オタクとしての理想郷
自分が肛顔の豚少年だったころ「煌めくような少年時代はもう戻らない」なんていう、おっさんたちの戯言を聞くたびに「何いってんだコイツ」とか言っていましたが、今ならわかるッ……。彼らの言葉は血がにじむような真実だったこと、あの時間が本当に貴重だったことをッ! しかし、悔やんでも始まりはしません。32歳彼女なし安月給な事故物件が自分なのだから…。 『がらくたストリート』に描かれるのは、そんな輝かしい少年時代に中年男性の理想と妄想が添加された蠱惑的な作品でございます。主人公のリントはとにかく素直な少年です。興味を持ったことに対する行動力もあり、人に妬みをもつこともない、理想の少年です。そんな真っ白なリントの周りには特徴的なキャラクターがたくさんいます。あらゆる事柄に詳しいタイセー、孔子の言葉を必ず間違えて引用するたすく、リントの幼なじみで普通の女の子のナルミ、妙に地球に詳しいリントに懐いてしまった宇宙人の女の子、どこか諸星大二郎の「妖怪ハンター」に登場する稗田礼二郎にそっくりな民俗学者・稲羽信一郎…。 中でも異彩を放っているのがリントの兄(名前が見つけられなかった)。このリントの兄は第二の主人公といえるほどの目立っています。彼はアニメ、バイク、魚鳥木と、ありとあらゆることに詳しく、かつ自分で山に潜って魚を釣ったりもする行動派です。作中でもリントのお師匠ポジションであります。 このリントと、リントの兄を中心にした人びとの日常が描かれるのが『がらくたストリート』ですが、その魅力はなにかといわれるととても難しいのです。強いて挙げればバランスの良さということではないかと思います。リントの小さな冒険という主題がありながら、そこに山の神様がでてくるというファンタジーの要素があり、フナとヘラブナの違いや、ヤクザの“親”と“子”について延々と記述するマニアックな要素もあり、かつ健康的なお色気もあり…。ひとつだけでも物語ができてしまうような要素が贅沢に、かつ押し付けがましくなく盛り込まれていて、それがリントを中心とした世界にものすごい説得力をもたせているのです。 私は、物語世界がしっかりしている作品が好きで好きでたまりませんが、この『がらくたストリート』もその一つです。薀蓄と自然と少量の女の子が混じったこの世界こそが、オタクとしての理想郷だと私は強く感じております。
オーディオとかアニメ作画とか渡世人とか妖怪ハンターとかいろんなウンチクも楽しいし女の子も可愛いのに、なぜマイナーなのか