大石まさるが描く水惑星を舞台に、宇宙や自然、テクノロジーを題材にしたさまざまな物語が綴られた読み切り連作集。
俵 万智 「小蟹さんの澄んだ心の目。そのまなざしを借りて私たちは、忘れそうなほど小さくて、でもとても大切な何かを見つめなおす。たしかに降ってきたけれど、とっておけない雪のように。」 雪のように静か。冬の朝のように新鮮。自分の気持ちに触れることができるのは、こんな時かもしれない。[収録作品] ●「うみべのストーブ」 運命のように出会ったえっちゃんとスミオにも、ある日訪れた別れ。傷心のスミオを海に連れ出したのは、隣で彼を見守り続けていたストーブだった…。「ふたりが…お互いに、好きだったこと 私はちゃんと覚えてる 何度だって思い出すよ」 連載時のカラーを再現し、2色刷で収録。●「雪子の夏」 トラックドライバーの千夏が雪の日に出会った、雪女の雪子。夏のあいだは消えてしまうという雪子に夏を見せてあげたい。忘れられない夏の物語。「誰もあたしのことを 思い出してくれなくなったら こんなぼんやりしたまま 永遠に消えちゃうの?」 ●「きみが透明になる前に」 ある日事故で透明になってしまった夫。彼の姿が見えないことにほっとしている自分はもう、彼を愛していないのだろうか…。見えないものに触れる、夫婦の絆のかたち。「ねえ泉 ありがとう 僕を見つけてくれて」 ●「雪を抱く」 パートナーとの間の妊娠を知り、複雑な気持ちの若葉。大雪で家に帰れなくなったある日、偶然出会ったコウコと朝までの時間を過ごす。女性の身体をめぐる物語。「わたしの身体が わたしひとりだけのものだったことなど 一度でもあっただろうか」 ●「海の底から」 仕事で忙しい毎日を送る深谷桃は、かつてのように小説を書くことができない。いまの自分はまるで海の底から上を見上げているようで…。創作に向き合うことができないでいる生活者の苦悩の物語。「悔しい 書かなくても幸せでいられるのが」 ●「雪の街」 はなれていた親友の突然の死をきっかけに訪れた、昔住んでいた町。思い出のファミレスで出会った森田という男と、死んでしまったスーちゃんのことを思い出しながら、雪道を歩いていく。夜の黒さと雪の白さは、彼らの弔いを静かに描き出す。「鈴木さんがどこかで 元気でいてくれるといいなって ずっと思ってました」 ●「たいせつなしごと」 単調な仕事に明け暮れる毎日のなかで、いつのまにか自分の心は動かなくなっていた。いつかどこかのゲートが開いて、別の世界へ行けたなら…。暮らしのなかにある光を見つける小さな物語。
前代未聞の漫画ここにあり!2年の沈黙を破って、九井諒子ワールドの幕がふたたび開く。竜と人、人魚と野球少年、神様と小学生――それぞれの絆を題材とした過去の6作品に加え、全38ページの新作描き下ろし作品を収録。笑いあり、涙あり、きっとあなたが忘れていた、親と子の絆を思い出す7つ物語。収録作品:『竜の小塔』『人魚禁漁区』『わたしのかみさま』『狼は嘘をつかない』『金なし白祿』『子がかわいいと竜は鳴く』『犬谷家の人々』
滅多にお目にかかれない漫画家・小池桂一!! その破格のビジュアルセンスは世界に轟いている!! 彼の珠玉の短編集、新たに未掲載原稿も追加し、ついに発売!!
自分より一回り年上、40代の方とお話すると、いつもその前向きな姿勢に驚きます。僕自身がフロント2速バック20速ぐらいのとても後ろ向きな人間というのもありますが、基本的な考え方に違いがあるように思います。それに、同じ“前向き”といっても、若者と中高年では全く違います。歳が上になればなるほど、短い期間に激しく燃えるものから、長い期間にジーっと燃える、種火のようなものに“前向きさ”は変化していくように思えます。 『水惑星年代記』は物語自体がゆったりとした“前向きさ”に満ちています。 『水惑星年代記』で描かれる地球は、一度文明が滅びたらしい世界。地上はちょっとずつ水深が上がってきていて、海沿いの都市や、標高の低い島々は水に沈んでいきます。かといって、人類は絶望だけしているわけでありません。失われていった景色に思いを馳せつつも、その目は宇宙へ向いています。『水惑星年代記』では、ちょっと黄昏ながらも次に向かう様々な人が描かれるオムニバス作品です。 それぞれのお話は、時代順に書かれているわけではありませんが、どこかで繋がりを探すことができます。その痕跡を探していくのも楽しみの一つです。 繋がりという意味で『水惑星年代記』の縦糸となるのが「ブラック家」の系譜です。有数の大金持ちであるブラック家の人間はとにかく思い込みで動き、周囲の人間を巻き込み宇宙へと目指していきます。年表上では最初の方に登場するキアラン・ブラックは、有り余る財力を使って“私費”で月面まで来た男。彼は月面事故で遭難しているうちに、偶然“先史文明”と思われる遺跡を発見します。かつて人類は月にまで到達していたという事実は、ブラック家の人々を外宇宙へと誘い、ブラック家の末裔の少女が、物語の最後を飾ります。 宇宙を目指す人々を描く作品以外にも、明るさと言い表せない孤独さを同時に感じさせてくれる人類の創世記「凪と波」や、フルカラーの美しい景色が描かれる「路面電車(トラム)」など、素晴らしい短編はたくさんありますが、私が特に好きなのが『碧 水惑星年代記』に掲載されている「正しい地図」という作品。 この作品は会社を急に辞め、かつて自分が住んでいた町に二十数年ぶりに訪れた中年男が主人公です。彼は、かつての記憶と今を見比べながら町の移り変わりをメモしていきます。あらすじで言ってしまえばそれだけなのですが、とても美しい背景と主人公の印象的なモノローグによって、物語がスっと心に入っていき、彼と同じように“自分の世界”を作っていこうという気持ちが生まれます。そして普段何気なく見過ごしてしまう街の景色が違うもののように感じられてくるのです。