単行本未収録の自選傑作短編集 第2弾
単行本未収録の自選傑作短編集 第1弾
『黒い浪漫~ロマンス~』よりはギャグ要素が強いです。「ビーナススマイル」では美しい資産家の未亡人が主役ですが、実年齢はどうやら若くないらしいというギャップのある設定がとても効いていました。後書きの文章を読んでも感じましたが村生ミオ先生はとても真面目な方なんですね。 一番好きだったのは「完全なる結婚生活」です。サラリーマンの夫が上司や同僚達から今夜は飲みに行こうと誘われますが「結婚記念日なので参加できません」ときっぱり断ります。周囲が「きたーっ!愛妻男」「ステキー!」と盛り上がっているところに、今度は妻から「夕飯はすき焼きとハンバーグどっちがいい?」「ワインは赤?」と電話がかかってくる。アツアツ過ぎるやり取りに笑っちゃいますが、実はお互いに内緒で浮気をしているのが夫婦円満の秘訣なんです。夫が清々しい程のドヤ顔で「相手に対して後ろめたさがあるから優しく出来る」と語っているのが印象的でした。
思い通りにいかないことのリアルさがすごい
互いに子供がいる同士で再婚し、同居している家族の話。血が繋がっている同士とそうでない側で起こる些細なすれ違いや、元婚約者との関係、親戚付き合いなど、「普通」だったら悩むことのなかったような問題が次々と起こる。 本当ならこんな大変な状況で元気に生きているだけで100点、それで十分なのにも関わらず、「普通」がとんでもない暴力となって襲いかかってくる。 他人には見えづらく、想像もしにくい悩みの連鎖がとても丁寧に描かれていて、近い経験をした人には「ここに理解者がいる!」という気持ちになるのではないだろうか。誰もが何らかのマイノリティ。 終わり方はご都合主義的だけど、これくらいの救いはあっていい。
よく生き抜いた
決して、生き抜いた人々は生きたいと強く願ったわけではない。運だ。全てにおいて自分の意思など意味がない環境で命令されるまま、怪我や病で死んでゆく仲間を横目に「次は自分か」と思うだけ。 極限とか絶望とか簡単に口にできなくなる。「死んだほうがマシでは」と何度も思った。しかし、生き抜いた。そして何十年の時を経ていろんな人へ漫画を通して伝えられた。凄いことだ。 そこで「それに比べれば今がどれだけ平和か」と思えることにも意味はあるけど、毎日能天気ではいけないと思う。 主人公たちが受けた仕打ちはもちろん、日本がしたことも、事実として一生歴史から消えることはない。
全てのテンションがおかしい強烈コメディ
主人公の行動原理は母親のために純金の墓を建てること。この時点で「何か変だな」と思っていい。なぜかスナックを経営していて、さまざまな事件に巻き込まれながら一攫千金を夢見る。 他の登場人物も親に捨てられたり受験に失敗したりといいことがないが、基本的に元気。系統としては『男!日本海』からエロを抜いた感じのような気もするけど、単に自分のリファレンスが少ないだけかも知れない。全5話のうち3話で主人公が「早く死ねっ!」と言われて終わる。
ゆるーくサバイバル!
タイトル通りゆるーくサバイバル漫画ですね! よつばとをサバイバル世界に投入させた感じ。 サバイバルで家族以外誰もいない簡単にご飯も食べられない状況なのに「いいな〜」と思ってしまう不思議な漫画。 期間限定だったらサバイバルしてみたい…
千手観音阿修羅釣り〜!
「江戸前の旬」さとう輝(てるし)先生の短巻作品をいくつか読んだのだが、この「釣り師青海」(せいかい)は、特にお気に入りだ。仏教×釣りという設定が面白いだけでなく、料理も恋も、バランス良く楽しめる一冊。主人公は仏の道より釣りの道に夢中になっているダメ坊主だけど、どこか憎めない愛嬌がある。「千手観音阿修羅釣り」なる仏教ならではの派手な必殺技も面白い。ただ、必殺技を使うのは主人公ではなくヒロインの方だけど(笑) 幼馴染のヒロインが天才的な釣りの腕を持っていて、活発な性格でキャラが立っていた。この子が主人公でもおかしくなかったな。最後の方で描かれる二人の恋の行方は、読んでいてとても微笑ましいものあった。
七桜のかっこよさに惹かれました
ドラマ見て、中々面白かったので読んでみました。 少女漫画で、ミステリーってどんな話かなと思いましたが物語が進むごとに、ここまでかと思うほど話が広がるし面白くなってく。 七桜の真っ直ぐな性格は芯がぶれなくてかっこよくて、私は好きです。 和菓子屋で女将の嫌がらせ、嫌がらせに負けない椿と七桜二人の恋愛模様などなど、見所はたくさんで読み応えありかと。 マンガも完結してないので、どんな終わり方をするのか楽しみな作品です。
がんばれ蔦屋ちゃん
蔦屋重三郎という人物は、 知っている人は知っている、というか、 もしかしたら謎の天才浮世絵師・写楽を 世に送り出した版元の経営者として 有名な人物かもしれません。 しかしただそれだけの人物ではなく、 今よりも娯楽が限られていた、というか 生活するだけで色々と大変で、という時代に 各種娯楽をプロデュースして世に送り出し、 それを生業として繁盛させており、なかなかの ヤリ手ビジネスマンだったと言えるでしょう。 そういうヤリ手、切れ者というと、マンガ的には 大人物でセンスがあってそれでいて金銭感覚がシビア、 という少しクールな完璧人間に描かれがちです。 しかし、この漫画の蔦屋重三郎は「蔦屋ちゃん」とでも 呼びたくなるようなカワイイキャラに描かれています。 他の登場人物(とくに歌麿)に振り回されますし。 作者の桐丸ゆい先生が江戸文化を愛する方らしく、 史実にそった範囲の中で、蔦屋、歌麿、写楽などの 喜怒哀楽に満ちた江戸生活が愛らしく描かれています。 吉原が舞台の話もあります。 なんせ吉原ですから光と影というか、陰鬱な部分も 実際には存在したでしょうけれど、 このマンガは良い意味で江戸文化の愛すべき部分を カワイイ絵で描いていて、明るく楽しめるマンガです。 ゴロゴロしてばかりで働かない歌麿や 吉原で女郎として働く女性たちなどを描きながら。 江戸文化の良い面を味わえるマンガだと思います。
ゲテモノ喰いで、新世界攻略! #1巻応援
ウィリアム・ダンピアは博物学者であり、作家であり冒険家、そして海賊である。 彼は十七世紀に、40歳まで海賊として世界を冒険し、詳細な旅程や風物の記録を残す。彼の本は後の地誌学や『ロビンソン・クルーソー』『ガリバー旅行記』などの文学にも影響を与える。 本作で描かれる彼の面白さは、海賊として荒事にも参加し、海賊を仲間として信頼しながらも、知識層に属する航海士への尊敬と好意も持ち合わせる、ニュートラルさ。その冷静さと熱い知識欲の眼差しで、彼は航海中のあらゆる物事を詳細に記述していく。 彼の物事を知るためのアプローチの一つとして「食」への挑戦がある。 ちょっとグロくても、食えそうと思ったら、何でも捌いてみて食べる!動物も植物も、現代の私達には想像もつかない物が多く、「それ喰うんすか?」である。 食材のバリエーションを広げることが生死に直結する航海。美味くても食いづらくても栄養価が重視される事情と、ダンピアの知識欲が噛み合って、かなり興味深い未知の食材が見られる。 当時の世界情勢と海賊事情、冒険のリアルと食事情、地理学や民俗学の原点……見所満載の航海記。世界一周を最後まで追いたい!
「ハピネス」読んでみた
恥ずかしながらこれまで古屋兎丸先生の漫画を読んだことがなかったのですが、初心者でも読みやすかったです。タイトルにもなってる「ハピネス」と、表紙の女の子が登場する「嬲られ踏まれそして咲くのは激情の花」が印象に残りました。自分が好きなテイストの話は「もしも」です。女子高生のたわいもない会話劇ですが「もしも自分が主人公だったら誰に描いてもらいたい?」「私、吉田戦車!」「私は絶対楠本まき♡」というコマを本物の2人が作画協力されていて興奮しました。こんな会話する女子高生が登場するのが古屋兎丸ワールド…?
姉と弟の秘密の関係
姉と弟がSMプレイをする話です。痛いことはしません。弟は姉への好きをこじらせてますが、姉の方は弟にどんなことされても「優しいお姉ちゃん」として受け入れてくれます。保育園の先生で天然だけど優しくて美人な姉のキャラが好きでした。打ち切りになってしまったそうですが、完結巻も発売されなかったんでしょうか。秘密の関係がどういうラストを迎えたのか気になります。姉弟のやり取りをもっと読みたかったです。
人間の周りにいるモノたちが主人公のショートストーリー
サメマチオの新作。たぬきの置物とか蛍光灯とか人間の身の回りにあるモノたちが主人公。 モノ視点で人間の生活が描かれていて面白いし、頑張ってたり落ち込んでいたりしている時も、別に神様が見ているってわけじゃないけどモノは見ていてくれるみたいなちょっと救われるような話もある。何かをしてくれるっていうわけじゃないけど。 三分くらいで読める長さの1話完結ストーリーなので寝る前とかちょっと空いた時間に読んだりするのにちょうどいい手軽さもいい。
あまりに面白くてあっというまに読んでしまった
主人公の田中麻里鈴はコネで一流企業に就職したけれど出身大学は三流がおまけにコネには力がない。入社してすれ違った男性社員に一目惚れして、その男性社員の近くにいくには「出世が一番」と助言されてから物語の本編がスタートする。 マンバにあったクチコミを見て気になって読んだが予想以上に面白い。あらすじの時点では合わないかもと思ったが最初のほうで「峯岸さん」で登場して出世するには話あたりから「これ面白くねーか?」と思い「夏目さん」「小野さん」「璃羅のよしえさん」あたりが登場した辺で確実にハマった。 配置転換などでいろいろ部署が変わるが個人的に特に好きなのが「ホワイトローズクラブ編」と「レディスシンクタンク出向編」 「ホワイトローズクラブ編」は始まりから結末までむちゃくちゃよかった。令和の景気の悪さでは絶対ありえなそうな事例だがバブルの頃にだったらあったかもしれない内容とそれに対する会社のやりかたが興味深かった。 「レディスシンクタンク出向編」は「峰岸さん」「高井さん」の間に挟まれてどっちかにつけば楽になるというのに最後の最後まで悩み抜いてあの結論をだしたのはすごい良い内容だった。 「総務部総務課山口六平太」の全体を見て最適化する会社員や「サラリーマン金太郎」のすごい会社員とも違うし、同じ女性が主人公の「この女に賭けろ」のような正統派キャリアでもない今まで俺がしらない路線の会社員マンガだった。 好きな登場人物は「峯岸さん」「小野さん」「高田さん」かな
尾玉なみえ作品の中でも読みやすい方かも
純情パインも少年エスパーねじめも苦手だったがこれはワリと楽しく読めた。途中からほとんどアイドル関係ない話になってたけど。どこで笑うのかわからんギャグが相変わらず多かったがクスッと笑えるところも結構ある。ムシゴロウの回とか、普通にめっちゃ面白い回なんだよなあ。下ネタの程度もちょうどよかったし。「座輪ザワ吉」みたいなパロディネタも冴えてた。※画像参照。かなり早い時期にカイジのパロネタやってたんだな。 1巻打ち切りは勿体ないね。 もう少し続いても良かった気がする。 終わり方はなかなか酷いぞコレは(笑)
楳図かずお60年代の初期作品集
楳図かずお60年代の初期の短期連載作品「赤んぼ少女」(週刊少女フレンド/1967年)と「へび少女」(週刊少女フレンド/1966年)ほか、いくつかの短編を収録。 「赤んぼ少女」 見た目の怖ろしさだけでなく、忌み子を持つ家族の人間模様も描かれています。元は「のろいの館」という題名だったそうで、わかりやすさでは前者ですが、後者のタイトルの方が物語に則していたのでは。 「へび少女」 楳図先生はへびっぽい女性が好きなんですかね。へび女の話がちょくちょく出てきます。ホラー的な怖さ、というよりは女性の怨念めいた感情に怖さを感じました。 「ねがい」 漂流教室や、他の短編集にも収録されている傑作短編「ねがい」ですが、恐怖劇場にも収録されてます。モクメは永遠のトラウマ。久しぶりに読むと、子供の頃に読んだ衝撃と恐怖がよみがえってきます。
大人になって読むと、粥美味そうってなるね
作者は本作品を水戸黄門に例えていましたが(特級厨師の印を印籠にみたてて)、昔ぶりに読んでみたら「あっ、これナローだ!」となりました。主人公マオの奇想天外な発想、だいたい現代人なら思いつきそうなやつですよねw
王様ランキングのキャラを語ろう
※ネタバレを含むクチコミです。
壮絶だけどその辺で普通に生活している人の話
読み始め、作者の中村キヨさんが前の奥さんを病気で亡くして別の女性と再婚するところから始まるんですが、別れの部分があまりに衝撃的だったので「その話を描いたエッセイがあるのでは」と思って探したんですけど、多分ないみたいです。そして、作中でも亡くなった方とどのような暮らしをしていたかはほぼ語られません。 メインは酔っ払って道端で座り込んでいたところを中村さんが介抱してあげたことがきっかけで知り合い、結婚(もちろん事実婚)したサツキさんとの生活が描かれますが、その中身は私が想像できるレズビアン同士のやり取りからは想像を遥かに超えるものがありました。 ただそれは、この人達がこうなだけであって、レズビアンとはLGBTとはこういうものという話ではなく、言うなればその辺で生きてるとあるカップルの日常を描いたに過ぎない。 サツキさんには息子が3人いるのですが、当然中村さんとは血の繋がりはありませんので、父と母が1人ずつではない家庭を彼らなりに受け入れなければならない。そこで親が先駆けて周りにカミングアウトするのもありではという中村さんに対し、サツキさんが「子は親を選べない以上、選べることは全て選ばせたい」「遠くの1億人が理解してくれたって、身近な10人が無理解だったら地獄でしょ」と伝えます。ほんとその通りですね。 「愛とはなんなのか」というのも常に問い続けているのも印象に残ります。もちろん答えは見つかりませんが、読者として感じたのは、愛する人が幸せであるように願うこと、かもなと思いました。
トーンの魔術師
『歩くひと』完全版の発売にともない、その一話の『よしずを買って』が暑い季節がらもあって大変話題になっています。喜ばしいことです。『歩くひと』ひいては『よしずを買って』は、谷口ジローの数ある作品のなかでも、もっとも谷口ジローらしいというか、彼の真骨頂が発揮されている一作だと思います。 サイレント映画ならぬ、サイレント漫画とも言うべき、台詞の一切ない『よしずを買って』は、いかにも谷口ジローらしい。もともと谷口ジローの描く作中人物はどちらかといえば寡黙な人物が多い。お茶の間にもっとも迎えられた『孤独のグルメ』の井之頭五郎を筆頭に、いちばんコンビを組んだ狩撫麻礼の作中人物もザ・寡黙という人ばかりです。あるいは『坊っちゃんの時代』の夏目漱石にしても寡黙な人として描かれ、漱石が語るのはなく、漱石が世相を"見る"ことで物語が運ばれてゆきます。 そう、夏目漱石の代表作といえば『吾輩は猫である』ですが、これにも全く同じことがいえて、猫は喋れませんから、猫が世相を観察することで小説が持続してゆきます。この漱石の猫をもっと健気にやってみせたのが、大島弓子の『綿の国星』になると思います。 このことは谷口ジローの作風にとても深く関係していると思います。このことから、漫画家でありながら、原作を置くことをまるで躊躇わない谷口ジローの立場というものが明らかになると思います。ふつう、作者心理としては、イチから全部みずからの手で作りたいという想いがあると思うのですが、谷口ジローにはあんまりそういうところがない。たとえば、黒田硫黄や、最近では田島列島なんかは映画作りの側から漫画に流れてきた人です。彼らは他人との共同作業ができなくて、全部みずからの手でやらなければ気が済まなかったんですね。 なるほど、映画作りは分業制です。とくに映画産業がもっとも盛んだった1920年代から40年代ぐらいの映画監督は往々に職業監督と言われ、つまりは映画会社お抱えのサラリーマン監督として、会社が求める映画をその通りに撮っていました。当時の映画監督はどっかの知らない脚本家が書いた脚本をその通りに忠実に撮っていたのです。たとえば西部劇でよく知られるジョン・フォードという人がそうで、それこそ会社の要請で馬車馬のように西部劇を撮りまくり、100本以上の映画を監督しています。現代の優れた映画人の代表のように言われるクエンティン・タランティーノですら10本そこらしか監督していないのですから、この本数の差はあまりにも如実というほかありません。では、当時の映画監督が手抜きで質の悪い映画を量産していたのかといえば、必ずしもそうではない。これは私見ですが、ジョン・フォードの任意の1本は、タランティーノの10本を束にしても勝てないと思います。それほどまでにジョン・フォードの映画は美しい。そして、その美しさは谷口ジローの美しさにもよく似ていると思うのです。 職業監督とはいっても、腐っても映画監督です。どっかの誰かの脚本をその通り忠実に撮るとはいっても、その撮影現場でカメラが何を映すのかは監督に委ねられています。そういう意味で、職業監督は喋ることのできない猫によく似ている。語ることはできないけれど、カメラの目で映すことはできる。そう、たとえば、脚本にはそんなことが一切書かれていなくても、撮影現場に煌めいている木漏れ日の光や影を映すことはできるのです。 谷口ジローの仕事も、まさしく彼の目に見えたものを丹念に描き映すことに捧げられています。彼が一番影響を受けたと語っているメビウス(=ジャン・ジロー)は、メビウス名義で自由で独創的な作風のものを描き、ジャン・ジロー名義では40年間『ブルーベリー』という硬派な西部劇を描き続けました。ひとつのジャンルにあえて固執し続けるということは、自ら拘束着を身にまとい、寡黙に徹することにひとしいでしょう。メビウスに影響を受けたという漫画家が多いなかで、谷口ジローは『ブルーベリー』のジャン・ジローに影響を受けたという数少ないひとりでした。おそらく、語ることよりも見ることに自身の芸術性の発露を感じるジョン・フォードや、ジャン・ジローや、谷口ジローのような作家は、環境が不自由であるほうがむしろ都合が良いということがあるのではないでしょうか。たとえば、散歩をしていて、頭のなかであれこれと考え事をしているときは、周囲の風景が目に入ってこないものです。同じように語ることと見ることは同居が難しいのではないでしょうか。 ところで、『よしずを買って』は、夏の陽射しをトーンで見事に描き映していますよね。トーンの魔術師とは、『絶対安全剃刀』で世にでた高野文子に当てられた言葉ですが、谷口ジローのトーンもじつに素晴らしい。高野文子は何から何まで全部自分でやらなければ気が済まないほうのタイプだと思いますが、やはり、まずテーマがある。よし、ここはひとつトーンを使って漫画に革命を起こそうじゃないか、そういう気概でもって漫画を描いて、しかも、いちど称されたテーマをその一回限りで暴力的に使い果たしてしまう。同じトーン使いの極致とはいっても、谷口と高野ではアプローチの仕方がちがいます。谷口には良い意味でも悪い意味でも発端となる語りのテーマがなくて、丹念に夏の陽射しを描き映した結果があのような見事なトーンとして表現されているように思えるのです。 いま、谷口ジローの境地に近い存在として、『ちーちゃんはちょっと足りない』の阿部共実がいると思います。連載中の『潮が舞い子が舞い』は、寡黙というよりは、むしろ、コマを台詞で埋め尽くしていくのですが、これが逆説的に寡黙のような作用をしているのです。そして時折、たとえば谷口や高野のような素晴らしいトーン描写が挿入される。なんだか話がだいぶ逸れてしまったので、この辺りで切り上げたいと思います。
戦後70年を過ぎても読んでほしい戦争特集号
2015年、戦後70周年に際して組まれたビッグコミックオリジナルの増刊号。各世代の漫画家が表現した「戦争マンガ 」16作が収録されています。過去作の再録だけでなく描き下ろし作品が半数近くあり、いずれも力作揃いです。戦中戦後の話だけでなく戦争の未来を描いたものまで幅広く、憲法9条を擬人化した「さよなら憲ちゃん」のような意欲作もあって面白いです。ちなみに、いましろ先生だけは釣り&愚痴のいつも通りの漫画になります(^ ^;) 重いテーマの作品が多いですが、収録順に趣向が凝らしてあり、最後まで疲れずに読み通しやすいです。収録作をまとめてみましたが、これが五百円で読めてしまうなんてお得すぎます。 以下、収録作 水木しげる「人間玉」 滝田ゆう「夢いちりん」 松本零士「晴天365日」 さそうあきら「奈々子戦記」描き下ろし 浅野いにお「きのこたけのこ」 高橋しん「LOVE STORY, KILLED.」 いましろたかし「自爆列島」描き下ろし 山上たつひこ「光る風」 呉智英さん解説付き 三島衛里子「橋のたもとで」描き下ろし 石坂啓「さよなら憲ちゃん」描き下ろし 比嘉慂「砂の剣」 あまやゆうき/吉田史朗「僕はあの歌が思い出せない」描き下ろし 竹熊健太郎/羽生生純「ほーむ・るーむ」 東陽片岡「五式戦じじいのブルース」描き下ろし 井上洋介「少年と戦争」 花輪和一「小日本鬼子穴」描き下ろし <コラム> いとうせいこう、無着成恭、横尾忠則、モーリー・ロバートソン、片岡義男、南信長「漫画と戦争」 漫画の合間のコラム「わたしの戦後70年談話」も読み応えがありました。 著名人が戦争を語ってゆくのですが、有名な教育者である無着成恭先生の「なぜ戦争はなくならないのか」という問いに対しての回答がとにかく素晴らしかったです。仏教的な観点で人間、畜生、餓鬼に例えた説話がおもしろいのなんの、このテーマだけで本一冊作れるのでは?と思ってしまうほど。 最後に<編集後記>堀靖樹さんのメッセージは本当にその通りだと思いました。”時代のカナリア”として戦後70年を過ぎても読まれ続けてほしい一冊です。 > 『こうして眺めてみると漫画家はやはり自由の民です。本能的にお上の胡散臭さを嗅ぎ分けてますし、自分の生死は自分の戦場で決めたいと考えています。だからこの増刊は時代のカナリアかもしれません。漫画家の想像力はもう何年も前から、日本の行く末に警鐘を鳴らしていたのです。 漫画は別にお国のためにはなりません。そして、その作品で仕事をしている我々、編集者もしかりです。だからこそ、この時代の「嫌な感じ」に声を上げましょう。そんな増刊号です』
あまりに感情の移り変わりがリアルで驚く
両親を無くした少女、とその叔母が一緒に住む話ですが実際は「全く違う人間を分かろうとしたり自分の感情を噛み砕いて受け入れたりする」漫画なのではないかと思います。 自分的には槙生もその姉もすごく物言いが冷たい人で、リアルにいたら避けてしまいそうなキャラクターですが、実際は作中同様繊細な人間なのかもしれませんね… 作中で槙生が「あなたが感じることはあなただけのもので、誰もそれを責めたり批判したりできない」って言うシーンがあるんですが、こんな当たり前そうなことも皆忘れちゃってるんですよね。 自分も他人に対してどんな物言いしてきたか、ふと考え直してしまいました。 亡くなった人に対しての考え方もちょっとリアルで色々考えさせられます。
コロナがなければ生まれなかった漫画
という言い方をすると、生まれなければよかったのか、生まれてよかったのか、どっちなんだという話ですが…漫画好きとしては読みたいと思える漫画が多いに越したことはない… ショート・ショートの詰め合わせという感じで、短期集中連載とのことですが、共通しているのはコロナ禍の世界だということ。創作もあれば、会期が延期してしまった著者が参加する展覧会のドキュメント(っぽい)話もあり。 そりゃあ、電車がガラガラだったら流星課長の出番も無しだわな。 しりあがり寿が描くコロナウイルスが思いの外かわいい。
キャラクターがすごく魅力的!!
※ネタバレを含むクチコミです。
どの短編もよくあるストーリーのようでいてひねりが効いているので、最初から最後まで退屈することがなかったです。『赤い恍惚~エクスタシス~』よりはサスペンスっぽいものが多い…かな…?「実録となりの夫婦生活シリーズ」はそれぞれに一話ずつ収録されてますが、どちらも面白かったです。 最初に収録されてる「結婚式前夜」が一番好きです。夫が「結婚前に言っておかなければならないことがある…!」と切り出す話で、最初は経験人数を誤魔化してたっていうたわいもない秘密だったんですが、妻が許す度に「言っておかなければ…」が増えていって、ギャンブルで作った300万円の借金、妻の友人と昨日まで浮気していた、年の離れた弟ではなく隠し子、という衝撃的な事実も判明していきます。妻の態度もどんどん急変していき、今度は開き直った妻が夫に秘密を打ち明けます…。見開きでドーンと終わるオチも面白かったです。