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兎来栄寿
兎来栄寿
2021/07/29
すべてが最高な2021BLの最高峰
安心と信頼のおげれつたなかさん最新作。 バカエロの方の作品群も良いですけど、私はおげれつたなかさんのこの仄暗く痛みを覚える方の作風が大好きです。 まず言うまでもないことですが、美しい絵柄が最高ですね。美麗な絵でもって、主人公の千紘が惹かれる攻めのケイトのミステリアスで冷たい「顔の良さ」を無条件で承服させられます。表紙でも帯でもそうですが、瞳孔にハイライトがないケイトの暗い深淵の瞳。しかし、そこに時折光が宿るシーンが堪らない訳ですよ、ええ。 公式では「謎めいたイケ傷害男」×「人生底辺ヒモカス男」とされていますが、この主軸二人のバックボーンが非常に懇切丁寧に描かれていることで、彼らのクズな部分もアングラな部分もひっくるめて感情移入できるようになります。よく立った二人のキャラクターが織り成していく関係性の変化は極上のご馳走です。 「ゴミと動くオナホってどっちがマシなんだろうな」 という問いとそれへの回答、またep.6のラスト付近はとりわけ好きなシーンです。 彼らを取り巻くサブキャラクターも味のある人物が取り揃えられており、引きの強いストーリーを更に盛り立てていきます。 ディープな人間ドラマを読みたい方でBLへの抵抗が薄い方であれば男性にも強くお薦めしたい、今年発売のBL作品の中でも抜けている一作です。
兎来栄寿
兎来栄寿
2021/07/29
書籍化に感謝したい名作
『姉の友人』で一躍名を馳せたばったんさんの名作『かけおちガール』が、この度めでたく紙の書籍として発売されました。元々は電子雑誌となった『ハツキス』に掲載されていた作品で電子でしか読めなかったのですが、この機会に紙派の方にも読んでみて欲しい逸品です。 この作品に留まりませんが、ばったんさんの作品に登場するキャラクターは現実の人生で出会う人々のようなリアルさ・肉感があり、その営みに胸を刺されます。 本作では女子校時代に付き合っていたももとみどりを主軸に物語が描かれるのですが、自分の想いをあっさりと無碍にしたみどりに対する愛憎、そしてももからは見えなかったみどりが秘める真実など、現実に起こり得る当事者にしか解らない感情の発露や蓄積が極めて巧みに描かれます。 他者から見ると苛立つほど幸せに見えても、実は誰よりも暗い孤独の澱に沈んでいた……そんなことはままあるのが世界の現実です。 女性と女性という関係性といえばそうですし、女性が描く女性ならではのセンシティブなシーンも描かれるのですが、それ以上に人間と人間による深遠で切実なドラマには男女問わず没入してしまうことでしょう。 結局、絶望をもたらすのも希望を与えてくれるのも、人間なんですよね。嗚呼。
兎来栄寿
兎来栄寿
2021/07/09
この社会人ラブコメ、推せる!
皆さんは都会と田舎、どちらが好きでしょうか。私は都会で生まれ都会で育ちましたし、都会の便利さを享受してもいますが、魂は常に奈良の吉野山にあり還ることを求めています。空の狭いビル群の中で呼吸を潜めているより、緑と花に囲まれた広くて雄大な景色の中にいる方が落ち着きます。田舎にいる温かな人たちも大好きです。 しかし、本作の主人公は私とは逆で田舎者が大嫌いな27歳シティボーイ。社のホープで仕事もバリバリできて女性社員からの人気も高いものの、好きなものは美女・嫌いなものはブスと田舎者というちょっとイヤなヤツ。 ……なんですが、1巻の後半ではなぜ主人公がそんなに田舎者を嫌いなのかという理由となるエピソードが描かれ、なるほどそれは嫌いになってしまっても仕方ないな、と納得感が生まれます。 そんな田舎者嫌いの主人公の下に社長命令で超弩級に田舎者な部下の女の子がつくことになり、凸凹な関係性によるラブコメが繰り広げられます。 『のだめカンタービレ』の千秋とのだめのような、エリート系男子と破天荒純粋無垢系ヒロインの関係性が好きな方には無条件でお薦めできます。 個人的に好きなシーンが、ヒロインが差し入れてくれたふかし芋に対して主人公が「こんな田舎臭い食べ物なんぞ」と思いながら食べ無意識にほっこりしてしまい、そんな自分を追い払うために「高級スーパーで買ったヒマラヤ岩塩かけて食ってやる!フハハ思い知ったか田舎者め!」と高笑うところ。主人公のアホ可愛いところ、愛せます。 主人公とヒロインのみならずキャラクターの立たせ方が良く、全体的に古き良き少女マンガ感もあります。ただ絵柄的には男性でも読み易いタイプでしょう。 続きはもちろんのこと、やまとかなさんの今後の作品も絶対に追いかけたいと思わせてくれる秀逸さでした。
兎来栄寿
兎来栄寿
2021/07/09
丸戸史明×武者サブのエンタメ作りマンガ!
『冴えない彼女の育てかた』の丸戸史明さんと、そのコミカライズでもお馴染みの武者サブさんとのコラボレーションが再び登場しました。 帯に丸戸史明さんの代表作として稀代の名作である『WHITE ALBUM2』の名が記されているところからして期待せずにはいられなかった本作。 「100億の男」と言われる超有名プロデューサーを父に持つ主人公が、失踪した父に代わって最高のメディアミックスエンタテインメント作品を作り上げていくという大筋になっています。加えて、文芸編集者・マンガ編集者・アニメ制作会社の才媛たちとひとつ屋根の下に暮らすというラブコメ要素も混じっています。 主人公がお偉方相手に決死のプレゼンを行うシーンや、女性編集者が大物作家に対して専属の先輩編集者の牽制を受け流しながら望む原稿を書いてもらうシーンなど、ビジネスやモノづくりにおかる普遍的な困難を面白い物語として料理し、演出しています。 『WHITE ALBUM2』でも大学生の主人公が編集部で社員よりも仕事ができる有能な人材として活躍するシーンが描かれていましたが、丸戸さんはビジネスシーンを描く手腕に長けていますね。 今回はかなりライト寄りの味付けですが、作家性はそこかしこに滲み出ています。「たかがエンタメ」の件は、サイバーコネクト2の松山社長が書いた『エンターテインメントという薬』を想起しました。 武者サブさんの描く女の子も可愛く、今後も楽しみです。
兎来栄寿
兎来栄寿
2021/05/28
アフターコロナのウイルス駆除バディアクション
コロナ禍になり、世界中の人々が外出する際にはマスクを着用するようになると、マンガの中でマスクをしていない姿が非現実性を際立たせる要素になってしまうのではないかという話もありました。 『バタフライ・ストレージ』安堂維子里さんの最新作であるこの『GOAT HEAD』では、現実と同様にウイルスに脅かされた人々が外では常識的にマスクをする世界が描かれます。 ただし、この世界のウイルスは現実のコロナよりも凶暴で、物理的に巨大化して襲ってきて命を脅かしてきます。 そんな未知の「ゴートウイルス」に組の親兄弟を殺されたヤクザの九頭(くず)が、復讐のため民間初のゴートウイルス退治会社を立ち上げて対峙していく物語です。 喧嘩が得意な九頭と、その舎弟で口が回り詐欺が得意な五味(ごみ)。得意分野を生かして、元ヤクザであることは巧妙に隠しつつ新たなシノギに取り組む彼ら二人の「ゴミクズ」コンビがまず良い味を出しています。 そこに、厚生省ゴート対策課の隊長であり家族をゴートに殺された美人の吉月も加わって凸凹なキャラクター関係が楽しめます。 「密」という言葉が常用されていたり、交通機関でソーシャルディスタンスを空けるようにしたり、またウイルス検査をしていても陽性者が出てしまう様子や、陰性者であっても都会から来た人に厳しい田舎の感じなどは現実と地続きです。 一方で、「非接触握手」という新習慣や、ゴート専用採集キットがフリマサイトで闇取引されている様子などは、現実にはなくとも非常に有り得そうと思えるリアルさがあります。 シリアスなメインストーリーがありながら、各話のラストでは思わず笑ってしまうような勢いの良さも。ゴートウイルスとのバトルシーンのアクションは前作に引き続き派手で気持ちよく、深刻になりすぎず楽しい読後感が残ります。 喧嘩で手榴弾からロケットランチャーまで出てきてしまう「(ピー)」の治安の悪さも好きです。
兎来栄寿
兎来栄寿
2021/04/28
古き良きこの手触り!
1980年代、不良、喧嘩、改造人間、怪人、ロボ、束ノ間一平(つかのまいっぺい)や仮初銀色(かりそめぎんいろ)といったネーミングセンス…… 令和3年に発売されたこの作品、まるで80年代〜90年代前半の少年誌に載っていた作品のようで、絵柄も含めてあまりにもノスタルジーを感じさせます。 コミティアなどで活躍しながらこの作品がデビュー作となる作者の岩澤美翠さんの机の前には明菜ちゃんが貼ってあるそうです。納得。 デジタル作画がダメという訳では全くないです。が、この手描きのアミナワやベタフラッシュ、トーンの削り、枠線のカドのインク溜まり……今はもうあまり見なくなったアナログ感が無性に愛しく感じられます。 「今日も地獄の炎がマックスだよ!!!」 と猛る食堂のおばちゃんがいる滅茶苦茶な高校生活、好きです。 カバー下の遊び心も好きです。 何より1巻収録のジグザグのお話が大好きです。毛布をプレゼントして貰った時のジグザグのかわいさときたら、もう。ジグザグが何不自由しないような暮らしを一緒に営みたい。 荒唐無稽な設定と展開の裏で、丁寧に切なく紡がれるドラマもあり心に沁みます。 益荒雄×美少年という組み合わせに非常に愛と拘りを感じる内容で、そうしたキャラクターの絡みが好きな人に特にお薦めです。 岩澤さんには今後も自らの好きな物を好きなように書き連ねていって頂きたいと思う、才気溢れるデビュー単行本でした。
兎来栄寿
兎来栄寿
2021/04/01
事実はマンガよりも奇なり。
「病んだ魂と、欠けた魂が、修羅場を作り出す」というキャッチコピーが秀逸。 こちらは、離婚を経験した人へ経緯や顛末を取材してリアルな体験談を連ねたWEBメディアの企画『ぼくたちの離婚』の書籍版をコミカライズした作品です。 言うなれば『その時の彼女が今の妻です』の逆バージョン、「その時の妻が今の他人です」。出逢いや馴れ初めからスタートしながら、そこから別れに至るまでのそれぞれのリアルな実体験と感情が克明に描かれています。 とてもよく理解できて同情してしまう人もいれば、まったく理解が及ばず宇宙人のように思える人まで様々に登場しますが、率直に言って面白いです。下手な創作より余程個性的で立った「キャラクター」とその感情の変遷に圧倒されます。 自身も離婚を経験している原作者曰く、 「苦痛に満ちた結婚生活。身も凍る修羅場。苦渋の決断。激しい後悔と開き直り。妻に対する未練や呪詛の言葉。そこに、当時の心境と現在の心情が入り交じる。引き込まれること、この上ない。「これは読み物になる」と確信した」 とのことで、それは間違いないでしょう。 Case#03の、『キル・ビル 』の暗殺集団のボスであるビルが元恋人のザ・ブライドを殺した本当の気持ちがよく解るという件に非常に感情移入しました。サブカルに精通したカッコいい美人というのも最高でした。今の自分も結婚を経てビルに殺される側になりつつあるなと感じます。 本筋ではないですが、Case#05の犬のエピソードもグッときますね。 絵が綺麗だなぁと思ったら、『麻衣の虫ぐらし』などの雨がっぱ少女群さんの別名義でした。綺麗な上で、人間の暗部が露呈するシーンのえげつない表情の迫力が凄いです。 「人間」を見たい方、修羅場を見たい方、離婚の危機に備えて反面教師にしたい方、ご一読してみては。
兎来栄寿
兎来栄寿
2021/02/24
ネタバレ
『幽★遊★白書』のベストバウトはどれだろう
「真剣勝負は  技量にかかわらず  いいものだ  決する瞬間  互いの道程が  花火のように  咲いて散る」 これは『幽★遊★白書』18巻冒頭での軀のセリフですが、この度 #マンバ読書会 を「少年マンガの名バトル」というテーマで行うにあたって思い出したのがこちらです。 技量が拮抗している者同士の白熱した闘いはもちろん、弱き者が強き者に想いや気迫、権謀術数を用いて挑むのもまた堪りません。 『幽白』の中でのベストバウトはどれだろう、と考えながらふと読み返すと、止まれず最終巻まで読まずにはいられない恐るべき吸引力。大人になってから読み返すと、少年の頃には感じ取れなかった細やかな機微をより堪能できるようになっていて、改めて名作中の名作だなと思わされます。 冒頭のセリフが出たシーンである、飛影VS魔界整体師時雨のバトルも僅か1話にも満たない尺でありながらそんな味わい深さを様々に兼ね揃えた非常に優れたバトルのひとつです。飛影に邪眼を授けた医師であり、剣術を施した師でもあるという奇妙な関係性。 時雨は、数百年もの間、雷禅・軀・黄泉の副官であった者たちより圧倒的に強い妖狐蔵馬をして、魔界統一トーナメントで闘った際には「勝てたのが不思議」と言わしめたほどの強さも見せています。飛影と闘った瞬間には軀の77人の戦士の中でも最下位だったということで、飛影と並んで伸び代が大きかったということでしょう。患者の人生の一部を報酬として貰い、飛影には「妹を見付けても兄と名乗らない」という条件を取り付けて兄妹の運命を狂わせる悪趣味さこそ見せ付けましたが、作中でも格を保ったキャラのひとりと言えます。 隣火円礫刀という特徴的な武器を使うところも外連味たっぷりで魅力的です。そして、それに対して飛影がわざと炎殺剣を用いずにかつて時雨から施された剣術の純粋な腕での勝負による勝ちにこだわる、そして相討ちという結果に「悪くない」という感慨を抱くという、それまでの飛影というキャラクターからは考えにくかった人間味ある変化を見せてくれたという意味でも意義深い闘いでした。もちろん、剣豪同士の静と動が研ぎ澄まされた戦闘描写それ自体も秀逸です。 さて、そんな『幽白』におけるベストバウトは一体どれでしょう。 当時の読者による人気投票では蔵馬VS鴉、飛影VS武威、幽助VS飛影がベスト3に挙げられていました(鴉のせいで私はトリートメントを使うようになりました)。 他に王道で行くならば幽助VS戸愚呂弟は筆頭に挙がるでしょう。絶望的な強さで圧倒してくる戸愚呂に、守りたいものを抱えた主人公が受け継いだ力で挑む熱さは王道中の王道。 戸愚呂弟VS玄海の因縁対決も良さみが深いです。玄海VS死々若丸で老獪な技巧を見せ付けながら若返るシーンも無論大好きです。 幽助VS酎や幽助VS陣の気持ちいいケンカバカ対決も好きです。ナイフエッジデスマッチという言葉の語感、良いですよね。 桑原が絡むバトルも、大体単純な強さで圧倒することはできないが故に泥臭い工夫が必要になって面白いものが多いです。 あるいは、単純な強さだけではない頭脳戦という軸を見せてくれた闘いとして蔵馬VS海藤や海藤・蔵馬VS天沼も名バトルです。答えはBのトーチタス。 そんな感じで『幽白』だけでも丸一日考えても結論は出せませんでした。 皆さんはどのバトルが好きでしょうか。 今週末はそんなお話をして盛り上がりたいです。