まずタイトルがかっこいい
hysysk
hysysk
9ヶ月前
暗い話が多い短編集ではあるが、通底して投げかけられているのは人間や愛とは何なのかという問いである。 白人と黒人の臓器が入れ替わったら何人になる?意識はそのままで姿形が動物になったら?血の繋がりってそんなに重要か?妄想の幸せも幸せか? この短さで十分にその物語を成り立たせている世界観を構築する力量はさすが。しかしそれはステレオタイプだったり、皆が共有している価値観を利用する(というかそれを作ったのは手塚自身とも言える)ことと表裏一体であり、現代的な感覚からすると少し物足りない原因でもある。
空気の底
どうしようもなく憎くて愛しい謎の女
nyae
nyae
1年以上前
作家・美倉が、酒に溺れた浮浪者・ばるぼらを道端で拾うところから物語が始まり、同時に美倉の人生が破滅へ向かうスタートが切られます。売れっ子小説家であるがゆえに様々なしがらみに囚われた生活を送っている美倉に対しばるぼらは、人の金を使って酒をあおり、機嫌を損ねれば別の男のところへ去り、行くところがなくなればふらっと美倉の元へ戻る、の繰り返しという気まぐれな生き方。 そんな傍若無人なばるぼらに振り回されて少しずつ人生の歯車が狂っていくのに、ばるぼらがそばにいないと何もできなくなる美倉。これは恋なのか、愛なのか、すべては毒に冒されて見たただの幻なのか…? ばるぼらの正体が魔女だと美倉が言い張るエピソードもあり、魔法は使えないけど、魔力はあるんじゃないかと思わせる意味では本当に魔女なのかもしれません。 ばるぼらに謎の魅力があるのも事実ですが、美倉が底抜けのお人好しなんだろうというのも読んでいて常に思うところでした。出会ってはいけないふたりだったんだと思います。 映画は特に見るつもりはなかったけど、読んでみると、これが実写映像化されるということに非常に興味深くなりました。
ばるぼら
七色に変化する役者の裏の顔
さいろく
さいろく
1年以上前
最近の「アクタージュ」や「累」「マチネとソワレ」のような役者(舞台・演劇)系マンガのブームを鑑みて改めて評価されるべき作品。 よくブラックジャックと比較している人がいた気がするのだけど、チャンピオンでの連載枠としてブラックジャックの次がこの「七色いんこ」だったらしい。 人情物語は手塚治虫ならではなので当然のようにあるのだけど、役者としての顔と裏側で見せる怪盗七色いんこはとても魅力的なキャラで、人としての弱さというか深い情が見え隠れする。 ヒロインの背景も面白く、登場人物たちも今読んでも適当なようでしっかり作られていくので読んでいて思い入れが出来てくる。これらの伏線がグチャグチャ絡んでいくのに最後にギューッと回収していくところは一つの劇を見終えたような気持ちになれただろう。 最終話はほんとに評価が高いのだけど、当然そこまでの流れがあってこそなので最後だけ読んだりしないで順を追って全部読んで欲しい。
七色いんこ
サスペンスに満ちた短編集
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一日一手塚
1年以上前
表題の『サスピション』シリーズ3作を中心にサスペンス色たっぷりの短編集です。3作はどれも20p前後と短いながらも人の心の行き違いが生む皮肉な結末がスリリングに描かれるのが特徴です。 ロボットを使った完全犯罪を目論む「ハエたたき」、山奥に住む男と金貸しとの命の駆け引きを描いた「峠の二人」など、人の猜疑心や臆病な心が思わぬ結末に向かっていくのが読んでいてハラハラします。 なかでも自分の一番のお気に入りはカバーイラストにも採用されている第3話「P4の死角」でした。 P4レベルという最高度セキュリティの研究所で行われる遺伝子実験中、作業員が誤って実験用のDNAを体に注入してしまうところが物語の始まり。隔離措置を取られ、防護服を着た研究員に囲まれるようすは臨場感があります。 このリアルな描写が後半効いてくるのでじっくり味わってほしいですね。 彼の体は一体どうなってしまったのか…というところが物語のキモなのですが、コンパクトに纏まっているのでなにか説明すると面白さが半減してしまうもどかしさが…。 とにかく読んでみてほしいです。手塚治虫の物語の構成力、人の心情の描写力が高密度で味わえます。
サスピション