名無し

ヒグマは日本に生息する哺乳類の中で最大にして最強。
体重が300kgを超える固体もいる。
一振りで人の首の骨ぐらい簡単にへし折れる腕を持ち、
しかもその腕の先には巨大な爪をも持つ。
人の頭など噛み砕く牙も持つ。
巨体でありながら時速80kmで走れる足腰も持ち、
犬の数倍とも言われる臭覚も持つ。
爪を使って木にも登れる能力すら持つ。
人間が戦って勝てるわけがなく、逃げることすら不可能。
しかし一度、人肉を喰らい人間の味を覚えたヒグマは、
ひたすら人間を襲い、食うようになる。

北海道の奥地、絶滅危惧種のシマフクロウが生息する森林。
電話などの通信手段も車などの移動手段もない、
大学の研究施設のプレハブ小屋に、7人の男女。
外には巨大で既に人肉を喰らったヒグマ。
逃げようにも篭城しようにも戦おうにも、
あまりにも何もかもが足りない。

それまでは絶滅危惧種鳥獣を笑って密猟していた男が、
散弾銃など全く効かないヒグマに引き裂かれ苦痛にのたうつ。
それまで「自分の死で自然が守られるなら本望」
とまで言っていた動物学者が、生きたまま食われて悲鳴を上げる。
我が娘だけは命にかえても守ると決意した母の前で、
強大な爪と牙が娘の体にくい込む、宙に舞う。

人間たちの心の中で、生きたい、死にたくないと
明滅する希望と絶望を、
ヒグマが森が雪が、そして互いの心の中の闇が飲み込んでいく。

ヒグマは日本に生息する哺乳類の中で最大にして最強。
体重が300kgを超える固体もいる。
...
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人間を含む全ての生物は、生きるために他の命を奪い、食べる。
食べなければ死ぬ、生きられない。
だが人間のなかには、殺生を忌み嫌い、いけないこととして
肉類は食べないという菜食主義の人間もいる。
また、肉製品を製造する過程(屠殺・精肉)などの工程を
知らなかったり、意識しない立場で肉類を食べる人達もいる。
そしてまた、命を奪うことを原罪として意識しながら、
謝罪と感謝の心を抱きつつ食べる人達もいる。
食べなきゃ生きられないんだから、と。

それらは、生殺与奪の権利を有し行使する側の
立場のものとしての意見や論理だ。
人間が食物連鎖の頂点であるという考え、
世の中は弱肉強食であるという考え、
あるいはその逆に、動物は愛すべき守るべきものであるという考え、
いずれにしろ、肉を食うのも食わないのも選択できる立場での考え方だ。

だが現実には、食物連鎖の頂点は、陸上ではヒグマだ。
ヒグマと対峙したとき人間は無力だ。
食べるか食べないかなどの選択は人間にはない、出来ない。
食べられながら死ぬか、死んでから食べられるか、しかない。
そしてヒグマは、人を殺し食うことを良いとか悪いとか思わない。
人間への愛も興味もない。論理も感情もない。通じない。
人間が多少の武器を持っていようが、
動物への愛や、大自然への敬意の念を持っていようが、
ヒグマは人をなぎ倒し、喰らいつき、殺す。そして食う。

人間の体力も知力も、事情も愛情も関係ない。
生きるということは食べること。
死ぬということは食べられるということ。
そして人間は、食べる側にいると決まってはいないこと。
自然を愛し守る側であり、その力があると
思っていることの何かが違うこと。

人間が命を守ろうとすることも、奪おうとすることも、
己の命と引き換えに他の命を救おうとすることさえも、
ヒグマからしたら小賢しくて無意味。
シャトゥーン~ヒグマの森~」は、それを描いている。

だがしかしというか、さらにというか、
この漫画は、大自然が人間を凌駕するという
ことだけを描いてはいない。
なんせ原作は「第5回このミステリーが凄い!大賞」
の優秀賞を受賞しているのだから。
ネイチャー・ロマンにしてパニック・ミステリーの秀作、
とでも言わせていただきたい。

人間を含む全ての生物は、生きるために他の命を奪い、食べる。
食べなければ死ぬ、生きられない。...
シャトゥーン~ヒグマの森~(1)
シャトゥーン~ヒグマの森~(2)
シャトゥーン~ヒグマの森~(3)
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