僕のジル

11.27発売の作品集は絶対買ったほうがいい、たぶん

僕のジル 鯨庭
野愛
野愛

優しくて悲しくて痛くて甘くて、鍵のかかる箱に入れてそっとしまって置きたくなるような作品でした。 トーチwebでは『僕のジル』と『君はそれでも優しかった』の2作が公開されています(20.11.05現在)。 どちらもユニコーンやグリフィン、ピポグリフといった伝説の生き物と人間による物語が描かれています。 自分以外のなにものかに対して、側にいたいとか優しくしたいというのは人間の身勝手な感情なのでしょうか。自分が傷つきたくないから、寂しくなりたくないから、愛するという言葉を使って行動するのかもしれません。 人間が作り出したものならどうなるのでしょう。教育された優しさは本当の優しさとは異なるのでしょうか。 自然に生まれ出づるものだけが真実だとしたら、ひどく人道的に道徳的に産まれ落ち、十分な教育を受けて生きてきた私たちは作られたものなのかもしれません。 愛って何なんでしょう。馬鹿みたいに泣きたくなりました。 でも、悲しいだけの物語ではありません。愛に満ちた悲しくも優しい物語です。 作品集、手元に置いておきたい。優しさも悲しさも忘れないように、鍵はかけずにしまっておきたいです。

実在ゲキウマ地酒日記

庶民的だが哲学的、個人的だが家族的でもある酒日記

実在ゲキウマ地酒日記 須賀原洋行
名無し

グルメ漫画といえば登場人物、特に主人公は 食の見識や味覚、調理技術に優れていたり拘りがあったり、 なんて凄い人なんだ、と読者をうならせるのが普通。 ところがこの漫画の主人公・須賀原洋行先生(実在)は 素人っぽさに溢れている。 日本酒・地酒歴は何十年にも及ぶものの、 かつては日本酒なんか旨いと思わず好きでもなかった。 ところが「夏子の酒」を読んで日本酒に興味を持ち、 仕事と一石二鳥をかねるために酒肴漫画の企画を 編集部に持ち込み、毎回、色んな酒と自作の肴を 味わう漫画の連載を始めるという、見事なまでな庶民ぶり。 酒や肴の知識もテレビやネットで吸収し、 それをなんのてらいもためらいもなく漫画にしている。 「タモリ倶楽部でやっていたから美味いはず」とか。 酒や肴の好みや拘りもあっさり変わったりする。 純米酒主義から本醸造酒肯定に変化したりするし、 酒の肴としてのオデンにもこだわりがあったはずなのに、 漫画の「おせん」を読んで改めたりするし。 だがそれだけに、無駄にカタチやミエにとらわれない、 独特な感想や意見や表現が続出する。 正直、絵は個性的ではあるが上手いとは言い難い。 ギャグやオチも結構ベタだと想う。 しかし、他の漫画家先生では絶対に出せない味を しっかりと醸し出している。 酒のセレクトも独特だし、自作の肴も 手軽なものもあるが、かなり凝ったものまで作ったりしている。 グルメ漫画で酒の肴を描くなら、簡単お手軽で読者も 作ってみたくなるものとか、逆にそこまで絶対に 手間をかけられないと諦観する豪華で贅沢品を描くか、 どっちかになりそうなものだが、須賀原先生の肴は ワリと微妙に 「美味そうだし作れそうだけれど  メンドクサイから作る気にならない」 といった感じのものが多い。 読者が漫画に求めるニーズを外しているような気もする。 だが、そのへんが須賀原先生の哲学的な部分で それがよく出ている漫画、という感じがした(笑)。 実在ニョーボのヨシエさんや 息子(連載当初は未成年)も話に加わってきて 好き放題に個性的な発言を連発し各話は進行する。 酒と肴がテーマの漫画のわりには楽しい家族漫画でもある。 須賀原先生らしい個性的な 「酒のある家族日記」漫画だと想う。

スパイの家

本格派でエンタメもしてる諜報(スパイ)漫画の良作

スパイの家 真刈信二 雨松
ひさぴよ
ひさぴよ

日本はスパイ天国などとよく言われてるそうですが、実は世界各国からの工作活動をギリギリのところで防ぎ、陰で日本を守り続けてきた一族がいたのです。(という設定) その名も「阿賀一族」。800年にわたり日本の諜報活動を担ってきた一族の末裔である、父とその娘が主人公。一族の誇りを持ちながら娘には手を焼いてる父親ですが、いざ政府から仕事の依頼を受ければ、各国のスパイたちを相手取り、情報戦や派手な戦いを繰り広げます。次第に娘の方もスパイの才能が開花して…。 原作は真刈信二氏ということで、設定やストーリー構成は言うまでもなく本格派。しかし落ち着いた展開ばかりでなく、映画のようなエンタメ要素(アクションやお色気シーン)もバランス良く盛り込まれています。作画も非常に洗練されていて、重厚感のあるストーリーにふさわしいカッコ良さがあるのです。 何かきっかけさえあれば、もっと人気が出たはずの作品だと思うのですが、6巻という微妙な巻数で終わってしまいました。せめて10巻くらいまで続いても良かったのに…。最新の情勢を取り入れて、いつか続編とか始まったら面白いと思うのですが。