釘師VSパチプロの戦いに終わりはない
『となりのトトロ』を見た小学生が「懐かしい日本の風景」とか言っているのは流石にどうかと思うわけですよ。お前生まれてないだろうと。いや、ちょっと待て。僕にもその手のがありました。『めぞん一刻』や『新巨人の星』に描かれる70~80年代(ざっくりしすぎ)の東京の町並みに、なぜか強い憧憬を感じるのです。謎は深まるばかりです。それにしても、週刊連載の漫画は、時代が反映されているので、読み返すと新たな発見があります。 『釘師サブやん』は釘師という職業に焦点をあてた漫画です。舞台は1970年代の前半の東京。パチンコ屋に勤める茜三郎、通称サブやんが主人公です(この頃のパチンコはバネで一球一球弾くもので、椅子もなありません)。サオ師は知っていても釘師はわからないという諸兄に説明すると、釘師はパチンコ台の釘を閉めたり開けたり調整するのが仕事です。なんだそんなものかと思うかもしれませんが、釘師の腕次第で客の満足度もホールの収益性も変わってくるのですよ!パチンコ店を支配する釘師にも天敵がいます。それがパチプロ(現在と大分意味合いが違うます)。この頃のパチプロは「打てば必ず勝てる必勝法」をもっているので、黙って打たせていては店に被害が出るばかり。とはいえ、普通に打っている分には追い出すわけにもいかない…。そこで技を使わせないように釘を調整するのが釘師の仕事。釘師VSパチプロの戦いに終わりはないのです。 日本一の釘師を目指し、日々精進を重ねるサブやんの店に、ある日、美球一心と名乗るパチプロ(ネーミングが最高だ)がやってきます。彼はたった玉一個(2円分)だけで、サブやん自慢の台を打ち破ってしまうのです。一心が使う「秘打・正村」や「忍球玉バサミ」という、物理法則を超越した技に打ちのめされてしまったサブやんはさらなる研究を続けます…。 『釘師サブやん』に登場するパチプロたちは、北海の無法虎(必殺技:暗闇二段打ち)、機関銃のマサ(必殺技:機関銃釘殺し)など、格好いい二つ名と理屈不明な必殺技をひっさげ、次々にサブやんに挑戦しては消えて行きます。 彼らはみな、パチンコのみを仕事にし、日本中を旅するゴロ。相手をするサブやんも、自分の腕を破壊しながらもだれも攻略できない釘を打つ釘師。この勝負に意味はあるのか?なんてそれこそ無粋な問はありません。 ただただ、闇雲に没頭し、無意味と思われることに挑戦し続ける…。70年代の風景のなか、軍艦マーチといっしょにパチンコホールに雪崩れ込む人々の絵をみると、前向きでいられた時代の空気がすこしわかるような気がするのです。
連発式ではなく玉を一発ずつ打ちだすパチンコ台や、ホールに椅子がなく立って遊戯するなど、今とはパチンコ店を取り巻く状況がまるで違う時代のお話。なので釘師である主人公と対決するパチプロやゴト師の技も、今では考えられない必殺技のオンパレード。フックがついた針金や磁石を使うなんて、前近代的なアングラ臭を漂わせてくれるじゃないですか。もちろん、こんな邪道な技だけでなく、まっとうな技を駆使するパチプロもいて、これがまずは主人公・サブやんのライバルになるわけです。それとの対決を経てサブやんが日本一の釘師になるかと思えばそうではなく、悪のゴト集団に狙われ落ちぶれ、右手を負傷。その使えない右手をなんとかしてパチプロと対決するも、禁断の技を使ったため釘師の大物に破門を言い渡され、寺で修行。そして裏社会にスカウトされ…、とまあ暗くはならないもののいかがわしさ満載で、お腹いっぱいになること間違いなし。私たちが今、気軽にパチンコを楽しめるようになるまでには、こんなウラの歴史もあったのか?と、民明書房(by男塾)ばりに思わせてくれますよ。