わんぱくTRIPPER

サガノヘルマーは、今、どこにいるのだろう。

わんぱくTRIPPER サガノヘルマー
(とりあえず)名無し
(とりあえず)名無し

…って、別にググればいくらでも現在のサガノヘルマー情報は出てくるのですがね。 しかし、どんなにググって「知識」を得ても、この奇才の掲載当時の衝撃度は、知らない人にはたぶん推測することもできないのです。 かつてヤンマガ本誌で、つまり、日本中のコンビニで誰でもごくごく手軽に買える媒体で、常軌を逸したエロとグロをまき散らしまくっていた異形の奇才が、今はほぼ忘れられてしまっているのに茫然とする。 このマンバでも、作品一覧に『BLACK BRAIN』がないのだから。ヤンマガで連載して単行本10巻とか出していたのに…。 まあ、それもしょうがないのか。 ヒドい(=凄い)漫画家だもんなあ。 今じゃあ絶対、一般誌に載せられないよなあ。ホントにヒドい(=凄い)もんなあ。 『わんぱくTRIPPER』は、サガノヘルマーのデビュー作です。 さすがにデビュー作だけあって、その資質が全開です。作者も編集部も、ほぼコントロールできてないです。ヒドい(=凄い)です。個人的には、ブラブレや後年の成年誌発表作より、イっちゃってると思います。 素晴らしいです。 駕籠真太郎とかがお好きなかたは、ぜひ。 これが、日本中で若者が読んでいた雑誌に載っていた時代があったんだなあ。 「僕は二十歳だった。それが人生でもっとも美しいときだなんて誰にも言わせない」 ポール・ニザン まあ、少なくとも毎週サガノヘルマーを読んでたのが二十歳頃だったら、そりゃあ美しくはないよなあ。ヒドい(=凄い)よなあ。

トロイメライ

大法螺吹の奏でる音楽

トロイメライ 島田虎之介
影絵が趣味
影絵が趣味

島田虎之介、まず名前がとてもいいですね。 月刊ガロのあとを継いだアックスからデビューしている曲者なんですが、このひとはおそらく、資質的にはガロというよりは手塚治虫が主催したコムよりの正統派作家なんだと思います。白と黒のコントラストが特徴的な硬派なコマ作りもそうですし、何よりコマ作りにある種の照れがある。この照れというのは手塚治虫のヒョウタンツギを筆頭に、コム出身者は吾妻ひでおのパロディに受け継がれたような照れのことです。この方向性は、ガロのつげ義春を筆頭に身辺雑記的な小さな世界からマンガの境界線を探索しようとしたひとたちとはまったく異なるものだと思います。 そして何より、島田虎之介のマンガはとにかく風呂敷をひろげまくる。しかも、あたかも歴史的事実であるかのようなコマ内に出てくる情報がふつうにとんだ嘘であったりするんです。すなわち夢と希望にあふれているといいますか、冒険者的な突拍子のなさがあるんです。 まあ、とっつきにくい絵ではありますので、島田虎之助の入門編といたしましては、ブルボン小林名義のマンガ評論でも知られる小説家の長島有が主催した『長島有漫画化計画』のなかの『猛スピードで母は』がおすすめです。なお『長島有漫画化計画』には他にも、 萩尾望都「十時間」 衿沢世衣子「ぼくは落ち着きがない」 カラスヤサトシ「夕子ちゃんの近道」 100%ORANGE「女神の石」 よしもとよしとも「噛みながら」 フジモトマサル「ねたあとに」 陽気婢「エロマンガ島の三人」 小玉ユキ「泣かない女はいない」 うめ「パラレル」 島崎譲「THE BUNGO」 吉田戦車「ジャージの二人」 オカヤイヅミ「佐渡の三人」 ウラモトユウコ「サイドカーに犬」 河井克夫「タンノイのエジンバラ」 ら、埋もれさせるには勿体ない作品ばかりが目白押しですので是非ともゲットしていただきたい。

愛蔵版 雲出づるところ

今日生きることを考える名作

愛蔵版 雲出づるところ 土田世紀
六文銭
六文銭

個人的に、土田世紀作品の中でも、心えぐるものとして「同じ月を見ている」と同等かそれ以上の本作。 もはや紙書籍が流通していないので、電子書籍が頼みの綱でしたが、愛蔵版として再配信されたことを本当に嬉しく思います。 洋の東西、メディアを問わず「生きること」をテーマにした作品は数あれど、これほど濃度こく煮詰めた作品はないでしょう。 絵に描いたような幸せ夫婦に訪れる不幸の数々。 子供を求めては幾度も失い、あげく妻が癌に侵され「自分は何のために生きているのか?」を問う姿。 なりふりかまわず努力しても、命がけで祈っても、何一つ報われない無力感。 生々しい感情や絶望は、読んでいて悲しいとか苦しいなんて言葉では表せない、脳でも処理できない、魂レベルで慟哭します。 書き手も命削って書いているとしか思えないです。 「生きることに意味なんてない」と主治医から一つの答えがでます。 だから、1日1日を懸命に生きるべきなのだと。 当時、自分もこの考えに非常に共感しました。 泣いたり笑ったり色々あるけど、生きることが好きだから生きる。 そこに意味はないのです。あっても、後付けでしかないのです。 ただの悲劇に終わらせない底力がこの作品にはあります。 読んだ時代、年齢で違ったことを考えさせられるので、チープな言葉ですが「名作」とはこういう作品をいうのでしょう。

理想と恋

地に足ついた最高の大人百合…!!!

理想と恋 日野雄飛
たか
たか

日野雄飛先生は、老若男女に好まれるであろうマンガらしい絵柄であらゆるシチュエーションの百合とBLを生み出す天才です。 その日野先生による初の百合短編集が本作「理想と恋」…! https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_MF00000078010000_68/ 収録作品は、元アイドル×配達員を描く「チャイムとアイドル」、アパレル店員×パン屋を描く「ピクニック」(はWEBでも読めますのでまずはぜひこちらをご覧ください)、そして劇団員×新入団員「れんげがさいたら」の3編。 大人百合がテーマで、自分の心に蹴りをつけた自立した女性たちがお仕事を通じて出会う、その地に足ついた恋のリアリティにギュンギュンします…。 3組ともカップルの片方が背が高くてどストライクで最高です…ありがとうございます。 そしていつも思うことですが、日野先生のコマ割りのセンスが最高すぎます…美しい。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 「チャイムとアイドル」…元アイドル×配達員 推しが武道館いってくれたら死ぬを彷彿とさせるカップル。配達員っていう設定が良すぎる。2人とも再会をキッカケにそれぞれオシャレしたり、自分磨きに励むシーンがたまらなく可愛かったです。 https://i.imgur.com/Vop33ym.png 「つん」無理…好き…  (『理想と恋』日野雄飛「チャイムとアイドル」より) 「ピクニック」…アパレル店員×パン屋 ダメ人間との恋愛はNL・BL・GL問わずよく描かれ大抵は「掃除ができない/料理下手」程度に留められることが多いのですが、このお話はさらに掘り下げてリアリティを出していて、しかもそれが絵だけできちんと伝わるように描かれているところが最高でした。 「れんげがさいたら」…劇団員×新入団員 あとがきによると、「もともと舞台マンガを描きたいと思っていた」そうで、連載は怖いのでオムニバスの1つにしたとのこと。そのため劇中劇も演劇の世界の文化の描写もメチャクチャ読み応えがありました。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 絵が可愛い、女の子が可愛い、ストーリー・設定が上手い…!間違いなく面白い短編集なのでぜひお手にとってください。 https://twitter.com/youhe_o/status/1114371575967444992?s=20

ノブナガン

偉人の力で怪獣と戦うジュブナイル・ビルドゥングス・SFアクション

ノブナガン 久正人
ANAGUMA
ANAGUMA

主人公のしおちゃんは女子高生。織田信長の偉人遺伝子が宿り「ノブナガン」として宇宙怪獣から世界を救う戦いに巻き込まれていくのですが、JKでミリオタで作戦参謀まで務めるっていうギャップが効いてます。 久正人作品らしくアクションのかっこよさ、偉人の逸話や能力を使った戦闘のギミック、怪獣のディティールや掃討作戦のカタルシスは文句なく最高です。久正人×宇宙怪獣の組み合わせに間違いがあるわけがない…。 『ノブナガン』がとりわけ魅力的だなと思うのは、しおちゃんの成長を描くビルドゥングスロマンでもある点でしょうか。 (甘酸っぱいラブロマンスもあるぞ!) 人付き合いが苦手で「オタク」として孤立しがちな彼女に手を差し伸べる親友にしてヒロイン、浅尾さんとの関係は読んでいるこちらが恥ずかしくなるほどにかわいらしく、そして美しいものです。 しおちゃんは浅尾さんのために銃を取り、やがて仲間と手を取り合うことを学び、最後には全人類のため、愛する人とともに戦います。 ひとりだったしおちゃんの世界が広がっていく、そのキッカケになるのは他ならぬ浅尾さんなのです。 自分はこの作品、かなり正統派のセカイ系マンガなのでは?と読んでいたのですが、壮大なストーリーの中心には必ずしおちゃんと浅尾さんの物語が据えられていたからだろうと思います。 特に終盤、進化侵略体との決戦が近づき戦闘がスケールアップしていくのと対照に、決着へ突っ走るための力強いエンジンとして彼女たちのミクロな関係性が描写されていくのは圧巻の快感があります。 パワフルなストーリーと巨大な感情が全6巻のなかにギッチリ詰め込まれてます。ボリュームたっぷりの一作、ぜひ読んでみてほしいです。