2022年4月から民法が改正され成人年齢が18歳に引き下げられると共に、女性が結婚できる年齢は16歳から18歳に引き上げられます。

身体的な機能は成人と同様となっても結婚できるまでには今まで以上のタイムラグが生まれることにより、今後この作品で扱われている「高校生の妊娠」というテーマはより重い意味を持ってくることになるでしょう。

本作では本当にどこにでもいそうな普通の子が主人公となっています。また、この手の作品では代表的な『14歳の母』では妊娠させた彼氏は年相応に子供っぽく無責任な性格でしたが、『あの子の子ども』においては珍しく彼氏側が大人びていて非常に誠実です。最初から二人の問題として、一緒に乗り越えて行こうという姿勢を見せてくれます。しかし、たとえそんな素晴らしい彼氏であっても一筋縄では行かない難題であるということが逆に浮き彫りになっていきます。

私は、この作品を小学生高学年くらいからの性教育と並行して読んで、学んで考えてみて欲しいなと思います。

いざ妊娠した時、それは自分だけの問題としてもあまりに大きいものです。体調の変化やメンタルへのダメージ、周囲との関係性。妊娠した後の想像以上の大変さを妊娠する前からリアルに考えられる子は少ないでしょう。

そして、自分のことだけではなく家族や周りの人間にもどれだけ大変で辛い思いをさせることになるか、というのが物語を通してよく伝わってきます。

うした想像力を補ってくれる、意義のある作品です。彼らがどんな決断をしてどのように歩んで行くのか、見守りましょう。

読みたい
16歳で結婚できなくなる時代に読みたい教書 #1巻応援にコメントする
ホントは出汁たい山車さん
温かいお出汁と愛情と #1巻応援
ホントは出汁たい山車さん
兎来栄寿
兎来栄寿
『ちいかわ』で出汁編が繰り広げられているいる今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。 出汁、良いですよね。 普段は昆布や鰹節から取るような手間暇はなかなかかけられないですが、たまに旨味たっぷりの出汁を取って美味しくいただく贅沢はたまりません。イノシン酸とグルタミン酸が生み出す旨味は脳と体に刻み込まれています。 『だもんで豊橋が好きって言っとるじゃん!』や『森田さんは無口』の佐野妙さんが描くこの作品は、営業2課の佐藤類(さとうるい)と経理部の山車香織(やまぐるまかおり)のふたりを中心にした、冒頭からハッピーエンドがカットバックして始まるほんわか社内ラブコメ×出汁グルメマンガです。 会社内でも出汁を引くほどさまざまな出汁に精通している山車さんから、奥深くありながらも以外と簡単に楽しむことができる出汁のいろはを伝導されていく類。 基本の鰹節や昆布から始まり、コハク酸たっぷりのアサリやグアニル酸がたっぷりながら類が苦手な干し椎茸などさまざまな種類の出汁の産地やそれらを用いた美味しいレシピなどの蘊蓄を読みながら楽しく類と一緒に学んでいけます。 出汁というと手間暇がかかるイメージが強いと思いますが、忙しい日常でも意外と手軽にできるもの(カップ麺にひとかけらの真昆布を入れるなど)も紹介されており、自分でも実践したくなります。ハンバーグにとろろ昆布を入れるのも美味しそうです。 そして、この作品はラブコメとしてもとても上質。会社ではクールで少し怖いイメージすらあった香織が、出汁のことになると饒舌になり柔らかく温かい雰囲気を出しながら美味しい料理を提供してくれるギャップ。四字熟語を多用する黒髪セミロングストレートヒロインを私が好きでないはずはありません。類も類で、素直で明るく真面目で少しヘタレな性格が好感を持てる主人公で、彼らをはよくっつかんかい! とばかりに煽り立てるサブキャラクターたちに同調しながら応援したくなるナイスカップルです。 優しく穏やかなふたりが、少しずつ少しずつ距離を縮めていくこの感じ。社会人の恋愛としては非常に純朴なやり取りが、まさに滋養に満ちた温かい出汁をいただいているときのようなほっと安心する満足感を得られます。たまにはこういう澄んだものをいただきたい……そんな気持ちが充足します。 出汁に詳しくなりたい方、穏やかな大人の恋愛物語を楽しみたい方におすすめです。
ミカコときょーちゃん
ラブストーリーが突然に #1巻応援
ミカコときょーちゃん
兎来栄寿
兎来栄寿
映画化もされた『殺さない彼と死なない彼女』の世紀末さんが、新たに描く男女のお話です。 最初は、ひたすらゆるいカップルがいちゃいちゃしている4コマなのかな? と思いました。お互いに相手のことを無限に「かわいい」「かっこいい」と言い合う、仲睦まじいきょーちゃんとミカコさん。日常の些細なことを楽しんだり、煩わしく思うことも世界でたったひとりの相手がいれば何でもなくなってしまったり。 代え難い、ただひとりの相手。ずっと一緒にいたいと思える相手。でも、そんな最愛の人がある日突然世界からいなくなってしまったら。 誰しもいつ何が起こるかわからないものだとわかってはいても、実際にそういうことが起きてしまった時には人はどうしようもなくなります。受け入れるのにどうしたって時間はかかるし、一生受け入れられないままかもしれません。 どこにでもありふれたふたりのカップルのやり取りは、ひとつの出来事を境にまったく意味を変え見え方を変えてしまいます。ただ、少なくとも心から自分の幸せと笑顔を願ってくれた相手と他愛もない時間を過ごすことができたという事実は永遠に残ります。 どうでもいいようなこと、明日には忘れているようなことのひとつひとつの欠片が何よりも貴くてかけがけのないものであるということを、改めて示してくれているようです。 今なら当たり前にできることが、いつか当たり前にできなくなってしまう。当たり前ではなくなってしまう。そうなる前に今できることをひとつひとつ大事にして、何でもないことを大切にして生きていきたいと思わせられる物語でした。
レコード大好き小学生カケル
小学生だって古き良き物を愛さずにはいられない #1巻応援
レコード大好き小学生カケル
兎来栄寿
兎来栄寿
日進月歩のテクノロジーによって世界は日々便利で豊かになっていきます。その陰で、古び消えていく技術や文化もあります。 マンガ業界においても電子書籍が圧倒的な勢いで伸びてきており、その分紙の書籍、特に雑誌の部数は大きく落ち込んでいる昨今。紙の本は段々と贅沢品でロマンの対象としての意味合いを強めていくことでしょう。 また、描き手においても若手はもちろんのことベテランもデジタルに移行する方が増えてきて、スクリーントーンやペン先などはどんどん絶版となってきています。もうアートナイフでトーンを削って気付かない内に爪の間に挟まっていたトーンカスが公の場で突然出てくることもないのだなぁと思うと一抹の寂しさに駆られます。 しかし、荒木飛呂彦さんのようにあくまでフルアナログにこだわる方も一部にはいます。どんな世界にも一定数いる、古き良きものを愛し続ける人の姿は良いものです。 『頭文字D』で、ハチロクに乗り続ける拓海のこだわり。 『16bitセンセーション』で、守が見せるPC98へのこだわり。 太正浪漫であったり、昭和レトロであったりに惹かれる心は多くの人にあるものでしょう。 変化こそが世界の摂理であり、たゆまなく変動していく環境に適応できなかった者から亡びていくのが定めです。それなのになぜ人はこうもレトロなものに言いようもない憧憬を覚えるのでしょう。 人間も必ず老いる生き物であり、自分もいつか古い人間になってしまう瞬間が訪れるのでそんな自分に重ねる部分もあるでしょうか。 古いものであるが故に蓄積された物語や思い出があり、そこに惹かれるからでしょうか。 ともあれレコードというのもまたノスタルジーと共に憧れをもたらしてくれる存在です。 本作は、レコードを愛し日本一のレコード屋になることを夢見る少年カケルが、周囲の友人たちを巻き込みレコード道を邁進する物語です。 『ドラえもん』のパロディである絵柄とキャラクター配置でかなりギャグ色も強いのですが、その中で本気で奏でられるレコードへの愛の調べが秀逸です。 「ゆで卵カッターで全身をスライスされたような衝撃」 というカケルの原体験。 そのカケルとまったく同じ所感を抱き、 「レコードには…スマホにない音の奥行きや広がりを感じる! 音像がまるで別物だ…」 と初めて触れる魅力に打ちのめされながらも相撲部としての活動の合間で翻弄されるデス夫(1P目の登場シーンで「俺様の夢はGAFAを買収してIT企業の頂点に立つことです!」と言い放つのも最高です)。 デス夫の思い人であり、カケルを通して初めてレコードに触れるヒロインのえみるちゃん。 彼女もまた 「フードプロセッサーで粗挽きにされた感じ」 というインプレッシブな表現力と、レコードをフォークボールの握りで持つなど独自の世界観を持つ少女です。 その他にも癖の強い特徴的なサブキャラクターたちが多数登場し、カケルのレコード道を盛り立てていきます。 おおひなたごうさんらしい、シュールな笑いもそこかしこに散りばめられています。個人的にお昼休みの放送の校長インタビューのテーマが「なぜ作文の宿題にChatGPTの使用を許可したのか?」なのも好きです。デス夫がカケルに対して持つ複雑な感情を基軸に物語がパワフルに駆動していくのも良いです。 しかし、何より最高なのはやはりレコードに対する並々ならぬパッションです。レコードにまったく触れたことがない人であっても、ここまで熱くレコードの魅力を語られてしまっては「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」や聖子ちゃんの曲をレコードで聴きたくなることでしょう。 あとがきを読むと、この作中の熱量も納得です。今は自宅にもうレコードを聴ける環境はないですが、レコードをかけてくれるお店に行ってその音色に耳を傾けながら改めて読み直したくなる作品です。
いま、インドによばれて
新天地インドで生きたいように生きていく #1巻応援
いま、インドによばれて
兎来栄寿
兎来栄寿
宮川千賀 現在、世界で最も人口の多い国はどこでしょうか? 中国。 と言えたのは去年までの話で、2024年現在はインドが中国を抜いて1位となっています。数学に強い国民性もあり、今後インドから超巨大IT企業も続々と誕生していくのではないかと期待されています。私自身もインドの将来性に期待して少しばかり投資をしていたりもします。 本作は、そんなインドに恋人の都合で連れてこられた漫画家志望だけど、28歳フリーターのなつめの物語。 なつめの彼氏は、なまじ稼ぎが良い出世頭なだけに、なかなか芽の出ないなつめに対して家事を無意識的に強要してしまう前時代的な価値観の持ち主。 もやもやとした感情が蓄積していたところにアニメやマンガが好きで日本語を覚え、タクシードライバーとして働いているルビーとの出逢いが彼女の人生に大きな転機をもたらしていきます。 「女だから」という理由で未来を閉ざされてしまい、自分が本当にやりたいことをやれない悩みや辛さは万国共通。日本にいると自由奔放に見える国であっても、蓋を開けて見ると思いもよらないきつい縛りがあったりします。まだまだ古い価値観の残るインドでは、女性の権利や立場は今後の変化に期待するところも大きいです。 中盤で登場するアニメ制作会社のCEOビジャヤや、インド在住25年目のさつきらもまた社会において女性であることから抑圧を受けてきた者たち。そうした逆境に立ち向かって戦ってきた彼女たちの姿に勇気づけられる人も多いことでしょう。女性はもちろんですが、さまざまな理不尽を押し付けられてきた人は共感できるのではないでしょうか。 インドマンガとしても楽しめる部分がたくさんあります。 先日、『地元最高!』の作者の方がガンジス川に入って倒れたというニュースがありますが、作中にまさにこれではないかという描写が登場します(お大事にして続きを描いていただきたいです)。 またチャパティを使った家庭料理を作るシーンや、盛大に行う結婚式での写真など文化を感じられれるところもあれば、世界遺産のタージマハルにまつわるエピソードも印象的でした。クトゥブ・ミナールやアグラセン・キ・バオリなどの名所、インドのアニメ・マンガイベントの「デリーコミコン」なども行ってみたくなりました。 前を向きモチベーションをもらえる本筋と、濃厚なインドの香が立ち上るような描写が上手く融合している作品です。
あのときのこどもさん
ノストラダムス、ビーダマン、ミニ四駆、エスパークス…… #1巻応援
あのときのこどもさん
兎来栄寿
兎来栄寿
1990年代に子供時代を過ごした30代にダイレクトクリティカルヒットする、筆者のカメントツさんが幼いころの思い出を描いた作品です。 ノストラダムスの大予言、恐怖の大王、流行りましたよね。『MMR』などによって極限まで終末の恐怖を煽られていた私も多分に漏れず、世界の終末がどのように訪れるのか戦々恐々としていました。今考えると、人間がいかに踊らされやすい生き物か解る事例であると思います。 ビーダマンも流行っていましたね。カメントツさんによる「なぜビーダマンが流行ったのか? それは『飛ぶ』『光る』『かわいい』という人間の根源的欲求をすべて満たしているから」という説には思わずなるほどと首肯してしまいました。キラカードや宝石を集めたり、ラピュタやピレネーの城に無性に惹かれたりするのもそういった類の理由なのかもしれません。付け加えるなら、投擲や射撃に類する行為というのは狩猟時代の本能的な名残りもあるのかもしれません。ともあれ、小島さんの改造ビーダマンなどには「やるやる!」と頷くことしきりでした。 バトル鉛筆はうちの学校でも禁止されてしまいました。バトル消しゴムまで使っていたドラクエ神推し小学生としては切なさ乱れ打ちでしたが、しかし私たちのバトエン熱はそんなことではかき消すことはできませんでした。通常の鉛筆に1〜6の数字を振って、ノートに数字に対応する効果を記すことで「脱法バトル鉛筆」を嗜んでいました。そうすると自然とオリジナル能力を考え出すことにも繋がり、ゲームとして更に進化していったのですがそうした部分でもカメントツさんのエピソードと通ずるところがあって深い共感をしました。 エスパークスに関しては、しっかり公式の許可を得ているようで綿密なストーリー解説がなされており、当時は断片的にしか知らなかった物語やキャラクターを今改めて知ることができて感謝しています。 2巻で出てくる、カードダスやそこから派生するオリジナルゲーム作りのエピソードも大好きです。冨樫義博さんなどもそうですが、ああいう時に異様に高いクリエイティビティを発揮していた人は何かしらの人物になれている気がします。遊びって大事だなぁと。 読んでいる間だけ、あのころ小学生だった自分に戻れる作品です。直撃世代の方にはもちろんですが、世代から外れている方にも「ああ、こういうものがあったんだなぁ」と楽しく読める歴史的な知識を学ぶ資料として面白く描かれているのではないでしょうか。
終末の箱庭
新たなる恐怖の幕開け! 連作ディストピアホラー #1巻応援
終末の箱庭
兎来栄寿
兎来栄寿
バズりにバズった「笑顔の世界」を始めとするホラー短編で『ちゃお』読者にたくさんのトラウマをもたらしたホラーの名手・岬かいりさんの新作です。 今回も、1話ごとに恐ろしい世界をたっぷりと見せてくれます。あたかも『世にも奇妙な物語』の怖い回のような、さまざまな設定がなされた世界における恐怖の数々。本作の特徴としては、単話ごとに楽しめるように描かれているのですが、それぞれのお話ごとの繋がりが明確に描かれておりやがて収斂していくことを仄めかす構成が挙げられます。 短編としても楽しめながら、大きな設定がもたらす謎やサスペンス性により1粒で2度美味しい作品です。 『笑顔の世界』のクチコミにも書きましたが、岬かいりさんの描く歪んだ世界はただ露悪的なだけではなく現実世界と地続きなのが印象的です。 さまざまなディストピア感が描かれますが、それらは決してファンタジーではなくややもすれば現実で人間の愚かさや弱さが引き起こしてしまいそうなものでもあります。逆に言えば、人間が愚かであるからこそこうした物語による警鐘が必要であり、それを浴びて生きてきた血脈がこうした物語に対して悍ましくも目が離せないという感情を抱かせるのかもしれません。 岬かいりさんは、個々のシーンにおいても「通常であれば読者はこういう感情を持つから、こういう反応を期待するだろう」という部分をそのまま描かず、たくさん裏切ってくれるのもまたホラーに合っています。 終わったときには近年のホラー系作品の中でも一際名作として聳え立っていそうです。
ういちの島
#1巻応援
ういちの島
兎来栄寿
兎来栄寿
文化人類学者であり漫画家でもある異色な経歴を持つ都留泰作の最新作です。『ナチュン』、『ムシヌユン』、『竜女戦記』ときて、この『ういちの島』。 海洋学。 謎が謎を呼ぶ展開。 咽せ返るような欲望の描き方。 冒頭のコンゴ・スーダン地域に実在するアザンデ族の妖術師の逸話から始まる辺りも含めて、純然たる都留泰作さんを感じられる作品です。 サバイバル・パニック・ホラーという人気ジャンルの中でも、少し変わった要素も取り入れつつ独自の持ち味をしっかりと出しています。 タイトルにもなっている「ういち」とは一体何なのか? 読み進めていくとそれも少しずつ解っていきますが、単なるファンタジーではなく学術的な裏付けや現代社会における批評性も伴ったものとして提示されていくのであろうという期待感が湧きます。 また、サスペンスとして見たときには主人公の立ち位置が面白く、引きが強いです。この辺りにも、さまざまなエンターテインメント作品を研究している都留泰作さんらしさが感じられます。 84ページから感じられるアーティスティックさなどは、絵の魅力もますます増しているなと思わされます。 果たして、どのような展開と結末が待ち受けるのか。都留泰作ファンとして純粋に楽しみです。
マツケンクエスト~異世界召喚されたマツケン、サンバで魔王を成敗致す~【電子単行本】
すべては咲顔のために #1巻応援
マツケンクエスト~異世界召喚されたマツケン、サンバで魔王を成敗致す~【電子単行本】
兎来栄寿
兎来栄寿
先日、家族がマツケンポストカードを買ってきて 「今年一番良い買い物をした! あらゆる魔を祓ってくれそう」 と、嬉々として保護ケースに収納していました。 最近では『なかよし』のふろくになって幼女たちの間でも人気と知名度が急激に上昇していたり、先進的すぎる「マツケンARパレード」が話題になったり、再ブレイクしているマツケンこと松平健さん。身近なところでも、その勢いを感じている今日この頃です。 そんな彼が異世界転生する本作、遂に待望の1巻が発売。 https://x.com/monthlychampion/status/1775084538932437272?s=46&t=S5wm4E-TmT39NBg4BgQsPA 掲載誌である最新号の『月刊少年チャンピオン』も大変なことになっていました。すべての闇を払拭する圧倒的な光輝のオーラを感じます。 そう、今世界には闇が満ちています。戦争や疫病や災害といった人類史上で常に人類を悩ませてきた大きな問題から、現代社会特有の家庭や人間関係、システムの歪みが生み出すものまで多種多様な闇が。 人々には、救いとなる大いなる光が必要なのです。こんな混迷の時代だからこそ、マツケンサンバが再び輝きを増すのです。 マツケンが求めるたったひとつのもの。 それは、人々の咲顔(えがお)。 苦しいことや辛いことが数多くあるこの世界で生きている人に、咲顔を生み出したい。取り戻したい。その純粋で強い想いが、彼の纒う煌めきとなって見るものに降り注ぎます。 仕事で、プライベートで、疲れたときに今必要なのは実はマツケンかもしれません。あなたもこの作品に触れて、一時難しいことをすべて脳内から取り払って、失ってしまっていた咲顔を取り戻してみませんか? なお、同時発売の『異世界小林幸子~ラスボス降臨!~』と一緒に買うと特典がつくキャンペーンなども行われているのでチェックしてみてください。
ガールズ・アット・ジ・エッジ
凶器は、愛と勇気 #1巻応援
ガールズ・アット・ジ・エッジ
兎来栄寿
兎来栄寿
一般的な作劇の教科書においてはやらない方が良いとされるであろう大胆な、それ故に印象的な構成で始まる1話目から、ただごとではないものを見せてくれます。 ポリバケツに収められたボーイの遺体。 それを囲んで見つめる5人の風俗嬢たち。 「で 誰が殺したんスかね」 というセリフと共に 「風俗嬢がボーイを殺して廃校でひと夏過ごす話」 と、提示される梗概。 少し変わったフーダニットなのかな? と読み進めていくと、どうやらそういう話でもないようだと解ってきます。ハウダニットでもなく、強いて言うならばワイダニットが一番近いものの、しかしながら本質はそこにない。設定や導入、徐々に明かされる情報や真実といった部分は驚きも含まれ非常にミステリ的なのですが、その上で描かれる現代社会で生きる女の子たちの心情やその動きがこの物語の核となっています。 ″愛したいし守りたいが 実際には憎んでいる この感情を知られたらと思うと気が狂いそうになる″ ″この人も私たちと同じだな 後天的に携わった喜怒哀楽の表現で 毎日をやり過ごしてるのが良くわかる″ ″自分の人生に熱中するには才能がいる (中略) ここはそうではない人間の方が多い 私の居場所な気がする″ 小説原作であることを強く感じさせる、心情描写の精緻さと言葉選びの巧みさ。心の奥底にある澱みを掬い取り言語化する能力の高さを存分に感じさせてくれます。 人を殺すというセンセーショナルな行為が行われますが、そこに至るのは個人の特質的なものではなく現代社会に遍く存在する歪みがもたらす外的な要因が大きく影響しており、誰しもが似た状況に陥ってしまう可能性、言うなれば負の再現性の高さを感じさせられます。 ″祈りが祈りとして機能するために必要なものは愛ではなく嘘だし 救済が救済として機能するために必要なのは 勇気でなく運だ″ 世間から付けられたかわいく扇状的なラベルの裏側にある、黒いマグマのように煮え滾る彼女たちの真意。愛や勇気が求められながら、それがただちに現実的な救いとはならないこの世界。こんな世界でどうやって呼吸を続けていくのか。苦もなく生きられて、呼吸の仕方に悩んだ人にはまったく理解もされない。でも、同じ立場になったことがある人なら痛いほどに解る。そんな物語です。 『真夜中の訪問者 -ハトリアヤコ作品集-』でも紹介したハトリアヤコさんが、このマンガ版を手がけたことも非常に良い選択だと思います。元々の作風とも絶妙にマッチした内容で、持ち味を最大限に生かしている良いコラボだと感じました。 一見ミステリ的な手触りで、その中には昏く濃厚なヒューマンドラマが渦巻いている名作です。
老境博徒伝SOGA
老人ホームに入居し暴れる西の怪物 #1巻応援
老境博徒伝SOGA
兎来栄寿
兎来栄寿
私は『天』が好きすぎて、このマンバでのクチコミなどを書く際にも何度名言やネタを引用したかわからないくらいです。 その『天』の東西決戦において、西代表の雀士として一際存在感を放っていた僧我三威を主人公に据えたスピンオフです。 『トネガワ』『ハンチョウ』『イチジョウ』などに連なる、コメディタッチを基調としながら部分的には感慨深いところもある内容となっています。 現代医療によって病から回復を果たし80歳を超えた僧我は老人ホームに入居して静かな余生を送ろうとするも、その老人ホームはボケ防止というお題目で麻雀やパチンコ・パチスロなどのギャンブルが横行し、「ペリカ」による経済活動が行われる安息とは程遠い場所でした。 赤木と僧我の最後の戦いを終えた後の余生がこうなることに若干複雑な想いはありますが、逆にあれだけ怪物然としていた人物が世俗に塗れる瞬間を描いているというところでの味があります。 老人ホームで暮らす主人公の作品もなかなかないので、そういう意味での面白さもあります。老人ホームに詳しくないですが、ジャージがゆるゆるなのは、あるあるなんでしょうか。 闘牌シーンもありますが、1回ツモって捨てるまでに何十秒もかかり、見せ牌のオンパレードな老人たちに、さまざまな玄人技を持つ僧我が負けるはずもなく。 ″僧我は深い森……… 漆黒の闇……… いないっ…! その闇を見通せるものなど… この老人ホームにはっ…!″ といった、原作を踏襲したナレーションには笑いを誘われます。 また、『ハンチョウ』でもコラボしていた雀魂を元にした雀天という麻雀ゲームアプリを遊び出すところでは、大槻や一条や利根川が美少女化されており笑います。 そうした笑える部分も良いのですが、余生という状況を振り返ったときや終わりの時を前にした人々の営みに、やがて誰にでも訪れる未来の一旦を垣間見れる瞬間もあり、何とも言えない感情に見舞われる部分があります。 『天』を読んでいない人でも楽しめるようになってはいると思いますが、読んどいたほうがいいですよ『天』は..!
オリオン明滅す
対人ゲームの根底にある最も強い感情 #1巻応援
オリオン明滅す
兎来栄寿
兎来栄寿
『HOTEL R.I.P.』の西倉新久さんの新作は、eスポーツ、より正確に言えばバトルロワイヤル系FPSマンガです。 FPSといえば『PUBG』、『Apex Legends』、『フォートナイト』、『荒野行動』、『VALORANT』などが有名です。 先日、とある付き合いで行ったお店で若い子に「L'Arc〜en〜Cielって何ですか?」と聞かれて衝撃を受けました。その子は、「ファイナルファンタジー、やったことないです。ゲームはエペ(Apex Legends)とかヴァロ(VALORANT)ならやります」とも。今はそういう時代なんですよね。 ともあれ、本作はまさにそれらバトロワ系FPSに類した作中作「PULSATE(パルセイト)」で最強を目指す27歳のプロゲーマー南条優人が主人公の物語です。 年齢的に周囲に引退者も出始め、家族にも自分の仕事を理解されない。チームメイトももっと強いチームへ行くと揉めて辞めてしまった。しかし、ゲームで負けた時の悔しさはずっと変わらない。 ″FPSは怒りだ″ の文言が表紙に、何ならタイトルよりも目立つくらいに印字されているのが好きです。 私は元々、対人だと長らく格闘ゲームを嗜んできましたが、周りにいた強いプレイヤーのモチベーションの源泉には純粋に上手くなりたいという想いももちろんありつつ、「あいつ絶対殺す!」という他プレイヤーに対する怒りや殺意が一番強い感情として存在したのは否定できません。「e殺し合い」とはよく言ったものです。 ギリシャ神話のオリオンは、「地上に住む全ての獣を殺す」と言い放ちました。その結果ガイアの怒りを買って殺されてしまうのですが、それにも似た猛々しい瞋恚がこめられています。 現代社会において本気で誰かと闘争するということを日常的に行なっているのはごく一部の体に恵まれたアスリート・格闘競技者くらいですが、ゲームの世界でも物理的なスポーツと同じくらいの熱狂が生まれ真剣勝負が日々繰り広げられています。 この『オリオン明滅す』には、その熱量が確かに宿っています。 ″このクソ田舎でオレだけが知っている一番熱い舞台を 冷やかし気分で汚すんじゃねえ″ という富山が地元の優人の言葉に滾ります。 本作は、優人が天才的なプレイスキルを持つダイヤと出会い新たなチームメンバーへと加えようとすることで物語が展開していきますが、ダイヤの天才性による気持ち良さと、一方でひとりの天才がいてもそれだけでは勝てないチームプレイの難しさや面白さも上手く表現されています。 eスポーツ好きの方はもちろん、そうでない方も読んでみると今非常に熱い世界の様子を垣間見ることができるでしょう。
星の謳歌
コメのセンスが良すぎるラブコメ #1巻応援
星の謳歌
兎来栄寿
兎来栄寿
『三十路とレディ』や『そうしそうあい』のりべるむさん最新作。 たまにいらっしゃるんですよね。ただの日常会話だけを延々と描いていてもひたすら面白いという類稀なセンスをお持ちの方が。りべるむさんは正にそうです。 本作は、都会で青春を謳歌していた女子高生の星野逢架が両親の離婚により田舎の祖父の家で暮らすことになり新たな学校生活をスタートしていく物語。 スタバもアイスクリームショップもなく、制服もダサく、ショッピングするには3駅離れたところまで行かねばならない土地でやっていけるのか。不安に駆られる逢架ですが、幸いにしてどんどんと友達ができていきます。 この友達たちが皆キャラが濃く、楽しいわちゃわちゃ感にまみれます。 目がぱっちりしてかわいい白石夏鈴は、一人称「かりん」。優しくて明るいけどドジで、一緒にいると水難に遭いやすい。 尾崎天真(てんま)は初対面で「胸鎖乳突筋が素敵だね」と言ってくる変態。自称「人のいいところに気づける才能」。 関岡山登は名前に反して海が好き。小学生のころに学校に生えてる木の実を全部食べても何ともない強靭な胃腸持ち。道に落ちてるピザは食べるし「マーマレードおにぎり」や「そばレタスおにぎり」、「たくあんレーズンサンド」など奇妙なものをよく食べている。 古川実智加(さねちか)は、動物が寄ってくるディ◯ニープリンセスのような体質。水族館に行くとスナメリに求愛されるレベル。人の色恋沙汰が好き。 松枝十夢(トム)は、逢架から見てもイケメン。顔面国宝だけれど、顔が浮腫むと美術工芸品くらい。 生活委員の牧野千由紀さんは真面目な普通の子で、この面子の中にあってはひと匙の清涼剤的存在です。 この愉快な仲間たちが、ただ駄弁ってるだけで既に面白くてずっと読んでいたくなります。 「見てみこのほどよい腓腹筋及びアキレス腱と覗くヒラメ筋」 「わかんないけど今イギリスの正式名称言った?」 とか 「出た食物連鎖の頂点としての自覚ある態度」 などのような、どこから出てくるのだろうと思うような面白いセリフの数々は中毒性があります。 制服アレンジによる教師との攻防など女子高生あるあるも散りばめられており、人によっては懐かしく思ったり共感したりすることでしょう。 コメディ色は強いですが、逢架と祖父の心温まる交流であったり、かりんの訳アリ感やそれを陰ながら支えていそうな天真であったり、ハートフルな部分も見え隠れしておりそこも美点です。 そしてラブコメのラブの部分もばっちりで、コメが強いこともあって落差でキュンがまた引き立っているようにも感じました。見ていて幸せになる組み合わせなので、掛け合い漫才をしながら仲睦まじい姿をずっと見せて欲しいです。 総じて大好きな作品で、2024年のラブコメでは一押しです。
私の女神が今日も推せる ~これからも、いつまでも~
絡み合い重なり合う群像百合 #1巻応援
私の女神が今日も推せる ~これからも、いつまでも~
兎来栄寿
兎来栄寿
昨年、電子書籍のみで発刊された百合オムニバスがこの度新装版となり再構成されて紙・電子で発売となりました。 1話だけ切り取ってみても相当に満足度の高い百合短編が、相互に絡み合う群像劇として連作短編で読めるこの幸福感。 嘉神さんへの好意がクラスメイトにバレてしまい本人にまで伝わって困惑する大宮さん。 隣の席にいる多賀さんが逆隣にいる諏訪さんに向ける強い視線に気づいている、大宮さんの友人の匙本さん。 同じ塾に通う1位と2位で、それぞれの学校では1位の「最強」を目指す澄海(すみ)と尊(みこと)。 おのおの異なるさまざまな関係性から生じるストーリーは、それぞれに魅力的で胸を高鳴らせてくれます。 個人的には傍観者としても当事者になった瞬間も完璧な匙本さん、好きです。 西大路かれんさんはもっと好きです。 最初は高校生同士として出逢って絆を育みだした彼女たちの、その先の物語が描かれるのも味わい深いところです。共に過ごした時が積み重なるからこそ生まれる酸いや甘い。感情や、振る舞いに凝縮されたものが百合好きを幸せにしてくれます。 帯を缶乃さんが書かれているのもむべなるかな。百合好きの方はマストバイです。
鳴かぬ蛍の眠る場所
『別マ』で異彩を放つ蛍の光 #1巻応援 #完結応援
鳴かぬ蛍の眠る場所
兎来栄寿
兎来栄寿
『君に届け』以来、椎名軽穂さんの18年ぶりの新作となる「突風とビート」が始まり話題となっている『別マ』。最近の『別マ』の中では一際異彩を放ち、それ故に印象的な作品です。 高校生になる前に亡くなってしまった姉・蛍の代わりに、新たに始まる高校生活を楽しもうと心に誓う主人公・照。入学初日から運命を感じるイケメン・颯太朗との出逢いがあり、彼の所属する写真部に入って楽しくドキドキに溢れた高校生活が始まる―― そんな予感がしたのも束の間。周囲では何やらきな臭い噂が流れる颯太朗から「俺が蛍を殺した」と衝撃の事実を告げられ、物語は急転直下。甘い学園ラブコメかと思ったら、サスペンスの様相を呈していきます。 真相は、真意はどこにあるのか。姉を殺したという相手とどう向き合っていくのか。他の『別マ』作品にはなかなかないドキドキがあります。 個人的に、一番好きなのは蛍の回想です。タイトルにもなっている通り、蛍はこの物語のキーパーソンでありフィーチャーされていきます。照は照でかわいくて明るくて面白い魅力的な黒髪ロングヒロインなのですが、彼女の人格形成にも多分に影響したであろう蛍というキャラクターもまた良いです。彼女の良さがその言動から溢れてくるシーンに感じ入ってしまいます。清水奏良さんの絵の良さもあいまって、とても魅力的です。 とある名作少女マンガのある場面を思い出すような大きな展開にも驚かされながら、物語は1冊で完結します。 全体を通して生じた感情を述べることもネタバレになってしまいそうなので伏せますが、ただひとつ言えることは間違いなく良い作品で好きということです。 後書きの焼肉の件は、本編との落差で笑ってしまいました。
あなた!私、ストライキします
伯爵令嬢主人公の境遇がかわいそうすぎる。
あなた!私、ストライキします
ゆゆゆ
ゆゆゆ
美しい外見と伯爵令嬢という身分。帝国一の花嫁候補と称賛された主人公のご令嬢が王命で嫁がされたのは、武功で平民から男爵に成り上がった傭兵の、偏狭なド田舎の土地。 それでも、領地に身も心も尽くして10年、亡くなる間際にやってきた夫へ言いたいことを言い尽くし、亡くなる。 何故か新婚初夜翌日に死に戻り、10年間で得た人間関係、領地の情勢、歴史、いろんなものを盾に、言いたい事をいい、だらだらのんびり暮らすことを決意する。 ハッキリと嫌なことは嫌と言えるようになったおかげで、少しずつ、死ぬ前の人生とは変わってきているように思える。 城に勤める人たちは良い人ばかりなのに、夫がひどすぎる。 男爵としての教育を、誰も受けさせていないんだろうか。 まだ序盤で、高嶺の花を与えられて戸惑う夫側があまり描かれていないにしても、ひどすぎる。 夫とすれ違ってしまった前世をやり直す系なんだようけども、、、読んでいて、この男は!!と思ったら第一話をみるとすっきりしそう。 主人公、前世でがんばったよ。うん。まだ子も誕生していないのだから、ゆっくりしたらいいよ。
ホントは出汁たい山車さん
温かいお出汁と愛情と #1巻応援
ホントは出汁たい山車さん
兎来栄寿
兎来栄寿
『ちいかわ』で出汁編が繰り広げられているいる今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。 出汁、良いですよね。 普段は昆布や鰹節から取るような手間暇はなかなかかけられないですが、たまに旨味たっぷりの出汁を取って美味しくいただく贅沢はたまりません。イノシン酸とグルタミン酸が生み出す旨味は脳と体に刻み込まれています。 『だもんで豊橋が好きって言っとるじゃん!』や『森田さんは無口』の佐野妙さんが描くこの作品は、営業2課の佐藤類(さとうるい)と経理部の山車香織(やまぐるまかおり)のふたりを中心にした、冒頭からハッピーエンドがカットバックして始まるほんわか社内ラブコメ×出汁グルメマンガです。 会社内でも出汁を引くほどさまざまな出汁に精通している山車さんから、奥深くありながらも以外と簡単に楽しむことができる出汁のいろはを伝導されていく類。 基本の鰹節や昆布から始まり、コハク酸たっぷりのアサリやグアニル酸がたっぷりながら類が苦手な干し椎茸などさまざまな種類の出汁の産地やそれらを用いた美味しいレシピなどの蘊蓄を読みながら楽しく類と一緒に学んでいけます。 出汁というと手間暇がかかるイメージが強いと思いますが、忙しい日常でも意外と手軽にできるもの(カップ麺にひとかけらの真昆布を入れるなど)も紹介されており、自分でも実践したくなります。ハンバーグにとろろ昆布を入れるのも美味しそうです。 そして、この作品はラブコメとしてもとても上質。会社ではクールで少し怖いイメージすらあった香織が、出汁のことになると饒舌になり柔らかく温かい雰囲気を出しながら美味しい料理を提供してくれるギャップ。四字熟語を多用する黒髪セミロングストレートヒロインを私が好きでないはずはありません。類も類で、素直で明るく真面目で少しヘタレな性格が好感を持てる主人公で、彼らをはよくっつかんかい! とばかりに煽り立てるサブキャラクターたちに同調しながら応援したくなるナイスカップルです。 優しく穏やかなふたりが、少しずつ少しずつ距離を縮めていくこの感じ。社会人の恋愛としては非常に純朴なやり取りが、まさに滋養に満ちた温かい出汁をいただいているときのようなほっと安心する満足感を得られます。たまにはこういう澄んだものをいただきたい……そんな気持ちが充足します。 出汁に詳しくなりたい方、穏やかな大人の恋愛物語を楽しみたい方におすすめです。
ミカコときょーちゃん
ラブストーリーが突然に #1巻応援
ミカコときょーちゃん
兎来栄寿
兎来栄寿
映画化もされた『殺さない彼と死なない彼女』の世紀末さんが、新たに描く男女のお話です。 最初は、ひたすらゆるいカップルがいちゃいちゃしている4コマなのかな? と思いました。お互いに相手のことを無限に「かわいい」「かっこいい」と言い合う、仲睦まじいきょーちゃんとミカコさん。日常の些細なことを楽しんだり、煩わしく思うことも世界でたったひとりの相手がいれば何でもなくなってしまったり。 代え難い、ただひとりの相手。ずっと一緒にいたいと思える相手。でも、そんな最愛の人がある日突然世界からいなくなってしまったら。 誰しもいつ何が起こるかわからないものだとわかってはいても、実際にそういうことが起きてしまった時には人はどうしようもなくなります。受け入れるのにどうしたって時間はかかるし、一生受け入れられないままかもしれません。 どこにでもありふれたふたりのカップルのやり取りは、ひとつの出来事を境にまったく意味を変え見え方を変えてしまいます。ただ、少なくとも心から自分の幸せと笑顔を願ってくれた相手と他愛もない時間を過ごすことができたという事実は永遠に残ります。 どうでもいいようなこと、明日には忘れているようなことのひとつひとつの欠片が何よりも貴くてかけがけのないものであるということを、改めて示してくれているようです。 今なら当たり前にできることが、いつか当たり前にできなくなってしまう。当たり前ではなくなってしまう。そうなる前に今できることをひとつひとつ大事にして、何でもないことを大切にして生きていきたいと思わせられる物語でした。
波うららかに、めおと日和
とってもキュンキュンな戦前ラブコメ
波うららかに、めおと日和
ゆゆゆ
ゆゆゆ
タイトルで戦前と書きましたが、応仁の乱以前の話ではありません。日中戦争間近の横須賀が舞台です。 むっつり無愛想な瀧昌と、日常生活以上のことを知らないおっとりとした女の子のなつ美。 ロシアとの戦争が終わったあと、中国と戦争をはじめるちょっと前。そんな時代に海軍で下士官をつとめる瀧昌と見合い結婚をしたなつ美。 冒頭で写真だけの結婚式を上げたから、瀧昌は亡くなっているんじゃと少しだけハラハラした。杞憂だった。 二人の初々しい新婚生活に、読んでいてニコニコしてしまう。 なお、軍なので新婚さんでも夫が家にいないこともしばし。 家で待つ間のなつ美の心の揺れ動き(主に瀧昌に対する心配と惚気)と、再会した際の二人のやりとりにほんわかしてしまう。 もちろんファンタジーではないので魔法も異能も出てこない。 さらに、舞台となる時代を考えると暗い未来しか見えないのだけど、今の彼らが素敵すぎでおもわず読み進めてしまう。 ぴゅあぴゅあでキュンキュン。読み終えると、とても良き…とジーンとなれる。 ハッピーエンドじゃなきゃやだよと駄々こねたくなるほど、ステキなラブコメ。
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あの子の子ども