BLUE GIANT SUPREME

ジャズは深くて難しくてカッコいい

BLUE GIANT SUPREME 石塚真一 NUMBER8
さいろく
さいろく

まず主人公のダイはすごくすごく熱がある。 周りのメンバーもそれぞれ真っ直ぐで、熱量が高い。 で、出会うその他のジャズやる人達も同様に熱い。 向き先は少し違えども、ジャズに対する熱量の高い人達を描いているんだけど、やり続けるとどういう葛藤があるのか想像もつかない。 ※もちろんコレだけが正解じゃないし特殊なんだけど 前作「ブルージャイアント」で感動と、落胆に近い憤りとを感じた人がほとんどだと思う。シュプリームではさすがに同じことにはならないと信じたい(今でもアレは本当にハッキリ憶えてるぐらいツラく、「ふざけんなーー」と口に出たぐらい熱中というか没入していた) 前作からそうだけど、途中途中で後にダイのことを語る人々(恐らくインタビューを受けている)が出てくる。 そこからは当然、未来がある程度想像できるワードがいくつも含まれており、それを踏まえて読む事でまた口角が上がってしまうのを抑えきれずに先を楽しみにして待とうと思えるそんな漫画。 ジャズが苦手であろうとわからなかろうとそんな事はどうでもいいぐらいに、五感を揺さぶってくるすごい漫画なので絶対読んだほうがいいし出来ればネタバレは見ないほうがいい。 ググると「ブルージャイアント ひどい」が一番上にサジェストされて笑ったけど、シュプリームがなかったら本当にただひどかったかもしれない。 ただ、ひどかった(と私含む多くの読者が思っている)のは本当に後半の、割と最後の方の展開の一部でしかなく、それは本当に衝撃的だったけど、その衝撃が大きい人ほどこの作品をちゃんと読んだ人であるのは間違いない。 大好きなので是非多くの人に読んでもらいたい。

INOZ -55歳から歩いて作る日本地図-

伊能忠敬と高橋至時 #1巻応援

INOZ -55歳から歩いて作る日本地図- こやす珠世
兎来栄寿
兎来栄寿

小学生のころ好きな歴史上の人物をひとり選んでレポートを書くという授業があり、織田信長や徳川家康などに人気が集中する中で私が選んだのは伊能忠敬でした。 55歳から自分の脚で日本全土を歩いて測量し、当時としては途轍もない高品質な地図を完成させたというなかなか真似できない偉業に、私は惚れ込んでいました。そのころにこのマンガがあったら、絶対に喜び勇んで読んでいただろうなと思います。『猛き黄金の国 伊能忠敬』や『大河への道』など、近年伊能忠敬への注目度が高いのは嬉しいです。 『病室で念仏を唱えないでください』や『HANAGATA』のこやす珠世さんが描く本作は、齢50を目前に控えた忠敬が家業や村の仕事を引退してずっと学びたかった暦学の道へ進もうというところから始まります。 そんな忠敬の下にやってくるのが、素性の知れない、しかし忠敬を驚かす鳥瞰画を描く才能を持った青年の空。人情に厚い忠敬は、彼と共に第二の人生の幕を開いていきます。 言うまでもなく、江戸時代は今よりも平均寿命が短いです。そんな中で50歳から新しい物事を本格的に始めるというのは、容易いことではなかったでしょう。しかし、情熱や信念がそういったハードルを越えさせていくのもまた人間。余命が長くなって時間を持て余す人が多くなったであろう現代こそ、この忠敬の生き様がより響く時代になったと言えるかもしれません。 ときに頑迷固陋なところもありますが、根本にある伊能家の高潔な家訓によって育まれたであろう優しさや精神性、未知への探究心を全開にするところに忠敬の味わい深い人間としての魅力を感じさせてくれます。それは、私がかつて忠敬に抱いていたイメージにとても近いです。 忠敬ほどの知名度はないものの、忠敬が師事した極めて重要な人物である高橋至時(東岡)も登場。 https://x.com/darumaym/status/1729828197875826805?s=46&t=S5wm4E-TmT39NBg4BgQsPA 松浦だるまさんの願いも届いた感じですね。 タイトルの「伊能図」、「大日本沿海輿地全図」を完成させた高橋景保の親にあたる人物であり、彼らの測量事業が本格化していく今後の展開がとても楽しみです。 暦学や測量の歴史を読みながら楽しく学んでいける物語です。こちらも巻数を重ねていけば実写化なども期待されますし、その意義もある作品であると思います。

女神の標的

戦後の金塊争奪サスペンス #1巻応援

女神の標的 小山ゆう
兎来栄寿
兎来栄寿

『がんばれ元気』、『お〜い!竜馬』、『あずみ』などでお馴染みの、小山ゆうさん最新作。『颯汰の国』を挟んで、『雄飛』と同じ昭和の物語が新たに紡がれています。 本作は1953年の戦後間もない時代が舞台。大衆演劇の花形役を務める主人公の春子が、日本軍の大佐であった父が隠した日本再建のための金塊を巡る争奪戦に巻き込まれていくサスペンスです。 男剣士を凛々しく演じる美しく強い春子は、恩義のある座長のもとで何も知らず暮らしていましたが、ある日を境にその日常が崩れていってしまいます。ただ、戦後という時代もあり、ただやられるばかりではなく暴力に対し時に立ち向かって反撃していく姿もあり痛快です。 鴻鵠の志で金塊を隠した春子の父に対して、本当に存在するのかどうかも解らない「女神」(作中で金塊の隠語と語られる)を巡って、多くの人々が醜悪な争いを起こしていくさまは何とも言えません。 そしてまた、もし金塊が時の総理の下に首尾よく回っていったとしてもそれが正しく使われるかどうかは別の問題として存在するのもまた無常感を覚えさせられます。仮に総理が高潔な志で差配を行おうとしても、さまざまな思惑や柵が絡んだ政界でどこまで理想通りに事を運べるのか。栓なきことと解りながらも、考えてしまいます。 ともあれ、さまざまな勢力が互いに画策し合い息もつかせぬ展開で、誰を信用できて誰が信用できないのかも解らない春子の緊迫感がそのまま伝わってくるようです。 小山ゆうさんももう76歳ですが、筆に翳りは見えません。池上遼一さんも今月で80歳を迎えますが、皆さんお元気でい続けて欲しいです。

ねじ式

ガロの中でも異彩を放っていたとされるつげ義春の代表的な1作

ねじ式 つげ義春
さいろく
さいろく

気づけば電子版があったので購入。 すんごい昔に読んだけど記憶に残っていたのは読後感ではなく絵画を観たあとのような感覚だけでした。 シュールの権化のような意味のわからない物語展開(そもそも意味とかないのかもしれない)の「ねじ式」を始めとした短編集。 つげ義春らしさがこれでわかるのかは不勉強であまり明確にわからないけど、きっとこういうものなんじゃないかとは思う。 ねじ式の冒頭、海からあがってくるシーンのTシャツを、いかにもギークって感じのヒゲメガネデブな白人が着ていた。 今となってはおしゃれであり、通り越して「通」っぽさが出てしまうであろう。 いずれにせよ本作を読むことで自分なりの感想を持つことが許されるのだ。漫画好きさんは1回読んでみるといいかもしれない。 ちなみにこの短編集ではいろいろな時期の作品が混ざっているようで、試験的なものから初期っぽいものまで(そう感じさせるだけで後期のものだったりしたらそれはそれで凄い)多数のつげ義春が見られる。 水木しげるを彷彿とさせるような背景描写技術に、当時の工夫が見て取れるのでいずれの作品もそういう意味では今読む事で面白さが増していると言えよう。