難解な原作のための鑑賞の手引きを目指したようだが、それに留まらない面白さがあった。
原作の同名小説は未読だったんだが、むしろそういう人のために描かれた『死者の書』の鑑賞の手引きを目指した、とあとがきで近藤ようこが書いているためむしろ私のような人間のための漫画だったのかもしれない。実際かなり難解な小説のようで、通読を断念した人も多いようで小説から入ってたら読み通せなかったかもしれない。 鑑賞の手引きを目指したからか、この漫画にわかりにくさを感じることはほとんどなかった。だからちゃんと面白さが伝わってきたんだと思う。 ストーリーは、斎き姫にあがる娘として大事に育て得られた藤原南家の娘(郎女)が写経や機織りなどを通して神の存在を確かにし奉仕しようとする姿が描かれている(と思う) 郎女はかなり才能のある女性だったようだが文物を全く与えられない(女に知識を与えるものではないという風潮もあったようだ)中で育てられたが、ひょんなことから法華経を手に入れて、それを習い始めて知識というよりも神という認識に目覚めて彼女の信仰が始まっていく。その姿が淡々としているんだが、写経を1000部行ったりして激しい。 時系列が整理されているようでその点も原作よりも読みやすくなっている点だとか。信仰の神秘さを保ちながら文化的な背景が骨太で面白かった。原作は頑張って読もうと思う。
歴史上の人物が出てくると「あ、里中満智子のアレに出てた…」とおさらい出来て、頭の整理になる。
前半のホラーは苦手なら読み飛ばして、一気に蓮糸織まで駆け込むのも一つの手。俤ひとのくだりも深く考えず、「そーいうもんか」で進めましょう。
この本の面白さは幻想描写のくだりではなく、古代の歴史人物の描写(没落していく南家・横佩大臣の石城の意味するもの、仲麻呂の如才なさ、大友家持の中途半端な煩悩)二上山に沈む日で春分秋分を理解する郎女の聡さなどに光る折口信夫の知性にあります。味わいとしては、よくできた推理小説のようなハイブリッドの面白さなのです。