さくらのはなみち

横綱になりたかった女性の熱血相撲物語

さくらのはなみち 希戸塚一示 西山田
兎来栄寿
兎来栄寿

初めて読んだ時は「また新しい、そして面白い相撲マンガが出てきたな!!」と思いました。そしてようやく単行本になってくれて嬉しかったです。 この作品、始まりが良いんですよね。主人公は相撲部屋の親方の娘として生まれ女子相撲でチャンピオンになった美女。しかし、所詮は女子の世界。どんなに望んでも、願っても、自分は女の体であるので国技館で闘うことは叶わないし、横綱にはなれない。その深い深い絶望感。しかし、彼女はそれならば自分は横綱を作り出してやる、と涙ながらに熱弁します。そのシーンにまず心打たれました。 誰しも一番なりたいものになれる訳ではなく、どこかで諦めた結果の今という部分を抱えていると思います。しかし、そうした道の先でも花は咲くのだと語ってくれる希望に満ちた物語でもあります。 そして、実際に意外な所から意外な男を見つけてきて横綱にするべく鍛え上げていくのですが、『マネーベースボール』的な科学的に捉え直した相撲論や成功も失敗も入り混じった成長過程がまた楽しいです。また、脇役も含めてキャラクターが魅力的に描かれており、相撲以外のシーンも面白く読めます。 相撲に興味がないにもオススメできるマンガです。

アノナツ―1959―

自分用感想覚え書き

アノナツ―1959― 福井あしび
はんぺん

第1球 晴天の霹靂 ・雷でタイムスリップがいい 落雷では1.21ジゴワットの電力が得られる(BTTF並感) ・おじいちゃんの前作主人公感すこ ・主人公が「21世紀のアスリート」なのがいい 「試合後に腕をアイシングしながら、スマホでフォームをチェック」という、スポーツ科学とテクノロジーを使い倒し、アスリートととして、受け入れられないことはハッキリと断るのは今っぽい ・高校野球文化を描くのがうまい 県大会決勝の朝。祖父世代の後援会長、商店街の人々、少年野球チームの子どもたちが万歳三唱で主人公を送り出す…。 主人公を老若男女が応援している姿で、「高校野球」という日本文化をこれ以上なくわかりやすく描いている。 ・タイトルが覚えやすい やたら長い文章タイトルや、「○○と誰々」のようなタイトルが氾濫するいま、4文字で覚えやすく、かつ掛詞になっていてヒネリも利いているタイトルは高感度高い ・主人公の名前めっちゃ推してくる 祖父・正也とバッテリーを組んでいた友呂岐さんが、主人公のことを何度もフルネームで呼ぶのが上手いな〜と思う。 基本的に、登場人物の名前は覚えないで漫画を読む自分でも、こう連呼されたら覚えざるを得ない。

ALL OUT!!

ラグビーマンガ界を牽引する本格ラグビーマンガの雄

ALL OUT!! 雨瀬シオリ
兎来栄寿
兎来栄寿

『オールアウト!!』は、超王道スポ根。身長190cmの長身でラグビー経験者ながら気の弱い岩清水と、小さい体ながら持ち前の威勢の良さで未経験のラグビーに挑む祇園の二人を中心に、神奈川高校の面々が花園(野球でいう甲子園)を目指して闘っていく青春群像ラグビーマンガです。 ラグビーは一チーム十五人、敵味方合わせれば三十人。他のスポーツに比べると描かねばならないキャラクターが多く、ある意味マンガ化するのが大変な競技です。実際、登場する多くのキャラ全員を覚えるのは最初は困難に感じるかもしれません。 しかし、『オールアウト!!』の強みはそのキャラクター描写。読み進めるにつれて個性豊かなチームメイト一人一人のエピソードが丁寧に描かれ、自然と感情移入します。バカなヤツ、クールなヤツ、仲間思いなヤツ、食事シーンで真価を発揮するヤツ、重い事情を背負ってるヤツ……気付けば控えのメンバーも含めて自然と愛着が湧き、応援したくなります。敵となる相手校にも魅力的なキャラが沢山出てきて、今後の新キャラの活躍も楽しみです。 そんな中で私が最も惚れ込んでいるのは、キャプテンの赤山。チーム内でも最も剛健であり、外見も謎のメッシュで厳つい男ですが、その実とても情に厚く優しい頼れるキャプテン。誰よりも勝利に貪欲で、ストイックに上を目指し続ける姿勢にシビれます。厳しい練習に、 「もっムリ…」「死ぬ…」 と喘ぎ倒れ込みそうな部員への一喝。 「愚痴る力あるならっ 走れ! 今のっ 俺たちでも 出し切ることはできるっ」 と、気持ちを強く引っ張って行く姿は堪りません。そして、その「全てを出し切る」ということこそがタイトルでもある「オールアウト」。一度きりの人生。一秒も無駄にせず、今の自分を生かしてくれる周囲に感謝しつつ、オールアウトで行きたいものです。そんな熱量を『オールアウト!!』を読むと貰えます。 主人公たちを導いて行く大人もまた魅力的。熱い激闘の間に挟まれる、人生の年輪を感じさせる大人同士の呑みシーンの会話がとても良いメリハリを生んでいます。一人一人を叱咤激励し、チームをマネジメントしていく側の想いや葛藤、あるいは楽しさといったものも描かれ、こんな良い酒宴をしたいなと思わせてくれる稀有なスポーツマンガです。 キャラクターの良さに加えて、ラグビーという競技を知らなくても楽しめる丁寧な作りもポイント。細かいルールも、ラグビーを知らない主人公祇園と同じ目線で学びながら読み進めて行くことができます。『オールアウト!!』を読んでおけば、ラグビー観戦がより楽しくなること間違い無し! 2019年には、日本で9回目のラグビーワールドカップも開催されます。『オールアウト!!』のアニメ化も伴って、今後ますますラグビー旋風が吹くことでしょう。ぜひ今の内から『オールアウト!!』を読み、ラグビーの熱き世界に触れてみてはいかがでしょうか。

メイプル戦記

漫画史に煌々と輝く魔球、その名もハクション大魔球!!

メイプル戦記 川原泉
影絵が趣味
影絵が趣味

マンガとはひとつに夢をみさせてくれるものでしょう。そして魔球とは正しくすべての野球ファンにとっての夢……。そんな夢をみさせてくれるマンガとは、あるいは魔球とともに歩んできた歴史なのかもしれません。 そもそも事の始まりはこうなのです。プロ野球界に女性だけで構成された新球団ができる、その名も「スイート・メイプルス」。もうこの時点で夢のような話なのです。こういって差し支えなければ、メイプルスの面々は、男だらけの球団を相手にまったく出鱈目と積極的に言っていきたいほどの懸命さと天真爛漫さで勝ち上がっていきます。この途方もない出鱈目さ加減がほんとうに感動的で胸を打つ。男たちを相手に女性だけのチームがどうやって勝っていくのか、なんていう、説明責任はこのマンガには端から存在していないのです。 マンガに関わらず、いま、あらゆるものに説明責任なるものが蔓延しているように思われます。しかし、それはなんと窮屈で不自由なことだろうとも思うのです。説明責任とは、アレはしていけない、コレはしてはいけない、というふうな否定的で不自由に方向にしか物語を運んでいかないことでしょう。そんな説明責任なるものから始めから自由になっている『メイプル戦記』は、それ故に感動的としか言いようがないのです。私たちはまだ見たことのない魔球を見てみたくてマンガに熱中するのではなかったか、私たちはまだ見たことのない夢を目の当たりにしたくてマンガに熱中するのではなかったか。私は『メイプル戦記』ほど自由で豊かで感動的なマンガを他にあまり知りません。