ・デッド」だったり、「サイバーパンクメイド喫茶」だったりする自由な校風も、私が通っていた学校に近いものがあり親近感が湧きました。
まるまる
まるまる
1年以上前
今月号のココハナ読んだら番外編が載っていて、本編知らなくてもすごく面白かったので本編の方も読んでみました。最終10巻に載る予定の最終回まで。 タイトルとカバーだけでは「パンと恋愛の話」という印象だけだったんですが、ちょっとこれは正直、想像を絶するというか、「生きるとは」みたいな話にも通じるような物語だったんです。この漫画で描くのは「大人の男女の恋」じゃない。本作を読んだだけでわかる。芦原妃名子という漫画家は凄いです。 "出会って二日目で婚約者になっちゃった!?"という恋愛漫画としての掴みはバッチリなのに、9巻でもふたり関係性はほぼ変わってない。そんなことある?本当だったら読者の「キュン」をせめて1冊に1回は入れるものなのでは?でもそんな考えはこの漫画の前では意味をなさないんですね。「そんなことより」なんですよ。すれ違ってもすれ違っても、逃げずに向き合って、会話を重ねて、少しずつ理解し合っていく。この過程を追うのが本作の醍醐味。 主人公ふたりに限らず、登場人物はみんないつも頭で考えて行動してる。その場の感情に任せて動いたことは殆どないんじゃないかな。 人のどうしようもなく不器用な部分や、諦め悪く心のどこかでしがみついてしまうところ、「好き」だけじゃない人と人が一緒にいる意味、何歳だろうと成長を諦めないこと、30代以上のひとがこれから生きていく上でのしかかってくる責任とか覚悟を、これでもかと時間をかけて丁寧に描き出してます。 柚季が最初から最後まで貫き通したポリシーである「一緒に毎日おいしいご飯を食べたい」というもの。結婚の条件としてもものすごく大事な要素だと思いますが、結婚とか関係なしに、毎日美味しいものを美味しいと思いながら生きる人生は理想であると、この漫画を読んで改めて噛み締めたのでした。 芦原妃名子先生の次回作、心よりお待ちしております…!