井の中の蛙
僕の通っていた、田舎の学校は学級新聞というもの自体がなく、そこに生徒が漫画を投稿できるという懐の深さもなかったのですが、絵の上手い子はジャポニカの自由帳(表紙が虫とかのやつ)で漫画を描いていたな。 漫画描かせたら1番の子がいきなり、自分より上手な人が現れて負けじと頑張るが・・・という話で、大人の社会にもある話。 自分よりも優秀な人が現れて、切磋琢磨するか?諦めるか? あなたはどちらですか?
学生新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。クラスメートからは絶賛を受けていたが、ある日、不登校の同級生・京本の4コマを載せたいと先生から告げられるが…!?
最初の扉絵に143ページとあってあまりの長さにビビリつつ読んだらすごかった。なんで藤本タツキの書く少女ってこんなに純粋で愛しいんだろう……胸が苦しい。
超画力の京本とセンスとスピードの藤野。
藤野がクラスメイトに言った「5分で描いた」はフカシではなく本当で、よそんちの廊下でサラッと一瞬で4コマを書き上げる。が、うっかりそれが京本の部屋に滑り込んでしまう。
尊敬する先生の見たことない描き下ろしが突然部屋に現れたときの京本の気持ちを考えるとたまらなくなる。
そしてあの事件のあと、今度は藤野の元に京本が描いた藤野の作風をリスペクトした4コマ「背中を見て」が届く……。
京本の背中には小学生のときに描いた藤野のサインがあり、藤野の背中は、ずっと京本が見ている。
……。
……。
話の大筋は「田舎の小学生2人がお互いの才能を見出し漫画家を目指す」というまんが道スタイルでありながら、キャラの造形・演出・話の展開は完全に藤本タツキ味に仕上がっているものすごい作品。
2021年一番心に残った読切でした。
【追記】
京本が家にいるときに鍵を掛けてなくて、藤野が鍵開いてるな〜中に人いるんじゃんって玄関まで入っちゃうとこ田舎あるあるで笑った。自分が子供の頃(20年くらい前)はこんな感じだったけど今もそうなんだろうか。
あのコンビニはあるにはあるけど雪深いところとか、窓から山が見えるところとか……自分の地元と重なる部分が多くて、だからこそ2人が出会えたことの得難さを噛み締めてしまう。
たとえどれだけ辛い別れになったとしても、2人が唯一無二の関係としてともに時間を過ごすことが出来て本当に良かったなと思う。