寿々木君のていねいな生活

「好き」への否定を否定してくれる優しい物語 #1巻応援

寿々木君のていねいな生活
兎来栄寿
兎来栄寿
6ヶ月前

『ただいまのうた』、『キラメキ☆銀河町商店街』、『シェアハウス金平糖北千住』などでお馴染みのふじもとゆうきさん最新作。 今回もまた、一際優しさが沁みる作品となっています。 長身で強面な主人公・寿々木薫(すずきかおる)は、見た目に反してお菓子作り、植物の世話、季節のてしごと、裁縫などが好きで得意な少年。 薫が高校入学の日に出逢った同じクラスの春名は、薫とは逆に小柄で美少女のようにかわいい容姿でありながら、柔道が得意で強い男子。仲良くなっていく対照的なふたりを中心に、薫の新しい希望に満ちた生活が始まっていきます。 薫は中学時代に自分の趣味嗜好を否定されハブられてしまっていた経験があり、自分のありのままを受け入れてくれることに新鮮な感動を得て行きます。そこが、何ともハートフルで読んでいてぽかぽかします。 私も思春期の頃にあまり他の男の子がやらないような花の水やりや料理や裁縫など家庭的なことをよくやっていましたし、好きなものを好きでいたら「キモい」と言われる悲しさもよく解ります。昔は今ほどオタクに寛容ではなかったですからね。 しかし、薫が同級生に外見に似合わない趣味嗜好をからかわれて家で凹んでいたときに ″「好きなこと」はこの先も薫を助けてくれる 絶対に大切にした方がいいよ″ と薫の母親が言葉をかけます。何と素敵な言葉でしょうか。好きを否定されて傷ついたことのある人には沁みるセリフでしょう。このお母さんだからこそ、優しい薫少年が生まれ育ったのだろうと思えます。 そして、好きを否定する人を否定してくれる新しい友も得ることができた薫。孫を見守る祖父母のような気持ちになります。 薫とは歳の離れた妹が通う保育園で働く桜子先生への恋や、その桜子先生も外見からでは解らない意外な面を持っているところ、またクラスメイトたちの恋愛動向など、これから面白く楽しめそうなポイントが他にもいくつもあります。 優しい世界の物語に触れたい方にお薦めの作品です。

ポーラーレディ

魔法道具の訪問セールスはいかがですか?

ポーラーレディ
かしこ
かしこ
1年以上前

西岸良平先生の作品が電子書籍になって手に取りやすくなりましたね!嬉しいです! 蘭子さんは魔法道具の訪問セールスをしています。やる気はありますが営業成績はあまり良くありません。なぜならテストでいい点を取りたいという高校生に200万円もする天才になれる道具を売ろうとするからです。ちなみに彼は2500円でどんなテストでも正解を書いてくれる万年筆を買ったことにより身を持ち崩してしまいます…。 ちょっとダークな面もありますが、そこは西岸先生なので怖い話のままでは終わりませんのでご安心を。魔法道具なんて立派なものを売ってるのに蘭子さんが勤めている会社が「ポーラー販売株式会社 東京営業所」なんて平凡なのもツボです。

中途採用バイト怪人

悪とはなにか

中途採用バイト怪人
ゆゆゆ
ゆゆゆ
1年以上前

最初の売れて消えた人設定で、今のワカモノに刺さるのは一曲バズることなのか、と変なところに感心してしまった。 悪の組織にいた人がきっちりとしているあたり、あるあるだけど、怪人が仮面ライダーよろしく、人間から改造された人設定で、また「おおお?」となってしまった。 そして、怪人が語る「悪」とはなにかの説明が、なるほどねと思う話で、説教くさいと言われたらそれまでなのだけど、そもそもに、悪の組織としての理念が末端にまで行き渡っていることに再度感心する。 バイトする怪人っておもしろそうじゃんと軽く読んでみたら、明日から自分も世界を一つ変えてやろうかなという気持ちになる、勇気を出してくれる漫画だった。 良い作品を読めてうれしい。 おもしろいですよ。

悪女

作品の古さで忌避するのはもったいない!

悪女
ゆゆゆ
ゆゆゆ
1年以上前

巨大企業へ、末端窓際コネ入社したマリリン。 出世したい理由が会社のどこかにいるはずの王子様探しという乙女な理由を持っています。 古めの絵と価値観。 数ページで苦手かもと思ったものの、読み進めていくと気にならなくなり、おもしろさにハマってザクザクと読み進めてしまいました。 タイトルは「悪女(ワル)」ですが、嫌がらせをしてくる人くらいしか悪い人はおらず、四半世紀以上前の働く女性社会のこと?と悩んだのですが、マンバの口コミをみて、なるほどなと思いました。 たしかに、愛嬌と強かさと宴会芸を持つ、人たらしの主人公マリリンは悪女といえば悪女です。 あっけらかんとしたマリリンのおかげで、古くさい価値観を水に流して読むことができます。 よくここまでザザーッと流せるなと感心してしまいます。 きっと連載中に読んだ働く女性方には、フィクションとはいえ、頼もしい存在だったのかもしれません。

ブッダ

手塚治虫の中でも一番

ブッダ
さいろく
さいろく
1年以上前

一番面白い、とは言いません。でも一番好き。 漫画を読み始めた小学生の頃、実家にはブッダの愛蔵版と秋田書店版ブラックジャックの単行本とDr.スランプがあり(後に手塚作品は拡充されていってたけど他は自分で買うようになった)それらをひたすらに読み返していたので思い入れも一番深いです。 火の鳥は雑誌ぐらいの大きさの○○編とかごとに別れてるやつがピアノの先生の家にあって待ち時間に読むのが楽しみでした。 なんか書いてるとすぐ脱線してしまう。。。 ブッダ(仏陀)に関して、私は正直この手塚治虫のブッダ以外の知識がないです。本来の意味としては「悟りを開いた人」ということだったと思う。 ただ、どこまでが世間一般で言う意味合いと合致しているのかわからないのでそこは置いときます。 今作はシッダールタがブッダとなり亡くなる(正しい表現じゃなかったらすみません)までの間の物語。 宗教的な背景や知識がなかった小学生でも、シッダールタを取り巻く登場人物たちや出来事のインパクトに惹き込まれあれよあれよと最後まで読み切り、また何度でも読み返してしまうほど深い作品でした。 タッタがすごい好きだったなぁ…ダイバダッタが本当に憎くて、でもみんな憎みきれない感じのストーリーを持ってるんですよ。 一言で言い表せない内容で、なんとも感想が書きづらいけど、本当に面白いし読まないのはほんと損だと思う。 人生への影響が色濃く強い!というほどではないかもしれないけど、きっと心に残ると思います。 大人になってから行ったタイ旅行で見た涅槃像を全部ブッダだと思って見てました。心臓を上にして横になるので右肘で頭を支えてるんですよね。これも事前知識なく手塚ブッダで学んだことだったけど合ってました。楽しい。

ハナイケル -川北高校華道部-

折れた枝でも咲く場所がある #1巻応援

ハナイケル -川北高校華道部-
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前

マーチングバンドの次は、華道! 『みかづきマーチ』の山田はまちさんの待望の新作です。 プロットとしては非常に王道中の王道を行っていますが、それで面白いのが流石です。山田はまちさんの青春ものは、安定して良いですね。 華道をメインテーマとして扱う作品は多くなく、知らない世界である人も多い作品でしょう。私もそこまで詳しいわけではないので、本作で解説される内容は興味深く読んでいます。 「即興花生け」という競技のルールもシンプルかつ面白く、またその頂点である花の甲子園を目指すという目標も非常にわかりやすく、素人であるヒロイン・もみじの目線に沿って物語に容易く乗っていけます。 そして、本作の何よりの美点は、画面で華道の素晴らしい魅力を伝えてくれていることです。『みかづきマーチ』の演奏シーンで見せてくれたような表現力を以て、美しく意趣溢れる花々を生ける姿を描いています。作業中も、完成図も、等しく惹きつけられます。白黒なのに、カラーだと錯覚するような鮮やかさです。 一見使えそうにないものや傷ついたものでも、上手く用いることで素晴らしい作品になる様子は、人間の様態にも当てはまるメタファーのよう。もみじの挫折から始まり、華道という新しい道を見つけて再起していく物語ですが、多くの人に強い共感を呼びそうです。 伸び代のあるもみじのこれからの成長を想うと、ワクワクせずにはいられません。周囲のキャラクターたちも魅力的で、その関係性でも見せ場をたくさん作ってくれそうです。 広くお薦めしたい、秀作です。

腐女医の医者道!

外科医というお仕事

腐女医の医者道!
ゆゆゆ
ゆゆゆ
1年以上前

夫婦ともに外科医、保育園児を育てる母・さーたりさんのお仕事&日常エッセイ漫画です。 1巻を読み終えたところです。 腐女医とあるものの、腐要素は薄めです。 お仕事要素が強めです。 既婚子持ち女性の外科医は大変と言われているそうです。 たしかに、保育園へ子供のお迎え後に子供を連れて病院に戻って仕事をしたり、どちらか帰宅後に再び出勤して続きの業務をしたり、それが朝までの仕事になったり、そもそも子どもを連れて帰宅しなければうまくいった調整ができず叱責されたり。 好きを仕事にし続けるというのは、大変なことなんだなあと思ってしまいました。 子育て関連以外では皮膚科医が儲かるとか(理想の皮膚科ビルは笑いました)、他の科を選ぼうとしても結局今の外科を選びそうとか、そんな話も載っています。 聞いたことある話や聞いたことない話。 お医者さんとして生きる人の日常が詰め合わせになっていて、おもしろいです。

わたしひとりの部屋

わかる

わたしひとりの部屋
野愛
野愛
1年以上前

これでいいじゃないかって思うのに、これでいいわけないじゃないかって思ってしまうからしんどいんだよな。 本当に開き直ってしまえたり、狂ってしまえたらどんなに楽だろうか。自分の人生にも明確なルールがあって、チュートリアル通り滞りなく生きていけたらどんなに楽だろうか。 そんなことを思いながら生きて生きて結構歳を取ってしまったし、昔よりは開き直って楽な気はするけど人と比べてしまって辛いし、こういうのっていつになっても治らないんだろうなあと思う。 Twitterがなくなったら友達いなくなるなあとか、よく遊ぶけど本名知らないなあとか、この趣味を手放したら人間関係ゼロになるなあとか改めて気づいてしまってしんどくなった。

ザ★ジザケ

「日本酒好きなら田植え行きません?」宮城日本酒巡りマンガ!

ザ★ジザケ
たか
たか
1年以上前

日本酒好きで飲むたびにメモしてる人間なのですが「おっ、日本酒のマンガか〜」と読んでみたら、まさか地元宮城の日本酒に特化した作品でした。マジかありがたすぎる!!! 毎回規制するたびに仙台駅のワンコイン日本酒自販機で飲むんですが、どれ飲むか迷って結局いつのものやつにしちゃうので、この作品を読んで知識仕入れたいと思います!

スピン

迷走する私とフィギュアスケート

スピン
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
1年以上前

フィギュアスケートを惰性で続けている少女の物語。なまじ出来てしまうことに加えて、ある理由でフィギュアスケートに固執している主人公。やりたくはない、けれどもやめられない、という苛立ち・うんざり感……一冊を通じて、鬱々とした気持ちに支配される。 周囲が全てクソという認識。生きづらさ、世界に受け入れられない絶望感。解決策が無く、無力感を共有することになる。 しかし、ぐいぐいと読めてしまう。そこにある無力感は、過去の私も持っていたものに似ているから。 学校でも、リンクでも、うまくいかない主人公。彼女を支えるのは、それぞれの場所で彼女を受け入れる女性たち。おかげでぎりぎり立っていられる主人公に感情移入する。 過剰に女性の支えを求める理由の中には、彼女の同性愛もある(作中ではゲイと表現)。そこにはときめきがあるものの、決して受け入れられないだろうという諦めが彼女をいっそう荒ませるのが辛い。 幼少期から思春期にかけての迷走は歯痒いし、自分と照らし合わせるのも辛い部分がある。一方で心の奥底で同調し、その辛さがどう癒されるのかを追いたくもなる。 起こる出来事に一貫性が無く、突然なのがリアルに感じる。作者の自伝として、恐らく自分の感情に向き合って、歯を喰いしばって描いたのだろう生々しい描写に触れて、ひどく動揺している私がいた。

メンヘラ製造機だった私が鼻にフォークを刺された話

事実はマンガより奇なり #1巻応援

メンヘラ製造機だった私が鼻にフォークを刺された話
兎来栄寿
兎来栄寿
4ヶ月前

最近、ビッグモーターの醜聞が巷を賑わせています。この時代に、そんなことが現実に有り得るのかと思えるほどの話が連日続々と出てきて驚かされます。 ただ、大谷翔平選手や藤井聡太七冠がマンガでも描かれないような大活躍を見せてくれているように、良くも悪くも時として現実はフィクションを超えていきます。 実際に筆者が体験したことを描いたという、この作品もまたある種の現実を超える話です。 異常な元彼に鼻をフォークで刺されるなど一歩間違えれば死んでいたほどのさまざまな暴行を受けて記憶障害が起きた上に、一人の人間としての尊厳をズタズタに侵されてしまう筆者。そのえげつない相手に対して、徹底的に抗戦していく様子が描かれます。 美人のヒロインが鼻にずっとフォークが刺さって痛々しい姿のまま、というのは創作ではなかなかやれないでしょう。岡田あーみんさんや美川べるのさん、東村アキコさん辺りの絵で想像できなくはないですが、9割以上編集に止められそうです。 元彼や彼の親族の異常性が言動からも絵からも滲み出ていますが、恐ろしいことにこういう人種は全然実在するんだよなとも思ってしまいます。警察における暗部が仄めかされる部分も、その範疇です。 ただ、散々な出来事ではありますが、周囲に良い人が多かったのは不幸中の幸いで良かったなと思いました。彼らがいなかった時のことを想像するとゾッとします。 凄まじい体験談ですが、真に恐るべきはあとがきによれば筆者の中ではこれはまだ人生の中でマイルドな話らしいということです。これ以上の話も見たような、見たくないような。 なお、描き下ろしの秘められた想いとその結末も、とてもリアルだなと感じました。

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