ジャンプ+新連載‼︎『恋のハイパーインフレーション』
※ネタバレを含むクチコミです。
【デジタル版限定!「少年ジャンプ+」掲載時のカラーページを完全収録!!】帝国の奴隷狩りによって、両親を失った少年ルーク。今度の奴隷狩りでは最愛の姉がオークションに出品されてしまう!! 絶望のドン底でルークが手に入れたのは、『体からカネを生み出す能力』だった!! オークションに参加するルーク――余裕で姉を落札か!? だが、この力には“致命的な欠陥”があって……!? カネが、生命が、怒りが、暴力が、欲望が、『加速≒インフレ』し――物語はハイパーインフレーションを巻き起こす!!
最終回間近のハイパーインフレーションですが、
最新話(55話)があまりにも良すぎてもう我慢できないので
ネタバレ全開で感想を書きます
未読の方はまず全話読もう!
2月17日まではジャンププラスで全話無料で読めるよ!
さて、55話の良さはいろいろあるんですが、
とにかく正々堂々鮮やかに勝利条件が書き換わって
ルークとレジャットの立ち位置が反転したという展開があまりにも見事だったので、
その点について書きます
もともと、ハイパーインフレーションというのは、
「ルークの生み出す贋札をどう活用するか?」という漫画でした
つまり、全く本物と見分けがつかないほど精巧でありながら、
番号が全て同じという致命的な弱点を持った贋札を
どのように活用するか?というお話です
当初は、見せ金に使ったり、
物理的に紙の束として使ったりしましたが、
その真価が明かされたのは12話でした
大量に作った贋札を全て同時に「帝国に巣くう魑魅魍魎」どもに卸売りして
大儲けするというやり方が示されたわけです
しかしこの方法には、「世界経済 壊れちゃうッ!」という欠点がありました
大量の贋札が見つかってしまうと、通貨の価値そのものが失墜し、
インフレーションが起き、世界的な大恐慌が起きる可能性がありました
レジャットはこれを防ぐため、流通前に贋札の番号を公表すべく、
贋札の番号を知ろうと動き出します
まぁ厳密にはルーク自身は本当に贋札を売りたいわけではなくて、
大量の贋札を売る準備を整えたうえで、
政府と「商談」しようとしていたのですが…
しかしいずれにしても、ここで、
「絶対に贋札の番号を知られたくないルーク」VS
「絶対に贋札の番号を知りたいレジャット」という構図が成立したわけです
ただ、最終的にはこの勝負にはレジャットが勝ちました
レジャットは贋札の番号を遂に突き止め、
ルークは敗北しました(49話)
だけどここからルークの大逆転が始まります
再起したルークは、番号だけを変えた大量の贋札(真・ハイパーノート)の生産に成功し、
これをもって政府との「商談」に挑みます
そしてここからが55話
まず驚いたのは、ルークは既に、贋札を売却してしまっていたという点です
読者としては、ルークは贋札を売りたいわけではなく、
脅しの道具として商談しに来たものだと思っていたのに、
もう売ってしまっているという点で度肝を抜かれます
それじゃあ交渉にならないじゃないか
次に驚いたのは、ルークが贋札を売却した結果、帝国経済が回復したという点です
これまでさんざん、
「世界経済 壊れちゃうッ!」とか
「世界経済をォォ ぶっ壊ァァ~す!!」とか言ってたので、
贋札を売却すれば世の中メチャクチャになると思うじゃないですか
でも、実際には景気が回復した
もともと、「大量の贋札が見つかってしまうと、通貨の価値そのものが失墜し、
(悪性の)インフレーションが起きる」ことが懸念されていました
でも、真・ハイパーノートは、もはや真札と見分けがつかず、
贋札だと見破られることすらなかったので、
単純に貨幣流通量が増えて、
その結果、景気が回復してしまったということですね
説明されればそのとおりなのですが、これも非常に驚いた点でした
そして最後に何より驚いたのが、ルークの商談の内容が、
「要求を実現できなければ贋札の判別方法を公表する」というものだったこと!!
これまでずーっと、
レジャットは贋札の番号を知ろうとしていました
これは、その番号をあらかじめ公表することで、贋札の流通を防ぐためでした
つまり、贋札の判別方法を公表することこそが、レジャットの目的でした
逆に、ルークにとっては、判別方法が公表されてしまっては、
贋札が使えなくなってしまうので、それだけは絶対に避けたいはずでした
ところが、
ルークが真・ハイパーノートを既に流通させてしまっていて、
しかも、それが真札と見分けがつかないがため、
景気が回復してしまっているという状況下では、
贋札の判別方法の公表は、
かえって、経済に大混乱をもたらしてしまう
いつの間にか、勝利条件そのものが書き換わっていて、
ルークが「贋札の判別方法を公表すること」を脅しとして使うことになるという、
この立場の逆転の見事さ、これこそが、55話の最大の驚き、興奮でした
さらに素晴らしいのは、作者の展開の上手さです
実は、55話で語られた内容というのは、
もともと、正々堂々、作中で全て言及されていました
贋札がばらまかれることで世界経済が壊れちゃう仕組は13話で説明されていましたし、
大量の貨幣が流通することで景気が回復するということも36話で言及されてました
なお、金本位制の話も、23話や36話で触れられてました
つまり、「偽札だとわからないほど精巧な偽札が大量に流通すれば経済は回復するし、
その場合、偽札の判別方法を公表することが脅しとして機能するようになる」という論理展開については、
全て材料が与えられていたうえ、
ごく常識的な推論として、本来、予想可能だったのです
でも、予測できなかった!(…予測していた人っているんですかね)
これはおそらくハイパーインフレーションという漫画の構造自体に秘密があって、
この漫画は、頭脳バトルが多いんですが、
その頭脳バトルの内容をかなりわかりやすく説明してくれますし、、
結構頻繁に「勝利条件を整理しよう」みたいなモノローグが入るんですよね
そうすると読者として、「ははぁよくわからんけどとにかく
今の勝利条件はそうなってんのか」で読み進めることができるわけです
ところが、今回は、何の説明もなく、
気づいたら勝利条件が書き換わっていた!!
そうすると何となく読み進めていた読者としては、
それはもう新鮮に驚くことになるわけで、
しかも前述のとおり、言われてみればごく常識的な論理展開でもあるわけで、
いやぁすっかりやられたなあという気持ちでいっぱいになるわけですよ!
上質なミステリのような見事などんでん返しで、本当に良い読書体験でした
終わるのは寂しいですが、残りの展開にも大いに期待です!!