夕映えの丘に―そこも戦場だった―

胸が塞がる戦争と親友の記憶

夕映えの丘に―そこも戦場だった― 佐藤まさあき
なつき

導入から終わりまでの構成、作画、ストーリー、どれもが素晴らしい読切でした。途中辛いシーンがありますが、何より**最後まで読んだときの喪失感とやりきれなさが一番胸に残りました。** この作品は**佐藤まさあき先生ご自身の体験を描いたノンフィクション**だと読後に知り、あらためて戦争の残酷さを突きつけられました。今のサンデー読者にも届いてほしい傑作です。 【ビッグコミックオリジナル第18号】 https://bigcomicbros.net/magazines/25108/ 【あらすじ】 大阪で育った主人公・藤本は兄とともに愛知・祖父江町の祖母の元へ疎開する。小学校では地元の子供達に線を引かれ、意地悪なボスから『ソカイシャ』と呼ばれいじめを受ける。ある日、空襲で両親と片腕を失った少年・西田が名古屋から転校してきて、2人は都会育ちの疎開者同士友情を育んでいく。 やがて大阪は空襲に遭い、藤本の父は黒焦げになって死に、母は全身を油で焼かれ薬もなく与えられぬまま死んだ。 打ちひしがれる藤本に唯一、同じ立場で寄り添うことのできる西田は、丘の松の木を見て「俺たちも運命を呪わず真っ直ぐに生きよう」と鼓舞する。以来2人の仲はさらに深まっていった。 やがて中学を卒業した藤本は、漫画家になるという夢を叶えるため上阪する。週に一度は手紙のやり取りをしていた2人だが、「郵便局に就職した」という便りを最後に西田から連絡が途絶える…。 【扉絵の解説より】 >週刊少年サンデー1970年4・5号合併号に『新春感動大作シリーズ第5談』として掲載された、劇画家・佐藤まさあき氏による読み切り作品。 >1955年4月に上阪するまで、佐藤氏が過ごした愛知県稲沢市祖父江町を舞台に、彼の実体験を基に描かれたノンフィクション。作中に登場する松の木も実在するもので、執筆当時「思い出の松の木は、ちっとも昔と変わっていなかった」と語っている。本作は佐藤氏にとって念願のテーマであり、自身の心の傷に立ち向かった渾身の一作である。

特別読切『初恋』

あっさりした中に深みを感じた

特別読切『初恋』 くれよんカンパニー
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

ゴリラに初恋をしてしまった女性の話。 動物園、ガラス一枚向こうにはゴリさんがいる。 この女性がゴリラに向ける視線は全身をなぞるようにとてもエロティックで、憧れの人に向ける目線のように熱く純粋だ。 そしてそこにゴリさんと気軽に挨拶を交わすライバル(人間の女性)が現れ・・。 すごくかわいらしいお話だった。 でもこの話って何かに置き換えられる気がするなーと思って、ぼんやり考えていたらハッとした。 「のぞき部屋」だ。 利用したことはないが映画などで描かれているのを見たことがある。 「万引き家族」で出てくるのも同じような形態だったかな? まさに、ガラス1枚隔てた向こう側に対象がいて、悶々として熱い視線を向けている。 同じ対象を複数人が見ている、いわばライバルだ。 男たちは目の前の女性の見た目に幻想を投影し、みっともなく泥臭く自分のものだと主張し取り合う。 だが、見られてる側からしたら多少のサービス精神こそあっても、ガラスの向こう側に気持ちがいくことはなく、プライベートでよろしくやっているのだ。 その関係性を男女逆転させ、風俗を動物園という設定に変えたのがこの作品と考えれば、立体的に見えてきて面白い。 女性に変えただけで(それだけではないが)、みっともなさを可愛らしさのオブラートに包むんでこうも可愛らしくなるのかと感動する。 オチなんかはまさに例で出したソレで笑える。 他の作品を読んだこと無いので読んでみたくなった。