I KILL GIANTS

「巨人を殺す」と決めた少女の話

I KILL GIANTS ケンニイムラ ジョーケリー 柳亨英
ANAGUMA
ANAGUMA

ロングアイランドに暮らすバーバラはクラスでも浮いていて、家族とも良好な関係を築けていない小学生。その原因は彼女の言動にあります。バーバラの生きる目的はひとつ。「巨人を殺す」こと。 「中二病女子の成長物語」というコピーが付いていたようですが、バーバラの行動はたしかに「中二病」的です。自分がもし多感な時期に『進撃の巨人』にドハマリしていたら…とか想像してしまった。 誰にも理解されないからと自分の世界に閉じこもり、どこか他者を見下しているかのように振る舞い、挙げ句唯一の友人ソフィアも傷つけてしまいます。はっきり言ってバーバラは感じの良いキャラクターではありません。 「一体この子は何と戦っているつもりなんだ…」と冷めた気持ちで作中の人物と一緒にため息吐いちゃうこともあるかもしれません。 ところが、彼女が殺そうとしている「巨人」の正体が明らかになった瞬間、一気に空気が変わります。これまでバーバラにしか見えていなかった巨人や、妖精の世界の真実が理解できてしまったとき、彼女に抱いていた印象は180度変わるはず。 誰もがどこかで味わったことのある青春の辛さが滲んでくる、苦みに満ちた作品なのは間違いないと思います。それでも読み終えた頃にはフッと優しい気持ちになれる、素敵な作品です。ドンデン返しと爽やかなエンディングを読んで味わってほしいです。

さよなら、またね。

優しくて切ない天才の短編集

さよなら、またね。 優
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

この短編集は、オールカラーである……水彩タッチのとても淡く、優しい色彩と、繊細な描線。 「萌え」という言葉にある程度、揶揄が込められているとすれば、優先生の描く造形は、「萌え」に水彩的な「優しさ」を加えて、誰も揶揄する気になれない程にまで美しく、愛らしく突き詰めた芸術品だ……控えめに言って天才だ、と思っている。 『おおかみこどもの雨と雪』『五時間目の戦争』も美しかったが、優先生の本質はカラーにある……と私が思い込んでいるのは、私がはじめて触れた先生の作品が、この短編集『さよなら、またね。』の表題作だったからだろう。 『季刊GERATINE』というカラー漫画雑誌の2010年秋号に掲載されたこの作品。いつ単行本になるのか……と思っていたら、2017年まで待つことになる。 表題作を始めとして、優しい雰囲気の中に描かれるのは、残酷な状況が多い。もう取り戻せない物、気づいた時には失われている恋、否応ない別れ……余りにも切なくて、私は表題作でいつも手が止まってしまう。 この年、優先生は亡くなられ、もうこの様な作品達は生み出されない……という事情を差し引いても尚、この切ない天才の、決して色褪せない作品に、是非一度触れてみていただきたい。まずはこの短編集がいいだろう。そして『五時間目の戦争』を是非。 ①さよなら、またね。 七年ぶりに化けて出た元クラスメートは、生まれ変わるから挨拶に来た、と言う。 ②なくしたことば 自分を模したAIを載せたサイボーグが、眠りから覚めない……何の夢を見てる? ③はるのはな 遠く離れた兄と妹。レシーバーで偶々の交信。人の体でない兄が向かうのは……。 ④なつのいと 先生は私の名を間違える。私とよく似た、婚約者の名前と。 ⑤おかえりなさい 田舎に帰省する姉は、いつも明るい。俺が望んだのと、違う。 ⑥猫の日 飼い猫を助けてくれた級友に、つい暗い本音を話してしまう。彼の反応は……? ⑦きずあと 切りすぎた前髪を、男の子に見せに行く。彼のせいで、残った痕を、苦しい初恋を。

おおかみこどもの雨と雪

子供の人生選択…その時母に出来る事

おおかみこどもの雨と雪 貞本義行 細田守 優
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

恋した人は、狼男でした……やがて二人の間に姉弟の「おおかみこども」が産まれるが、母子を残して狼男は死んでしまう。人の世界に組み込まれず孤立する母子。生活に限界を感じた母は、ある決断をする。 □□□□□ 物語は、狼と人間の姿を行き来する子供達の成長を追い、人か狼かの生き方を選択するまでを追う。 性格、好奇心、本能……それぞれの人生選択は、丁寧に二人の性質を追う事で、意外なようでいて納得のいく必然性をもって描き出される。そして二人を庇護してきた母の苦労を丹念に描く事で、人生を選んだ子供に最早何もできない苦しみと、懸命の祈りが胸に迫る。 幼い二人の表情の豊かさに癒された後で、生き方を違えた二人の表情の対比に驚かされる。最後まで読み終わった後に、姉弟の最初を見返すと、ひどく懐かしい感じがする。こんなにも遠くに来てしまったのかと。 同名映画のコミカライズである本作が初単行本となった、優先生。感情の描き方の強さと複雑さに、心を動かされる。笑顔、泣き顔の表情一つひとつが強力で、表情につられて貰い泣きする場面が本当に多く、人前でおいそれと読めない感じがする。 (映画版を観ていない感想です)