前年の酉の市で買ったまま納屋に放置されている出目金による一人称視点漫画。
美しかった紅白の鱗は失われ、腐臭を放つ水の中で生き続ける。
喜びの何一つない絶望的な世界に1匹閉じ込められておりながら、自らを「乃公(ダイコウ・わがはい)」と大仰に呼び淡々と状況を受け入れ、あまつさえ快感すら感じている。
ふと「もしかしたら金魚だから深く考えることが出来ないせいかも」と頭をよぎりましたが、明治の文豪のような物々しい口調で思考の出来る存在なんだからそんな訳ないと考え直しました。
精神を守るための防御反応かと思うとただただ辛く、救いがなく陰惨。
たった3ページの中に淡々とした絶望があって、ひたすら暗い気持ちになれるので好きです。
というのも、自分自身が小学生の頃ずっと金魚を飼っていて「こいつらの人生って一体なんなんだろう」と常に感じていたからです。
【以下読まなくて良い隙自語り】
「飼っていて」というのは正しくなく、毎年夏祭りで金魚すくいをするものの、水の入った水槽は重くて2階から庭まで子供には運べず掃除をする時期は全て母に頼りきり。私は気まぐれにエサをやり、母が運んだ水槽を洗うだけでした。
更年期で不安定な母にこまめな管理は難しく、たびたび水槽はドロドロの藻に覆い尽くされたまま放置されました。ゲームは1日1時間。兄はすでに家を出て家には子供が私1人。時間が有り余っている私はよく生臭い緑の水の中で死ぬまで往復し続ける金魚たちを眺めて、生殺与奪の権(もちろんそんな義勇さんめいた言葉は知りませんでしたが)、こいつらの命と人生を私が全て握っているにも関わらず、劣悪な環境に置き続けていることにバツの悪さを感じていました。
金魚に感情移入して申し訳なく思っていた小学生の自分の思いが形になったような作品で、たった3ページで罪悪と嬉しさの両方を感じられる良い読切でした。
(青騎士17B号)