時は八世紀半ば、平城京の都が栄えた頃。いずれ氏神に仕える者として、館の奥深くで育てられた藤原南家の娘――郎女は、ある年の春分の日の夕暮れ、荘厳な俤びとを、二上山の峰の間に見て、千部写経を発願する。一年後、千部を書き終えた郎女は、館から姿を消し、ひとり西へ向かう。郎女がたどり着いたのは、二上山のふもと、女人禁制の万法蔵院。結界破りの罪を贖うため、寺の庵に入れられた郎女は、そこで語り部の姥から、五十年前に謀反の罪で斬首された滋賀津彦と耳面刀自の話を聞かされるのだが――。第18回文化庁メディア芸術祭[マンガ部門]大賞「『五色の舟』(原作:津原泰水)」 受賞後第一作! 日本民俗学を築いた折口信夫の傑作小説を、初読四十年にしてついに漫画化。古代へと誘う魂の物語。
歴史上の人物が出てくると「あ、里中満智子のアレに出てた…」とおさらい出来て、頭の整理になる。 前半のホラーは苦手なら読み飛ばして、一気に蓮糸織まで駆け込むのも一つの手。俤ひとのくだりも深く考えず、「そーいうもんか」で進めましょう。 この本の面白さは幻想描写のくだりではなく、古代の歴史人物の描写(没落していく南家・横佩大臣の石城の意味するもの、仲麻呂の如才なさ、大友家持の中途半端な煩悩)二上山に沈む日で春分秋分を理解する郎女の聡さなどに光る折口信夫の知性にあります。味わいとしては、よくできた推理小説のようなハイブリッドの面白さなのです。