この度、NHKEテレの「B面ベイビー!」という番組でフリーアナウンサーの宇垣美里さんが大好きなCLAMP作品の特集するということで、僭越ながら番組監修及び出演を務めました。12日の深夜に再放送もあるので、未見の方は良かったら観てみてください。
一応、商業で単行本が刊行されたCLAMP作品は一通り読破してはいるものの、他の出演者の中にはリアルタイムで『聖伝』を読みFAXでのファンサービスも追いかけていらっしゃった方もおり、私のような後追いのニワカが監修で申し訳ないなという思いもありましたが、できるうる限りのことはやらせてもらいました。
『破軍星戦記』を読みに国会図書館まで行こうとするもコロナにより抽選制になっていて入れなかったなどの苦労もありつつ。
ともあれ、この機会にCLAMP作品に改めて深く触れることで、昔読んだ時よりもその魅力を強く感じ取ることができて大変貴重な機会でした。番組中では尺等の関係で触れられなかったことについて、折角なので綴っておこうと思います。
CLAMPの大きな功績といえば、女性向け作品に少年マンガ要素を取り込み少女マンガとの橋渡しをしたということを挙げられるでしょう。
デビュー作『聖伝』がまず車田正美作品やサムライトルーパーなどの影響を色濃く受けており(同人も描いておられました)、大ゴマで技名を叫びながら必殺技を繰り出す夜叉王の姿は男性読者が読んでも燃えたぎるものでした。そして『聖伝』の中には平然と男性同士・女性同士の大変に込み入った想いがあることも指摘しておくべきでしょう。デビュー作から本当に濃いのがCLAMPです。
また『魔法騎士レイアース』では魔法少女物に巨大ロボットを掛け合わせるという離れ技を見事にキメてのけました。スパロボに参戦している『なかよし』作品なんて、令和の今でも『レイアース』くらいです。読者の心に爪痕を残す一部のラストも含めて、あまりに異色でした。その後、少年誌や青年誌でも大活躍するようになるという特異なキャリアは非常に象徴的です。
しかし、一方でCLAMP作品はそうした飛び道具的
要素を抜きにしても純粋に少女マンガとして見た時に実に優れた作品があり、『20面相におねがい!!』はまさにそのエッセンスが詰まった好例と言えます。
『20面相におねがい!!』は、CLAMP商業デビューの年である1989年から『ニュータイプ』別冊の「コミックGENKi』で連載が開始した、キャリア最初期の作品です。その後に描かれる1991年開始の『学園特警デュカリオン』、1992年開始の『CLAMP学園探偵団』、と合わせて「CLAMP学園三部作」とも呼ばれるシリーズの最初の作品であり、『X』にも登場する「CLAMP学園」が初めて商業で描かれた作品です。
単行本は全2巻、愛蔵版は全1巻ですが、どちらの版でも目次の前の冒頭部分に一枚絵+文章によるプロローグが存在します。その文章は
「男の価値は、自分の好きな人を、
どれ位素敵な『幸せな花嫁』に出来るかで決まる。
いつか読んだ本に、そう書いてあった。
良く意味は分からなかったけれど。」
という、主人公のCLAMP学園初等部3年生で9歳の伊集院玲(あきら)の述懐。そして、
「うちにはお母さんが『二人』いる。
学校のお友達やご近所の皆さんは、『めずらしい』
と言うけれど、僕には良く分からない。
僕に分かるのは、
こんな『素敵』な『お母さん』が『二人』もいて、
僕は本当に『しあわせ』だ、という事だ。」
と続きます。
キャリア最初期の作品のこの設定からして、CLAMPの特質が如実に表れています。そう、玲の家にはよく似た「お母さん」が二人いるのです。普通に考えればどちらか一人は玲の本当の母親ではないですし、もしかしたら二人とも違う可能性もあります。ですが、そこについてはまったく明らかにされません。そして、玲はわがままで自堕落な二人の母のために率先して家事も怪盗業も行っています。
『めずらしい』、『普通じゃない』家庭。それが、特に理由もなく当然のものとして存在する。これこそがCLAMPの後の作品にも通底する価値観でもあります。それは、個々人によって環境も感情も好悪も千差万別であり、それらすべてを否定せずあるがままに認めるという世界観です。
それが顕著に出ているのは『東京BABYLON』の破天荒に見えて実は繊細な姉キャラである皇北都(すめらぎほくと)でしょう。
「『誰かと同じ』苦しみなんか、あるわけないじゃない!
それぞれ違う悩みや苦しみを抱えているのよ
ひとつだって同じじゃないわ」
「貴方の人生は貴方のものよ
他人が『かわいそう』だとか
『しあわせ』だとか計れるものじゃないわ」
といったセリフを、東南アジアから日本にやってきて水商売をしながら死にたくなる想いで過ごしている若い女性に言い放ち、彼女から失われていた笑顔を引き出します。
また、国民的な人気を誇る『カードキャプターさくら』でも、そうした個々の尊重がまったくの自然体で行われています。主人公・木之本さくらに対して、大道寺知世が抱く特別な感情。あるいは、さくらの想い人である雪兎さん。
誰もが、誰を好きなってもそれが否定されない世界。他者と違うということで咎められることがない世界。幼い頃に大切な人と別れてしまうなど、人が人生で出逢う悲しみもそこには同居しつつも、その上でどこまでも優しい世界。それこそが、CLAMP作品の大きな魅力です。
『20面相におねがい!!』は、6歳の詠心と9歳の玲のカップルを中心に描かれますが、その関係性も僅かな痛みを孕みながらもどこまでも優しいです。
ただ、6歳といえどその恋愛観は大人顔負け。大人になってから読み返して、ああこの作品は凄いな、と思わされました。
百聞は一見に如かず。詠心さんの無双とも言える名言の数々を以下でご覧ください。
「大人と子供の差なんて
『老成したバカ』か『未熟なバカ』だけじゃないっ」
「ずっと一緒にいたいなんてわがままは言わないわ
お互いがいれば幸せなんてそんなの阿呆よ
私は貴方のために貴方の知らない事をいっぱい知って
貴方のいない所でもっと勉強して
今日よりももっといい女になるわ」
「よく『私は騙されていた』だの『あの人が裏切った』だの言う大人がいるけど
はっきり言ってあんぽんたんね
そんな言葉でせっかく『好き』だった『感情(こころ)』をけがすなんてばかよ
裏切られようが捨てられようが『恋愛』は共同責任よ
うまくいくのも失敗するのも二人の責任だわ」
「非生産的怒りにまかせて待っていても時間の無駄ね」
「『好き』だからと言って、何をしてもいい訳じゃないわよね」
「たとえ幸運にも『両想い』になれたとしても、
やっぱり『他人』だもの。
おんなじくらいに『好き』にはなれないわ」
「私、思うの。
『恋愛』って、『あなたと私は、他人です』って
認識する所から始まるんじゃないかなって」
「女の持ち物の価値は値段じゃないのよ
誰にどんな風にどんな気持ちで貰ったか
それで愛蔵品の席順が決まるんですもの」
いかがでしょう。これらすべて6歳児のセリフです。彼女の老成していると言ってもいいほど、大人びた価値観により行われる恋模様が、この作品を恋愛マンガとして少女マンガとして非常に質の高いものにしています。
また、彼女の姉・誠心(まこ)もまた幼くして透徹した境地に至っており、姉妹の会話も味わい深いにも程があります。
「素敵ですわね
相手のことを良く分かりもしないくせに『信じてる』だの
『わたしたちの愛は永遠へっ』などとほざく方々には
その『どきどき』は一生わからないんですもの
堪能しなくてはバチが当たりますわ」
「『恋愛』において女の子がしちゃいけない事はひとつだけ」
「なんなの?」
「男の方に『はじ』をかかせてはいけません」
「はじ?」
「どんなにわがままをおっしゃってもどんなに理不尽な事をなさっても
全然気になさる必要はありませんわ
だって『女の子』ですもの
『女の子』は『女の子』であるだけで『凄い』んですもの
傍若無人に行動できる権利と義務がありますわ
そのかわり『女の子』を『泣かせる』ような方は
『男』ではありませんからどんどん『はじ』をかかせてさしあげなさい」
「詠心さんは人を好きになった時絶対わすれちゃいけないことってなんだと思いますか?」
「『自分よりも相手を大切にすること』」
「違います まず何よりも自分のことが大好きでなくちゃ」
「誰だって自分の嫌いなものを好きな人にあげたりはしません
だから自分でも嫌いな『自分』を『好きになってほしい』
というのは無理な相談ですよ」
これらは主に前半からの抜粋ですが、後半も名言のオンパレードです。二人が結ばれたその後にも生まれる名言・名シーンはぜひ実際に読んで体感してみてください。
また姉妹だけでなく、あるキャラが人生の指針になるような言葉もたくさん投げかけてくれます。コメディ部分の笑いも含め、読むと心が軽やかで前向きになれます。
言葉に出して想いを伝える。そのシンプルで難しいことを大切にしていきたいと、再読して強く思いました。
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