COSMOS

神回に出逢えた喜び #1巻応援

COSMOS 田村隆平
兎来栄寿
兎来栄寿

昨日オンライン開催されていた「新刊を語る会」にて、11月の新刊としては1位の『雷雷雷』の9票に次いで最多の8票を獲得したのがこの『COSMOS』でした。 『べるぜバブ』や『灼熱のニライカナイ』の田村隆平さんの新作です。有名作家さんですし、1話試し読みもSNSで大いにバズっていたので改めて私が薦めるまでもないかと思っていましたが、最新話があまりにも素晴らしかったので書かざるを得ませんでした。 さまざまな異星人が地球人に紛れて暮らしており、彼らがトラブルを起こすという設定自体は『レベルE』などを思い出すよくあるものです。ただ、その中で本作独自の彩りを加えるのは、他者が嘘をつくと臭いで解るという高校生の主人公・水森楓が持つ特殊な能力。そして、タイトルにもなっている宇宙人専門の保険会社「COSMOS」の存在です。楓は、その稀有な能力によりCOSMOSへの協力を迫られていくこととなります。 1巻部分でも十分面白く、特に4話などはこの作品の、田村隆平さんの良さがたっぷりと出ている所ではあります。マンガが好きで書店でバイトをしているという楓のパーソナリティに加えて、私も死ぬまでにあそことあそこには行ってみたいと思っているので特に共感も深かったエピソードです。 ただ、前述した通り特筆すべきは7,8話の「デルとほしのにわ」があまりにも良すぎて2023年を代表するレベルで素晴らしい作品となったことです。マンガがあまりにもお上手……。すべての設定はこの回のためにあったんだと思えるほど。月刊誌となったことで費やせるページ数が物語内容と上手く相乗効果を発揮しているようにも感じられました。 数ヶ月後に発売されるであろう2巻に収録されると思いますので、ぜひひとりでも多くの方に読んでいただきたいです。最高です。

雷雷雷

男の子が好きなものてんこ盛りバトルアクション #1巻応援

雷雷雷 ヨシアキ
兎来栄寿
兎来栄寿

魅力的なキャラクター。 カッコいい構図と派手なアクション、それを支える画力。 明快でありながら謎も孕んだストーリー。 『怪獣8号』と『うしおととら』と『ドロヘドロ』(『大ダーク』)を足して割ったような、シンプルに面白い作品です。 苦労人&巻き込まれ体質な主人公スミレとダスキンの関係性もさることながら、黒髪ポニテで強くて可愛くて性格もほど良いツンとデレと人間臭さがあるハヅキはきっと大人気でしょう。私も漏れなく好きです。武器が日本刀なのも良いですね。『バクマン。』理論(多くの人気作品は刀を武器にしているキャラが登場する)を踏襲しています。 第2話で見せてくれるハヅキの大立ち回りはコンバットスーツのデザインなども含めて外連味たっぷりで、フリーレンが「男ってのはね こういうもの渡しとけば喜ぶんだよ」と差し出してくれそうなシーンでもって魅せてくれます。『ドラゴンボール』や『ワンパンマン』を彷彿とさせる、大規模な破壊も爽快です。 ややもすればシリアスに傾きそうな設定ですが、程よいユーモアも交えられているところもまたひとつのエンターテインメントの形として理想的です。1話や2話の引きが本当に良いんですよね。 今年の新作バトルアクションマンガで言えば、間違いなくトップクラスの注目作品です。

格闘太陽伝ガチ

国内の格闘技の常識が書き換わったあの時代

格闘太陽伝ガチ 青山広美
さいろく
さいろく

連載開始が2001年らしいので、グレイシー柔術という格闘技が日本中を虜にしていた頃。 当時、プロレスが最強だと信じていた日本の格闘技ファン達を地獄に突き落とした高田延彦vsヒクソン・グレイシー戦。 日本のプロレスが何も出来ずにヒクソンに惨敗した事をキッカケに、日本人の格闘技というものの捉え方が大きく変化しました。 今も当時も、メディアというのは残酷で、当然のようにプロレスは偽物であり強くないという極端な空気を生み出してしまっていたのですが、その壁をぶっ壊し威厳を取り戻すために本気のプロレスラー達が総格に名乗りを上げていったものの、そのほとんどは無惨な結果を残して当時のプロレスファン達の心は離れていく一方でした。 そんな中、桜庭和志がプロレスラーとしてグレイシー一族に連勝し続け、プロレスの威厳を取り戻してくれたのですが… 恐らく本作はその前に構想を練られており、プロレスラーの父の背中を追う少年が、父の仇を討つためにプロレスをベースに総格でのし上がっていくというストーリー。 とはいえ、これが先見の明があったと言えるほど現実ではプロレスが総格を圧倒したわけではなく、桜庭を筆頭にほんの一握りのプロレスラーが軽く爪痕を残しただけでした。 ただ、本作はプロレスファンの心の支えにもなっていたはず。 私は最近読んだばかりですが、当時まさにプロレスファンから総格ファンに心変わりをしていた自分の過去と重ね合わせて楽しむことが出来ました。 漫画的なとんでも展開はもちろんあるんですが、根っことしては「本当に強いのはプロレスなんだ」という中邑の言葉を描くような物語。 当時を知らなくても第三次プロレスブームの現在(既に下火な気もしてますが)、改めて読むと面白いです。

アンミックス 当麻ゆいこよみきり集

新進気鋭のセンス溢れる短編集 #1巻応援

アンミックス 当麻ゆいこよみきり集 当麻ゆいこ
兎来栄寿
兎来栄寿

当麻ゆいこさん、新連載の「超局地的つぶ!」が始まると共に待望の作品集が発売となりました! 待ち望んでいた方も多いのではないでしょうか。 表題作である「アンミックス」と、その次の「雨上がりのピィちゃん」だけは続き物で、 ″双子の近くには異星人がいる″ という独特の設定を描いた日常系SFです。 擬態して地球人に紛れ込んでいる異星人もおり、友好的な種から敵対的な種までさまざま存在しているという世界を舞台に、一卵性双生児の新と朔が異星人と関わったり影響を受けたりして暮らす様子が描かれます。 暖かさと不穏さが同居するこの2話からして独特のセンスが溢れていることがうかがえます。 そして、その次の「アルパカおばけ」でそれは更に加速します。アルパカのストラップに3年前に死んだ元恋人が宿るストーリー。見た目は滑稽でかわいらしいですが、宿る感情は切実そのもの。溢れる想いに感じ入ってしまいます。当麻ゆいこさんはモノローグに味があり、読後感が非常に良いです。 浮遊体質がある女の子とその幼馴染の絆が描かれる「祝福」は、メインの二人の個性と関係性だけでご飯が食べられます。大変美味しくいただきました。 最後の「フラワーシャワー」も独特の設定とヴィジュアルで楽しませてくれる作品です。そして、最後のモノローグがまた良いです。 Unmixはmixの逆で分離させること。この1冊の中で繰り広げられている物語たちにとって意味深いタイトルとなっています。分離はしても、隣り合ったままのものもあるこの世の中のさまざまなものに想いを馳せます。 フレッシュな才能が生み出す少し奇妙だけど優しい世界、覗いてみてはいかがでしょうか。