夏の思い出というタイトル
表題の短編、連続婦女暴行殺人犯の供述に翻弄される刑事の話。最低最悪の事件が、じわじわと夏の暑さに混ざり込んでなすり付けられていくような感覚です。 そういう話のタイトルに「夏の思い出」とつけるセンス。痺れます。
連続婦女暴行殺人犯の取調べを進めるうち、犯人の過剰なまでの自白に囚われ、現実と妄想境を見失い始める中年刑事を描いた迫真の表題作ほか傑作の短編集。「夏の思い出」「ヤングフォーク」「天国の扉」「静かな生活」「産業’93<夏スキー編>」「どれいちゃんとごしゅじんさまくん」「分校の人」を収録。
タイトルに関係なく山本直樹のマンガを読むと夏のことを思い出します。
墓参りのこと、終戦記念日のこと、飛行機が落ちた日のこと、甲子園のサイレンの音……。そう、山本直樹のマンガを読むと、真夏の炎天の途方に暮れる感じを思い出すのです。
思えば、彼の代表作にいっきにのし上がった『レッド』にしても、学生運動や内ゲバのむさ苦しい感じが坦々と描かれている。あさま山荘に至るクライマックスは冬ですが、それすらもいまから振り返ると、なにかこう、夏の途方もない雰囲気を帯びているように思われるのです。
夏といえば山本直樹。夏に読みたくなるマンガNo.1。