『ちいかわ』著者・ナガノさんの食べ歩きエッセイ
先日ちいかわを4巻まで一気に駆け抜けて読み、ナガノさんの描くマンガの読みやすさに安堵感を求めてついついこっちも3巻まで購入して一気に読んだ。 お一人様で食べに行く、という行動力がすべてかもしれない。 お台場のカレーの回、どこだろうと思ってたらフードコート(!)だったが、そのフードコートにしか現存店舗がない元超人気の名店だという。 そんな情報も載っていたりする。 博多明太子も「やまや」と「かねふく」しかないと思ってたらちゃんと味見した結果「平塚明太子」を選んでいたナガノさん。 そんなことされたらめっちゃ気になるじゃないか・・・ そんな感じのエッセイ本。ある意味バイブル的な作品。
ナガノ氏のすごいところは、そのバランス感覚だと思う。
「ちいかわ」で言うなら、
万人受けするかわいいキャラクターと、
少し毒のある世界観の両立。
「自分ツッコミくま」LINEスタンプで言うなら、
気軽な使いやすさと、
我を出しすぎないちょうどいい面白さ。
需要と表現の間を完璧にとらえる客観性。
そのバランス感覚がこそが氏の突出した部分である。
そしてそんなバランス感覚は本書「MOGUMOGU食べ歩きくま」でも、
遺憾なく発揮されている。
本文で語られることはあくまで作者視点の体験である。
エッセイである以上、主人公は作者自身であり、
そこで描かれる思想はストーリー漫画よりも直接的に読者に伝わり、
大なり小なり読者の思想との相違がある。
それがエッセイ漫画のクセであり味であるはずなのだが、
本作ではそういった作者の「クセ」にさえ共感してしまう。
高級店で食事をした時に隣の人を見てマナーを真似したり、
コース料理をアトラクションの楽しさに例えたり。
誰もが感じたことがあっても言葉にはしていなかった
「ちょうどいいあるある」が作中の節々でビシビシと投げられる。
それらはあくまで淡々と、しかし感情豊かに。
この落ち着いたテンポの良さに、読んでいて安らぎを感じる。
違和感なく自然に読めるのに、
「気持ちのいい引っ掛かり」は「作品のクセ」と理解した上で、
小気味よく用意されている。
究極の自己プロデュース力を持った作家、それがナガノ。
我々は常に彼の手のひらで転がされているのである。