WORST

伝説の鈴蘭高校を継ぐ者達

WORST 髙橋ヒロシ 高橋ヒロシ
さいろく
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クローズと打って変わって、というのは主人公だけかもしれないけど、しっかり時代も(ファッションとか)ちょっとだけ進んでいます。 主人公はむしろ田舎から出てきた月島花(ハナ)という野生児で、人間だけどドラゴンボールの悟空みたいな性格してるやつ。 争うのはいいけどその後は認めあって仲良くなる、そんな自然界での生存術を伝説のカラスの学校に持ち込んだらどうなるんだい、という感じですね。 クローズは映画化されてたりしてスポット浴びてる気がするんですが、多分実際にみんなに読まれていて今の若い子たちに人気があるのはダントツでこっちだと思われます。 スピンオフでの花木九里虎ストーリーなんかも人気みたいですし(絵も高橋組の皆さんはいい意味で似てて崩さすぎず良いと思いますし鈴木大先生もちゃんと独立?できてると思います多分)コンテンツとして一つの大きなカテゴリを作ったなーという感じ。 WORSTにおいてはクローズで作られた地盤をそのまま崩さず、ライバル校や武装戦線、その他地方との関わりやなんかもまたいい感じに世代交代が出来ていて、胸アツな物語が繰り広げられています。 なんだろう、安心して読めるっていうのが一つ強みなのかもしれないな。QPとかトムとジェリー外伝みたいなのはハラハラするけど。 もちろん予定調和ばかりなわけでは全然ないし、何度読んでもいいシーンがいっぱいあります。 クローズ知ったのがちょっと遅かったんでWORSTは単行本で新刊追う感じに読めてたんですよね、だからリアルタイムでちゃんと読めてたのはこっちなのかも。 絵がうまくなってるから、という理由でこっちの方がクローズより好き、かな。

クローズ

新鋭な方だけど最高峰のヤンキーマンガ

クローズ 髙橋ヒロシ 高橋ヒロシ
さいろく
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高橋ヒロシ節、というものがわかりやすく定着しているぐらい今の高橋ヒロシ率いる高橋組の影響は強い。 私の時代だと特攻の拓、湘南純愛組、カメレオンがマガジンで連載してて、サンデーでは今日から俺は!!、ジャンプだとろくでなしBLUES、あとなんだろ?でも割とヤンキーマンガブームだったんじゃないかなと。 その頃にちょうど月刊チャンピオンでやってたのがこのクローズでした。(もっと前の世代でいうとBE BOP HIGH SCHOOL、湘南爆走族、荒くれNIGHT、押忍!!空手部とかかな?) 坊屋春道という一人の少し古いタイプのツッパリが、カラスの学校と言われる鈴蘭高校に入学するところから始まるヤンキー成り上がり伝。 といえばよくある感じに見えると思うんですが、キャラクターの立て方が抜群に巧いんですよね。 ステイタスの表現など含め、クローズに出てくるキャラクターたちはみんなつよーーーい人気を誇ります。 読んでいくとわかるんですが、ろくブルほど登場人物少なくないのに(あれも超好きだしキャラ立ってますが)みんな印象がしっかり残ってくんですよね。 割と頑張ってたんですね高橋ヒロシ先生…適当そうなのに。 あとなんかそこらへんにいそうなお兄ちゃんって感じがあります、多分著者がそんな印象だからだと思うんですが、登場人物たちもそんなにめちゃくちゃ特別な人達ではないんだよね。そこがいいのかも。 リンダマンとの決戦を見て是非次はWORSTに進んでください。

ジパング

自衛艦が"タイムスリップ"したらどうなるのか

ジパング かわぐちかいじ
さいろく
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本作の主軸となる自衛艦「みらい」は、自衛隊活動としてエクアドルへの遠征の途中で突如タイムスリップ。1942年のミッドウェー海戦のど真ん中にいきなり飛ばされてしまう。 自衛艦っていうのは自衛隊員が乗っているわけなのだが、"自衛隊"を本当の意味で理解していなかったなと深く考えさせられる本作。 同じくかわぐちかいじ著書の超名作「沈黙の艦隊」の主人公:海江田四郎のようにゴリゴリのカリスマが率いるのかと思いきや、自衛隊員としての葛藤を全員が抱えているため割と登場人物が強め。 ちなみに歴史上の実在の人物たちも多く登場している。 「やってみせ言って聞かせてさせてみて~」の山本五十六ぐらいしか私はすぐにわからなかったけど、当時の"大日本帝国"がそのまま存在する設定なので「艦これ」とか好きな人はたまらないのではないだろうか。 私は戦艦も戦争も本当に全く知らなかったけど、それでもストーリーを追っていくだけで考えさせられるシーンが多々あり、感心しながら読み続けられた。長いけど。 読後にWikipediaとかブログとかを探してみたけどやっぱりかなり熟考されてる方がいるようで、実際の史実との差異であったり細かな指摘はあるもののみんなジパング大好きだなーっていうのはよくわかった。 絵がリアルで大人向け感強く見えるかもしれないけどめちゃくちゃ難しい話だけということでもなく、画力と雰囲気とテンポの良さによってかわぐちかいじという稀代の漫画家の実力を知ることが出来る素晴らしい作品だと思う。 かわぐちかいじ先生はきっと若い世代の人たちからすると「沈黙の艦隊」や「太陽の黙示録」「イーグル」そしてこの「ジパング」と戦争や政治ものを描く漫画家というイメージなんじゃないだろーか。 最近はたしかにそんな感じだけど「アクター」とか「ハード&ルーズ」とかみたいな時代の色が強く反映されている作品も多く、こっちの方が個人的に推しだったりもするので是非もっと若い人たちにも読んでいただきたい。 政治とか戦争とかとっつきにくいと思うし(私はそう)

サイボーグ009 【石ノ森章太郎デジタル大全】

誰がために戦う

サイボーグ009 【石ノ森章太郎デジタル大全】 石ノ森章太郎
さいろく
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歌詞って書いても大丈夫なんだっけ、とちょっと考えてしまったw 言わずとしれた石ノ森章太郎の代表作。 石ノ森章太郎を知らないという人は手塚治虫は知ってるだろうか。 ドラえもんの作者である藤子不二雄がFとAという二人いるのは知ってるだろうか。 おそ松さんを知っていたとしたらおそ松くんは知ってるだろうか。 今でも色々なところでリメイクされたり世界中にファンがいたりする作品たちを生み出した、日本の誇るジャパニーズマンガ文化の礎となった大作家たちにちょっとでも興味を持ってもらえたら嬉しいなと老婆心がうずく。 最近でも何度目かわからないアニメ化がされ、そこそこ話題となっていた「サイボーグ009」は、9人のサイボーグたちが世界の悪と戦う話。 実は彼らそれぞれの背景が割と凄まじく、ちゃんとそこら辺も謎に包まずに描いてくれているので(全部じゃないけど)キャラクターへの愛着も湧きやすい。 あとサイボーグっていう単語はこれで初めて聞いた気がする。 機械人間なのかーキカイダーと同じかなーとか思ってたら同じ著者だったという衝撃。仮面ライダーも石ノ森先生だからね! そして何よりこのサイボーグたちはそれぞれ異なる特殊能力を持っているのだが、なんと主人公は奥歯に加速装置が入っていて超スピードで移動することができる。すごい発想。 全然「へぇ」とすら思われないかもしれないけど、当時はたぶんそんなこと考えた人いなかったと思うのよね、私もだいぶ後発組なのでほんとの当時は知らないのですが。 奥歯に仕込みなんて男塾でカヤクメシの起爆するので初めて見たもん。 小学生はあれ信じちゃうんだもんなー民明書房はすごいよね… 違う漫画の話になってしまった。 今振り返って1巻を読んでみたが絵が全然違って軽く衝撃を受けた。 石ノ森先生は009の中だけでも語れるぐらい進化されていたのだなーと。あんまり詳しく知らないけど、きっと他にもいっぱい同時に連載を抱えてらっしゃったのであろう。 なんにせよ009以前と009以後では人間の「妄想」の広がり方が大きく異る。そのぐらいの影響を残した超超超名作なのである。 日本に生まれた少年は皆読むべきなのだ、ダークなとこもあるけど。

シャトゥーン~ヒグマの森~

勝てない、逃げられない、喰われて死ぬしかない

シャトゥーン~ヒグマの森~ 奥谷通教 増田俊也
名無し

ヒグマは日本に生息する哺乳類の中で最大にして最強。 体重が300kgを超える固体もいる。 一振りで人の首の骨ぐらい簡単にへし折れる腕を持ち、 しかもその腕の先には巨大な爪をも持つ。 人の頭など噛み砕く牙も持つ。 巨体でありながら時速80kmで走れる足腰も持ち、 犬の数倍とも言われる臭覚も持つ。 爪を使って木にも登れる能力すら持つ。 人間が戦って勝てるわけがなく、逃げることすら不可能。 しかし一度、人肉を喰らい人間の味を覚えたヒグマは、 ひたすら人間を襲い、食うようになる。 北海道の奥地、絶滅危惧種のシマフクロウが生息する森林。 電話などの通信手段も車などの移動手段もない、 大学の研究施設のプレハブ小屋に、7人の男女。 外には巨大で既に人肉を喰らったヒグマ。 逃げようにも篭城しようにも戦おうにも、 あまりにも何もかもが足りない。 それまでは絶滅危惧種鳥獣を笑って密猟していた男が、 散弾銃など全く効かないヒグマに引き裂かれ苦痛にのたうつ。 それまで「自分の死で自然が守られるなら本望」 とまで言っていた動物学者が、生きたまま食われて悲鳴を上げる。 我が娘だけは命にかえても守ると決意した母の前で、 強大な爪と牙が娘の体にくい込む、宙に舞う。 人間たちの心の中で、生きたい、死にたくないと 明滅する希望と絶望を、 ヒグマが森が雪が、そして互いの心の中の闇が飲み込んでいく。

ちづかマップ

古地図とちづかの広がる世界

ちづかマップ 衿沢世衣子
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

『講談社無印版』の続編がこちら『小学館版全三巻』。古地図を愛するちづかは、祖父や友人に触発されて、東京+αを歩き、その土地の記憶と共に、色々な世界を知ります。 若干、講談社版のちづかより積極的かな?彼女独特の『面白がる』能力で、どんどん新しいものを吸収するようになります。 美大の先輩、元気な犬、古典芸能+甘味好き同級生、相撲好きの親友、イケメンスイーツ同級生、天文台好き小学生……彼らの専門性にちづかの提示する土地の記憶を掛け合わせると、互いにとっての新発見が生まれます。 特に複数回登場する従姉妹のりんちゃんの、小学生離れした勉強量と、ちづかの地形感覚が合わさると、そこには古の風景が広がり、心踊ります。 一方、隣人とのドライブのナビでは、地図作りとリサーチで徹夜した結果、失敗してしまったりもします。 そういった経験の集大成として、ちづかが後輩の為に、来日ミュージシャンの東京観光を特定・再現する時……あれ、これって『尋ネ人探偵』じゃん!となるのです。 講談社版で一度手放した試みが、復活する驚き! ここに至るまでのちづかの積み重ねを、様々な東京+琵琶湖、高野山、坂越(兵庫)の発見と共に、楽しみたいところです。

ちづかマップ

ちづかと古地図と東京の今昔

ちづかマップ 衿沢世衣子
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

東京を散歩する女子高生漫画『ちづかマップ』には版型の違う二つのバージョンがあります。こちらで紹介する、講談社の無印版が最初に描かれ、小学館から出た全三巻は、その続きです。 講談社版は連載当初『尋ネ人探偵』という題名だったそうで、全5話中3話は、探偵っぽく探し人・物をしています。 ちづかは大好きな古地図片手に、依頼者の微かな思い出から土地の来歴を紐解き、探し物に辿り着く……とカッコよく書く程、ちづかは積極的ではありません(1話以外は)。 ただ、ちづかは『面白がる』能力が高く、どんな所でも何かを発見し、夢中になります。 従姉妹の勉強熱心な小学生・りんちゃんと共に浅草の過去と未来を空想し、同級生の音塚君に誘われて新旧の「書体」に興奮し、連れて来られた京都で幼馴染みの三四郎と「御朱印」集めを競う……そんなちづかの柔軟な頭脳は、「道を見つけ、辿り着く」工夫の楽しさに満ちていて、ワクワクさせられます。 主体性に欠けるちづかが、古地図を起点に次第に面白い事を見つけ、積み上げていく道程の「始まり」が、この『講談社無印版』なのです。 三四郎、音塚君、りんちゃんは、引き続き小学館版にも登場します。小学館版はキャラの嗜好から行動目的が設定される事が多いので、彼らの背景を知る為に、講談社無印版を読んでおくと楽しめると思います(特にりんちゃん!)

蝉の鳴く頃

愛は与えることで完成するのか、返されることで完成するのか

蝉の鳴く頃 Gino0808
いさお
いさお

『蝉の鳴く頃』は、『雪女と蟹を食う』、『童貞噺』を連載しているGino0808先生の初期作です。内容としては『童貞噺』の後日譚となっています。 本作は、主人公高弘、そして彼とふたり暮らしの高校生の姪、美加の交流を描く物語です。 美加は、母を失い、出生の経緯から親戚からも距離を置かれる天涯孤独の身となった自らを引き取り、一人で育ててくれた高弘に並々ならぬ感情を持っています。そんな美加に片思いするクラスメイト、佐藤くんも登場し、高校生たちの揺れ動く感情が描かれていきます。 それと並行するようにして、高弘の苦悩に光が当てられていきます。高弘はかつて刹那的な享楽にふける、破滅的な人生を送っていました。そんな中姉の葬式で孤独になった美加と出会い、彼女を支えることに人生の意義を見出すことで、再起するのです。しかし、彼も美加との交流を通して、本来姪に対して抱くことは許されない、強い感情をいつしか覚えるようになります。 そんな本作があぶり出すのは、本来ポジティブな概念としてとらえられる「愛」が人間を陥れてしまう、いとおしくも苦しい袋小路です。 本作では、高弘が姉の葬式で美加と出会い、美加と暮らすまでの経緯が、本当に丁寧に描かれていきます。そこで高弘の再起のきっかけとなるのは、確かに美加への愛なんです。愛を与えるということ、それを知ったことで、これまでうわべの享楽にふけるばかりだった高弘の人生は、確かに豊かなものになるんです。 しかし、その愛はやがて異性への恋慕に変性します。叔父と姪、道義上そのような関係は許されません。そして何より、万一そのような関係を美加に強要してしまったら、これからの美加の人生の可能性を閉ざしてしまうことになる。その愛は、決して美加に届き、美加から返されることを望んではならないものなのです。 愛を与えること、それがいかにその者の人生を明るく照らすかを丁寧に描いた上で、その愛が相手から返されないことがいかにその者を苦しめるかを丹念に描く。愛というものを一面的にとらえるのではなく、その多義性を丁寧に暴き出すそのストーリーは、まさに本当の「愛の物語」というほかないのです! すでに長くなってて恐縮ですが、本作の内容をご紹介した上でもう2点、本作の雰囲気と作家性についてアピールさせてください。 まず本作、私見ではありますがとても泣き系ギャルゲーを連想させます。多くない登場人物、そして狭いといっていい舞台の中で、主人公が感情面で袋小路に入っていく苦しみ、そして徐々に他の登場人物たちが話の本流の外に追い出され、主人公とヒロインだけの先の見えない関係に物語が集約されていく退廃感、それでも幸せを探す人間臭さ... 『AIR』の終盤を思わせるような、素晴らしい雰囲気でした。 また、蝉、夏といったモチーフや、いわば主人公を「あげて落とす」ストーリーは、作者のその後の作品、『雪女と蟹を食う』、『童貞噺』との共通性があり、当該2作品をさらに深く楽しめるヒントが多く詰まっています。Gino0808先生の作家性を存分に享受する、という意味でも、非常に魅力的な作品となっています。 全4巻と、読みやすいサイズになっています。私は本作を読んで、これまでなんで読んでなかったんだ!!!と叫びたくなりました。ぜひぜひご購入を!そして、高弘と美加の関係の行方を、見届けてください!