少女と博士の食卓風土記
母・美哉を亡くした久留里と、彼女を預かる美哉の甥・温巳。彼はかつて美哉に「捨てられた」過去があった……美哉の共通の思い出を「食」に見出しながら、毎日の弁当と食卓を積み重ねて家族になろうとする、二人の日々の営みの物語。 ----- 研究者として職を探す高杉温巳。彼の専攻は「地理学」である。 近代地理学の祖・フンボルトを引き合いに出しつつ温巳は、久留里と美哉を「全部見る」事で、二人ときちんと向き合おうとする。 それはかつて、家族として家事をしてくれていた美哉に甘え、酷い態度を取ってしまった後悔からだった。温巳の頑張りは空回りするが、久留里は彼を信頼し、二人は少しずつ、家族になっていく。 そんな日々を描く本作は、登場人物の姿勢を超えて、作品そのものが、フンボルト的「全部見る」方法論で描かれている。 この作品では ●久留里と美哉と温巳の家族物語 ●久留里の学校、友人、恋愛事情 ●温巳の属するアカデミズム界隈 ●中部地方の地理学的案内 ●高杉家の食卓→弁当のレシピ と、盛り沢山の内容を、有機的に関連させつつ纏めており、一話の内容はかなり濃い。 ほんの六年間でも、毎日の事象を結び付けつつ積み上げる事で、温巳と久留里の絆は、次第に確かなものとして描き出され、読む側は思い入れを増してゆく。 (美少女とひとつ屋根の下的な)ファンタジーなあらすじからは想像のつかない、細やかさと温もりのある「記述」の積み重ねに、強くこころを動かされる、そんな作品。 地理好き、中部地方好き、昆虫食好き、弁当や日常の食卓にアイデアが欲しい等、様々な興味からこの作品に触れて欲しい。
かなり特殊な境遇の年の差の男女が
主にお弁当を通じて互いの気持ちを確認し成長し、
家族が出来ていく物語。
高杉温巳・31歳。地理学の研究者で独身。
突然の叔母の死で、姪っ子の保護者になり共同生活をする事に。
それまで存在すらはっきり知らなかった姪っ子、
高杉久留里・12歳。中学生の美少女。
学者バカ気味な温巳と、
無口で趣味が食品スーパーの特売品ゲット、の久留里。
どちらもややコミュ症気味。
「家族なんて無理かも」と思い悩む温巳に、
久留里が初めて作って持たせてくれた弁当は・・
この漫画の面白い点の一つに、
温巳のいかにも研究者なキャラがある。
お弁当漫画だが、料理研究者ではない。
地理学の研究者。
なので久留里の気持ちに配慮しようとしたり、
お弁当のレシピを考えたりする、
その思考方法がいかにも研究者的。
だが料理ではなく地理学の研究者なので、
さらに女心にはそうとうに鈍感なので、
なんだか分析や結論が正しいような間違っているような(笑)。
ときに論理的過ぎて感情が欠けていると感じそうなその思考が、
実は純粋な家族愛から生まれているのも、なんとも独特。
そしてその家族愛もお弁当作りの日々を経て、
少しづつだが色々な成長や変化が生じてくる。
久留里は久留里で、セールとか特売とかへの執着心は
ケチといわざるをえないレベルではある。
だが、それは自分への厳しさであり、それが
自分を抑える性格にならざるを得ない育ちに由来することが
徐々にわかってくる。
そして二人は少しづつ互いを理解し、家族になっていく。
家族が出来たからお弁当を作ったような、
お弁当を作ったから家族が出来たような、
ハートフルなお弁当漫画。