恐ろしく強気かつ能天気なタイトルに似合わぬ「THEセカイ系」。一風変わった雰囲気をもった作品ですが、漫画を担当しているのが原作イラストレーターの方なので"世界"の再現度は折り紙付きではないでしょうか。(「ラブコメ」って「セカイ系」の一側面でもあると思うので、ある意味内容と合ったタイトルではありますね)

コミックス1巻まで読んでも序盤も序盤、導入部ですしあまり内容については言及できませんが、作画担当の肋兵器先生に関して、個人的に2011年の魔法少女まどか☆マギカの頃から注目していて、Pixivのイラストや公式アンソロジーでひと際尊くて印象的でした。この「もんラブ」が氏にとって"代表作"なのは間違いなさそうですが"出世作"となるか、期待は大きいです。

読みたい
MA・MA・Match

映画『怪物』みたいな構成の話だった

MA・MA・Match
mampuku
mampuku

いい意味で誤解や異説の飛び交いそうな、多層構造のストーリーだったように思う。 主人公の一人である芦原(母)は、生意気な息子とモラハラ夫を見返すべく、息子の得意なサッカーで勝負を挑む。 前半は、ママさんたちが友情や努力によって青春を取り戻しながら、悪役(息子と夫)に挑むという物語で、この悪役というのがちょっとやり過ぎなくらいのヘイトタンクっぷりなのだ。その場限りのヘイトを買うキャラクターは、ヒーロー役の株を上げるための装置として少女漫画では常套手段だ。だが『マ・マ・マッチ』はそういう物語ではないため、話はここで終わらない。 後半は時を遡り、息子と夫の目線で描かれ直す。母目線ではイヤ〜な輩にしか映らなかった彼らにも彼らの言い分や考えがあったのだと明かされる。 真っ先に私が思い出したのが、是枝監督の映画『怪物』の主人公の一人、安藤サクラさん演じるシングルマザーの早織である。 息子が教師に暴力を振るわれたことに抗議するため学校に乗り込むも学校側からぞんざいな対応をされ不信感を募らせる早織。その後教師や子供など、さまざまな視点が映し出されることでやがて全体観が像を結ぶ。 『マ・マ・マッチ』でも、後半部分を読んだあとに最初から読み返すと些か感想が変わる。息子や夫がイヤな奴らとして描かれているのは確かだが、先入観によって印象が悪化していたのも事実だ。なにより、序盤に出てくる夫のコマは母を嘲弄するような不快なものだったが、そもそもこれは芦原母の回想であり主観だ。その後実際に登場する夫は彼女と衝突こそすれ至って真面目だ。 つまり、それぞれの立場から不満を抱いたり譲れない部分でぶつかり合いながら、逐一仲直りしたり折り合いをつけているのだ、という話に畢竟見えなくもない。悪者退治という少女漫画にありがちなフォーマットで導入を描いて入り込みやすくしておいて、後半の考えさせる話でモヤモヤさせる。末次由紀先生、さすがの巨匠っぷりを見せつけた怪作だ。

テセウスの船

どちらかというと『テセウスの船』というより『動的平衡』じゃない?

テセウスの船
mampuku
mampuku

時間遡行をして人生をやり直したとしたら、それは本当に同一の自分といえるのか?という問いを有名なパラドックス「テセウスの船」になぞらえたタイトルだ。 ストーリーに関しては論理的整合性や感情的整合性においてやや粗い部分も感じられたもののサスペンスとして緊張感もあり、ラストは新海誠監督『君の名は。』のような美しい締め方だったし概ね面白かった。 ただ、タイトル『テセウスの船』がイマイチストーリーにハマっていない感じがした。 どちらかといえば「動的平衡」のほうが比喩としてしっくりくるのではないだろうか。 「動的平衡」とはシェーンハイマーの提唱した概念であり、日本では福岡伸一氏による著書『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』で有名になった言葉である。“生命”とは、取り込まれ代謝されていく物質、生まれ変わり続ける細胞どうしの相互作用によって現れる“現象”である、という考え方だ。 主人公の田村心は生まれる前の過去に遡り、そこで巻き起こる惨劇を阻止することで、その惨劇により自身に降りかかった不幸な運命を変えようと奮闘する。作品では、過去を改変して自らの人生を曲げようとする一連の試みをテセウスの船にたとえているが、やはりピンとこない。作中、田村心は殺人事件を未然に防ぐため凶器となった薬物を隠したり被害者に避難を呼びかけたりするが、その影響で心の知る未来とは異なる人物が命を落としたり、結果的に大量殺人を防げなかったばかりか予想だにしなかった事態を招くことになる。 この予測不可能性こそがまさに動的平衡そのものって感じなのだ。生命体は、船の部品のように壊れた部分を取り替えれば前と変わらず機能する、ということにはならない。ある重要なホルモンの分泌に作用する細胞を、遺伝子操作によってあらかじめ削除してしまったとしても、ほかの細胞がそのポジションを埋めることがある。これは心が殺人事件の阻止に何度も失敗したことに似ている。思わぬ不運や予想しない死者が出てしまったのも、脚のツボを押すと胃腸の働きが改善するなどの神経細胞の複雑さに似ている。 船は組み立てて積み上げれば完成するが、生命は時間という大きな流れの中で分子同士が複雑に相互作用しあうことで初めて現象する。『テセウスの船』での田村心の試みは人生あるいは歴史という動的平衡に翻弄されながらも抗う物語だったのかもしれない。

本棚に追加
本棚から外す
読みたい
積読
読んでる
読んだ
フォローする
メモを登録
メモ(非公開)
保存する
お気に入り度を登録
また読みたい
宮本サクラが可愛いだけの小説の漫画。

宮本サクラが可愛いだけの小説の漫画。

とにかく可愛い宮本サクラは、幼なじみで神様の(?)大神ヒカルが好き。ヒカルの家には神の眷属と名乗る美少女三姉妹が押しかけ同棲中で、ヒカルにあんなことやこんなことでサービスしまくり。宮本サクラのラグナロクな恋の行く末は!? MF文庫Jより刊行中の大人気ライトノベルがついにコミカライズ! 原作者・鈴木大輔書きおろし小説と、キャラクター原案・rurudo描きおろしイラストも収録!!

貴方がわたしを好きになる自信はありませんが、わたしが貴方を好きになる自信はあります

貴方がわたしを好きになる自信はありませんが、わたしが貴方を好きになる自信はあります

年の差? 種族の違い? 愛さえあれば関係ない! もし仮に、世の中の人間をふたつの種類に分けるとしたら。あなたなら何と何に分けますか? ――「吸血鬼とそれ以外、だな」 ――「いいえ。運命の人に出会えるか出会えないか、です」 神谷誠一郎、二十八歳。職業は猟犬(ハンター)――吸血鬼を狩る者。ある夜、彼のもとにひとりの少女がやってきた。綾瀬真、十四歳。世界で唯ひとりの『生まれつきの吸血鬼(ナチュラルボーン)』。とある恩人の縁を頼ってきた彼女を誠一郎は受け入れ、ふたりは同居生活を始めるのだが――いつしか彼らは、吸血鬼の謎をめぐる思わぬ事件に巻き込まれていく。年の差十四歳、狩る者と狩られる者の危険な恋物語、開幕!

お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ

お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ

この物語は『とある事情で離れ離れになっていた兄妹が、再び一つ屋根の下で平穏な日々を送るようになった様子を、ごく淡々と綴っていく物語』である――。「さあお兄ちゃん、さっそく記念すべき初夜を過ごすとしましょう!」――すいません嘘です。お兄ちゃん好き好き妹の愛にあふれる日常を描く超ブラコンラブコメ第1巻!

魁!! お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ

魁!! お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ

「お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ」スピンオフ作品!お兄ちゃん大好き妹・秋子が通う聖リリアナ学園――。彼女が在籍する生徒会とは、名だたる名門校の自治の拠点であり、より優れた生徒たちだけで構成された、いわば学園の心臓部である。この物語は、そんな生徒会が学園の運営に貢献すべく日々努力する姿を……すみません。本当は学園コメディです!

陽だまりのニーノ

陽だまりのニーノ

拝啓、天国の姉さん。引きとった猫が幼女に見えます――。最愛の姉を亡くした基(もとい)。幼い頃に両親も亡くしていたため、姉が飼っていた子猫を引き取ることに。ある日、ふと猫のほうに目をやると、そこには猫耳に尻尾が生えた幼女の姿が――。一人ぼっちになってしまった不器用なサラリーマンとまるで猫な幼女の温かい日々を紡いだ心に染みわたる物語。

ゼロ年代フレーバー香る正統派セカイ系にコメントする
※ご自身のコメントに返信しようとしていますが、よろしいですか?最近、自作自演行為に関する報告が増えておりますため、訂正や補足コメントを除き、そのような行為はお控えいただくようお願いしております。
※コミュニティ運営およびシステム負荷の制限のため、1日の投稿数を制限しております。ご理解とご協力をお願いいたします。また、複数の環境からの制限以上の投稿も禁止しており、確認次第ブロック対応を行いますので、ご了承ください。