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兎来栄寿
兎来栄寿
2021/07/09
丸戸史明×武者サブのエンタメ作りマンガ!
『冴えない彼女の育てかた』の丸戸史明さんと、そのコミカライズでもお馴染みの武者サブさんとのコラボレーションが再び登場しました。 帯に丸戸史明さんの代表作として稀代の名作である『WHITE ALBUM2』の名が記されているところからして期待せずにはいられなかった本作。 「100億の男」と言われる超有名プロデューサーを父に持つ主人公が、失踪した父に代わって最高のメディアミックスエンタテインメント作品を作り上げていくという大筋になっています。加えて、文芸編集者・マンガ編集者・アニメ制作会社の才媛たちとひとつ屋根の下に暮らすというラブコメ要素も混じっています。 主人公がお偉方相手に決死のプレゼンを行うシーンや、女性編集者が大物作家に対して専属の先輩編集者の牽制を受け流しながら望む原稿を書いてもらうシーンなど、ビジネスやモノづくりにおかる普遍的な困難を面白い物語として料理し、演出しています。 『WHITE ALBUM2』でも大学生の主人公が編集部で社員よりも仕事ができる有能な人材として活躍するシーンが描かれていましたが、丸戸さんはビジネスシーンを描く手腕に長けていますね。 今回はかなりライト寄りの味付けですが、作家性はそこかしこに滲み出ています。「たかがエンタメ」の件は、サイバーコネクト2の松山社長が書いた『エンターテインメントという薬』を想起しました。 武者サブさんの描く女の子も可愛く、今後も楽しみです。
兎来栄寿
兎来栄寿
2021/05/28
アフターコロナのウイルス駆除バディアクション
コロナ禍になり、世界中の人々が外出する際にはマスクを着用するようになると、マンガの中でマスクをしていない姿が非現実性を際立たせる要素になってしまうのではないかという話もありました。 『バタフライ・ストレージ』安堂維子里さんの最新作であるこの『GOAT HEAD』では、現実と同様にウイルスに脅かされた人々が外では常識的にマスクをする世界が描かれます。 ただし、この世界のウイルスは現実のコロナよりも凶暴で、物理的に巨大化して襲ってきて命を脅かしてきます。 そんな未知の「ゴートウイルス」に組の親兄弟を殺されたヤクザの九頭(くず)が、復讐のため民間初のゴートウイルス退治会社を立ち上げて対峙していく物語です。 喧嘩が得意な九頭と、その舎弟で口が回り詐欺が得意な五味(ごみ)。得意分野を生かして、元ヤクザであることは巧妙に隠しつつ新たなシノギに取り組む彼ら二人の「ゴミクズ」コンビがまず良い味を出しています。 そこに、厚生省ゴート対策課の隊長であり家族をゴートに殺された美人の吉月も加わって凸凹なキャラクター関係が楽しめます。 「密」という言葉が常用されていたり、交通機関でソーシャルディスタンスを空けるようにしたり、またウイルス検査をしていても陽性者が出てしまう様子や、陰性者であっても都会から来た人に厳しい田舎の感じなどは現実と地続きです。 一方で、「非接触握手」という新習慣や、ゴート専用採集キットがフリマサイトで闇取引されている様子などは、現実にはなくとも非常に有り得そうと思えるリアルさがあります。 シリアスなメインストーリーがありながら、各話のラストでは思わず笑ってしまうような勢いの良さも。ゴートウイルスとのバトルシーンのアクションは前作に引き続き派手で気持ちよく、深刻になりすぎず楽しい読後感が残ります。 喧嘩で手榴弾からロケットランチャーまで出てきてしまう「(ピー)」の治安の悪さも好きです。
兎来栄寿
兎来栄寿
2021/04/28
古き良きこの手触り!
1980年代、不良、喧嘩、改造人間、怪人、ロボ、束ノ間一平(つかのまいっぺい)や仮初銀色(かりそめぎんいろ)といったネーミングセンス…… 令和3年に発売されたこの作品、まるで80年代〜90年代前半の少年誌に載っていた作品のようで、絵柄も含めてあまりにもノスタルジーを感じさせます。 コミティアなどで活躍しながらこの作品がデビュー作となる作者の岩澤美翠さんの机の前には明菜ちゃんが貼ってあるそうです。納得。 デジタル作画がダメという訳では全くないです。が、この手描きのアミナワやベタフラッシュ、トーンの削り、枠線のカドのインク溜まり……今はもうあまり見なくなったアナログ感が無性に愛しく感じられます。 「今日も地獄の炎がマックスだよ!!!」 と猛る食堂のおばちゃんがいる滅茶苦茶な高校生活、好きです。 カバー下の遊び心も好きです。 何より1巻収録のジグザグのお話が大好きです。毛布をプレゼントして貰った時のジグザグのかわいさときたら、もう。ジグザグが何不自由しないような暮らしを一緒に営みたい。 荒唐無稽な設定と展開の裏で、丁寧に切なく紡がれるドラマもあり心に沁みます。 益荒雄×美少年という組み合わせに非常に愛と拘りを感じる内容で、そうしたキャラクターの絡みが好きな人に特にお薦めです。 岩澤さんには今後も自らの好きな物を好きなように書き連ねていって頂きたいと思う、才気溢れるデビュー単行本でした。
兎来栄寿
兎来栄寿
2021/04/01
事実はマンガよりも奇なり。
「病んだ魂と、欠けた魂が、修羅場を作り出す」というキャッチコピーが秀逸。 こちらは、離婚を経験した人へ経緯や顛末を取材してリアルな体験談を連ねたWEBメディアの企画『ぼくたちの離婚』の書籍版をコミカライズした作品です。 言うなれば『その時の彼女が今の妻です』の逆バージョン、「その時の妻が今の他人です」。出逢いや馴れ初めからスタートしながら、そこから別れに至るまでのそれぞれのリアルな実体験と感情が克明に描かれています。 とてもよく理解できて同情してしまう人もいれば、まったく理解が及ばず宇宙人のように思える人まで様々に登場しますが、率直に言って面白いです。下手な創作より余程個性的で立った「キャラクター」とその感情の変遷に圧倒されます。 自身も離婚を経験している原作者曰く、 「苦痛に満ちた結婚生活。身も凍る修羅場。苦渋の決断。激しい後悔と開き直り。妻に対する未練や呪詛の言葉。そこに、当時の心境と現在の心情が入り交じる。引き込まれること、この上ない。「これは読み物になる」と確信した」 とのことで、それは間違いないでしょう。 Case#03の、『キル・ビル 』の暗殺集団のボスであるビルが元恋人のザ・ブライドを殺した本当の気持ちがよく解るという件に非常に感情移入しました。サブカルに精通したカッコいい美人というのも最高でした。今の自分も結婚を経てビルに殺される側になりつつあるなと感じます。 本筋ではないですが、Case#05の犬のエピソードもグッときますね。 絵が綺麗だなぁと思ったら、『麻衣の虫ぐらし』などの雨がっぱ少女群さんの別名義でした。綺麗な上で、人間の暗部が露呈するシーンのえげつない表情の迫力が凄いです。 「人間」を見たい方、修羅場を見たい方、離婚の危機に備えて反面教師にしたい方、ご一読してみては。
兎来栄寿
兎来栄寿
2021/02/24
ネタバレ
『幽★遊★白書』のベストバウトはどれだろう
「真剣勝負は  技量にかかわらず  いいものだ  決する瞬間  互いの道程が  花火のように  咲いて散る」 これは『幽★遊★白書』18巻冒頭での軀のセリフですが、この度 #マンバ読書会 を「少年マンガの名バトル」というテーマで行うにあたって思い出したのがこちらです。 技量が拮抗している者同士の白熱した闘いはもちろん、弱き者が強き者に想いや気迫、権謀術数を用いて挑むのもまた堪りません。 『幽白』の中でのベストバウトはどれだろう、と考えながらふと読み返すと、止まれず最終巻まで読まずにはいられない恐るべき吸引力。大人になってから読み返すと、少年の頃には感じ取れなかった細やかな機微をより堪能できるようになっていて、改めて名作中の名作だなと思わされます。 冒頭のセリフが出たシーンである、飛影VS魔界整体師時雨のバトルも僅か1話にも満たない尺でありながらそんな味わい深さを様々に兼ね揃えた非常に優れたバトルのひとつです。飛影に邪眼を授けた医師であり、剣術を施した師でもあるという奇妙な関係性。 時雨は、数百年もの間、雷禅・軀・黄泉の副官であった者たちより圧倒的に強い妖狐蔵馬をして、魔界統一トーナメントで闘った際には「勝てたのが不思議」と言わしめたほどの強さも見せています。飛影と闘った瞬間には軀の77人の戦士の中でも最下位だったということで、飛影と並んで伸び代が大きかったということでしょう。患者の人生の一部を報酬として貰い、飛影には「妹を見付けても兄と名乗らない」という条件を取り付けて兄妹の運命を狂わせる悪趣味さこそ見せ付けましたが、作中でも格を保ったキャラのひとりと言えます。 隣火円礫刀という特徴的な武器を使うところも外連味たっぷりで魅力的です。そして、それに対して飛影がわざと炎殺剣を用いずにかつて時雨から施された剣術の純粋な腕での勝負による勝ちにこだわる、そして相討ちという結果に「悪くない」という感慨を抱くという、それまでの飛影というキャラクターからは考えにくかった人間味ある変化を見せてくれたという意味でも意義深い闘いでした。もちろん、剣豪同士の静と動が研ぎ澄まされた戦闘描写それ自体も秀逸です。 さて、そんな『幽白』におけるベストバウトは一体どれでしょう。 当時の読者による人気投票では蔵馬VS鴉、飛影VS武威、幽助VS飛影がベスト3に挙げられていました(鴉のせいで私はトリートメントを使うようになりました)。 他に王道で行くならば幽助VS戸愚呂弟は筆頭に挙がるでしょう。絶望的な強さで圧倒してくる戸愚呂に、守りたいものを抱えた主人公が受け継いだ力で挑む熱さは王道中の王道。 戸愚呂弟VS玄海の因縁対決も良さみが深いです。玄海VS死々若丸で老獪な技巧を見せ付けながら若返るシーンも無論大好きです。 幽助VS酎や幽助VS陣の気持ちいいケンカバカ対決も好きです。ナイフエッジデスマッチという言葉の語感、良いですよね。 桑原が絡むバトルも、大体単純な強さで圧倒することはできないが故に泥臭い工夫が必要になって面白いものが多いです。 あるいは、単純な強さだけではない頭脳戦という軸を見せてくれた闘いとして蔵馬VS海藤や海藤・蔵馬VS天沼も名バトルです。答えはBのトーチタス。 そんな感じで『幽白』だけでも丸一日考えても結論は出せませんでした。 皆さんはどのバトルが好きでしょうか。 今週末はそんなお話をして盛り上がりたいです。
兎来栄寿
兎来栄寿
2021/02/07
パワフルギャグのマッスルドッキングや〜!
女性向けギャグマンガとしては異例の長期連載だった『ストレンジ・プラス』等で人気を博すベテラン漫画家、ミカベルこと美川べるのさんと、「力こそパワー!」と言いたくなる『オタクだよ!いかゴリラの元気が出るマンガ』の新進気鋭のいかゴリラさん。 この二人を掛け合わせた上で、飯マンガを描かせようとした企画の勝利です。 最初のお子様ランチ画力対決からして「角材にしか見えないポテト」vs「90年代にペイントで描いたクオリティ」でフルスロットルで飛ばし尽くすところは、お二方の作品を好きな人には馴染み深いテンション。 あまりにも壮大にかまされるボケも、切れ味鋭いツッコミのセリフひとつひとつも、思わず声を出してしまう面白さで人前で読むのはお薦めできません(不覚にも電車の中で読んでしまい、マスクが当たり前の社会で少し助かりました)。 お二方の暴走特急のような魅力が足し算、否、掛け算されている様はまさにキン肉バスターとキン肉ドライバーのドッキング。 そして、植田まさしさん(が描いたあるモノ)や、『水曜日のトリップランチ』のたじまことさんによる美味しい料理の描き方指導など、スペシャルなゲストによりこの空間は更に混迷を極めます。 こんなにお腹が空かない飯マンガは初めてです。むしろ笑いすぎてお腹が痛くなること請け合い。2020年でも屈指の、頭を空っぽにして笑える一冊です。
兎来栄寿
兎来栄寿
2021/02/07
「幸っちゃんさん」と呼ばれる幸子の幸せ
2019年の暮れに出た『儚いくん』に続く、柳内大樹さんの「SUBARASHIKI KANA JINSEI」シリーズ2冊目。1冊で完結する短編で、シリーズ物ですがこの作品単体でしっかり楽しめます。 『ギャングキング』や『セブン☆スター』でヤンキーマンガのイメージが強いであろう筆者ですが、このシリーズを読むとその引き出しの豊かさに感銘を受けずにはいられません。 本作は、4人の女子大生とミスターキャンパスに選ばれたものの実は少しオネエの気がある男性を中心にした群像劇です。 ヒロインの幸子は豪放磊落な性格で、喉仏が動く男がタイプであり日々イイオトコとの出逢いに飢えている女性。 「人間なんてしょせん自分のことを好きになってくれるやつが好きなんだよ!」というモノローグを仁王フェイスでかます彼女はデンジくんに通ずるものがあります。 巨乳でクールビューティだけど処女のマリコ。 ちずるはドMで天然の不思議ちゃん。 カズ美は一番真面目だが一番4人の中でエロくてS。 優しくて真面目で顔も良く薙刀は全国ベスト4の腕前だけどオネエの蜂須賀。 そんな個性的なキャラたちによるそれぞれの恋愛模様が描かれますが、大人だからこそのビターさもあり味わい深いです。幸子の顔芸を始めとしてふんだんにギャグも交えながらも、シリアスなシーンはしっかりとしっとりとキメてきて人生を生きる上での含蓄に富んだセリフも沢山登場します。 恋愛も人生も必ずしも上手くいくことばかりではないですが、そんな時には寄り添い支え合う4人の友情がまた美しいです。幸子の人生がこの後どうなろうと、こんな素晴らしい友人ができたことは一生の幸せだろうと思います。 幸子の母&祖母や、「とっととどっかのカラオケでも行ってでっかいパンにアイスでものっけて女子会でもするよし!」「帰りましてよ!パンピーども!どきよし!」とのたまうお嬢様など、サブキャラも強烈で楽しいです。 酸いも甘いも溢れる人生はそれ自体の素晴らしさを力強く謳う一冊です。今後もこのシリーズを続けていきたいそうなので、『セブン☆スターJT』ともども楽しみにしたいです。
兎来栄寿
兎来栄寿
2021/02/05
こんな風にDVの「後」を描くとは流石です。
時計さんの作品を読む度に、「絵も綺麗でお話も面白くて素晴らしいなあ……!」と満足感に浸れるのですが、本作も例外ではありません。 2016年〜2020年の間に発行した同人作品を3作品収録した短編集で、時計さんとしては6冊目の単行本となっています。 表題作の「僕は先日死にました。」は設定的にはよくある感じではありますが、中心人物となる占い師ちゃんの振れ幅が魅力的です。とても人間味があり、その感情を丁寧に掬い 「お父さん、私アイドルだったんだよ。」は自宅での介護士経験のある身としては非常に刺さるところの多いお話です。最近観たとある人気海外ドラマでも似た展開がありましたが、時計さんの方が4年早いな!と。 「元DV夫と私のその後」は、個人的にこの本の中でも特に好きな一篇です。『AV女優とAV男優が同居する話。』に収録された「一日一回、あなたを好きだと言わせて。」と繋がる物語。DV加害者である男がそれを悔いてカウンセリングに赴くところ、そしてまたDVを受けた女性の精神的な再起を丁寧に描いています。普通の物語においてはさまざまな事情によりクローズアップされない部分、しかし現実的には非常に大事なところを解像度高く描いた意欲作です。 幕間に各作品の解説も書かれていますが、非常に思考を巡らせた上で物語が構築されていることがうかがえて、この面白さにも納得です。こうしたことを明瞭に言語化できる、あまつさえ面白いマンガとして仕上げることができるのは本当に素晴らしいなと。私は時計さんの作家性に惚れ込んでいるので今後も作家買いを続けさせていただきます。 1冊で充実の読書体験ができるので、お薦めです(可能であれば先に『AV女優とAV男優が同居する話。』も読んでおくとより楽しめます)。 なお、表紙の菊の花は時計さんの御母堂が描かれたということで、美しいものを描く血筋を感じました。