幼い少年のフラットな目を通して描かれた激動の時代
中東といえばマルジャン・サトラピの「ペルセポリス」プラスαの知識しかなく、むずかしい話なのかなと思って読み始めましたが、まったく杞憂でした! シリア人の父とフランス人の母をもつ、においに敏感な男の子のフランス、リビア、シリアでの生活ーー 激動の時代を背景にしながらも、まだ幼いリアド少年のフラットな目を通して描かれているため、ときにギョッとするような出来事も、ある種の面白みすら感じさせる。 彼がどのように成長していくのか…2巻がとても気になります!
フランス人の母、シリア人の父を持つ「未来のアラブ人」リアド・サトゥフの自伝的エッセイマンガ。原著は現在4作まで出ていて、1作目は6歳になるまでの子ども時代を描いています。
彼はパリで生まれたフランス人ですが、幼少期は父親の仕事(と思想)の都合でカダフィ独裁政権下のリビア、父の故郷シリア、そして時々フランスで暮らすことになります。
2つのアイデンティティ、3つの国と文化、さまざまな政治や宗教をまたいで幼少期の人格が形成されていくようすを克明に捉えた…
みたいに書くとなにやら難しそうですが、幼いリアドの感性が色々な文化に触れて、心を動かされたものを素直に映し出していくようすは純粋な面白さがあるし、とっても楽しいです。
発展途上国や独裁政権のキツイ側面、多文化理解や国際政治の困難もしっかり描いてあるのですが、絵がカワイくてオシャレなのでスルスル読めてしまう。
サトゥフは風刺マンガのシャルリで働いていたこともあり「色々難しいことはあるけど、ま、笑っちゃおう」という姿勢はなかなか小気味よいです。
これもマンガの力ですね。
昨今、地球上のあらゆるものごとが複雑になっちゃった気がするけど、リアドの目を通してみると、意外と些細なことやなんでもないことで出来上がっている。
世界って思ってるより単純で気楽なものかもしれないな、という気持ちになれる快作です。