兎来栄寿
兎来栄寿
2024/05/01
戦後の金塊争奪サスペンス #1巻応援
『がんばれ元気』、『お〜い!竜馬』、『あずみ』などでお馴染みの、小山ゆうさん最新作。『颯汰の国』を挟んで、『雄飛』と同じ昭和の物語が新たに紡がれています。 本作は1953年の戦後間もない時代が舞台。大衆演劇の花形役を務める主人公の春子が、日本軍の大佐であった父が隠した日本再建のための金塊を巡る争奪戦に巻き込まれていくサスペンスです。 男剣士を凛々しく演じる美しく強い春子は、恩義のある座長のもとで何も知らず暮らしていましたが、ある日を境にその日常が崩れていってしまいます。ただ、戦後という時代もあり、ただやられるばかりではなく暴力に対し時に立ち向かって反撃していく姿もあり痛快です。 鴻鵠の志で金塊を隠した春子の父に対して、本当に存在するのかどうかも解らない「女神」(作中で金塊の隠語と語られる)を巡って、多くの人々が醜悪な争いを起こしていくさまは何とも言えません。 そしてまた、もし金塊が時の総理の下に首尾よく回っていったとしてもそれが正しく使われるかどうかは別の問題として存在するのもまた無常感を覚えさせられます。仮に総理が高潔な志で差配を行おうとしても、さまざまな思惑や柵が絡んだ政界でどこまで理想通りに事を運べるのか。栓なきことと解りながらも、考えてしまいます。 ともあれ、さまざまな勢力が互いに画策し合い息もつかせぬ展開で、誰を信用できて誰が信用できないのかも解らない春子の緊迫感がそのまま伝わってくるようです。 小山ゆうさんももう76歳ですが、筆に翳りは見えません。池上遼一さんも今月で80歳を迎えますが、皆さんお元気でい続けて欲しいです。
兎来栄寿
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2024/04/30
コロコロ発SF少女バディアクション #1巻応援
女の子同士のバディものは古来から名作が多いと相場が決まっています。そして、ちょっと啀み合っているくらいがちょうどいい。そう思う方には、うってつけの作品です。 コールドスリープから目覚めると、自分がいた2020年代から60年経った2080年代の東京にいた東雲菊。その時代では通称「特能」と呼ばれる外部神経を体外に伸ばしてコントロールする超能力が極一部の人間に発現しており、法規制されているものの犯罪が後を絶たない状況に。悪化する治安を食い止めるべく、民間企業に警察の業務が委託され「民警」と言われる民間警察が普及しているという世界設定です。 菊の相棒となるのが、菊のことを「おばあちゃん」と呼ぶ16歳の月下香(つきさがりきょう)。世界で唯一の「クラス9」の特能使いで、大量殺人を行った凶悪犯罪者です。地雷がどこに埋まっているかもわからず、何かあると菊も殺そうとすらする危う過ぎる人物なので緊張感もありながら、その中で発生するコミュニケーションに面白さがあるコンビです。 時代によって失われた誰かを守るために真っ直ぐであろうとする価値観を持ち続けて戦場で駆ける菊。そんな菊の在り方に、ときに苛つきときに戸惑いながらも少しずつ距離を縮めていく様子が良いです。 コロコロレーベルということで対象年齢はやや低めに作られていますが、子供のころからこうした良質なバディものに触れられたなら素敵な大人に育っていくだろうなと思わずにはいられない作品です。
兎来栄寿
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2024/04/30
変人奇人たくさんの高校コメディ #1巻応援
みなさんの学校では先生はどんなあだ名で呼ばれていましたか? 私の学校の先生方は「極道」、「ソルジャークラス1st」、「化身」(いずれも女性の先生)などと呼ばれ親しまれていました。そんな懐かしい記憶を呼び起こしてくれたのが、この愉快な4コママンガでした。 生徒も先生もキャラがとにかく濃い東遊高校を舞台に繰り広げられる学園コメディで、ギャグ色強めのラブコメ成分も多めに含まれています。 バレエをやっていたものの背が伸び過ぎてモデルをやっており、同じ事務所に所属する超美形の恋人もいるものの、独特の感性を持った美人ゾーィ。 人間観察が趣味で、茶道部に入って「頂上(てっぺん)」を取ろうとしている、自分の容姿に自信がありすぎる鈴音。 身長は低いもののラグビー部で活躍する、優しいけど鈍い、いつも笑顔でスマイル王子と呼ばれている鍛冶。 中学時代から鍛冶を慕いストーカー化しているが自覚に乏しい怜。 そんな怜への気持ちに徐々に自覚的になっていく、この作品の中では常識人寄りで清涼剤のような存在の小川。 おとなしいメガネ文学少女的な外見で、バイオレンスアクション小説を書いている青山さん。 10年間「とび森」をやりこみ続け公共事業をコンプリートしている斉木。 ミステリアスな美人だが、目を開けたまま眠ることができ、鍵開けが得意で、男子ふたりのかけあいに妄想を昂らせる五十嵐さん。 他にも、書ききれないほどたくさんの個性的なキャラクターたちが登場します。 教師のあだ名も「アンドロイド」、「板長」、「アガペー」など特徴的で、それだけで日々の賑やかさが伝わってきます。倫理教師のあだ名がアガペーになるところ、好きです。 それぞれのキャラクターたちが複雑に関係し合って織りなされる群像劇は実際の学校生活さながらで、その中で萌芽を見せるいくつかのラブの部分も見どころとなっています。ラブらないところも、それはそれでまた良く。 私はこういった耽美な絵柄で描かれるエキセントリックなギャグが大好きです。同じ趣味の方、変な人間が好きな方にオススメです。
兎来栄寿
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2021/02/24
ネタバレ
『幽★遊★白書』のベストバウトはどれだろう
「真剣勝負は  技量にかかわらず  いいものだ  決する瞬間  互いの道程が  花火のように  咲いて散る」 これは『幽★遊★白書』18巻冒頭での軀のセリフですが、この度 #マンバ読書会 を「少年マンガの名バトル」というテーマで行うにあたって思い出したのがこちらです。 技量が拮抗している者同士の白熱した闘いはもちろん、弱き者が強き者に想いや気迫、権謀術数を用いて挑むのもまた堪りません。 『幽白』の中でのベストバウトはどれだろう、と考えながらふと読み返すと、止まれず最終巻まで読まずにはいられない恐るべき吸引力。大人になってから読み返すと、少年の頃には感じ取れなかった細やかな機微をより堪能できるようになっていて、改めて名作中の名作だなと思わされます。 冒頭のセリフが出たシーンである、飛影VS魔界整体師時雨のバトルも僅か1話にも満たない尺でありながらそんな味わい深さを様々に兼ね揃えた非常に優れたバトルのひとつです。飛影に邪眼を授けた医師であり、剣術を施した師でもあるという奇妙な関係性。 時雨は、数百年もの間、雷禅・軀・黄泉の副官であった者たちより圧倒的に強い妖狐蔵馬をして、魔界統一トーナメントで闘った際には「勝てたのが不思議」と言わしめたほどの強さも見せています。飛影と闘った瞬間には軀の77人の戦士の中でも最下位だったということで、飛影と並んで伸び代が大きかったということでしょう。患者の人生の一部を報酬として貰い、飛影には「妹を見付けても兄と名乗らない」という条件を取り付けて兄妹の運命を狂わせる悪趣味さこそ見せ付けましたが、作中でも格を保ったキャラのひとりと言えます。 隣火円礫刀という特徴的な武器を使うところも外連味たっぷりで魅力的です。そして、それに対して飛影がわざと炎殺剣を用いずにかつて時雨から施された剣術の純粋な腕での勝負による勝ちにこだわる、そして相討ちという結果に「悪くない」という感慨を抱くという、それまでの飛影というキャラクターからは考えにくかった人間味ある変化を見せてくれたという意味でも意義深い闘いでした。もちろん、剣豪同士の静と動が研ぎ澄まされた戦闘描写それ自体も秀逸です。 さて、そんな『幽白』におけるベストバウトは一体どれでしょう。 当時の読者による人気投票では蔵馬VS鴉、飛影VS武威、幽助VS飛影がベスト3に挙げられていました(鴉のせいで私はトリートメントを使うようになりました)。 他に王道で行くならば幽助VS戸愚呂弟は筆頭に挙がるでしょう。絶望的な強さで圧倒してくる戸愚呂に、守りたいものを抱えた主人公が受け継いだ力で挑む熱さは王道中の王道。 戸愚呂弟VS玄海の因縁対決も良さみが深いです。玄海VS死々若丸で老獪な技巧を見せ付けながら若返るシーンも無論大好きです。 幽助VS酎や幽助VS陣の気持ちいいケンカバカ対決も好きです。ナイフエッジデスマッチという言葉の語感、良いですよね。 桑原が絡むバトルも、大体単純な強さで圧倒することはできないが故に泥臭い工夫が必要になって面白いものが多いです。 あるいは、単純な強さだけではない頭脳戦という軸を見せてくれた闘いとして蔵馬VS海藤や海藤・蔵馬VS天沼も名バトルです。答えはBのトーチタス。 そんな感じで『幽白』だけでも丸一日考えても結論は出せませんでした。 皆さんはどのバトルが好きでしょうか。 そんなお話をして盛り上がりたいです。